13-23 ジャングル物語の系譜23 二カ年の休暇(1888)
「二年間の休暇」というより「二カ年の休暇」というほうが、語呂がいいような気がするのです。
「二カ年の休暇」はいきなり、嵐の場面からはじまります。この嵐に中で、必死に操船する15人の少年が登場します。
そのあと、なぜ子供ばかりが船に乗っているかが説明されます。このようにクライマックスの場面からいきなり
はじまる小説は、当時の最先端なのでしょうが、今では、むしろ古臭い型の小説のように感じます。
私は子供向けの「十五少年漂流記」を読んだあと、父の本棚にある森田思軒訳「十五少年」
を読み、長い間それですませていました。波多野完治訳は最近まで読んだことがありませんでした。
「神秘島」も、冒頭、気球に乗って嵐の中を島に漂着する主人公たちの場面からはじまります。
このように物語の途中から描写を始めるテクニックはだれが始めたのでしょうか。扇情的な書き方です。
漂着したのち、住居・食物などの問題が落ち着くと、自分たちが流れ着いたところが島なのか、大陸の一部なのかを探検に
行く場面があります。もし大陸であれば陸づたいに人家のあるところへ到達できるかもしれない、と思うわけです。読者には、
そうではないことがはじめから分かっています。しかし、少年達が一縷の望みを抱いて探検することが、リアリティを高めて
いると思います。無人島に漂着しても、大きな島の場合、そして嵐のため、島を遠方から見ることができなかった場合は、
島であることが容易には確認できない。その際人間は一縷の望みを捨てられないものである。十五少年がいかに困難な境遇
にあるかが、実感されるように書かれています。そして島であるかどうかが一種のサスペンスのように書かれています。
「二カ年の休暇」は家族だけが漂流した、「スイスのロビンソン」と違って、漂流者の間で、感情的対立がうまれる様子を
書いています。
少年たちばかりが漂流する話は「珊瑚島」のほうが先です。しかし「珊瑚島」では少年達がいとも簡単に協力しあうのに
対して、「二カ年の休暇」では国籍の違う少年たちが協力できるかどうかがサスペンスになっているのです。
「二カ年の休暇」のストーリーは、御先祖の「ロビンソン・クルーソー」に比べて、ずっとサスペンスフルです。
「二カ年の休暇」ではもちろん、少年達が協力する様子も書かれています。一方で不和を描いているので、協力しあっている
様子はいっそう気持ちのいいものになっています。
最後に海賊が出てきます。海賊はサスペンスを盛り上げるのに格好の道具です。「スイスのロビンソン」「珊瑚島」「宝島」
に海賊が出てきます。この中では「スイスのロビンソン」がもっとも早く海賊を登場させました。
「二カ年の休暇」は「複数の漂流者」は「スイスのロビンソン」から、「子供ばかりの漂流者」は「珊瑚島」から、そして
「先の漂流者の遺物」や「海賊の出現」は「スイスのロビンソン」「珊瑚島」から拝借してきました。そして先行する
2作品よりすぐれた作品となっています。
先行する作品からの借り物を集めて、それに何かを加え、先行する作品よりもすぐれた作品を生み出すことができるわけで、
まったく油断できません。
ヴェルヌの成功は、少年ばかりの漂流という状況が、サマー・キャンプに参加する少年達、ともだちばかりで群れたがる年頃
の少年達に訴えるものがあったためかもしれません。