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13-12 ジャングル物語の系譜12 失われた世界(1912年)

コナン・ドイル作。恐竜を取り上げた小説作品の代表。

ジュール・ベルヌの「地底旅行」の中でも、海棲爬虫類が二頭、格闘する場面があります。1864年。「失われた 世界」の書かれる50年前です。

しかし「失われた世界」のほうが本格的に恐竜を登場させていることはたしかです。

この20年後に映画「キング・コング」が、そのまた20年後に「ゴジラ」が作られました。

「失われた世界」は南米のギネア高地をモデルにした、秘境物語でもあります。南米のギネア高地は人間の登れない 絶壁の上に、周囲の世界とは全く異なった動植物が棲息しています。コナン・ドイルはそれを敷衍して、太古の恐竜が 今なお棲息するロスト・ワールドを創造しました。

小説「失われた世界」は、「恐竜が生き延びている古代の世界そのままの環境が現存するか」という学問的(?) な疑問がどう解かれたか、という過程を語っています。それはたいへんリアルな小説です。

なぜなら、恐竜の生態などの描写は、古生物学の参考書を二、三册読めば、だれでも書けるわけで、そんなことを 書くだけでは、芸も何もないのです。

実際に、「失われた世界」が現存すれば、とんでもないセンセーションを巻き起こすはずで、物語のクライマックス はその興奮を書くことにあります。恐竜のいまだ生きている地域などというものは、まったくの架空のものですが、 そのような地域があったとき、まきおこる物凄い学問的論争はリアルに描写することができます。

シャーロック・ホームズ譚を読むと、あたかも実際のロンドンの一角に、主人公の探偵事務所があるかのように、 リアルな描写ではじまります。医者が、自分の診察室を訪れた患者について語るがごとく、事件の依頼者の描写 からはじまります。それから起こる不思議な事件とはうらはらに、きわめて実直な、あたかも事実の記録のような はじまり方をするのです。

「失われた世界」においても、コナン・ドイルはきわめて、リアルな物語を作ったと思います。

「失われた世界」の中で恐竜がどのように人間を襲ってきたか、私はほとんど忘れてしまいました。憶えている のは、恐竜の生息を信じるチャレンジャー教授の、狂信ともいうべき、学問的信念と(学問的信念の戯画)、恐竜 を信じなかった別の教授が、恐竜を自分で目撃したときの潔い態度です。このライバル教授は、全くこの役目 (兜を脱ぐ)のためにだけ、冒険に同行するのですが、その人のジェントルマン的態度が一番印象に残っています。


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