13-11 ジャングル物語の系譜11 スイスのロビンソン(1812年)
「スイスのロビンソン」は漂流者を複数にした点で画期的な作品です。
私は子供のころ、「ロビンソンクルーソー」以上に「スイスのロビンソン」を愛読しました。。何度も図書館から借り
出したのを憶えています。
しかし、子供の私でも、「スイスのロビンソン」の中に出てくる大蛇やライオンなどは、無人島の動物にしてはへんだ
とは思っていました。ジュール・ベルヌは「スイスのロビンソン」の動物学的記述が不正確であると指摘し、「二カ年の
休暇」では、動植物学的に正確な記載をこころがけたといわれます。
「スイスのロビンソン」はヨハン・ダヴィット・ウィースという牧師さんが、自分の子供達のために書いたもので
あって、プロの作品でないので、科学的記載に不正確なところがあるのかもしれません。
フォースターは評論「小説の諸相」(小説の諸要素)の中で、素人の書いた小説の代表として、「スイスのロビンソン」
を挙げています。
しかし、私の個人的な記憶からすると、「スイスのロビンソン」はたいへん楽しい読み物でした。科学的記載の
不備を指摘したジュール・ベルヌも、じつは「スイスのロビンソン」を愛読していたようです。ベルヌは複数の漂流者
が協力する設定を「スイスのロビンソン」から拝借して、「神秘の島」と「二カ年の休暇」で使っています。
M・グリーンによれば現代のアメリカ人は家族や仲間が協力して冒険に立ち向かうという話が大好きだそうです。
そういえば「アドベンチャー・ファミリー」とか「ミステリアス・アイランド」とか映画やテレビのシリーズ・ドラマで
このような設定のものをよく見ます。
山川惣治は家族が協力してジャングルで生きていくような物語を書きませんでした。むしろたったひとりで生きていく
ような物語をかきました。この点で「スイスのロビンソン」の世界からは遠いと思います。
しかし、南洋が一種のパラダイスであり、ちょっと探せば、生活に必要なものはすぐ手に入るという楽観的幻想と、一方では
猛獣や毒蛇が横行するひじょうに危険な世界であるという誇張、それらは「スイスのロビンソン」にも山川惣治の絵物語
にも共通するものと思います。