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13-4 ジャングル物語の系譜4 アフリカ探検記(1857年)

リビングストンのアフリカ探検記などのノンフィクションが、アフリカを舞台としたすべての フィクションに先行したと考えるのは自然でありましょう。

(推理小説の始祖はエドガー・アラン・ポーですが、「モルグ街の殺人」などの諸作に先行して、フランスの「怪盗 ラヴィックの回想録」というものがあったそうです。ラヴィックとは、泥棒出身で、パリ警察に入り、最後には警視総監 になった男で、ルパンのモデルだそうです。この回想録が評判だったようです。推理小説の前に犯罪実話があったわけ です。)

「アフリカ探検記」(河出書房刊)を読むと、いろいろなことが感じられます。まず、猛獣の脅威というものは、その 後のフィクションの中でずいぶん誇張されているということです。

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「ライオンは百獣の王であるとか、気高いところがあると言われているが、実際にライオンをみると、少しもそんな感じ はうけなかった。」とリビングストンは書いています。「大体弱い者を狙っておそうのであるし、」とも書いています。 そりゃそうでしょう。ライオンは食うために他の動物を殺すのですから、反撃されて、自分が傷つきでもしたら、狩りが できなくなって死ぬよりありません。なるべく、楽に殺せる相手を選ぶでしょう。強さ比べじゃありませんから。

「夜中にライオンの声を聞くと気持ち悪いと言われているが、天気がよくて小屋に入っていると、平気だ」というような ことも書いております。「夜中に聞くだちょうの鳴き声とライオンの吼え声は区別がつかん」とも言っています。実際 経験した人の記録ですから、迫力があります。

ただ、子供を殺されたカバが舟を襲撃してくるということはあったようで、子連れの動物には注意しなければならない。

もうひとつ、気がついたこと。アフリカのいろんな地方のことをかいていますが、地形、気候風土、植生などに関して、 さまざまな国があり、一概に言えないことがわかります。

これらが、さらに小さな王国に別れており、王の許可がないと通過できないようになっています。接待をうけた旅人は、 土産を置いていかないといけない。先にプレゼントを要求するので、荷物を運んできた牛車の牛を殺して渡すと、その 一部でごちそうしてくれたりします。接待を受けずに通過しょうとすると、王のけらいというか、村びとにかこまれて 険悪な状態になったりします。接待を受けさそうとするのは、見返りを期待しているからです。

ここらは、西遊記のエピソードにありそうですね。

若い王を殺して王の座を奪おうとする者がいます。若い王は先手を打って、部下を差し向け、捕らえて部下に殺させます。 このへんの事情は、中世のヨーロッパや戦国時代の日本とかわりません。

5人ほど人を殺したことがあると、告白する殺し屋がいます。女も殺したと平気で言います。良心の呵責はあまり無い 様です。リビングストンは、この罪深い者と話をして、反省をうながそうとします。かれは結局、自分の仕える王の意向 しか考えていないのです。王の殺し屋なのです。人道的などということは、わからないのです。アフリカは、古代や 中世がまだ続いているようなものです。

しかし、我々も彼等を笑えません。文明人は戦争という別の形の愚行をつづけています。フィクションの世界でも、私達 は、国家のライセンスがあれば人を殺してもよい秘密諜報部員や、金のために人を殺して、良心に恥じない殺し屋の物語を 珍重しています。
 

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