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13-3 ジャングル物語の系譜3 宝島(1883)

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ジャングル小説論を展開するには、ジャングル小説を沢山よまないといけません。

もし、あまり読んでいなければ、読んだことのある小説を、ジャングルと関係あるものとして、無理矢理こじつけて 取り上げればよろしい。

というわけで、「宝島」は熱帯の無人島での少年の冒険が扱われているので、少年ターザン物語と多少の関係あるもの とします。

ロバート・ルイス・スティーブンソンは、年上の奥さんの連れ子の男の子のために「宝島」をかきました。少年も スティーブンソンもこの物語に夢中になり、一気呵成に半分ほど書きすすめました。そこで、ぱったりペンがすすまなく なってしまいました。こうして原稿はしばらく机の引き出しにしまわれていましたが、ある日、文豪は、ふと原稿を 取り出し、アイデアが浮かび、残りの半分をまたもや一気に書いて完成させたそうです。(西村孝次氏の解説より)

さて、私が小説「宝島」の秘密だと思うのは、(1)物語のどこでスティーブンソンのペンが動かなくなったか、そして (2)どのようなアイデアによってまた書きすすめることができたかということです。

この問題には正解はありませんので、(先程の解説には書いていない)小説好きのみなさんは、数百円の文庫本を買って 来て、読んで、御自分で考えてみられるとよろしいと思います。

私の答えは、中断したのは、船が宝島に着いた場面からで、再開できたのは、ベン・ガンを思いついたからだと思います。

「宝島」は船が島へ着くまでがちょうど半分の分量です。そしてこれより以後に島で起こった出来事の伏線となるような 記述は前半には全くみられないように思います。ですから、島についてからあとのことは、作者はさっぱり考えていなか ったのだと思います。

どうやって悪賢い「海賊」シルバーを出し抜いて宝を持って帰ることができるでしょう。悩む スティーブンソンの夢の中にダニエル・デフォーがあらわれ、必ずいいアイデアが浮かんで、小説は完成する、と激励 します。スティーブンソンはめざめて、ロビンソン・クルーソーのバリエーションであるベン・ガンを思い付きます。 気のいい海賊ベン・ガン.....その性格は先輩ロビンソンとは全く異なります.それゆえに、スティーブンソンが、 ロビンソンを意識して、全く違うタイプの漂流者を生み出そうとした証拠だと思うのです。ベン・ガンを着想する ことにより、小説は完成するめどがつきました。スティーブンソンはさらに、シルバーに複雑な分裂的性格の陰影を つけ、いっそうすぐれた小説にしあげた、というのが、小説「宝島」成立についての私の想像です。

(と思っていましたが、もう一度「宝島」を読みなおしてみると、ちょうど前半の最後にベン・ガンはでてきます。 「宝島」は6章から成るのですが、第3章の最後にベン・ガン登場、そして第4章は語り手が交代して、医者のリヴジー 先生の話になっています。どうもスティーブンソンはベン・ガンを思い付いていたのに、突然にスランプになって しまったようです。荒筋ができてしまったため、かえって書く気がしなくなったのでしょう。できることがわかると、 しなくてもよくなる.......芸術家の気紛れでしょう。それとも語り手を交代させることによって、ジム少年の見聞き しなかった出来事も書けることを思い付いて、気分を変えて再出発したのでしょうか。)

(「宝島」は半分のところで、一旦雑誌に連載されました。その後ストップしてしまったのです。一旦雑誌に発表 してしまったので、気が抜けたのかもしれません。とにかく、どこでストップしたかは、文学史家は知っているはずです。)

感想をもう一つ。

ジム少年の父親は亡くなっており、母ひとり、子ひとりの家庭ですが、この母親は、船の出発のとき、港に来て、「 身体に気をつけるように」とか、地主や船医に息子をよろしく頼むとか、べたべたしたことは一切しないのがよろし い。

少なくとも、作者がそういう月並みな描写は一切していないのはさすがです。

(ここで念のため、「宝島」の出帆のところを読みなおしたが、この点では私の記憶は間違っていなかった。)

ジムの母親は冒頭の酒のみの海賊が死んでから、彼の荷物からたまった宿賃をもらおうとしました。しかし、余分の お金はけっして取るまいとして、勘定に時間を掛け過ぎたので、もう少しで、ピューの連れてきた海賊たちに殺される ところでした。この真っ正直で、少しぐずの未亡人の性格描写が秀逸なので、読者はジム少年と一緒になって、母親を 助けなければと思わずにはいられません。

わざわざ港まで母親を来させる必要はない。ジムが冒険の途中で母親を思い出す必要もない。「宝島」全編を通じて 母親のイメージは生きています。ですから、宝を持って帰るジム少年を誰が待っているか、わざわざ書く必要もない のです。


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