13-1 ジャングル物語の系譜1 概論
山川惣治の代表作「少年王者」「少年ケニヤ」は日本版ターザン物語です。ターザン物語の祖先は、
キップリングの「ジャングル・ブック」になります。
まず「ジャングル・ブック」があり、その大人版、通俗版がターザンであり、それをさらに大衆の娯楽として普及させた
のがターザン映画です。その主人公を日本人の子供にし、恐竜や、無敵の万能戦車(ライトニング・ジープ)や、仮面の
怪人(ウーラ、アメンホテップ)をからませたのが「少年王者」です。
「少年王者」を少しリアルな設定にし、日本色を強めたのが「少年ケニヤ」です。
その他にも「少年王者」「少年ケニヤ」は古今東西の娯楽読み物、映画、演劇のアイデアを、そっくりそのまま、あるいは
発展させてとりこんであります。
この章では、「少年王者」、「少年ケニヤ」に影響をあたえた過去の作品のうち、主なものを振り返ってみたいと思い
ます。
そもそもジャングル・ブックは狼に育てられた人間の子の物語であります。動物にそだてられた人間は動物と同じ能力
を得るという物語ですが、はたしてそうでしょうか。動物に育てられた人間の記録を追ってみる必要があります。
またターザン物語は文明と野蛮の物語でもあります。キップリングは英国の植民地時代のインドを舞台にした小説を書き、
文明と野蛮について考察しました。エドガー・ライス・バローズは、ヨーロッパ文明圏に対し、新世界アメリカの素朴
主義、田舎者主義をアッピールしました。文明と野蛮についての物語も研究する必要があります。
またこれらの小説は野獣の支配するインドやアフリカの物語であります。未開の土地、あるいは秘境と呼ばれる地域の
物語もお浚いしてみなければならないでしょう。北極や南極はともかく、野獣の支配する地域の物語を欠かすことは
できません。
とくに「未開の地域」への「文明人」の侵入(いわゆる探検)の物語はとうぜん考察の対象となるでしょう。
またこれらの物語に登場する動物の生態は、先駆する動物物語に範を得ているところが大きいです。動物小説の系譜にも
ふれてみましょう。
ついでに、過去の文明との遭遇の物語、すなわち、発掘、考古学、宝探しの話題も、探検物語にはつきものです。これらに
つきましても考察をめぐらすことにしましょう。
けっきょく芸術家は(科学者や宗教家もそうかもしれませんが、)先人の成果を学び、模倣し、それに新たななにかを加える
ことにより自分の作品を作り上げます。したがってどの作品にも、過去の手本があり、全く独創的と思われる作品も、大平洋
のまん中で自然にうまれるのではなく、過去の大陸から流れ着いたものなのです。
この章での作業は、専門家がおこなうものでなく、アマチュアが楽しみのためにするものですので、記憶違い、誤解、確認
作業の不備などは、とうぜん起きるでしょう。それはプロとアマの違いですから御容赦ください。誤りがあれば御指摘くだ
さい。
ここですることは、別の言い方をすると、子供のころ読んだ少年向き通俗絵物語を、その後に読んだ小説
や映画の感想で飾りたてることです。実際山川惣治の絵物語がそのような飾り立てに値するかどうか、疑問に思われる
方もあるかもしれませんが、山川ファンの私にとっては、山川作品はその値うちがあり、その作業は楽しいもの
であります。
この章では、作品の発表年をしらべて、年代順に並べたかったのですが、十分調べがついていません。