12-1-8.リアルな細密画と単純化した線画 8(水木しげる)
水木しげるの「総員玉砕せよ」の舞台は、杉浦茂の「コドモ南海記」の舞台と同じ、この世の楽園と
思われる、南洋の椰子の木と砂浜と青い海にかこまれた島です。
細密画で描かれた海岸のまん中に、死を命令された兵士たちが座っています。
兵士たちには、その風景がこの世で見る最後の光景かもしれない。椰子の木の一本一本が末期の目でみる光景の
ごとく描かれます。
「総員玉砕せよ」の最後は累々と横たわる戦死者の、写真をもとに描いたような、暗い細密画のコマの連続です。
それは、戦争映画の中に挿入された実写のニュース映画のように無愛想に私たちを打ちのめします。