第五十四話
セイラと篁(たかむら)、ナギ、渡辺薫(わたなべのかおる)と景季(かげすえ)の五人は、柄岩(つかいわ)島で船を降りた。
燦々(さんさん)と降りそそぐ夏の日差しの下、草いきれのする細い山道を、五人は黙々と上(のぼ)っていく。
その中のひとり、篁の足が止まった。
額(ひたい)の汗を拭(ぬぐ)って、息切れがおさまるのを待つ。
甲冑(かっちゅう)を脱(ぬ)いで身軽(みがる)になったはずなのに、昨日からの疲れが全身を鉛(なまり)のように重くしていた。
景季を連れて先頭を行く渡辺薫はもとより、さっきまで船酔(ふなよ)いしていたナギでさえ、セイラと並んで先を行くのに、足が前へ進まない。
――情けない!こんなことでどうする!
自分を叱咤(しった)して再び歩き出そうとした時、なにかを踏(ふ)んだ。
足の下から出てきたのは、小さな手彫(てぼ)りの櫛(くし)だった。
「篁さま、大岩がありましたよ――!早く早く――!」
櫛(くし)を拾(ひろ)い上げて、声のした方に目を向ける。
遠くで手を振るナギの姿が、篁には千里(せんり)の先に思えた。
時間はかかったものの、坂道を上(のぼ)りきると平(たい)らかな場所に出た。
目の前の、浄(きよ)められた空き地の中央に鎮座(ちんざ)しているのは、差し渡し(さしわたし=直径)六丈(=約十八メートル)はあろうかと思われる巨岩だった。
地上に突き出ている高さは七尺(=約二・一メートル)、奥行きは中心部で八尺(=約二・四メートル)ほどか、左側が高くなだらかな傾斜(けいしゃ)になっている。
大岩の基部(きぶ)にはしめ縄が張られ、紙垂(かみしで=しめ縄などに細く切って垂らす紙)が下がっていた。
「篁さま、夕べ話したこと覚えてますか?」
篁の到着(とうちゃく)を待ちかまえていたナギが、小声で話しかけてきた。
「夕べ……?」
篁はかがんで膝(ひざ)に手を当て、荒(あら)い息がおさまるのを待ちながら、
「ああ、二つの気が干渉(かんしょう)しあってると言ってた……?」
「はい。ひとつは神奈備(かむなび)の石、もうひとつの気の流れをつくっていたのは、ここの石です」
「なんだって――!?」
篁はあらためて、大岩を隅々(すみずみ)まで見つめた。
その場所からでは柄石(つかいし)は見えなかったが、ナギの言うことが本当だとすると――
「篁さまが言っていた尹(いん)の宮って人が、夕べここに来たせいで、二つの石が干渉しあったんだと思います。今は落ち着いてますが、でもこの二つの気はよく似てる……」
ナギは大岩の上に目をやって、篁には見えないなにかを見すえていた。
「ナギ、おまえ……石が放(はな)っている気が見えるなら、神奈備の石がどこにあるかもわかるのか?」
「そこまでは……夕べは石同士が干渉しあったせいで、おたがいの気を強めあったんです。あんなことでもなければ、オレに感じ取ることはできません。こんなふうに、近くまでくればわかりますが……」
「そうか……」
篁は、なぜかほっとしていた。
尹の宮の居場所がわかれば、セイラはすぐにも飛んで行こうとするだろう。
その時なにが起こるのか、セイラはどうなってしまうのか、篁には想像もつかなかった。
「セイラは、このこと知ってるのか?」
「はい。さっき話したらとても驚いてました。ここの石と神奈備の石には、絶対なにかあります」
そのセイラは、渡辺薫と一緒(いっしょ)に大岩の前にいた。
「こうして見ると、さすがに迫力を感じますね。これほど大きな一枚岩は、他では見たことがありません」
セイラは岩肌(いわはだ)に触(ふ)れてみた。
「岩の中からとても強い波動(はどう)を感じる。渡辺殿、柄石はどこです?」
「この上ですよ」
渡辺薫は、なつかしそうに大岩をあおぎ見て、
「しめ縄が張られているを見てもわかるように、この大岩は島の者に崇(あが)められています。直接岩の上にあがることはできませんが、柄石を抜(ぬ)こうと試(こころ)みる者のために裏に梯子段(はしごだん)があります。こっちです」
景季を縛(しば)っている捕(と)り縄(なわ)を引いて、渡辺薫が裏にまわろうとした時――ブチッ!と嫌な音がした。
次の瞬間――渡辺薫が見たのは、捕り縄を切り、近くに来ていたナギの首を締(し)め上げて小刀を突きつけている景季の姿だった。
「景季(かげすえ)――っ!」
太刀(たち)を抜(ぬ)こうとする渡辺薫(わたなべのかおる)を、セイラが押しとどめた。
「小刀を隠(かく)し持っていたとはね」
景季はナギを締め上げながら、距離(きょり)をとるように後ろに下がって、
「いいか、誰もそこを動くなよ!これはただの脅(おど)しじゃないぞ!」
殺気(さっき)立った目でナギの頸動脈(けいどうみゃく)を狙(ねら)い、小刀を押しつけた。
つーっと、一筋(ひとすじ)の鮮血が滴(したた)り落ちる。
「ナギ――!」
駆(か)け寄ろうとする篁を、景季は激しくにらみつけた。
「動くなと言ったはずだっ!!」
鬼気(きき)迫(せま)る――とは、まさに今の景季だった。
都に引き立てられれば、全員縛(しば)り首になるのはわかりきっている。
――やるなら、今しかない!
景季は、決死の賭(か)けに出た。
「この小僧の命が惜(お)しければ、船に戻って俺の仲間の縄(なわ)を解(と)くよう命じてこい!おい、おまえ!」
「ぼくのことか!?」
篁(たかむら)は、むっとして景季をにらみ返した。
「そうだ!おまえが行って、俺の仲間を十人ばかりここへ連れてこい。おまえたちの船は、弓削(ゆげ)島に引き上げさせろ。わかったな!裏切ったりしたら、この小僧の命はないと思え!」
「たった十人で、ぼくたちを取り押さえられると思っているのか?」
「取り押さえる?ふん、そんな必要はない。なにもできずにいるおまえたちを縛り上げるだけだ。そして、俺たちはこの島を出ていく」
ブツブツとなにかをつぶやいているナギの身体(からだ)が、光りはじめる。
だが、景季はまだ気づいていない。
「ナギひとりの命と引き換(か)えに、今までの苦心を水の泡(あわ)にしろと?それはできない相談だ」
あっさりと要求をはねつけるセイラに、景季は目を剥(む)いた。
「こっ、この小僧がどうなってもいいのかっ!?」
セイラはニヤリとして、
「さあ、どうなるのかな。ナギ、あまり手荒(てあら)なことはするなよ」
その言葉が終わらないうちに、景季とナギを取り巻いて一陣(いちじん)のつむじ風が吹き過ぎた。
次の瞬間――景季は全身を切り刻(きざ)まれ、あちこちから血が吹き出していた。
衣(ころも)はぼろぼろに裂(さ)かれて、切れた髪の毛があたりに散らばっている。
「うわあ――っ!!」
景季には、なにが起きたのかさえわからなかった。
あまりに一瞬の出来事に痛みより恐怖がまさって、我を忘れ悲鳴を上げた。
ナギはすでに、景季の腕(うで)を逃(のが)れている。
落ちている小刀を拾って遠くへ放り投げ、むすっとした顔を景季に向けて、
「あんな物がなくたって、自分の身を守るぐらいオレにだってできる!」
「な、なにをした……」
その時――
「おじさん――っ!」
いつの間に山道を上ってきていたのか、八歳くらいの童(わらべ)が景季を目がけて駆けてきた。
浅葱(あさぎ)色の水干(すいかん)に括(くく)り袴(ばかま)をはき、髪を後ろで束(たば)ね、今にも泣きだしそうな顔をしている。
「まさ…ずみ……」
景季がそうつぶやくのを、ナギは聞き逃(のが)さなかった。
「まさずみ?おまえ今、真純って言ったのか?」
「違う!あいつは真純じゃない!」
「まさか、あんな小さな子が……」
とまどいを隠せない渡辺薫の横で、セイラは確信していた。
「あの子が真純なら、傀儡(かいらい)の首領(しゅりょう)というのもうなづける。それに、景季が必死にかばおうとしたわけも……」
「帰れ――!ここはおまえのようなガキの来るところじゃない!」
景季に怒鳴られると、童は途方(とほう)に暮れて涙ぐんだ。
「だっ、だって……おじさん、けがしてる……」
「こっ、こんなのは大した傷じゃない。人買いに売り飛ばすはずだったおまえにも、もう用はなくなった。どこへでも行け!」
「ウソだ!おじさんは、ずっと一緒にいてくれるって言った!」
「おい、おまえ真純か?」
声をかけられて、ナギに気づいた童(わらべ)はビクッと身体(からだ)を震(ふる)わせた。
「きっ、黄色い目をした赤鬼……」
「なんだとーっ!」
「わたしも鬼の子だよ」
カッとするナギを怖がるようすもなく、童は人懐(ひとなつ)こい笑みを浮かべた。
「おまえ……」
「お兄さんの目はとてもきれいだから、きっといい鬼だね。わたしは悪い鬼だって、みんなが……」
童はそう言って、ごしごし目をこすった。
「みんなが気味悪がる水の力が使えるし、それにお祖父(じい)さんが、昔悪いことをした鬼だからって……でも父さんは、お祖父さんはとても強くて勇気のある人だったって言った……父さんは嘘(うそ)をついたりしない。だから、お祖父さんは悪くない!」
セイラは近づいていって、肩を震(ふる)わせている童の頭をなでた。
「どういうことか聞かせてもらおうか、景季」
青紫色の目が、赤い憤怒(ふんぬ)の色に変わっていく。
こんな幼い童(わらべ)を戦に巻きこんだ景季(かげすえ)が、セイラには許せなかった。
「白い、鬼……」
「セイラさまを鬼って言うな!男のくせにめそめそして……おまえそれでも海賊(かいぞく)か!?」
「だって……だって……」
口ごもる童を見て、景季は腹を決めたようにその場に座り込んだ。
「あんたが、俺をひどいやつだと思うのは当然だ……だがこれは真純(まさずみ)…いや、真純(ますみ)が決めたことだ」
「ますみ……?」
「ああ。真純は女の子だ」
「なんてやつだ!女の子を海賊の仲間に引き入れ、戦場(いくさば)に駆(か)り出したって言うのか!?」
篁(たかむら)の罵(ののし)りに動じるようすもなく、景季はギラリと目を光らせた。
「そうしなければ、真純は殺されていただろうよ。チビでも海賊船に女を乗せるわけにはいかない。真純は男になるしかなかったんだ」
「この子の親は……?」
聞きながら、セイラは薄々答えを予期(よき)していた。
「死んだよ。いや、殺されたんだ。伊予(いよ)の受領(ずりょう)どもに……」
「なにがあった?」
「昨年まで、俺は伊予(いよ=愛媛県)の国府(こくふ)の掾(じょう=三等官)をしていた。その頃ことだ――」
景季は低い、それでいてよく通る声で話しはじめた。
「これは後になってから聞いたんだが、当時加冠の儀(かかんのぎ=十二歳頃にする元服のこと)もまだだった真純の父、直継(なおつぐ)殿は知人の家に預(あず)けられていたそうだ。純友(すみとも)殿亡き後、下級貴族だったその知人の養子となり、伊予国の掾(じょう)となった」
「国府の掾を……?よく素性(すじょう)がばれなかったものだな」
あきれ返る篁に、景季はギュッと眉(まゆ)をしかめた。
「うわさはあったさ。だが誰も確証(かくしょう)はなかった。直継殿は温厚(おんこう)で控(ひか)えめな人柄だったし、政務(せいむ)も有能だった。俺が出仕(しゅっし)したての頃、直継殿にはよくしてもらった。だから、俺はうわさなんか気にしちゃいなかったし、たとえそれが本当だったとしてもかまわないと思っていた。過ぎた昔のことだと……だが、そうは思わない連中もいたんだ!」
景季は吐(は)き捨(す)てるように言って、膝(ひざ)を握(にぎ)りしめる手に力を込めた。
「ある時、俺たちは船で都に租税(そぜい)の品を運ぶ仕事を言いつかった。いつもなら、海賊から荷を守るため船団を組んで護送(ごそう)するのに、その時はたった一艘(いっそう)で、しかも護衛(ごえい)は俺と直継殿を入れても十人だけだと言う。妙だと思った俺は、伊予の介(すけ=二等官)の長沼殿を問いただした」
クックックッという笑い声が、景季の唇(くちびる)からこぼれた。
「……長沼殿は、今回の荷はさほど多くないし値が張る物でもない、無事に送り届けてくれればそれに越(こ)したことはないが、海賊に襲われた時は荷を奪われても罪には問わないと言った。人手が足りない折(おり)、無理を承知で引き受けてくれと言われれば、俺はそれを信じるしかなかった」
「そんな話を、鵜呑(うの)みにする方がどうかしてる」
辛辣(しんらつ)なセイラの言葉に、景季は力なく視線を落とした。
「ああ、そうだ……海賊に襲われた時、荷をくれてやろうという俺の言葉に、直継殿は耳を貸さなかった。租税(そぜい)が奪われれば泣くのは民だと言って、果敢(かかん)に立ち向かっていったよ。そして俺は、直継殿を守ってやれなかった……瀕死(ひんし)の息の下で、直継殿は俺に自分の素性を明かしてくれた。最後に手を握って、真純(ますみ)を頼むと……」
「おじさん……ヒック、ヒック……」
しゃくりあげる真純を見ていられずに、景季は顔をそむけてこぶしを握りしめた。
「荷を奪われ、ただひとり生き残った俺には、伊予に戻って報告する義務があった。やっとの思いで国府にたどり着き、長沼殿を捜したが見当たらなかった。すれ違う者はみな、幽霊でも見るような顔で俺を見ていたよ。よほどひどいなりをしてたんだろうな。その時、武器庫の裏手から笑い声がした。行ってみると、伊予守(いよのかみ=受領=今の県知事)と長沼殿の話し声が聞こえてきた――」
『これでようやく、目の上の瘤(こぶ)だった直継(なおつぐ)を始末(しまつ)できそうですな。租税を運ぶ日時をそこら中で言いふらしておいたので、海賊どもの耳にも当然入ったでしょう。しかもたった一艘でとは……クックック』
『朝廷に、大罪人の子をかくまっていたと疑われてはたまらんからな、ふっふっふ……かと言って、証拠がなくては追い出すわけにもいかん。どうにも頭を抱(かか)えていたところじゃった。よもや、生き残った者はおるまいな。十人だけで租税を運ばせたことが他の者に知れては、あとあと……』
『ご心配にはおよびません。おめおめと戻ってくる者がいたら、首をはねてやりますよ。租税を海賊に奪われた責任を取らせたと言えば、誰も文句はありますまい』
『うむ。直継には、確か子がいたはずだが……』
『その件もおまかせください。直継が純友の子だと白状したことにすれば、もはやかばいだてする者はいないでしょう。禍根(かこん)の芽(め)は、早めに摘(つ)んでおくに限ります……クックック』
「――俺は、なにがなんだかわからなくなった。なにを信じればいいのか、なにが間違っていたのか……ただ、このまま出ていけば俺は殺される、それだけはわかった。そして、直継殿の子も……許せないと思った!自分たちの保身(ほしん)のために、罪のない者を何人殺せば気がすむのか!怒りで身体が震え、その場で二人を叩(たた)き斬ろうとした!だが、直継殿との約束が、俺を思いとどまらせた。もしここで俺が捕まったら、直継殿の子は……」
その時のことを思い出したのか、湧(わ)き上がる激情を断(た)ち切るように、景季は荒々しく首を振った。
「俺は真純を連れて逃げた。日振(ひぶり)島は、国府でも手が出せない海賊の島だ。逃げるならそこしかなかった。真純が純友の孫だと知ると、やつらは快(こころよ)く俺たちを受け入れてくれたよ。そこではじめて、俺は水をあやつる真純の力を知った。真純は童でありながら、俺たちの頭領(とうりょう)になった……役人を捨て海賊になり果てても、俺は真純が笑っていれば幸せだった。他のやつらだってそうだ。真純はなにもやっちゃいない。俺たちと一緒にいただけだ。だから――っ!!」
必死の形相(ぎょうそう)で景季がなにを言いたいかは、セイラにも痛いほどわかった。
だが――
「真純は、お祖父(じい)さんの夢を叶(かな)えるんだって?それはどんな夢?」
セイラはかがんで真純と目を合わせ、聞いてみた。
「白い鬼さんの目、とってもきれい……髪も光ってる。触(さわ)ってもいい?」
無邪気(むじゃき)にせがまれると、セイラは苦笑するしかなかった。
「いいよ……夢のことを話してくれるかい?」
「父さんが教えてくれたの。お祖父さんは、小さかった父さんに『みんながケンカしないで、仲良く暮らせる世の中にしてくる――』って言って出かけたって……世の中とか、むずかしいことはよくわからないけど、わたしもみんな仲良くできればいいなって……」
最初に、渡辺薫(わたなべのかおる)が吹き出した。
続いて篁とナギも――
純友の夢と言うには、あまりにあどけない願望だった。
だが、セイラは笑わなかった。
「いい夢だね。でも叶(かな)えるのはとてもむずかしい。それに、景季のおじさんたちのやり方では駄目(だめ)なんだ。すぐには無理だけど、みんながそう願うようになれば……いつか叶う日がくるかもしれない」
「そんなにむずかしいことなの?」
「とってもね……」
「チッ。父さん父さんて……おまえ、ほんとに海賊か?」
しょんぼりする真純に、ナギはどこか苛立(いらだ)って冷たく言い放った。
「海賊は勝手に人の命や物を奪う。仲良くできるはずないだろ。おまえ海賊の頭領のくせに、こいつらがなにをしているか知らなかったのか?」
真純はおびえた目でナギを見つめ、救いを求めるように景季(かげすえ)を見た。
苦渋(くじゅう)に満ちた景季の顔――
つのる不安を押しのけて、真純は懸命(けんめい)に笑おうとした。
「おじさんは、みんなが仲良くなれるように世の中を変えるんだって……」
「そう言って、やってきたことは人殺しや略奪(りゃくだつ)だ!セイラさまたちはそれを討伐(とうばつ)しに来たんだ。だいたい、おまえ今までどこにいた?仲間が捕まったのに姿も見せないで……臆病風(おくびょうかぜ)に吹かれて、自分だけ隠れてたんだろ!」
「今までいたのは、船の…みんなが歩く床の下……」
「床の下?みろ、やっぱり隠れてたんじゃないか」
「違う!水をいっぱい持ち上げたら、急に眠くなって……その後はよく覚えてない。たぶん、おじさんが……」
窮地(きゅうち)に陥(おちい)った仲間を救おうと、限界まで力を使いきった真純は、気を失ってしまったのだろう。
倒れた真純を、景季が床下の隠し部屋に押し込めた――というところか。
「目が覚(さ)めたら話し声がして……でも、外に出たら知らない人ばかりで……わたしのことを、さらわれてきた子だろうって……おじさんのことを聞いたら、なん人かで島に降りたって……」
「それで、おじさんを追いかけてきたのかい?」
篁の言葉に、真純は涙ぐんでうなずいた。
「セイラ……やっぱり、この子を捕まえるのは間違ってるよ」
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