第五十五話
「セイラ……やっぱり、この子を捕(つか)まえるのは間違(まちが)ってるよ」
「……そうだね。藤原真純(ふじわらのまさずみ)は見つからなかった。海賊軍を率(ひき)いていたのは、藤原景季(かげすえ)――ということになるのかな。真純がこの子だということは、私たち四人しか知らないことだし……」
「セイラ殿、ありがたい!」
深々と頭を下げる景季に、セイラは憐(あわれ)みの目を向けた。
「かわりにおまえは、反乱軍を率(ひき)いていた者として処罰(しょばつ)される」
「真純(ますみ)の命が助かるなら、本望(ほんもう)だ」
「渡辺殿の考えは?」
「私は、セイラ殿に従うまでです」
「なら、真純(ますみ)は伊予(いよ)からさらわれてきた女の子だ。これから私たちと船に乗って、都で暮らすんだよ」
笑いかけられて頭をなでられても、真純の顔は晴れなかった。
「おじさんは、どうなるの?」
「俺のことは心配するな。おまえと一緒に都へ行く……そのうち、また会えるさ。そうだ、これをおまえにやろうと……」
景季は、もぞもぞと懐(ふところ)の中をさぐった。
「ひょっとして、これを探してるの?」
篁は、山道で拾(ひろ)った手彫(てぼ)りの櫛(くし)を景季に見せた。
「ここへ来る途中で拾ったんだ。これ、もしかして……」
「ああ。真純には、女の子にしてやるようなことはなにもしてやれなかった。俺には、それぐらいしかできなくて……」
景季は、篁から受け取った櫛を真純に渡した。
「おまえ、欲しがっていただろう?俺のかわりだと思って、これを持っていてくれ」
「……おじさん」
これが景季との別れになることが、真純にもおぼろげながらわかった。
でも、なぜ――
なぜこうなってしまったのか、なぜ今まで通り一緒にいられないのか、わからないまま次から次へ大粒の涙がこぼれた。
「おじさん――!」
真純は、景季にしがみついて泣いた。
泣くことしかできなかった。
「受領(ずりょう=今の県知事)の下で泣かされているのは、伊予(いよ)の国に限ったことではありません。手柄を立てても、成果はすべて受領と誼(よし)みのある者に横取りされ、失敗すれば下の者がすべての責任を負わされる……景季ほどでなくとも、はらわたが煮えくり返る思いをしている者は大勢います」
そう言った渡辺薫(わたなべのかおる)の厳しい顔を、セイラは見たことがないと思った。
「渡辺殿も……?」
「気持ちは、わからなくはありません」
武人はかすかに笑って、愁(うれ)いを帯(お)びた暗い目をした。
「この体制を変えない限り、都もいつまで安泰(あんたい)でいられるか……遠い将来、受領に対抗すべく武力を持った集団が現れ、政(まつりごと)を支配する時が来るのかもしれません」
「武力で、政を……」
眉(まゆ)をひそめるセイラに、渡辺薫はなぜか救われた思いがして、
「私としては、セイラ殿のような方に、ずっとこの国を見守っていただきたい気もするのですが……」
「それは……」
真摯(しんし)でひたむきなその目に、セイラは答えることができなかった。
「セイラさま!早くこっちに来てください!ここの柄石(つかいし)は、やっぱり神奈備(かむなび)のものとそっくりです!」
大岩の上から、ナギの呼ぶ声がした。
セイラの顔にサッと緊張(きんちょう)が走る。
神奈備から遠く離れた島で見つかった、神剣にそっくりな石。
では、神剣は最初(はじめ)から二本あったのか?それとも――
いまだ記憶の戻らないセイラに、その答えを見つけるのは難(むずか)しかった。
そして、この二本目の神剣が見つかったことが、それまで鳴(な)りを潜(ひそ)めていた敵が蠢(うごめ)きだすきっかけになろうとは、この時知るはずもなかった。
大岩の裏にまわると、立てかけてある梯子段(はしごだん)を篁(たかむら)が下りてきたところだった。
その横には、ナギが頬(ほほ)を紅潮(こうちょう)させて立っている。
「やっぱり、ぼくにも抜(ぬ)けなかったよ」
篁は照(て)れ笑いを浮かべた。
「柄石を握(にぎ)ると、力がみなぎってきて抜けそうな気がするんだけど……びくともしないんだ」
セイラは、どこか硬(かた)い表情のまま、
「神奈備の石とそっくりだというのは本当なのか、ナギ?」
「はい。オレがガキの頃、じいさまが一度だけ見せてくれたことがあります。神奈備の石は白くてこっちのは色が黒いですが、形はそっくりです。セイラさまも、早く上がって見てください!」
だが、セイラは動かなかった。
いや、動けなかった――と言った方が正しいかもしれない。
「はっ!手が震(ふる)えるなんて……」
セイラは両手を合わせて、無理やり震えを止めようとした。
「セイラ、おまえ……柄石(つかいし)が、もうひとつの神剣かもしれないって思ってるのか?」
「ああ。神剣なら持ち帰らなければならないのに、手にするのが怖くてしょうがないんだ」
この期(ご)におよんで、怖気(おじけ)づいている自分が情けない――そんな顔でセイラは笑った。
「ここの柄石は、セイラさまの物じゃありません」
「ナギ、そんなことがわかるのか!?」
篁は驚いてナギを見た。
この少年の目には、一体どれだけのことが見えているのか――
「わかるというより感じたんです。二つの石の気はよく似ていますが……溶(と)け合おうとはしないで、反発(はんぱつ)しあっていたというか……だから、その二つがセイラさまの石だなんてありえません」
「反発しあっていた……か。だとしたら、柄石はカルラとかナーガとかの物だったかもしれないな。それがどうしてこんなところにあるのかは、わからないけど……」
それを聞いたセイラの胸がざわめいた。
「カルラ?ナーガ?篁、なんだいそれ?」
「おまえが言ったんだよ、セイラ。神に乗り移られた時……まるで、記憶が戻ってなにもかも知っているような口ぶりだった。なんのことだと言われても……神の名まえ…いや、国の名まえかな。そんな感じで言ってた。覚えて……ないか」
「私が言った……」
セイラは衝撃(しょうげき)を受けて、呆然(ぼうぜん)と立ちつくした。
「カルラ、ナーガ……なんだろ、とても大切なことを忘れている気がする」
それはセイラだけの問題ではなく、世界の命運(めいうん)がかかったゆるがせにはできないなにか……。
その最終局面において、立ち向かわなくてはならないもの――
――そうだ、柄石は……。
「わかったよ、セイラ!」
篁はポンと手を打って、目を輝かせた。
「神は傷ついて地上に下りてきたって、口伝(くでん)書にあっただろ!神は誰かと戦っていたんだ。あの柄石は、きっと神奈備の神と戦った者の剣(つるぎ)だよ!」
「セイラさまの敵の……?そんなはずない!」
ナギが叫ぶのと同時に、セイラの身体(からだ)は大岩の上に飛んでいた。
「これが、柄石……」
黒ずんだ青色は大岩の岩肌(いわはだ)とよく似ているが、一点の曇(くも)りもない。
なめらかな丸みを帯(お)びた質感(しつかん)は、石とも金属とも違っていた。
五寸(=約十五センチ)ほどの細長い柄(つか)のような形状(けいじょう)ではあるが、直線的ではなくわずかに波打っていて、先の方が太くなっている。
幾分(いくぶん)かたむいて突(つ)き出ているその柄石の先にある空を、セイラはあおぎ見た。
「篁の言ったことは、当たっているかもしれない。この剣は、神奈備の空から落ちてきたんだ」
「まさか――!神奈備はここからずっと東にあるんですよ、セイラさま!戦っていた者同士の剣が、こんな離れた島に落ちてくるはずありません!」
「抜いてみればわかるさ」
セイラはゆっくりと下りてきて、柄石に手をかけた。
とたんに、柄石のまわりに鍔(つば=刀身と柄の間にあるもの)のような文様(もんよう)が浮き上がり、輝きはじめる。
次の瞬間――
大岩を離れた柄石は、セイラの手の中でうなりをあげ、光の柱を出現させた!
それは雲ひとつない青空をどこまでも突き抜けて、虚空(こくう)に吸いこまれていく。
「すごい!……ほんとに、口伝書にあった通りだ」
手をかざして眩(まぶ)しさを堪(こら)えながら、篁は息をのんだ。
この凄(すさ)まじい光の奔流(ほんりゅう)は、どこからくるのか。
柄石に内包(ないほう)されていたものか、それともセイラの潜在(せんざい)的な力が解放されたのか――
おそらく後者だろう、と篁は思った。
柄石に内包されていたなら、今まで誰にも抜けなかったはずがない。
セイラの気が流れこんだことで、柄石は剣としての本来の役割に目覚めたのだろう。
――それにしても、なんて桁(けた)はずれな……!
「セイラ!その光の柱をなんとかできないのか――!」
「……今やっている。もう少し……待ってくれ」
気の流出(りゅうしゅつ)を抑(おさ)えようとするセイラの額(ひたい)に、玉の汗が浮かぶ。
やがて高空(たかぞら)に光の柱の先端が見えてくると、それは急速に縮(ちぢ)んで刀身(とうしん)大の長さになり、ふっつりと消えた。
宙(ちゅう)にとどまっていたセイラの身体が、ドサッと地面に落ちる。
「大丈夫か、セイラ!セイラ……だよな?」
「ああ、意識はしっかりしてる。なんともない……」
セイラは篁(たかむら)の手を取り、息を弾(はず)ませて立ち上がった。
「セイラ殿!今の光は――!?」
駆け寄ってきた渡辺薫(わたなべのかおる)や景季(かげすえ)に、セイラは手にしている物を見せた。
「それは柄石(つかいし)!?では、ついにセイラ殿が――!」
「驚いたな!誰にも抜(ぬ)けっこないと思っていたのに……なんて天女さまだ」
「その柄石とさっきの光は、なにか関係が……?」
「これは能力者の気を刀身(とうしん)に変える剣(つるぎ)のようです。うまく気を調整できれば問題ないのですが……そうとは知らず、不用意に触(さわ)った私の気が、一挙(いっきょ)に剣に流れ込んでしまってあんなことに……驚かせてしまいました」
苦笑いするセイラにそう聞かされても、渡辺薫はすぐには信じられない思いだった。
「あれが刀身?天を突き刺(さ)したあの途方(とほう)もない光が……?セイラ殿、あなたは一体――」
「私が怖いですか?」
武人の目に浮かんだ怯(おび)えの色を見ると、セイラは寂(さび)しそうに笑って、小石を拾い上げ頭上に持ち上げた。
「ナギ、よく見ていてごらん」
セイラの手を離れた二つの小石は、一寸(=約三センチ)ほど離れて落ち、左右に転がっていった。
「つまりこういうことだよ、ナギ。このぐらいの高さから落としても、二つの小石はまったく同じところには落ちない。これがもし、月ほども高いところから落とされたら……二つの小石の間はもっと離れるだろう。そう、ここと神奈備(かむなび)ほども隔(へだ)たることになる。小石が剣に変わっても同じことだ」
「月ほども高いところから……」
その高さを、ナギは想像することさえできなかった。
そこには、どんな世界が広がっているのだろう。
神奈備と柄岩島が一寸(いっすん)ほどしか離れて見えないなら、その外側にはどんな景色が見えるのだろう。
神奈備の山中しか知らないナギにとって、それは茫漠(ぼうばく)とした未知の領域(りょういき)だった。
「そんなところで、神奈備の神は誰と戦っていたんでしょう」
「さあ。それは私にも……」
そう言ったセイラの脳裏(のうり)に、ある映像が瞬間的に浮かんで消えた。
うっとうめいて、頭を抱(かか)え跪(ひざまず)いたセイラの脳裏に、それはもう一度、さらにもう一度起こった。
旋回(せんかい)する純白の翼(つばさ)――
視界の端(はし)でとらえた、不敵(ふてき)な笑みと金色の巻き毛――
激しい鍔競(つばぜ)り合いと剣戟(けんげき)の音――
散乱(さんらん)する羽、切り裂(さ)かれた長い髪――
それらが脳裏に浮かんでは消えるたび、耐(た)え難(がた)い頭痛が襲(おそ)ってきて、たまらずにセイラはうずくまった。
「セイラさま!どうしたんですか、セイラさま!」
「頭が、割れそうに……っ!」
「……もしかして、なにか思い出したのか?そうなのか、セイラ!?」
「ううっ……ミ、カ………」
声をしぼり出すように言うと、そのままセイラは気を失ってしまった。
その時――
「おじさーん、人がいっぱい山道を上ってくるよ!どうしよう!」
息せき切って走ってきた真純(ますみ)の知らせに、篁は青ざめた。
「さっきの光を見た島民が、ここのようすを見にきたんだろう。まずいな。これで柄石(つかいし)がなくなっていることがわかったら、大騒ぎになる。その前にセイラをなんとかしないと……渡辺殿、このあたりで人目につかずセイラを休ませられそうなところを知りませんか?」
「ああ…少し、上に行った林の中に……誰も住んでいない庵(いおり)があったはずですが……」
「では、とりあえずそこへ行きましょう。渡辺殿は道案内を、ぼくはセイラを負(お)ぶって――」
篁がセイラを抱き起そうとすると、景季が大きな背中を差し出した。
「その役目は、俺が引き受けるとしよう」
「景季……いいのか?今なら、真純と一緒に逃げられるかもしれない」
篁は、景季に同情していても信用したわけではなかった。
「それとも、セイラを人質に取ろうと思ってるなら――」
「真純は見つからなかったことにする、そこの大将はそう言ってくれた。俺はそれだけで十分だ。それに、逃げたところでどうせすぐに捕まる。あんたらの大将は俺たちを見逃(みのが)してくれるほど甘くない。そうだろう?」
「………」
「夢は大きくても、それを実現させるための戦略(せんりゃく)や深い考えがあったわけじゃない。勢(いきお)いにまかせてひとつずつ国府(こくふ)を潰(つぶ)していき、沿岸部を固めていって瀬戸内の海を押さえることができれば、朝廷に俺たちの不満を聞いてもらえると思っていた……そんなことぐらいじゃ、なにも変わりはしない。そこにいる小僧に言われて、はじめて気づかされたよ。俺たちはただの反乱軍で、略奪(りゃくだつ)者だ」
景季は振り返って、篁と目を合わせた。
「だが、そんなどうしようもない真純の夢を…俺たちの夢を、セイラ殿は笑わずにいてくれた。うれしかったよ、俺たちのことをわかってくれたみたいで……俺があんたなら、死ぬまでその大将についていく」
「景季……」
苦々しさと、相反(あいはん)する力強くて温かいなにかが、篁の心に沁(し)みていった。
心が通い合うのに、時間はいらない。
「セイラを頼む!」
篁は、ぐったりしているセイラを景季の肩にあずけた。
「行くぞ景季!こっちだ!」
先導(せんどう)する渡辺薫の声にも、活気が戻っていた。
「さっきは、悪かった……」
景季と並んで山道を急ぎながら、ナギがぼそっとつぶやいた。
「あんたらを強盗(ごうとう)あつかいして……」
「俺たちは海賊だ、似(に)たようなものさ。気にするな」
景季は表情を変えることなく、わずかに眉根(まゆね)を寄せただけだった。
ナギは口ごもり、しばらくして吐(は)き出すように言った。
「真純(ますみ)がうらやましかった……オレは、親父の顔もよく知らない!」
そう言って、ずんずん先を行くナギの背中を景季は目で追った。
その口元が、ふっとゆるんだ。
灌木(かんぼく=低い木)の生(お)い茂(しげ)ったけもの道を行くと、そこだけぽっかりと青い空を切り取ったような、せまい空き地に出た。
雨露(あめつゆ)をしのぐだけの古びた草庵(そうあん)が見え、一同が足を速めると、意外にもそこからひとりの尼(あま)が出てきた。
「人がいたのか……」
渡辺薫の声に振り返った尼は、林から出てきた男たちを見て、小さな悲鳴(ひめい)を上げた。
その目が、すーっと一点に吸い寄せられていく。
「右近衛(うこんえの)少将さま……!」
呼ばれて進み出た篁は、尼の顔に目を凝(こ)らした。
「ぼくのことを知ってるのか?」
「はい。わたくしは以前、内裏(だいり)でお務(つと)めをしておりました。その頃の名を高倉(たかくら)と申します」
「高倉!?では、九条邸から尹(いん)…明理(めいり)殿と一緒に消えた女房(にょうぼう)というのはおまえ……」
「やはり、わたくしのことをお聞きになっておられたのですね。今は出家(しゅっけ)して浄信尼(じょうしんに)と申します。追捕使(ついぶし)軍が島に来ていることは聞いておりましたが、こんなところでお会いできるとは……セイラさまは、ご一緒ではございませんの?」
言いながら、篁の後ろに目を向けた浄信尼は、大男の肩に担(かつ)がれている銀色の髪を見て口元を押さえた。
「まあ!セイラさま……」
「記憶を取り戻しかけて倒れたんだ。庵(いおり)で少し休ませてもらえないだろうか?」
「ここは理空(りくう)さまの庵ですが、今は留守(るす)にしております。どうぞお入りください」
庵は、土間(どま)に水がめと煮炊(にた)き用の竈(かまど)、板張りの床の片隅(かたすみ)に粗末(そまつ)な文机(ふづくえ)があるだけの簡素(かんそ)な作りだった。
掃除(そうじ)が行き届いているのは、今まで浄信尼がしていたのだろう。
気を失っているセイラを床に寝かせて、篁は気になっていることを尋(たず)ねてみた。
「浄信尼、理空(りくう)というのはもしや……」
「お察(さっ)しの通りですわ。理空さまも出家されて、今はこの庵で穏(おだ)やかに暮らしておられます。わたくしの庵は、因島(いんのしま)の青桐(あおぎり)山の麓(ふもと)にありますので、時折(ときおり)こうして身のまわりのお片(かた)づけに……」
浄信尼は、海賊としか思えない大男や童(わらべ)のいる一行の顔ぶれを見て、どこまで話していいものか考えながら言葉を選んで言った。
「そうか、出家していたのか……」
篁は、心のどこかでほっとしていた。
直接手を下さなかったにせよ、尹の宮が仕組(しく)んだ陰謀(いんぼう)のせいで左大将、楊(よう)姫、左大臣の三人が亡くなっている。
その死に少しでも責任を感じる気持ちがあるなら、尹(いん)の宮にはその生き方しかないような気がした。
「ぼくとセイラは、戦がすんだら理空殿を捜(さが)そうと思っていたんだ。それが、こんなに早く居場所がわかるとは……」
「理空さまを?なぜ、今ごろになって……」
「あ、うん。理空殿に返してもらいたいものがあるんだ」
「返して……」
「理空殿はいつごろ戻られる?」
「それが、わたくしにも……」
途方(とほう)に暮れた浄信尼の顔を見て、篁の眉(まゆ)が曇(くも)った。
「なにかあったのか?」
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