第五十二話


 


 誰か、助けて――!!

 数刻(すうこく)前、曳(ひ)かれていく小舟に揺(ゆ)られながら、綺羅(きら)姫はそう願っていた。

 だが、奇跡はおこらなかった。

 船についた男たちは、矢箱(やばこ)を次々と船に運び入れていく。

 ――あんな男たちに見つかって、弄(もてあそ)ばれるくらいなら……。

 綺羅姫は右手に懐剣(かいけん)を握(にぎ)りしめ、覚悟(かくご)を決めてその時を待ちかまえた。

「ようし、後は舟の荷(に)を降ろすだけだな」


 その声に、綺羅姫の心臓がドクンと鳴った。

「あれっ、いつの間に麻布(あさぬの)をとっぱらったんだ?」

 矢箱にかけられていた麻布は、いつの間にかきれいに片側に寄っていた。

 実はそれは、綺羅姫が知らず知らずのうちに麻布をたぐり寄せてしまったせいだったが、男たちには知る由(よし)もない。

 たいした疑念も持たず、腰まで海水につかりながら荷を担(かつ)ぎ出していく。

 麻布は綺羅姫をすっかり覆(おお)い隠(かく)して、偶然(ぐうぜん)の仕業(しわざ)にしてはこれ以上ない結果だった。

 このままいけば、見つからずにすむかもしれない――そう思えた時、最後の矢箱を持ち上げた男の足が止まった。

 麻布がずいぶん盛りあがって見えたのだろう。

 まだなにか荷が――そう思って麻布を引っ張ろうとした時、船の上から声がした。

「おい、なにをしてる!早く運び上げろ!」

「へーい!」

 つかんだ麻布をあっさり放して、男は小舟から去っていった。

 男たちの乗った船が遠ざかって行く。

 あたりがしんと静まり返ると、綺羅姫はようやく顔を出した。

 この時、最大の危機に見舞(みま)われていることに、綺羅姫はまだ気づいていない。

 安堵(あんど)して放心状態のまま空を見上げている間に、時は刻々(こっこく)と過ぎていった。

 そろそろ浜に戻らなくては――

 そう思った時は、すでに遅かった。

 起き上がってまわりを見まわしても、浜はどこにも見当たらなかった。

 潮流(ちょうりゅう)に流されて、音もなく舟は沖(おき)に運ばれてしまっていたのだ。

 気づけば、舟をこぐ櫂(かい)もない。

 これでは、たとえ浜が見えたとしても、戻るべき手段がなかった。

 綺羅姫は絶望的な気持ちで海を見つめ、その広大な青と底知れぬ深淵(しんえん)におののいた。

「誰か、助けて――!誰か――!あたしはここよ――!!」

 声が嗄(か)れるまで叫び続けても、視界(しかい)を横切る船影ひとつ見えなかった。


 


 ――セイラは助けにきてくれない……。

 あたしよりも佐保(さほ)姫のことが好きになっちゃったから……。

 あたしのことなんて、もうどうだっていいんだ。

 あたし、このまま死んじゃうのかな。美人薄命って言うし……。

 ねぇ、セイラ……笑ってないで、なにか言ってよ――

 涙がつうっと一筋(ひとすじ)、頬(ほほ)をつたった。

 誰かの手が、それをやさしく拭(ぬぐ)ってくれている。

 ――あたたかい手……誰?

 綺羅姫はそっと目を開けた。

「セ、イラ……」

「綺羅姫!気がついたんだね、よかった!」

「ここは、極楽浄土(ごくらくじょうど)……?」

「残念ながら、あと百年しないとそういうところへは行けないよ。綺羅姫は生きしぶといから」

 セイラは花のように笑って、その顔を曇(くも)らせた。

「でもナギが見つけてくれなければ危なかった。このまま弓削(ゆげ)島まで流されていたら、戦に巻きこまれていたかもしれない」

「セイラが、助けにきてくれたの……」

 綺羅姫は心のどこかでほっとしていた。

 ささくれ立った気持ちが、少しづつなごんでいく。

「ここ、どこなの?」

 起き上がってまわりを見まわすと、数えきれないほどの船がすぐ側を走っていた。

「あれは、みんな戦に行く船?」

「そうだよ。だから、小舟が迷(まよ)いこんだと聞いてきてみれば……心臓が止まるかと思った」

 はにかんだその笑顔がまぶしくて、綺羅姫は胸がきゅんとなった。

 こんなふうに二人きりになれたのは何日ぶりだろう。

 思い切って佐保姫とのことを聞いてみようか、でももし……。

「それで?見送りをすっぽかしてなぜこんな舟に乗っていたのか、聞かせてくれるかい?」

「えっ。ああ……その、急に海が見たくなって……そしたら……」

 綺羅姫は、とっさに理由をとりつくろってこれまでのことを話した。

 聞いていたセイラの顔が、みるみる険(けわ)しくなっていく。

「どうして、ひとりで海に行ったりしたんだ!牛車(ぎっしゃ)を降りて散歩していたなんて……不用心にもほどがある!」

「セイラ……」

 綺羅姫の目に、じわーっと涙がにじんだ。

 これほどの剣幕(けんまく)で叱(しか)られるとは、思ってもいなかった。

「あ、いや……ごめん、怒鳴(どな)ったりして……」

 セイラは強張(こわば)った顔を、つっとそむけた。

「その男たちは、摂津(せっつ)水軍の渡辺殿の配下(はいか)の者だ。船に乗る時矢箱を取りに行く話をしていた……だから、たとえ気づかれても綺羅姫が襲われることはなかったんだ。知らなかったとはいえ、綺羅姫は命の危険にさらされる状況(じょうきょう)を、自分からつくってしまっていたんだ」

「あっ、あたしだって、いろいろ悩(なや)んでることがあったんだから!男たちがやってきて、怖くてどうしたらいいかわからなくて、怖くって……セイラが佐保姫と結婚するなんて聞かなければ、あんなとこ行かなかったわよ!」

 こぼれる涙を風に散らして、綺羅姫は胸にわだかまっていた思いをぶちまけた。

「私が、佐保姫と……?」

「みんな知ってるわよ。貴族社会じゃ、うわさはすぐに広まるんだから」

 あんぐりとあいたセイラの口から、深いため息がこぼれた。

「どうしてそうなるんだ?私は佐保姫と、一度しか会ってないのに」

「えっ、たった一度だけ……?」

「ああ、さっき見送りにきてくれたから二度かな。一度目は左大臣邸が焼けた夜、力を使いすぎて道ばたで寝てしまったところを、通りかかった佐保姫の牛車に助けられて、一晩泊めてもらったんだ。それだけだよ」

「それだけ?」

「それだけさ。それがどうして結婚話になるんだい?」

 綺羅姫はぷっと吹き出して、くすくす笑い出した。

「そうね、ほんとにそうね」

 セイラは、綺羅姫の頭をそっと撫(な)でて、

「真尋(まひろ)が心配してるだろう。早く帰って、みんなを安心させてあげないと……」

 そう言って、前方にかすんで見える大きな島を指さした。

「あれは淡路(あわじ)島だ。綺羅姫はあそこで船を降りて都に戻るといい。無事に帰れるよう私が手配(てはい)しておくから」

「……戦が終わったら、セイラはどうするの?」

「もちろん、都に戻るさ。戦の後処理に少し時間はかかると思うけど……」

「尹(いん)の宮を捜しに行くんでしょ?だったら、あたしも一緒に行く!」

「綺羅姫!バカなことを言うんじゃない!」

「バカなことじゃないわ!神剣が見つかるかどうかは、あたしにだって重大なことよ!なにも知らされないところにいて、後からセイラは自分の国に帰ってしまったなんて……あたしは嫌よ!」

「綺羅姫……」

 しがみついてきた綺羅姫を、セイラは突き放せなかった。

 壊(こわ)れ物を扱(あつか)うように髪を撫(な)でるセイラの表情が、切なげな愁(うれ)いを帯(お)びていく。

「よく聞くんだ、綺羅姫。戦場に姫を連れてはいけない。でもこの戦が終わったら、必ず帰ると約束するから……だから、綺羅姫は都で私たちの帰りを待っていてくれ。それとも、私の言うことが信じられない?」

 綺羅姫は、童(わらべ)がいやいやをするように首を振り続けるばかりだった。


    


 セイラに抱(かか)えられて船にやってきた綺羅姫を見ると、篁(たかむら)は陸に上がった魚みたいに口をパクパクさせた。

「き…き…き、綺羅さん――!」

「あはは…篁(たかむら)、お久しぶり」

「わけを聞いてもあまり叱(しか)らないでやってくれ、篁。私からもきつく言っておいたから。綺羅姫は、淡路(あわじ)島で降ろして都に帰そうと思う。それでいいだろ?」

「うっ、うん……」

「それじゃ、私はナギのようすを見てくる」

 セイラにポンと肩を叩(たた)かれても、篁はまだ呆然(ぼうぜん)としていた。

「なぜここに、綺羅さんが……?」

「えー、なんていうか、これには深いわけがありまして……」

 事情を聞かされても、篁は格別(かくべつ)怒鳴(どな)ったり責めたりはしなかった。

 当然嵐のような罵声(ばせい)が飛んでくるものと覚悟(かくご)していた綺羅姫が、首をすくめて閉じた目をうっすらあけると、

「よかったね、綺羅さん」

 篁は穏(おだ)やかに笑っていた。

「綺羅さんは、思ってることがすぐ顔に出るから……もうセイラから聞いたんだろ?佐保(さほ)姫とのこと」

「ええ!」

 その笑顔に、篁はなにかが吹っ切れたような顔をした。


 


 なにかを言いたいけれど、言葉が出てこない――

 そんな顔で二人を見ていた綺羅姫を淡路島に残して、追捕使(ついぶし)軍は弓削(ゆげ)島を目指(めざ)した。

 四日目の朝、水平線上に小さな弓削島が見えてくると、セイラは渡辺薫(わたなべのかおる)に言った。

「作戦通り、ここから先は帆柱(ほばしら)を下ろし鶴翼(かくよく)の陣形(じんけい)をとって進みます。反乱軍の船が取り乱して出してきたところを、一定の距離を保(たも)ちながら矢を射かける戦法です。上空の追い風が味方してくれるので、わが軍の矢はかなり遠くからでも敵の船に届くでしょう。接近(せっきん)戦をしかけない限りわが軍に負けはない。横に大きく広がった鶴翼の陣形ならば、こちらの軍勢(ぐんぜい)を倍以上に見せかけることもできる。統制(とうせい)のとれていない敵の士気(しき)をそぐには十分なはずです」

 渡辺薫は目を丸くした。

「セイラ殿は、船戦(ふないくさ)ははじめてだと思っておりましたが……」

 そう言うと、口元を笑いで染(そ)めながら、

「いや、見事な采配(さいはい)。百戦錬磨(れんま)の手並(てな)みを見るような……セイラ殿は、内裏(だいり)においておくにはもったいない。渡辺党にきませんか?」

 この武人なりの最大級の賛辞(さんじ)を贈(おく)った。

 セイラは、あでやかに微笑(ほほえ)んで首を振った。

「こんな単純な作戦が立てられるのもナギのおかげです。作戦が成功したら、ナギをほめてやってください」

「確かに。風使いの少年にはわれらも驚かされました。あの力がなければ、こんなに早く弓削島までやってくることはできなかったでしょう。海賊どものあわてふためく顔が目に見えるようです」

 渡辺薫は、勝利を確信した目で彼方(かなた)の弓削島を見つめた。

 戦いは、あっけないほど短時間で終わった。

 追捕使(ついぶし)軍が迫(せま)っていることさえ知らずにいた海賊たちは、船を降りて連戦の疲れをいやしていた。

 見張(みは)りが船影を発見し、急を告げに走った時はすでに遅く、大勢(たいせい)は決していたと言えるだろう。

 戦闘体制を整(ととの)える間もなく港を離れた海賊の船は、追捕使軍が放つ弓矢の恰好(かっこう)の餌食(えじき)となった。

 折(おり)しも、西の空から湧(わ)き出た黒雲が曇天(どんてん)を覆(おお)い、強風が吹き荒れ高波が船を襲(おそ)う。

 戦いに臨(のぞ)む間もなく、次々と海に投げ出される海賊たち。

 それは、追捕使軍も例外ではなかった。

「セイラ――!こんなに海が荒れてたら戦にならないよ!なんとかできないのか!?」

 青い顔をして、よろよろとよろけながら訴(うった)える篁に、セイラはどこか上の空だった。

「見ていてごらん、篁。これからおもしろいことが起こるよ」

「おもしろいって、なにをのん気な……」

「ダメです、セイラさま!この嵐は、オレの力では抑(おさ)えきれません!」

 憑依(ひょうい)のとけたナギが、憔悴(しょうすい)した顔に悔(くや)しさをにじませて叫んだ。

「抑(おさ)える必要はないよ。この嵐が、海賊の退路(たいろ)を断(た)ってくれる」

 銀髪を風に躍(おど)らせながら、うっとりしたまなざしを天に向けて、セイラは微笑(わら)っていた。

「おまえにも見えるだろう、ナギ。風がぶつかり合って渦(うず)を巻いている。いい兆候(ちょうこう)だ……」

「セイラさま……」

 もはや弓に矢をつがえるどころの話ではなく、立っている者もまばらだった。

 戦いは嵐によって、双方とも休戦状態に追い込まれた。

 だが海賊軍の損害(そんがい)は、しっかりした陣形を組んでいた追捕使軍の比ではなかった。

 間隔(かんかく)もとらずに、急(せ)かされるまま港を離れた船は、狭(せま)い海域(かいいき)で密集した。

 そのため、風に押し流され、ぶつかり合って身動きの取れなくなる船や転覆(てんぷく)する船が続出した。

 この圧倒(あっとう)的な不利を目のあたりにして、海賊軍はたまらずに船を西の海へ向けた。

「海賊どもを逃すな!追え――!」

 遠ざかる海賊船に追いすがろうとする渡辺薫を、セイラがとめた。

「追わない方がいい」

「しかし、それでは――!」

「今追えば、巻き添(ぞ)えになるだけだ」

「巻き添え……?」

 その時、西の海の海面が盛(も)り上がり、一筋(ひとすじ)の海水がするすると天を目指(めざ)して駆(か)け上った。

 その先には、はっきりと目に見える漏斗状(ろうとじょう)の雲がとぐろを巻いている。

「たっ、竜巻(たつまき)だ――!!」

 海賊軍の行く手に生(しょう)じた竜巻は、見る間に船に襲いかかり破壊(はかい)の斧(おの)を振るった。

 たちまち、阿鼻叫喚(あびきょうかん)の声が海上に響(ひび)き渡る。

 木っ端微塵(こっぱみじん)に砕(くだ)け散る船、残骸(ざんがい)とともに宙(ちゅう)に巻き上げられる者、かろうじて海に飛び込んだ者――

 その惨状(さんじょう)を見ているよゆうは、追捕使軍にもなかった。

「船を返せ!ここから離れるんだ――!」

 セイラの声が全軍に届いたかのように、時を同じくして、三百艘(そう)の船が一斉(いっせい)に舵(かじ)を切りはじめた。

 だが、船の動きは焦(じ)れったくなるほど緩慢(かんまん)で、竜巻は少しも遠ざかったように見えなかった。

 それどころか、海賊船を制圧(せいあつ)した竜巻は、次の獲物(えもの)を求めて追捕使軍に迫(せま)ってくる。

 どの顔にも恐怖が貼(は)りつき、これで終わりかと思われた時――

 竜巻が、目を開けていられないほどの強烈な光を放った!

 そう思ったのは錯覚(さっかく)で、光の中心にいたのは黒い影、宙空(そら)に浮かんでいるセイラだった。

 両手を前に突き出し、口元には不敵(ふてき)な笑みを浮かべている。

 その前方には巨大な円柱(えんちゅう)が出現し、まばゆいばかりの輝きを放っていた。

「セイラ、竜巻を食い止めるつもりか……」

 篁の予感は当たっていた。

 竜巻と逆方向に回転する円柱は、衝突(しょうとつ)した竜巻の威力(いりょく)を徐々に弱めていき、そして――

 現れた時と同様、突如(とつじょ)として竜巻は消滅(しょうめつ)した。

 湧(わ)き上がる歓喜(かんき)の声の中、最後尾の船にセイラがしずしずと降りてくる。

「まさに、神のなせる業(わざ)……セイラ殿は本当に……」

 神なのか――?

 渡辺薫(わたなべのかおる)の思いは、その場にいる誰もが感じていることだった。

 船上に降り立ったセイラを崇(あが)めるように、誰からともなく次々に平伏(へいふく)していく。

 セイラはぎょっとして、それからわずかに苦笑した。

「そんなことしなくていいよ。みんな、立ってくれないか。さっさと海賊を捕(つか)まえに行こう」

「オオ――ッ!」

 勇(いさ)ましい鬨(とき)の声が船上に響(ひび)いた。

 海賊を捕(つか)まえる――というよりも、それはほとんど救助活動に近かった。

 竜巻の被害(ひがい)が少なかった五十艘(そう)あまりの船が、西の海に逃げ去っていく。

 それを横目でにらみながら、追捕使軍は損壊(そんかい)した船に残っている者や、海に飛び込んで息のある者を捜し出し捕縛(ほばく)した。

 おびただしい船の残骸(ざんがい)が行く手を遮(さえぎ)って、逃げていく船を追いかけるどころではなかったからだ。

 追捕使軍の圧勝(あっしょう)と思われたこの戦は、弓削(ゆげ)島に戻ると状況(じょうきょう)が一変(いっぺん)した。

 海賊船六百艘のうち半数ほどが、昨日のうちにどこかへ行ってしまったと島の者に聞かされたのだ。

「半数……?では、まだ三百艘の船がどこかにいるというのか!?」

 渡辺薫の驚く顔を見て、捕縛(ほばく)された海賊のひとりがせせら笑った。

「そうとも、われらの大将はここにはおらん!今ごろは備後(びんご=広島県)の国府(こくふ)を襲っているころだろうよ!」

「なにっ!?」

「そういうことか。どうりで船の数が少なすぎると思った。遊んでいたわけじゃなかったんだ」

「セイラ、感心してる場合じゃないよ!なにか策(さく)を考えないと……」

「国府を襲った者たちは、わが軍が弓削島にいることは知りません。ここは待ち伏(ぶ)せて、帰ってきたところを一網打尽(いちもうだじん)にするというのはどうでしょう?」

 渡辺薫の作戦に、セイラはうなづかなかった。

「ひとつ大事なことを忘れている。逃げていった五十艘の船が、なにもせずにいると思うかい?」

「言われてみれば……」

「必ず誰かが陸に上がって、首領(しゅりょう)のもとに走るだろう。今ごろは、もう向かっているかもしれない。私たちのことは知られていると思った方がいい」

「うむ。右近衛(うこんえの)少将殿、なにかよい知恵は……?」

「そうだな、海賊の船を見つけ出して焼いてしまう…っていうのはどうかな?」

「三百艘の船に乗った海賊を備後の山野に放(はな)つつもりかい?散り散りに逃げていく海賊を追いかけることはできないよ。それでは首領に逃げられてしまう」

 篁はむっとして語気(ごき)を強めた。

「そう言うセイラはどうなんだよ!なにか策があるの?」

 二人の視線(しせん)を受け止めて、セイラはにっと笑った。

「もちろん、策はあるさ」



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