第十七話
「笛の音がしなかったようだが……」
よく通る聞きなれた声が、セイラのいる方へ近づいて来た。
眠りにつくところだったらしく、冠がはずされて、髻(もとどり)からほつれた前髪が幾筋か、艶(なま)めかしく額(ひたい)にかかっている。
「そのようすでは、床に倒れ伏して正体もなく寝入っていた、ということでもなさそうだ」
帝は大げさにため息をついて見せたが、その目は穏やかに微笑(わら)っていた。
「それとも、その単衣(ひとえ)姿は、観念して私のものになる覚悟を決めたと、受け取ってよいのかな?」
「とんでもございません」
セイラは、すばやく裾(すそ)を押さえて座り直しつつ、
「ただ、久しぶりに手足を伸ばしてみたかったものですから……。お見苦しいところをお目にかけました。ただいま、着がえてまいりましょう」
こめかみのあたりに、ひやりとするものを感じながら笑みを返した。
帝は、それには及ばないとでもいうように軽く手を振って、床に安座(あんざ)した。
「やれやれ…。あまり、私をぬか喜びさせてほしくないものだな」
「臣下(しんか)が倒れ伏している場面がお望みというのも、あまりよいご趣味とは申せませんね」
帝の軽口に、負けじとセイラも応じると、
「それは、時と場合による」
帝は無愛想につぶやいて、恨(うら)み言を口にした。
「ここのところ、あまりよく眠れなくてね。そなたが快(こころよ)く杯を飲み干してくれていたら、今夜あたり、私もぐっすりと眠れたのだが……」
「あいにくと、わたくしは喉を痛めておりますので……帝の方こそ、御酒をお召し上がりにならなかったのですか?それはぐっすりとお休みになれましたでしょうに」
悪びれたようすもなく、セイラは婉然(えんぜん)と微笑(ほほえ)んで見せた。
「どこまでも、食えない奴め!」
言うなり、帝の左腕が伸びて、セイラの肩をつかんだ。
視線を振り向ける間もなく、もう一方の肩もつかまれたセイラは、あっという間に床に押し倒されていた。
「今ここで、そなたを襲(おそ)ってしまおうか?その方が、手っ取り早く私のものにできる」
帝は、つかまえた獲物をなぶるように、銀糸の髪をすくって弄(もてあそ)びながら、
「羽衣(はごろも)をなくした天女に、帰る場所はない。そなたの居場所はここだけだ。セイラ、それをなぜ受け入れようとせぬ。そなたは、この私のために……遣(つか)わされた…」
顔を近寄せて、今にも唇をかさねようとする帝を、セイラの掌(てのひら)が阻(はば)んだ。
「帰るべき場所ならございます。記憶が戻りさえすれば……」
そう言ったセイラの瞳が、ふいに翳(かげ)った。
「いえ……戻らずとも、わたくしはそれがどこにあるか、知っているような気がします」
「知…っている?」
帝は、驚いて起き直った。
大きく見開かれた目が、心の動揺を映し出している。
「はは…、なにを言い出すかと思えば。なにも覚えていないと、そなたは言っていたではないか」
「なにも覚えていなくとも、夢が教えてくれるのです。わたくしはそこにいたと……」
セイラは起き上がって、儚(はかな)い笑みを浮かべた。
「この賭けを無事に終わらせて、管弦の宴を迎えることができれば、わたくしはいずれ、その場所に帰ることになるのでしょう」
灯台の火が、面(おも)やつれしたセイラの横顔を照らし出し、明と暗とにかたどる。
臆(おく)することを知らない、青紫色の瞳の奥に見え隠れする微(かす)かな慄(おのの)きに、この時帝が気づくことはなかった。
故郷への帰還(きかん)を予見(よけん)するセイラに憤然(ふんぜん)として立ち上がり、戻りかけようとした足を止めて、帝は語気(ごき)も荒く言い放った。
「――それだけはさせぬ!断じて!」
それからしばらくして、後涼殿(こうりょうでん)の中庭に、笛の音が流れはじめた。
嫋嫋(じょうじょう)としたその音色は、まだ気配(けはい)も見えない暁(あかつき)を求めて、漆黒(しっこく)の闇をどこまでも漂ってゆくのだった。
そうして迎えた九日目――
管弦の宴を明日にひかえた最後の夜、夕べから聞こえていたセイラの笛の音が、初更(しょこう=七時〜九時)を過ぎた時分にピタリと止んだ。
――ついに、この時が!
と、ほくそ笑んだ帝が続き部屋のふすま障子を開けると、セイラの姿はなく、反対側の中庭に通じる妻戸(つまど)がわずかに開いていた。
その空(あ)き間に誘われるように、中庭に降りていった帝が、竹藪(たけやぶ)の向こう側に目をやると、暗闇にぼうっと白く浮き上がって見える人影があった。
瞬間――異様なその光景に、帝の足がすくんだ。
この世ならざるものを目の当たりにした恐怖が全身を貫き、金縛りにあったように身動きすることもままならない。
――と、輪郭(りんかく)もおぼろな人影の後姿に見覚えがある気がして、帝は勇(ゆう)を奮(ふる)い、そろそろと近づいていった。
「セイラ……なのか?」
距離を置いて、後ろから声をかけてみたが、反応がない。
腰までおおう銀色の髪や装束(しょうぞく)はセイラに間違いないのに、人影がまとっている雰囲気は、異質な世界の匂いがした。
怖(お)じ気(け)を振り払って、もう一、二歩踏み出したその時、低い呪文のようなつぶやきが聞こえた。
『……コンを見つけなければ…早く……このオーブが…崩壊……ただひとつ…希望が、潰(つい)えてしまう……』
それはまるで、神がかった巫女(みこ)が、大いなる災(わざわ)いの訪れを告げているかのように、帝の耳に禍禍(まがまが)しく響いた。
「セイラ、今なんと……」
思わず駆け寄って、乱暴に肩を引いた帝が、次の瞬間目にしたのは――
「セ……」
――セイラではない!
それは、帝の直感だった。
セイラの容姿(かたち)を借りてはいるが、振り向いた瞳の奥に宿っていたのは、厳(おごそ)かな霊気をたたえた、人とは違う圧倒的な存在感を持ったなにかだった。
とっさに、帝はつかんでいた肩を手放した。
火傷(やけど)をしたような、熱い痛みの感覚が手のひらに残る。
まるで、熾火(おきび)を素手(すで)でつかんだようだ――と、帝は思った。
そのまま気圧(けお)されたように後退(あとじさ)って、暗闇で手のひらを探(さぐ)ってみる。
火傷の痕(あと)はないのに、痛みの感覚はますますひどくなる一方で、ついには腕全体が燃えるような熱さに包まれ、帝は恐怖のあまり悲鳴を上げた――!
その時――
「帝…?そこにおいででしたか。それにしても今のお声は……」
セイラは、おかしさをこらえきれないようにプーッと吹き出して、
「わたくしをお呼びになったにしては、ずいぶん大きなお声でしたね」
「私が…?」
――大きな声を出した?いつ……?
帝には、覚えがなかった。
そもそも、中庭のこんな場所に、自分はなぜいるのだろう?
「そんなに、大声を出したかな」
帝は、ふらつく視界を寝不足のせいにして、首を振りながらセイラに歩み寄った。
「それはもう。警護の者が聞きつけてこなかったのが不思議なくらいに……」
星影さやかに、穏やかな笑みをたたえているセイラを見ると、不意に、帝は奇妙な違和感を覚えた。
――なにかが、違う。
それがなんなのか、なぜそう感じてしまうのかわからないままに、懸命(けんめい)に記憶の糸をたぐろうとするのだが、頭の中に濃い霧が立ち込めているようで、ついさっきのことがどうしても思い出せない。
「帝…?本当に、どうかされたのですか?」
「いいや……なんでもない」
心配そうに見つめるセイラに、帝はつとめて平静をよそおうとした。
疲れからくる、多少の記憶の混乱など、些細(ささい)なことだ。
それよりも――
「そなたこそ、どうしてこんなところに……?」
「夜空を、見ていたのです」
セイラは、南の空の低い位置、渡殿(わたどの=廊下)の屋根の上あたりを指差した。
「あの、ひときわ目立つ赤い星……」
「ああ、あれはなかごぼし(=さそり座のアンタレス)と言う。唐の国に古来より伝わる星座のひとつで心宿(しんしゅく)、東方を守護する青龍の心臓と言われている星だ」
「龍の心臓……」
セイラは、唇の端(はし)に暗い笑みを刻んで、
「では、その心臓のすぐ横に虚(うつ)ろな穴が開いてしまったら、龍は生きていられるのでしょうか?」
「虚ろな穴とは……なんのことだ?」
「あの星の、左に広がっている闇のことですよ」
帝は、セイラが指し示した方向に目を凝(こ)らした。
低空に横たわる、砂粒のような星を散りばめた天の川が、天頂を目指して、東の空から徐々に立ちのぼろうとしていた。
その天の川の上辺部に、なかごぼしがある。
当然、そのあたりは数え切れない星々で埋め尽くされているはずだったが、セイラが言うように、左どなりだけ星ひとつ見えない闇が広がっていた。
「確かに、なにもないな。虚ろな穴が開いているように見えないこともないが……それが、気になるのか?」
セイラは夜空を見上げたまま、蒼(あを)ざめた声で言った。
「ええ。わたくしは、あそこを知っているのです……あの場所に、いたことがあるのですよ」
「―――!」
帝は絶句(ぜっく)して、まじまじとセイラの横顔を見つめた。
では――
「やはり、そなたは……]
「天人か、とお尋ねになるのでしたら、それはわたくしにもわかりません」
セイラは振り向いて、わずかに頬をゆるめ、
「はたしてあそこが故郷と呼べる場所かどうか、どうしてあそこにいたのか……ただ、いたことがあるとだけしか……」
うつむきがちにつぶやく声は、今にも消え入りそうだった。
「もしや、夢がそなたに教えてくれた場所というのは……」
セイラはうなずいて、再び夜空を見上げた。
「初めは、ただ悪い夢を見ただけと思っていたのです。それが幾夜も続いて、次第に細部が鮮明になるにつれて、これはただの夢などではなく、実際に体験した記憶の断片なのだと思うようになりました。他のことはなにひとつ思い出せないのに……」
ククッと、セイラが笑った。
神経質に、頬を引きつらせたような笑いだった。
「以前、わたくしは綺羅(きら)姫に、あの場所が懐(なつ)かしいと言ったことがあります」
「……帰りたいか?」
セイラは、いやいやをするように、何度も首を振った。
胸につかえていた思いが、堰(せき)を切ったように口をついて出る。
「帰りたいわけじゃない!あんな、身も心も凍りつくような場所に――!あんな場所が、故郷のはずがない!なのに、あれは私を呼んでいる。いやだ……戻りたくない、いやだ……いやだ!!」
耳をふさいで、狂ったように首を振り続けるセイラを見ていられずに、帝は肩を抱きしめた。
「落ち着きなさい、セイラ。落ち着くんだ」
こんな風に取り乱すセイラを初めて見る――と、帝は思った。
すでに体力の限界をはるかに超えて、不屈の精神力だけで持ちこたえているセイラの、感情の抑制がきかなくなっているのだろう。
それとも、セイラがここまで怯(おび)えるだけのなにかが、あの場所にはあるのだろうか……。
帝はもう一度夜空をあおぎ見たが、なにも感じ取ることはできなかった。
帝の腕の中で、セイラは瘧(おこり=マラリア)にでもかかったように、小刻みに震えている。
いずれにしろ、強靭(きょうじん)なセイラの精神力にも、限界がきていることは確かだった。
普通の人間なら、とっくに気がふれていてもおかしくなかっただろう。
このまま、明日の夜まで眠らずにいたら、セイラといえどもただではすまないかもしれない。
帝は、そんな事態を望んではいなかった。
セイラを壊(こわ)そうとしたのではなく、遠大な計画を実現させる日まで、自分の側を離れないという保証が欲しかっただけなのだ。
「セイラ、もうよい。賭けは私の負けだ」
帝は、セイラの削(そ)げた頬を両手でつつみ、唇を重ねた。
大きく見開かれた紫色の目に、驚きととまどいが貼(は)りつく。
さわさわと竹やぶを鳴らして、一陣の風が吹き過ぎた。
帝の胸に、ひたひたと満ちてくる熱いものがあった。
とうとう最後まで、セイラは音を上げなかった。
そればかりか、どうみても勝ち目のない賭けに、帝の方から先に負けを認めさせてしまった。
驚嘆は、たとえようもない愛(いと)しさとなって、香り高い美酒のように帝の心を酔わせた。
「これ以上、そなたを追いつめたくない。そなたが壊れてしまっては、元も子もなくなる」
帝はそっと微笑(ほほえ)んで、
「今晩はぐっすり休みなさい。そうして、あの場所のことは忘れることだ。そなたが帰りたくないと言うのなら、ずっと私の側にいればよい。それが、私の望みでもあるのだから」
セイラは帝の腕を振りほどき、よろよろと退(さが)って、我が目と耳を疑った。
「これは幻覚か……?それとも、私は試(ため)されているのか……」
「幻覚でも、試しているのでもない。セイラ、賭けはもう終わりだ」
「……終わり?」
「ああ。私の完敗だ」
帝は肩をすくめ、セイラの側に歩み寄った。
「たとえこのまま賭けを続けたとしても、そなたは決して音を上げないだろう。だが、それでは私が困る」
抱き寄せて、慈(いつく)しむように頬を撫(な)でながら、
「この美貌が、これ以上やつれるのは見たくない」
そう言って唇を合わせようとする帝から、とっさにセイラは顔をそむけた。
「なっ…、お待ちください――」
「いいや。待たぬ」
星明りの中、凍てついた滝のように銀白色に輝く髪に、帝は唇を寄せた。
「これではお約束が……」
「約束を破ったりはせぬ」
帝は声に笑みを含んで、
「一晩早くそなたを解放してやる、これは私への褒美(ほうび)だ」
張り詰めていた集中力が途切れ、早くも睡魔(すいま)が忍び寄ろうとしているセイラに、帝の抱擁(ほうよう)をこばむ力はなかった。
遠ざかる意識の中で、セイラの目に、天の川の華麗な星くずの帯が映(うつ)った。
それは次第にぼやけていき、深い意識の底に沈んでいった。
◇ ◇ ◇
あたしにとって幸運だったのは、蓮(はちすの)宮さまが父さまの姉上、先の宣耀(せんよう)殿女御(にょうご)さまのお子で、あたしのいとこにあたる方だということだった。
蓮宮さまの方が、今の帝よりも少しだけお歳が上だから、帝にとっては腹違いの姉上ということになるわね。
だから、いくらいとこ同士といっても、あたしなんかとてもお近づきになれるような方じゃないんだけど、昨年ある事件があった時に、蓮宮さまと親しくさせていただく機会があって、それ以来、時折(ときおり)文のやり取りなんかもしている。
それで、吉野の療養(りょうよう)から戻ってきたごあいさつに、あたしは、烏丸(からすまる)通りにある蓮宮さまのお邸(やしき)にうかがった。
あたしにとって、その次に幸運だったのは、蓮宮さまの女房(にょうぼう)が数名、食中(あた)りで寝込んでしまったと聞かされたことだった。
「明晩の管弦の宴にはぜひ参るようにと、主上(おかみ)からお誘いを受けておりましたのに、つきそうはずの女房がこのありさまでは……どうしたらよいものやら……」
内親王(ないしんのう)のご身分といっても、先の帝も宣耀(せんよう)殿さまもすでに亡くなられて、残された蓮宮さまのお暮らし振りは、それほど華やかなものではなく、女房の数もそれほど多くはなかった。
それに、どちらかというと蓮宮さまご自身が、静かな暮らしを望んでおられるようすで、うわさで聞いたところによると、身分違いの方と結ばれない恋をなさって、その後結婚もなさらず、その方のことを未(いま)だに想い続けているのだという。
蓮宮さまには、そういうロマンチストな面がおありになって、それはそれで、お気持ちは今のあたしにも痛いほどよくわかるんだけど……。
でもね、現実はそうばかりもいっていられなくて、内親王が女房も連れずに宮中に昇るなど、考えられないことだった。
やはり、お断りするしかありませんわね――と、がっかりしたご様子でため息をつかれた蓮宮さまに、あたしはとんでもないとばかり、断固(だんこ)として言った。
「お断りする必要などありませんわ、蓮宮さま!」
そうして、あたしは蓮宮さまの女房になりすまして(あと二人ほど、父さまの女房を借りて)、内裏(だいり)の門をくぐった。
なんでそんなことをしたかっていうと、理由はひとつしかない。
セイラのことが心配で、居ても立ってもいられなかったから。
篁(たかむら)からは、『セイラは、管弦の宴の夜には必ず帰ってくる――』って聞かされてたけど、ただ待ってるだけなんてもうイヤ!
セイラになにがあったのか、今どうしてるのか……この目で確かめなくちゃ、気がおさまんない。
この十日間、あたしのストレスは、富士のお山よりも高く積もり積もって、もう爆発寸前なんだから!
「うふふ。実を申しますと、わたくし今宵(こよい)の宴をそれは楽しみにしておりましたの。ですから、臥(ふ)せっている女房たちには心苦しいのですが、綺羅(きら)さまの申し出には、とても感謝しておりますのよ」
「しっ!お声が大きいですわ、蓮宮(はちすのみや)さま。あたしは今、吉野(よしの)という女房なのですから、そうお呼びくださらなくては」
「あら、そうでしたわね。ふふふ。では…吉野は、今宵の管弦(かんげん)の奏者(そうしゃ)に、月の君が名を連ねているのを知っていましたか?」
「セイラが――!?」
そう言えば、帝に拝謁(はいえつ)した日、宮中から戻ってきたセイラが、そんなことを言ってた気がする。
あたしは、その時頭に血がのぼってて、それどころじゃなかったけど……。
「セイラ…?まあ、わたくしとしたことが、うっかりしておりましたわ。月の君は、四条の権大納言邸にいらっしゃるのでしたわね。わたくし、お顔を拝見するのは今宵が初めてですのよ。それは見目(みめ)麗(うるわ)しいお方なのだそうですわね。主上から夕星(ゆうづつ)を賜(たまわ)るほどの、笛の名手でもいらっしゃるとか……どんな演奏を聞かせていただけるか、今から楽しみですわ」
そっかぁ。セイラがこの場所に現れるんだったら、なにもあたしが宮廷中を駆けずりまわって探さなくってもいいんだ。
おまけに、セイラの演奏が久しぶりに聞けるなんて、あたしって、なんてツイてるのかしら。
そう、確かにあたしはツイていた!
この夜の演奏を聞き逃(のが)した人たちが、後でどれだけ悔やんだか知れない。
あたしたちは、紫宸殿(ししんでん)の南廂(なんそう)を几帳(きちょう)や屏風(びょうぶ)などで仕切った部屋のひとつに通された。
ここに座を与えられているのは、皇室に連なる方々や女御さま方なんだそうだ。
正面の南階(なんかい)を降りた場所には、大臣や公卿の座が設(もう)けられていて、その左右に、前庭を囲むようにして、殿上人(てんじょうびと)の席が設けられている。
夕闇が濃さを増していく頃、前庭に壇(だん)が築かれ、篝火(かがりび)が焚(た)かれて、舞台は着々と整っていった。
集まってきた人々のざわめきがだんだん大きくなり、正殿の奥の高御座(たかみくら)に(モンダイの)帝がお着きになって――
さあ、いよいよ管弦の宴が始まる――!
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