第十八話
まずはじめに、笙(しょう)、琵琶(びわ)、箏(そう)の琴などの六人の奏者(そうしゃ)による『平調音取(ひょうじょうのねとり)』が奏(そう)された。
蓮宮(はちすのみや)さまの解説によると、これは、平調(へいちょう)の曲を演奏する時に先駆(さきが)けて演奏される、短い序曲のようなものなんだそうだ。
それに、これから演奏する楽器の音合わせ(チューニング)の意味合いもあるらしい。
それが終わると、太鼓と鉦鼓(しょうこ)が混じって、『越天楽(えてんらく)』の演奏が始まった。
これは結構(けっこう)耳にする曲で、これくらいならあたしでも知っている。
それだけに当然聞く方の耳も肥(こ)えているわけで、この曲を演奏するのは、腕に覚えのある方方が多い。
どんな顔ぶれがそろっているんだろうって思って、几帳(きちょう)の(あたしたちの姿が見えないように立ててあって、当然こちら側からも舞台はほとんど見えない)陰からのぞいてみると、意外と年若な顔ぶれだったりする。
それに、あの神妙(しんみょう)な顔つきで琵琶を奏(かな)でているのは……篁(たかむら)じゃない!
へぇー。篁も案外やるのねぇって思って見ていると、蓮宮(はちすのみや)さまがくすくすとお笑いになった。
「吉野(よしの)、お行儀(ぎょうぎ)が悪いですわよ。どなたか、気になる殿方(とのがた)でもいらっしゃるのですか?」
「いえ、あの……そんなんじゃありません」
あたしは、慌(あわ)てて両手を振って否定した。
「ただ、その、幼なじみの顔が見えたものですから、ちょっと気になって……」
蓮宮さまはますますお笑いになって、口元に扇(おおぎ)を引き寄せた。
「遠慮しなくてもよろしいのですよ。殿方(とのがた)を想う気持ちは、誰にも止められませんものね。舞台がよく見えるように、几帳(きちょう)を少しずらしておきましょう」
そうおっしゃって、女房(にょうぼう)の一人に合図(あいず)を送った。
あーあ、蓮宮さまにすっかり誤解されちゃった。
誤解……だよね。だってあたしはセイラが……、セイラが………。
うあーん、セイラの顔を思い出したら泣けてきちゃった。
早くセイラに会いたいよぉー!
急に、しんみりしてしまったあたしに、蓮宮さまはなにかお感じになられたらしく、
「綺羅(きら)…いえ、吉野には、なにか事情があるようですね」
と、おっしゃった。
「あたし……ほんとは、好きな人に振られちゃったんです」
言ってから、口を滑(すべ)らせてしまったことを少し後悔した。
けど、蓮宮さまならきっと、ご自分の胸の内だけにおさめてくださるわ。
「でも篁は……あたしの幼なじみは、最後まであきらめるなって、そう言ってくれたんです」
「そうでしたの。つらいですわね、むくわれない想いをかかえたままでいるというのは……」
「つらい……かどうか、自分ではよくわかりませんわ。もう慣れてしまいましたから。でも篁には、とても感謝しています。だから、あたしはまだあきらめてません。一度振られたからもう絶対無理だって、自分から希望の芽を摘(つ)み取ってしまって、決めつけるようなことはしたくないんです。だって……未来は、誰にもわからないものでしょう?」
「そうですわね。本当に、そうですわね……」
蓮宮さまは、袖口(そでぐち)でそっと目頭(めがしら)を押さえた。
切ない思いをなさった、昔のことを思い出したのかもしれない。
「わたくし、なにやら、吉野から勇気を分けてもらった気がいたしますわ。あきらめてしまっては、なにごともはじまりませんものね」
ご自分を奮(ふる)い立たせるようにおっしゃって、晴れやかに微笑(ほほえ)まれた蓮宮さまに、あたしは大きくうなずいた。
「ええ!」
「あら、『陪臚(ばいろ)』が始まりましたわね。この曲は、とても縁起(えんぎ)がよい曲ですのよ。聖徳太子さまは、この曲を奏(そう)してから戦い、物部守屋(もののべのもりや)の軍を破ったのですわ――」
蓮宮(はちすのみや)さまの解説付きで聴(き)く雅楽(ががく)は、あまり関心のなかったあたしにも、それなりに興味深かった。
でもはっきり言って、だんだん眠気がさしてきてもいた。
階下(かいか)にいる人たちも似たようなもので、曲を聴(き)いているというより、杯(さかずき)を干(ほ)す方が忙しそう……。
あれっ、あんなところで大勢に囲まれているのは……セイラだわ!
なんだか、無理やりお酒を飲まされてるみたい。
お酒は苦手(にがて)だって言ってたのに……。
「蓮宮(はちすのみや)さま、あそこでセイラにお酒を勧(すす)めているのはどなたか、ご存知(ぞんじ)ありません?」
蓮宮さまは、几帳の陰から、あたしが指差した方をじっとご覧(らん)になって、
「ええ。銀色の御髪(おぐし)の殿方が、月の君ですわね。その隣(となり)にいるのは……」
そうおっしゃったかと思ったら、蓮宮さまは、急にころころとお笑いになった。
「誰かと思えば、あれは左馬頭(さまのかみ)殿ですわ。とてもお酒がお強い方で、いつも赤ら顔をなさっておいでですのよ。その横には、蔵人(くろうどの)少将殿もおりますわね。みなさま、宴の席には欠かせない、にぎやかな方ばかりですわ。でも……月の君はこれから演奏なさるというのに、あんなに酒(ささ)を召し上がって大丈夫でしょうか」
だっ、だっ、大丈夫なわけないでしょ!
セイラはもう、あんなにふらふらしてるのに……。
こら――っ、左馬頭!セイラの肩を、そんなにバンバン叩(たた)くんじゃない!
演奏前にけがでもしたら、どうしてくれるのよ!
あれっ、セイラ、立ち上がった……。どっか行くつもりかしら?
まさか、これから壇上(だんじょう)へ……!?
無理よ!そのようすじゃ、ゼッタイ無理!!
立って歩いてるのがやっとじゃない。
あっ、こけた――!
…………………………。
セイラは、なかなか起き上がってこなかった。
その時、一人の公達(きんだち)が側に歩み寄った。
どこか見覚(みおぼ)えがあるような、ないような……。
「蓮宮さま、あの方は……?」
「まあ、素鵞(すがの)宮殿ですわ!いえ、今は尹(いん)の宮殿…とおっしゃいましたかしら。久しくお姿を拝見しておりませんでしたが、こうして、また内裏(だいり)に戻ってこられて、本当によろしゅうございましたわ。主上(おかみ)も、情けのある計(はか)らいをなさいましたわね」
――思い出した!
セイラが邸(うち)に来たばかりの頃、確か篁がそんな宮さまの話をしてたっけ。
えーと、とにかくいろいろあって、帝になれなかった兄宮…だったわよね。
尹の宮に助け起こされたセイラは、少しは酔いが醒(さ)めたのか、今度は割(わり)としっかりとした足取りで壇上に登った。
たちまちみんなの注目が集まり、場が静まり返る。
正装の束帯(そくたい)姿(でも冠はつけてない)で登場したセイラは、見違えたようにほっそりしていて、端整(たんせい)な容貌(ようぼう)に、さらに凄(すご)みを加えていた。
夜目(よめ)にも鮮やかな蘇芳(すおう)の袍(ほう=上着)が、篝火(かがりび)の明かりを受けて燃えているように見える。
そればかりか、セイラの周(まわ)りの空気までが、きらきら輝いているようだった。
「まあ、これが月の君!まことに、神々しいばかりに麗(うるわ)しい方ですわねえ」
蓮宮さまが感嘆(かんたん)なさるお気持ちは、よくわかる。
ほんと、相変(あいか)わらず絵になるやつよねえ……って思っていたら、セイラ……なんだか、ようすが変。
表情もずっと硬(かた)いままだし、硬いというより……セイラじゃないみたい。
さっき転んだ時、頭でも打ったのかしら……?
えっ、待って……そしたら、記憶が戻ったっていうこと!?
あたしの心配をよそに、音合わせもなく、いきなり箏(そう)の琴の演奏が始まった。
雅楽は、それぞれの楽器を奏(かな)でる五、六人の合奏(がっそう)で演奏されるのが普通だった。
でも今回は、セイラの独奏(どくそう)みたい。
それだけにどんな調べを奏でるのか、興味津々といったようすで(半ば冷やかしもこめて)見上げていたみんなの顔が、次の瞬間真顔になった!
まるで、三、四人が連奏(れんそう)しているみたいな和弦(わげん=和音のこと)の洪水が、みんなの耳を襲った。
それは軽やかに、時には嵐のように、高く低く、聞きなれない律動(リズム)を刻(きざ)んでいった。
その指使いの速さ、正確さといったら、蓮宮さまが『まあ!まあ!……』と、十回は声をお漏(も)らしになったほどで、見ているだけでも驚嘆(きょうたん)に値(あたい)した。
やがて、演奏は琵琶(びわ)へと移り、余韻(よいん)嫋嫋(じょうじょう)とした旋律(せんりつ)が響き渡ると、あちこちから、かすかなすすり泣きの声が聞こえてきた。
あたしまで、なんだか目頭(めがしら)が熱くなって、鼻がつーんとしてきちゃう。
魂をゆさぶる音色(ねいろ)――というものがあるとすれば、それはきっとこういう音色のことを言うんだろう。
哀調(あいちょう)を帯(お)びたその音色は、あたしたちの心の奥底にある悲しみにぴったりと寄りそって、静かに泣いているようだった。
セイラは、最後に龍笛(りゅうてき)を手にして(たぶん、あれが夕星ね)立ち上がった。
朗々(ろうろう)とした笛の音が流れ出た時、あたしは、青空を舞う白鷺(しらさぎ)の幻想を見たと思った。
それはとっても優雅(ゆうが)に、おおどかに、幾度も旋回(せんかい)を繰り返しながら中空(なかぞら)を昇(のぼ)っていって、空の青さに溶(と)けていった……。
気がつくと、いつの間にか曲は終わっていた。
もう誰も、杯(さかずき)を手にしている人はいなかった。
みんな圧倒(あっとう)されたように、茫然(ぼうぜん)と壇上のセイラを見つめていた。
しんと静まり返った前庭に、奥の間の高御座(たかみくら)から聞こえてくる拍手が、やけに大きくこだました。
拍手はだんだん数を増していき、ついには満場の大喝采(だいかっさい)の中で、セイラはこの場に降り立った楽神(がくしん)のように、厳(おごそ)かに立ちつくしていた。
――それはまさに、決定的な夜だった!
この夜の演奏で、セイラの評判はあっという間に都中に……ううん、国中にだって知れ渡るだろう。
そのことが、セイラにどういう結果をもたらすのか、この時のあたしにはまだ見当もつかなかった。
宮中を退出した蓮宮(はちすのみや)さまのお相手を早々に切り上げて、急いで邸(やしき)に戻ったあたしは、セイラが帰っていると聞いて、すぐに東北の対屋(たいのや)に向かった。
興奮した篁(たかむら)の声が、部屋からだいぶ離れた簀子縁(すのこえん)まで聞こえていた。
「それにしても、セイラの演奏はほんとにすごかったよ!あの後、演奏に感動したみんながセイラを取り囲んでしまっただろ?ぼくなんか、お祝いを言おうとしても側にも寄れなかったくらいさ。セイラが見つけて声をかけてくれなかったら、途方に暮れてたよ」
「セイラ、お帰り!」
女房に訪(おとず)れも告(つ)げる間も与えずに、あたしはいきなり飛び込んだ。
セイラは、驚いたようすもなく振り向いて、
「ただいま、綺羅(きら)姫」
にこっとした表情が、舞台にいたさっきまでとはぜんぜん違う。
うんうん。やっぱりこっちのセイラの方がいい!
篁はニヤニヤして、
「足音が十間(約二十メートル)も先から聞こえていたよ、綺羅さん」
嘘よ。話に夢中だった篁に、そんなの聞こえるわけないでしょ!
って思いつつも、ひとりでに顔が赤らんでくる。
あたしは、コホンとひとつ咳(せき)払いをした。
まあ、いいわ。篁の軽口は、この際(さい)大目に見てあげる。
そんなことより――
「そんなことよりセイラ、演奏中、なんかようすがおかしくなかった?」
女房が急いで用意した円座(わろうだ)に滑(すべ)りこみながら、そう尋ねたあたしを見て、二人は顔を見合わせた。
「綺羅さん、どうしてそんなことがわかるの?」
「へっへー、あたしにはね、蓮宮さまという強い味方がいるのよ」
あたしは二人に、管弦(かんげん)の宴に出るまでの経緯(いきさつ)を、手短に話して聞かせた。
「あの時、壇上(だんじょう)に登る前にセイラ、左馬頭(さまのかみ)に無理やりお酒を勧(すす)められてたわよね?その後、酔っ払って転んじゃったでしょ?それで、頭でも打ったのかと思ったわ」
「あっははは。綺羅姫に、そんなところを見られていたとはね」
セイラは大様(おおよう)に笑って、女房を下がらせると、とんでもないことを言い出した。
「でも、綺羅姫の勘は当たってるよ。実は、私には転んでから後の覚えがないんだ」
「ええ――っ!!」
今度は、あたしと篁が顔を見合わせる番だった。
「覚えがない、って……セイラ、一体どのあたりまで覚えがないんだい?」
セイラは、ばつが悪そうに肩をすくめて、
「気がついたら、満場の拍手を浴びてた」
「じゃ、じゃあセイラは、意識がないままで、あんなすごい演奏をしたっていうの!?」
「そういうことになるね。ずいぶん酔ってもいたし……」
セイラもさすがに不安を感じたらしく、眉根(まゆね)を寄せて、
「そんなに、すごい演奏だったの?」
と、聞き返してきた。
あたしと篁は、呆気(あっけ)にとられて言葉もなかった。
しばらくして、篁が口にした感想は、あたしが感じたことと驚くほど似ていた。
「確かにあれは、誰にも真似のできない演奏だったよ。ぼくは、セイラだからこそできた演奏だって、そう思ってたけど、セイラに覚えがないんだとすれば……突飛(とっぴ)な話のように聞こえるかもしれないけど、楽神がセイラの体に降りてきて演奏したとしか思えない。それほどあの演奏はすばらしかったよ」
「そうね。あたしもそんな感じがしたわ。まるでセイラじゃないような……威厳があって、厳(おごそ)かで……」
後から考えると、このことにはとても重大な意味があったのだけど、もともとの記憶を失くしているセイラに、その重大さがわかるはずもなかった。
「たとえなに者だろうと、あやつられるのはごめんだ!」
セイラは、自尊心(プライド)を傷つけられた顔で、そう言い捨てた。
その気持ちはわからないでもないけど、でも――
「それでもいいんじゃない、セイラ。あの時、無理やりお酒を勧められたりしなければ、セイラがちゃんと演奏してたって、結果は同じだったわよ。蓮宮さまがおっしゃっていたわ、まるで技芸天(ぎげいてん)が奏(かな)でているようだって……。楽神か技芸天かは知らないけど、たぶんその神さまはセイラのことが好きなのよ。だから、意識のないセイラを、ちょっとだけ助けてやろうと思ったんだわ。ねっ、そう考えれば腹も立たないでしょ?」
脇息(きょうそく)を引き寄せて、苦々(にがにが)しそうに頬杖(ほおづえ)をついていたセイラの口もとが、ようやくほころんだ。
「フッ、綺羅姫には負けたよ。もとはと言えば、酒を断りきれなかった私のせいでもあるしね……。これが賭けの最中だったら、あんなことにはならなかったんだろうけど……少し、気がゆるんでいたのかな」
「賭け…って、なんのこと?」
「ああ、まだその話があったんだ……」
かたづけ忘れていた大きな荷物を見つけた人みたいに、セイラは額に手をやって、物憂(ものう)そうにため息をついた。
「この十日間、私が宮中でなにをしていたか、後で話す約束だったね。二人にはずいぶん心配もかけたことだし……」
「そうよ、それが聞きたかったのよ!」
あたしは、ずいとひざを乗り出した。
セイラは微笑(わら)って、
「そんなに大げさなことじゃないんだ。つまらない理由だよ。実は、宮仕(みやづか)えの初日に、帝が賭けをしようと仰(おお)せられたんだ。十日間、私が眠らずにいられるかどうか……」
「十日間――!?そんな無茶苦茶な賭けを、セイラは受けたの?」
「受けたんじゃない。受けさせられたんだ」
ムスッとしたセイラの横で、篁が首をひねった。
「でも、どうしてそんなことに……?」
「私の記憶が戻ってもこの都に留(とど)まるつもりはないかと、帝がお尋ねになったのが、そもそものきっかけだよ」
「やっぱりね……」
篁が言っていた通り、セイラに夕星を賜(たまわ)った帝が考えそうなことだわ。
「それで……?セイラは、なんて答えたの?」
「もちろん断ったさ。そればかりは、いくら帝の頼みでも聞き入れることはできないからね。そしたら、賭けをしようということになったのさ」
「だって、そんなの賭けにもなってないじゃない!生身(なまみ)の人間が、十日も眠らずにいられるわけないでしょ!帝は最初から――」
セイラはその先を手で制して、最後まで言わせなかった。
「だから私もがんばったさ。左足に刺し傷までつくってね。帝は、なにも気づかれなかったみたいだけど……」
左の太腿(ふともも)をさすりながらそう言って、セイラはくすっと笑った。
「笑い事じゃないわよ、セイラ!そんなひどい目に遭(あ)わされて、どっかおかしくならなかった方が不思議なくらいなんだから……。帝も帝よ!これじゃ、ただセイラをいじめてるだけじゃない!」
「もう済んだことだよ、綺羅姫。私はこの通りなんともないしね……。思うに、帝は珍しい玩具(おもちゃ)を手に入れたから、遊んでみたくて仕方がないんじゃないかな。でも、そのうち飽きられるよ」
あたしがこんなに怒ってるっていうのに、セイラは他人事(ひとごと)のように言って、生欠伸(なまあくび)なんかかみ殺してる。
「じゃあセイラは、この十日間ぜんぜん眠ってないの?」
篁が、さすがに心配になって尋ねると、
「いや、それが昨夜(ゆうべ)……」
と言ったきり、セイラはうとうとしている。
「あっ、ごめん。どうも気がゆるんだせいか、今ごろになって……酔いが、ぶり返してきたみたいだ……とにかく、賭けは私の勝ちで…………」
セイラはもう、かすかな寝息を立てていた。
とぎれとぎれの言葉から推測できたことは、賭けはセイラの勝ちで、昨夜(ゆうべ)決着がついたらしいということだけだった。
っていうことは、九日間は眠らずにいたってことよね。
それだけでも信じられないような話だけど、でもなんで、昨夜(ゆうべ)のうちに決着がついちゃったのかしら……?
もっともっと聞きたいことはあるけど、今のセイラを起こすのは、ちょっとかわいそうな気もする。
だって、やっとぐっすり眠れるんだもの。
客のいる前で寝込んだりするようなセイラじゃないのに……よっぽど疲れちゃったのね。
「篁……帝はセイラのことを、ほんとに玩具(おもちゃ)みたいに思ってるのかしら?」
座ったまま眠ってしまったセイラを、床に横たえていた篁が、ぽつりと言った。
「いや、綺羅さん。今上(きんじょう)は本気だよ」
「えっ……」
予想もしなかった答えに、あたしは胸の辺(あた)りがざわざわした。
振り向いた篁は、ひどく生真面目(きまじめ)な顔で、もう一度つぶやいた。
「今上は、本気でセイラを……」
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