第六話 真実

それから暫くして、ハスラムは全守護聖とともに集いの間へと呼ばれた。

そこで再びあの兵士の男と出会い、見つめあった。

「・・・・ハスラム? ハスラムなのか?」

男はゆっくりとハスラムに近づいた。

その姿にハスラムは、あの時見つめあった時に感じた何かの正体が、今、ハッキリとわかった。

「・・・・父さま・・・? やっぱり・・・父さまなの?」

「ああ。ハスラム・・・やはりお前だったのか!!」

二人はひしと抱き合った。

その二人の姿を見ていた守護聖たちは、ただぽかんと見つめていた。

「なっ、なんなんだ? これはいった・・・?」

当の本人オスカーさまも、さっぱり訳がわからなかった。

「どういうことなのか、説明してもらおうか」

相変らずの冷静沈着な表情で首座の守護聖ジュリアスが問うた。

男はハスラムを抱いたまま守護聖たちを見回し、頭を下げた。

「申し訳ありません、ジュリアス様。そして守護聖の皆様。このハスラムは私の息子です。先日偶然にすれ違った時に感じた想いは、この子の中にエトランジュの面影を見つけたのでしょう。しかし、まさかという思いがありました。けれども、この懐中時計の話を聞き、ようやく、自分の思い違いではないことに気がついたのです。お恥ずかしい話ですが、エトランジュというのは私の愛したただ一人の女性です。私と彼女の故郷は、この主星から遠く離れた住みやすい星でした。私はそこの普通の軍人の家に生まれ、エトランジュはその星で一、二を争う大貴族の家に生まれたのです。そして、私たちは出会い、恋をしました。しかし、当然彼女の両親が身分違いの結婚を許すはずがありません。それで私たちは駆け落ちをしたのです。今、思えば、その時間が私たちにとって一番幸福な時でしたが、それも長くは続きませんでした。やがて、エトランジュがハスラムを身ごもり、あと数ヶ月で出産という時に、彼女の家の者に見つかってしまったのです。私も必死に抵抗しましたが、多勢に無勢で結局エトランジュは家に連れ戻されてしまいました。勿論、私は毎日のように彼女を帰してくれるように頼みました。しかし、彼女に逢せてもらえず、門の外に投げ出される日々が続きました。それでも、彼女からこっそりと手紙は届いておりました。そしてある日、男の子が生まれたと、そして、ハスラムと名づけたとの手紙が来たのです。私は喜び勇んで息子にだけでも逢せて欲しいと頼みました。しかしその時、"お前の息子はこの家とはなんの関係もないので、どこぞと知らぬところへ里子に出した"と言われたのです」

「・・・・ひどい」

マルセルが呟いた。

他の守護聖も胸を痛めていた。

その兵士はまた静かに語りだした。

「私はひどいショックを受けました。そして、追い討ちをかけるように、次に来た彼女のからの手紙に、近々他の男と婚約をすると書いてあったのです。今から思えば、それはきっと偽の手紙だったのでしょう。しかし、ハスラムの事とそれまでのつらい出来事が私を追い込んでいたのです。私は心底疲れ果て、以前エトランジュから贈られた懐中時計を送り返して、エトランジュのことも、ハスラムのことも諦め、以前から父に勧められ、いずれはエシランジュと息子と共に出仕しようと思っていた聖地の警備兵の任についたのです」

「あーーーーしかし、わからないのはですねーー。何故、ハスラムはオスカーを父親だと思っちゃったのかなのですがねーーー」

ルヴァの問いにハスラムはビクッとした。

そこへ、オリヴィエがハスラムへと質問した。

「ねーーーハスラム。あんた、もしかしたら、ここに来てすぐにオスカーを見て人違いだって気づいたんじゃないの?」

皆の視線がハッとハスラムへと向けられた。

「・・・・うん。オスカーさまに会って、なんとなく母さまの言っていた人と違うなと思ったの。でも、こんな素敵な人が父様だったらなーと思ったのと、母さまが父さまはオスカーという名前で、聖地でとっても立派なお仕事をしているって言っていたから・・・」

「あ・・・・あのっ」

そこで父親が言葉を濁した。

「・・・実は、私の名前はオスマーカーと言います。それで恋人の頃にエトランジュが、言いにくいしオスカーのほうが響きが良いのでオスカーって呼ぶわねと言っていたことがありまして・・・多分それをハスラムに・・・」

その言葉にオスカーさまは
何だとーー!!!! そっ、そんないい加減なことで、こっ・・・この俺の立場がどれだけ・・・!!!」

今にも掴みかからんばかりのオスカーさまにオリヴィエが冷たく言い放つ。

「日頃のあんたがしっかりしていれば、こんなことにはなんなかったのよ。自業自得よ・・・」

他の守護聖たちも同意の目つきでオスカーさまを見た。

オスカーーさまはその皆の視線にまたまた肩を落とすしかなかった。






                       戻る             進む