第三話 爽やかな風
もともと人懐っこい性格だったのだろう。
ハスラムは少年守護聖たちとすぐに打ち解けて、毎日遊んだり、手伝いをしたりと聖地での生活に馴染んでいった。
今日もまた、三人から四人になった悪ガキ少年たちは聖地の中を走り回っている。
「あ〜〜ら、オスカー。こんなところでなにしてんの?」
木陰から少年たちを見ていたオスカーはいきなり背中を叩かれて驚いた。
「うっ・・・オリヴィエ!!」
「ふ〜〜〜ん。身に覚えがないパパでも、つい気になって可哀想な坊やを心配しているってわけ?」
オリヴィエのその言葉にパアッと明るい顔になったオスカーさまだった。
「オリヴィエ!!! お前は俺を信じてくれるのか?!」
「まー・・そりゃね、長年付き合ってりゃ子供を作るような甲斐性があるかないかくらいはわかるわよ。あんたって、いざとなったら何も出来ないタイプなんじゃないの?」
「まったく、それじゃ誉められているのか、けなされているのかわからんな。まあ、とにかくそう言ってくれるのはお前だけだよ。ジュリアスさまは口を聞いてくださらないし、あのチビどもは俺の顔を見ると睨みつけるんだぜ。まったく、この俺がいったい何をしたっていうんだ!」
「キャハハハハ!! そりゃ、日頃のあんたを見てりゃ、子供の一人や二人現れたっておかしくないもの! みんなに本気でそう思われたって自業自得でしょ!」
「・・・・お前なーー」
言い返すことが出来ないオスカーさまは力なく肩を落とした。
「それより、可哀想なあの子。このままここにいるってわけにもいかないでしょ? なんとかいなくなったっていう母親を捜してあげられないかしらね?」
「・・・・そうだな。母親を連れ去った連中はおそらく母親の身内か何かだろう。しかし、ハスラムはよくは知らないようだな」
「ふ〜〜ん。とにかく、その母親が見つかれば、あの子が本当にあんたの子供かどうか事実がわかるわけよね? まあ頑張って信頼の回復に努めてねーー」
「おい! お前は俺を信じてくれているんじゃなかったのか?!」
「さあ? どっちにしても、私には関係ないわよ! じゃあねーーーん♪」
キャハハと笑いながら去っていくオリヴィエに、オスカーさまはまた孤独を感じてため息をついた。
「ねーねー、ハスラム。君のお母さんってどんな人だったの?」
興味深げにマルセルが聞いた。
「うん。僕の母さまはね、エトランジュっていうんだ。優しくてとっても綺麗なんだから・・・。本当だよ。夕方になると母さまは、僕を近所のサフラおばさんのところに預けて働きに行くんだ。そして、主星の空がお星様でいっぱいになると、僕たちは手を繋いで歌を唄いながら帰るんだよ。僕が眠くなると母さまは笑ってだっこしてくれるんだよ。そうしたら母さまのいい匂いがして・・・ぐすん・・・母さま・・・・・」
ハスラムはなきべそをかいた。
「母さんか・・・・」
三人の少年守護聖たちも母親のことを思い出したのか、黙り込んでしまった。
マルセルはハスラムと一緒に泣きべそをかいていた。
「わ・・・悪かったな、ハスラム。思い出させちまって・・・。なあ、元気だそうぜ?!」
「うん! ゼフェルの言うとおりだ。さ、ハスラムもマルセルも泣き止んで・・・。そうだ、ハスラム! 剣の稽古つけてやるよ! 俺、オスカーさまにはまだかなわないけど、結構やれるんだよ!」
「ケッ。またスポーツ馬鹿少年かよ! それよりよー、こないだ作ったメカロボを見せてやるよ!なっ、ハスラム!」
「あーーーもーーー。また始まった! ハスラムは今日は僕と花壇の手入れをする約束してるんだよ! さっ、行こうハスラム!」
マルセルはハスラムの手を引っ張って走り出した。
「あーーー!待て、マルセル!! ずるいぞー!!!」
その後をゼフェルとランディが追いかけていった。
四人の表情はいつの間にか笑顔へと変わっていた。
「たった一人、少年が入ってきただけで、この聖地も騒がしくなったものだな・・・」
執務室の窓からその様子を見ていたクラヴィスが呟いた。
「そうですね。でも、なんともいえない爽やかな風をこの聖地に入れてくれました。あの少年の純粋な心に触れるたびに、わたくしの心も軽くなるのです。ところで、クラヴィスさまはどう思われますか? あの子が本当にオスカーの子供なのかどうか・・・・」
「フッ・・・さあな」
「ただ・・・この間水晶球が近々この聖地にまた一騒動起こると告げていた。このまま平穏には行かぬということらしい。・・・おそらくは・・・・・。フッ、どのみち私には関係ないことだ・・・」
「そうですか・・・・」
リュミエールはクラヴィスと考えが一緒なのを確認すると、少年の姿を思い浮かべ幸せを祈った。
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