オスカーさまの事件簿
あまたの女性をときめかす、我らが炎の守護聖オスカーさまは今日もまた、チェスの駒を動かしている。
相手は勿論、その場にいらっしゃるだけでひれ伏したくなるような威圧感を漂わせ、見つめる事も出来ないくらいこわ〜〜〜いと有名な光の守護聖ジュリアスだ。
しかし、一部の女性にはそこがまた、たまらないらしいのだが・・・・。
いつもの二人のいつもの世界。
その世界を突如と突き崩す音が廊下を近づいてくる・・・・。
バタン!!
ノックもせずにいきなりドアを開けると、地の守護聖ルヴァがまるで転げるように入ってきた。
「何事だ?!」
「・・・ルヴァ?!」
二人してその様子に驚き、立ち上がった。
しかし、ルヴァは返事も出来ずに蹲ったまま息を切らしている。
この人は余程の運動不足のようだ。
待っていられなくなったジュリアスは、苛ついたように言葉をかける。
「一体何事だ!? そなたのそれほどの乱れようからすると余程のことなのだろうな?」
「大丈夫か? ルヴァ?」
オスカーさまはルヴァに近寄り、抱き起こす。
「・・・ハア・・・ハア。・・・す・・・・すみません。・・・・ハアーーーっ。・・・・!?」
ルヴァは助け起こしたオスカーさまの顔を見ると驚いたような表情をした。
「あぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!! オスカー!! あなたを捜していたんですよーーー。多分ここじゃないかと思いまして・・・」
「俺をか?」
「えっ、ええ。ちょっ、ちょっと待ってください。深呼吸しますから・・・・」
なかなか本題に入ってくれないルヴァの御蔭でジュリアスの眉間の皺が一本、また一本と増えていく。
「ハアー・・・。では・・・本題に入りますが・・・。大変です! オスカー!」
「だーかーらーーなんなんだ!!」
さすがのオスカーさまも業を煮やした模様である。
「あなたの子供だという子が、今、ディアのところに・・・・!!」
「・・・・?」
「・・・・???????」
オスカーさまもジュリアスも、ルブァが何を言っているのか理解できないでいるらしい。
「・・・なんだって?」
「・・・ですから、あなたの子供だという子が来ているんですよ、オスカー」
「!!!!!??????」
オスカーさまは驚きのあまり声が出ない。
ジュリアスは怒りを通り越して妙に冷めた表情をしているが、腹に一物あるのかただオスカーを見つめている。
「・・・・身に覚えがあるのか、オスカー?」
ハッと自分の置かれている状況に気づいたのか、オスカーさまは慌てて叫ぶ。
「いっ、いいえ。そ・・・そんな馬鹿な・・・!!!」
顔から血の気が引いていく。
「と・・・とにかく、ディアの部屋へ来てください」
二人の凍りついた会話にルヴァが口を挟んだ。
「そ・・・・そうだな」
189センチの長身の男の体がやけに小さく見えて、そしてよろけながら廊下を歩いていく。
「ああ・・・待っていました、オスカー」
いつもの優しい笑顔で出迎えてくれた女王補佐官ディアのようだったが・・・。
おや? 口元がヒクヒクとしている。
さすがのディアも、この出来事には怒りを感じているらしい。
「この子をご覧下さい」
オスカーさまの前に現れたその少年は、歳の頃は10歳から12歳というところで、髪の色こそ赤くはないが、目元の鋭さとブルーアイズの瞳がなんとなく似ているような気がした。
その子は礼儀正しくお辞儀をすると
「はじめまして、父さま。僕、ハスラムといいます」
「ちょっ、ちょっと待て!! 」
オスカーさまは慌てて後ずさる。
「いくらなんでも、この俺にこんなでかい息子ができるわけがないだろう!!!」
「・・・オスカー」
冷静な声でディアが諭す。
「あなたはお忘れですか? この聖地と外とでは時の流れが違うということを・・・。あなたにはついこの間の出来事でも、この子にとっては長い時間が過ぎているのですよ」
「・・・う・・・・・。そ、そうだったな」
オスカーさまは否定できる理由の一つを砕かれてしまい言葉を失ってしまったようだ。
ハスラムというその子は、フラフラとオスカーさまに近づくと、
「・・・・母さまがね、連れていかれちゃったの。僕も連れて行ってってお願いしたんだけど、お前はよそ者だからって連れて行ってくれなかったの・・・。いつも母さまは、何かあったら父さまのところへ行って、引き取ってくださいって言いなさいって・・・。僕・・・・他に・・・・行くところが・・・ない・・・の・・・」
目に涙を溜めてそう言うと、そのままバッタリと倒れてしまった。
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