予測不可

まったく日常というものは予測がつかない
この俺としたことが・・・・

普段の俺は、その日の予定と計画に沿ってのみ行動してきた。
予測なとどいうものには無縁な生活だった。
しかし、最近の俺は・・立花未来という女性と出会ってからは、彼女の気持ちを予測し、
自分の感情を分析し、それによって行動し・・・そして、振り回される・・・。


そして、今。
こうして講義中の今も、俺は今日というある特別な事柄に思考が囚われてしまっている。
いつものように俺に視線を集中し、熱心に講義を受けているように見える立花未来。
今日は彼女の誕生日だ・・・。
勿論、忘れていたわけでも、無視しているわけでもない。
ただ・・・言いそびれているだけだ・・。
どうしたらよいのかわからないだけだ・・・。
だから・・・そんな悲しそうな眼で俺を見るな・・・。


90分の講義がいつも通り終り、学生達が教室を出て行く。
俺は机の上の資料を片付けながらも、神経は立花のいる方向へと集中している。

・・・・何か言いたいことがあるのなら、言ってきてくれ・・・

そうすれば・・・俺は今夜君を誘うことも出来る・・・。
祝いを言うことも出来る・・・・。

しかし、彼女は静かに席を立つと、何も言わず教室を出て行こうとする・・。
俺が見つめるその彼女の背中からは・・・・。

「・・・怒っているな・・・あきらかに・・・」

俺は誰も残っていないのを確かめたうえで、大きなため息をつきながらひとりごちた。

仕方がない・・・。
いや、自分でも彼女の誕生日を祝ってやりたいという気持ちはある。
ただ・・・自分から何かをするということに慣れていないだけだ・・・。
しかし、行動を起こそうにも彼女の講義は今日は午前中で終りなはずだ。(このあたりは把握済みだ)
そして俺の講義は今日は最後までみっちりとある。

出だしからこのざまだ・・・。
その間、田中や谷川と一緒に出かけてしまう可能性もあるが、それは仕方が無い。
ようは、俺の誠意を見せることだ。
夕方には大学を出られるだろうから、その後繁華街に出て、プレゼントを買おう。
やはり、花かアクセサリーがいいだろう。
以前、古賀に同じ助言を与えてやったとき、あいつは両方買っていた。
・・・俺も両方にするか・・・。
花は・・・彼女のイメージから白い薔薇・・・。
アクセサリーは・・指輪はまだ早い気がするし・・サイズを知らん。
ピアスは・・彼女は確か穴を開けていないようだし・・。
・・・・無難なところでネックレスあたりにしておくか・・・・。

それを、彼女の家に届けよう。
彼女の家にはまだ行った事はない。
毎日大学で逢っているのだし、その帰りにたまに食事をしたり、俺のマンションに来たりで、
何故か今まで彼女の家に寄るという機会が無かっただけだ。
住所は生徒名簿ですぐにわかるだろう・・・。

「・・ふん」

こういう事に慣れていない俺は、考えるだけでひどく疲れるが、しかし、楽しい気分である
という事もいなめない・・。

そんなことを考えているだけで、次の講義の開始時間が迫ってきた。
俺はまとめた資料を持ち、次の講義に向かうべくその教室を後にした。

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