【 あたたかいひと 】

 その手の温かさを知っている。
 お前が優しい者だと分かっている。
 例え全身が充足感に満たされたとしても。
 拭いようの無いこの不安は何なのか。
 ―――俺は未だ、其れを知らない。

***

 とある午後の昼下がり、大海原に浮かぶ孤島。
 その一件古ぼけた屋敷の中にある書斎に、二つの人影。
 屋敷の外装とは裏腹に整えられた調度品と並ぶ本の数は目を見張る。
 本棚を改造して作られた通信機に、青年は手を伸ばした。
 その後ろには青年より目線一つ分程背の高い男。
 二人の間に走るのは緊張感。
 戦場に生きる事を運命付けられた者達。
「…今回は?」
 長い癖のある前髪を揺らして、男が尋ねた。
「マーケサズ諸島沖の海底探査だ、微弱ながら未確認のエネルギー反応があるらしい」
「ふむ…」
 書斎に送られてきた暗号通信を読み解き、青年は苦笑する。
 金糸の髪は背中に流れている程長い。
「今週末はゆっくり出来ると思ったのだが―――」
「仕方あるまい、其れが俺たちの選んだ道だ」
「そうだな」
 続いて読み上げられる日時は、後半日ほどで出発の時刻になることを示した。
 ふと翠玉の瞳が細められる。
 其れを見た銀の瞳が思わず腕の構えを解いた、が。
「半日、か……」
「? お前に不都合があるならば今回は俺が」
「いや、そうではなくてだな」
「では一体」
 不敵な笑みを浮かべた青年が囁く。
 麗しく、艶やかに。
 唇が瞬間、弧を描いて。
「…今宵は久方ぶりに君を愉しみたかったのだが…?」
「!」
 そのまま書斎に置いていかれた男は耳まで朱に染まっていた。

 半日後、玄関先での出来事。
 いつも通りに別れの――互いの無事を祈る――言葉をかけようとした時。
「な…!?」
「暫く会えないのだから―――」
 と言って抱きつかれ、思わず硬直する男。
 今までに無かった青年の行動に困惑し狼狽するばかり。
 軍人らしい無骨な性格としては次の行動を起こしようが無い、というか分からない。
 このまま応えるべきなのか迷った末に、青年の肩に手を置き。
「…レ…レーツェル」
「エルザムだ、今は」
 窘める様な其れでいて拗ねたような響きに咳払いを一つ。
 言われた通りに彼の名を言い直して。
「エルザム、お前の好きにすればいい…ただし」
「ただし?」
 銀の瞳が壁の時計を垣間見る。
 約束の時刻を鑑みるに。
「…30秒だ」
 その短い言葉に青年は噴出して笑った。
 ばつの悪そうな顔をしてあさっての方向を見る男。
 鼻の頭まで真っ赤にして―――照れているのだ。
「ゼンガー」
「…何だ」
「30秒、と君は言ったな?」
「ああ、其れが何か―――」
「ならば、一度くらいは」
「?」
 くいと顎をつかまれて、しまったと思った瞬間にはもう遅い。
 重ねられた唇が熱い、そんな気がした。
 数秒の後、離れてゆく影を叱る。
「…こら」
「30秒」
「……次は無いぞ」
「次の次があるさ」
「…む…」
 悪戯好きそうな光を浮かべた青年は笑い、男の広い背中に腕を回して、胸に当てた耳から心臓の鼓動を聞く。
 命を訴え続ける音、自身が此処へ、彼の元へ帰ってくる為の楔。
(君を、愛している)
 何度と無く呟いた言葉を胸の内で反芻した。
 やがて瞼を下ろして30数えた後に、頭の上から少々無慈悲な低めの声が届く。
「時間だ―――行ってこい、エルザム」
「ふ…。了解した」
 名残惜しそうに手を放すと、僅かに視線を交錯させる。
 たったそれだけ。
 言葉を交わさずとも、もう。
 穏やかな表情でその後ろ姿を眺めていた男の瞳が突然大きく見開かれた。
(!!)
 扉を閉めてから急ぎ背後を振り返る。
 この家のもう一人の住人を完全に忘れていたからだ、今更フォローも何も仕様が無いとはいえ。
 もし見られでもしていたら、というか見られているだろうに、
と思うとあっという間に火照った顔から血の気が引いていく。
 だが。
「………」
 幸運なことに、振り向いた廊下には何の人影も気配も無かった。
 ひとまず胸を撫で下ろすと、リビングへと向かう。
 冬がますます深くなってきた今日この頃、ついつい暖かいものが欲しくなる。
 寒い場所に、寒い季節に生まれたからといって、寒さに慣れているわけではない。
「寒い、な…」
 一人残された玄関で、男は呟いた。

***

「ゼンガー、俺は」
「?」
「…いや、何でもない…」
 食卓を挟んで向かい側に座る男、もう一人のこの屋敷の住人は己と良く酷似した容姿をしていた。
 髪の癖も髪の色も瞳も。
 全てが同じな様で居て、唯一つ違う点。
 その記憶と左目の深い傷。
 失い、傷つき、それでも彼が此処にいるのは。
 食事中に突然箸を止め――今晩は和食だった――男が何かを言おうとしたのだが、
結局は言葉にならず俯いて沈黙を保つ。
 只でさえ静かな食卓には、更なる静寂が訪れた。
「気になる事があるなら―――」
「大丈夫だ」
「……」
 そう言われてしまっては踏み込む事が出来ない。
 困惑と呼ぶのかその瞳の色を。
 違う、別の何か徴候が顕れているのか。
 呼び掛けられた相手は、逡巡した。

(あいつは一体何を言おうとしたのだ…)
 バスタオルと寝間着を片手に思考は未だ続いていた。
 夕食後にも話しかけようとしたのだが、何故か避けられているのが分かる。
 当然というか、心当たりは特にない。
 いつもと同じなのだ、違う点と言えば彼が居ない事くらいであって。
 だが其れが男に避けられる理由かと言えばどうだろう。
 何か起因しそうな事象を幾つか脳裏に挙げてみたところで、現在の状況に結びつく筈も無く。
 矢張り溜息と共に困惑するしかない。
「……」
 辿り着いたのは浴室。
 いつもであれば我先に入ろうとする男が何故か今日は先陣を譲った。
 ―――おかしい。
 謎は深まる一方で、さて服を脱ごうかとしたその時。
「ゼンガー!」
「なッ!?」
 勢いよく浴室の扉を開けて走り込んできたのは、3人目の住人―――ウォーダン・ユミルだった。
「な、な…な…」
 勢いそのまま、タックルをかけられて思い切り倒れ込む。
慌てて受け身をとったものの多少は背中が痛んでしまった。
さて、そんな事はお構いなしに、まともな言葉を喋る事が出来ずにいる己を放っておいて男は言う。
「やっぱり俺はお前と一緒に寝たい!」
「な…っんだと!?」
 真剣な表情で何を言うかと思えば、其れ。
 開いた口を塞ぐ事も出来ず、だが闖入者の言葉は続く。
「一緒なんだろう?」
「な、にが…」
「だってレーツェルと同じ部屋で、同じベッドで…」
「!?」
 必死に何かを訴えようとしているのは分かるが最後までは聞き取れない。
 聞き取らない方が良いというものだろう。
 その先は藪蛇と言うべきか質問不可領域というのか。
 兎に角男の言葉は止まらない。
「時々は風呂も…」
「其れは違う…!」
「だが俺はいつもお前達とは違う、だから今回は―――」
 必死の否定も男の耳には届かなかった様で、ずいと近寄り、薄銀の瞳が懇願する。
 泣きそうな、しかし意志の強い光を宿して。
「今回は、俺とお前が一緒でも良いだろう?」
 どういう文脈の繋がりなのか分からない、それ以前に充分支離滅裂な台詞ではある。
 夕食の時に言おうとした言葉が果たして本当にこの事だったのかは推測の域を出ずとも、
それでもこの男に頼まれれば断れないと思う―――そんな甘い己が居る事を知っている。
 食事中でなくて何よりだ、と少々ずれた安堵感を懐き。
 此の状況も問題だと思う。
「…分からん」
「!」
 不安に駆られた瞳を覗き、諭す様にゆっくりと話した。
 己の体勢自体には少々危機感があるのだが、多分大丈夫だろう。
 ふっと表情を和らげる。
「ウォーダン…お前は己が言っている意味が分かっているのか?」
「…其れは…」
「とりあえず少しは落ち着け」
「……」
 目に見て取れるほど明らかに意気消沈した男を言い宥めようと、再び口を開く。
 が、かける言葉が分からずに仕方なくそのまま閉じてしまう。
 見た目の年齢に釣り合わぬ精神。
 全てを一度忘れたが故に持つ心。
 ほぼ睨み合いに近い形で、互いの顔を見つめ合う。
「……」
「……」
「……」
「……」
 まるで言葉の代わりの様に。
 恐る恐る伸ばされてきた手に、ゼンガーは触れた。
「とりあえず、其処をどけ」
「?」
「お前が乗っていては俺が風呂に入れん」

 元々貴族の別荘として扱われていたこの屋敷には、何故か大浴場とは言えないが、それなりに大きな風呂がある。
と言うか個室にも付いており、主にはそちらを使用するのだが、この屋敷で生活する3人は時折此処を使う。
 完全洋風館に似合わない、寧ろ浮いてしまっている―――檜風呂が、在る。
 がらっと引き戸の音が宜しく室内に響いた後、叱責の声が響く。
「風呂で走るな!」
 その声を意に介さぬと言った様な返答が次に聞こえ。
「んー?」
 結局、叱責をした張本人は返答者の腕を掴んで引きずり戻す。
「身体を洗う前に湯船につかろうとするんじゃない! ウォーダンっ」
「…別に良いだろうに」
 あの後5分ほど言い合いを繰り返したものの、
頑として一緒に風呂に入る事を譲ろうとしない男に負けて、風呂に入る事になったのだが。
 不服めいた物言いに疲労の色は隠せない。
「疲れる…」
 すっかり頭を抱えてしまったゼンガーは大きく肩を落として石鹸を手に取る。
 殆ど幼児にする注意と変わらない台詞を繰り返さなければならない状況に酷く疲れた。
 そこへひょっこりと背中から顔を出して。
「お前が喧しいのだ」
「…っ、こら!」
 半ば呆れたような表情をしてそう言った男は隣に座って、蛇口をひねる。
 出てきた湯に手を差し出し、溜まった湯で顔を洗う。
「洗えばいいのだろう、洗えば」
「…常識的な話だ」
「ふむ。…ゼンガー」
 漸く落ち着いてくれたか、と思った矢先。
「何だ」
「レーツェルは髪が長いから洗うのが大変だな?」
「ぐっ――!」
 何故そんなタイミングであの男の名前が出てくるか―――不意の呟きに慌ててしまい、シャンプーが目に入る。
直ぐに洗い流すが、当然少々眼がかゆい。
 流石に其れには自責の念を感じたか、男は素直に謝った。
「すまん…」
「いや、大丈夫、だが…」
 こんな時は必要以上に擦らず、再度目を水で洗い直す方が良い。
 水が目にしみるものの、十分に洗い流せただろうかと顔を上げる。
「何を慌てる必要がある?」
「……」
 そう言われればそうなのだが。
 反論する言葉も無く、僅かに開けた瞳で見つめると、悪戯な光を浮かべ。
 此方を見た男が笑う。
「何を考えているのやら」
「ばっ…」
「疚しい事だ」
「お前っ!」
「風呂につかるぞ〜」
「っ、おい―――」
 叱ろうとした瞬間に手を振り、湯船へと身を沈める。
 最後に勝ち誇った様な顔をされたのに悔しさを覚えたが、相手は子供だと無理矢理思いこむ事にしよう。
 そんな決意など知らぬウォーダンは、顔だけをこちらへ向けたまま言った。
「楽しいな」
「……」
 夢を見ているかの様な、独り言に近い言葉だった。
 己に投げかけているのでは無い、自身へ返す様に。
 確かに喋りかけられているのは己だろう、しかし。
「いつも一人で入っているから、今日は楽しい」
「そうか…」
 ちゃぷんと、水の跳ねる音がする。
 湯気煙る室内で小さく響いた男の呟きを聞く。
 静かに深い声。
 何も強請らない、何も求めては居ない。
 只こうする事だけをずっと想っていたのだろうか。
「たまには二人で入るのも良い」
「ああ」
「だが今度は3人で入ってみたいものだな」
「…む」
 身体を洗い終わり、男の隣へゆっくりと身を沈める。
 大人一人分増えた数だけ浴槽からは水が溢れ、瞬間その音に耳を傾けた。
 すかさずウォーダンは話しかけてくる。
「3人の方が、楽しいだろう?」
「……」
 咄嗟に肯定出来なかったのは、そうなった場合、
更に己の苦労――特に気苦労と言うべきか――が増えるのではないかと考えたからだ。
 彼と此の男と。
 どう考えても以前の――ハロウィンの――様に己だけが取り残されて流されてしまいそうな予感がする。
 特に彼は楽しい事を考えるのが好きだ、悪戯とも呼べる其れを。
「今度はきっと、3人だな」
 拳を握り、強く言い切る。
 薄く微笑する隻眼の男に負けて、ゼンガーも首肯した。
「…そうしよう」
「―――と、すまん」
「のぼせたか?」
 ぐらりと傾いだ男の身体を支えて、己の背中へとずらしておく。
「だから風呂場ではしゃぐなと言ったのだ…」
「仕方ないだろう…今日は……」
「? おい? ウォーダン」
「今日、は―――お前…が…」
「おい…っ」
 重力そのままに沈もうとする男は、やがて意識を完全に手放した。
(今日はお前が居るから、な―――……)

***

(―――まったく、お前というやつは…)
「う…ん…?」
 小さな苦笑めいた言葉が聞こえ、男はゆっくりと重い瞼を上げた。
 額に乗せられたタオルよりも先に、此方を仰いでいる人間を注視する。
 銀色の強い癖のある髪も、風呂上りには随分と大人しい様で、同じ色をした瞳と視線がぶつかり。
「目が覚めたか」
「ゼン、ガー…?」
 少々掠れ気味の声で、相手の名を呼ぶ。
 朦朧とした意識の中でその人影へ手を伸ばすと、力強い手が握り返してくれた。
「しばらくそうしていろ―――水はいるか?」
「む…」
 そういえば喉が渇きを訴えている。
 僅かに首を縦に振ると、男が立ち上がり台所の方へと向かった。
 残された我が身としては、畳の感触がひどく心地よく、ぼんやりと眠気に身を任せそうになる。
 近付く気配と、畳から伝わる足音に再び意識は現実へと戻ってきたが。
「ほら」
「ああ」
 渡されたコップの水を半分ほど飲んで落ち着いたところで、
自身の服も男と同じ寝間着――浴衣と呼ばれる其れ――であることに気づく。
「…お前が着替えさせたのか」
「他に誰がいる」
「確かに」
 室内に十分な暖房を行き渡らせているとはいえ、夏とは違い室内の底冷え感は拭えない。
 そのため多少は厚手になっており、夏用とは違い少々生地も厚く重たい。
 だが自身が着た事は今まで一度たりとしてない。
 自分用の此があることすら知らなかった―――そんな思いを込めた視線に、コップを持ってきた男が言う。
「随分と前から、あいつが準備していたのだが…お前はパジャマのほうが似合うような気がしてな」
 それで出せなかったのだ、と。
 まるで照れた様に笑い、では何故今回改めて出す気になったのかと問えば。
「これが一番着せやすい」
 至極単純明快に過ぎる回答だろう。
「もう少し…」
「ん?」
「…もう少し、お前には情緒が欲しい所だな? ゼンガー」
 そう言って相手を隣の布団へ引き倒し、四つんばいの格好で馬乗りになる。
 突然の事態に戸惑う男の声が微かに高くなる。
「っ…ウォーダン!?」
「今夜は一緒に寝るのだからこれぐらい別に構わんだろう」
「な…っ、お前まだそんなことを―――!」
「本気だぞ、俺は」
 髪に残る雫が首筋を伝う。
 相手が真剣な表情でいる限り勝ち目はない。
 だからといって素直に肯定するわけにもいかない。
「離せ…!」
 低く少々の敵意を込めた呟きにも男は動じない、当たり前だがすでに主導権は向こうにある。
 本気で抵抗すればいいのだ、しかし。
「嫌だ」
 短い拒否の言葉。
 先程から表情すら変えずに。
 嬉しそうとも悲しそうともいえぬ微妙な顔。
 ぽつり、と。
 不意に。
「いつもお前たちがいてくれても、俺は一人だ」
「……!」
 表情が変わらないのは、きっと己も同じだろう。
 彼に伝えたい言葉があっても伝えられない時に、おそらくこんな顔をしている。
 ―――瞳だけが雄弁に心境を語るのだ。
「お前たちが一つなのはわかる、だからといって俺が放っておかれたことは一度たりとしてない」
「……」
「それでも…俺は、時折一人だと―――」
「お前…」
「お前たちの仕事がある時でも、必ずお前かあいつが残るようにしてくれていることも知っている…!」
 徐々に俯いてゆく顔が、長い前髪が瞳を隠してしまう。
 だがもう見なくとも分かる。
 切に願う想いから零れる言葉が、聞こえている。
「レーツェルの優しさも、お前の頑固さも…知っている、分かっている、のに」
 少しずつ消え入りそうな言葉を、ゼンガーは掴まえた。
「心配するな、ウォーダン」
「…?」
 馬乗りになってどちらがこの場の主であることは一目瞭然だというのに、この男は最後に其れを手放してしまう。
まるで駄々をこねる子供のように、うまく甘えることが出来ず。
 無邪気さの影には酷く脆い心がある。
 殊更この男の場合はそうだろう。
 嘗て失ったものの存在は大きく辛く、癒えぬ傷が無意識に潜み続ける。
 取り返しのつかぬ過去を己の所為だと苛み続ける姿は、何処か彼にも似ていると思う。
(純粋すぎるな、お前は)
「心配無い」
 肘で上体を起こして、男の頬に触れる。
 ひとと変わらぬ熱を持ったお前に。
 まるで幼子のような。
「少なくとも、今夜は一緒に寝てやる…何なら手でも繋いでみるか?」
「……」
「ん?」
「……いや」
「? ―――っと」
「…今晩はこうして寝る事にしよう」
(大きな子どもがいたものだ…)
 相手の苦笑する心中をよそに、ゼンガーの体に抱きついたまま、ウォーダンは瞼を下ろす。
 本当に己が安心できる場所を知っている、其れが如何に幸せなことであるかも分かっているつもりだ。
 不安がる必要も、心配する可能性も本来であれば生まれてこない筈だというのに。
 どうしてこんなにも。
(俺は―――…)
 嵐の半日を終え、漸く静かになった男を眺めて小さく溜息をつく。
 今日は疲れた、と思えば睡魔がすぐにでも襲ってきた。
 いずれ手放してしまう意識がある内に、掛け布団を2枚分引き寄せて互いにかけておこうか。

 やがて規則正しい二つの寝息が聞こえるようになった。

<了>

   writing by みみみ

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