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障害児の自立を願って父母とともに築き上げられた七生養護の性教育
**七生養護学校訪問記(2)**

○7月24日、都議会での一部議員による激しい非難や都教育庁による大量の職員が押しかけての調査、教材没収など、異様な展開を見せている七生養護学校の性教育問題で、事の真実を見極める第1歩として、私たち都議団として、現地を訪問し、調査を行いました。
 校長先生との懇談の様子は、前回のレポートをお読みください。

○ちょうど時刻が5時15分を回ったので、校長先生に頼んで、職場に残っている先生方に声をかけ、会議室をお借りして話を聞かせてもらうことにしました。
 10人ほどの先生方が参加してくださいましたが、後ろでは、教頭先生が懸命にメモを取っていました。職場のリーダーらしい先生は、「かまわないですよ。聞かれて困る話じゃないし」といたっておおらか。教育庁も、なんでこんな風に聞き取りしなかったのか、不思議です。

○先生たちは、まず、7月2日の本会議質問が、一度も七生養護にきたことも授業を見たこともない議員によっていきなりおこなわれたこと、しかも質問直後の4日になって議員が産経新聞の記者と乗り込んできて、保健室の人形を無理やり出させ、着せてあった服を脱がせ、性器の部分をむき出しにして写真を撮り、いきなりのやり方に抗議した教員を怒鳴りつけ、詰問するなど、異常な様子を話してくれました。
 このとき、たまたま2つの学年が実習で外に出かけていませんでしたが、残っていた高等部の生徒が、保健室に入ろうとして騒ぎに驚き、「先生がとりかこまれていじめられている」とパニックになってしまったそうです。

○その後、9日には30人以上の指導主事がおしかけ、いくつかの部屋を使って、90人ほどいる教員を一人づつ呼び出して、まさに尋問に近い聞き取り調査が行われました。教員の側からは質問したり記録やメモを取ることも一切禁止だったそうです。
 しかも、ある教員には質問項目で「あなたは不適切な性教育の人形を使ったか」という趣旨の質問が書かれているのに「性教育に人形を使ったか」とだけ聞き、「はい」と答えると、不適切を認めたことになるような仕掛けになっているなど、聞き取りのやり方も悪質なものだったといいます。その教員は、最後に質問の答えの確認の署名捺印を押させられるときに質問項目に気づき、その場で訂正させたが、指導部側でどんな集計をしたか、不審に思っているといいます。

○教員の方々はこの聞き取りが前日校長から、違反すれば処分となる職務命令として言い渡されたものなのに、命令した校長自身は「質問項目は知らなかった」と言う無責任なものだという点も批判していました。

○七生養護学校の性教育は、本当に非難されるべきものだったのか・・。
 分かったことは、性教育の授業の前と後に、その内容とねらい、また結果について、父母に手紙を出し、要望や意見も聞きながら丁寧に築き上げられたものだということでした。(毎回出している「さわやかアップ」という高等部の性教育のお便りは、この間の調査で全て没収されたそうです。)

○「からだうた」についても、全ての学年に一律に歌わせているのでなく、低学年には男子の「ペニス」という表現が分かりにくいので「おちんちん」という風に変えるなど、もちろん学年やその子の成長に合わせて工夫しているそうです。

○そして何より、この8年来、教育委員会から批判されたこともなく、むしろ、昨年の都内の養護の校長会の自主研修では実際の授業を見て、きわめて高い評価を得ているそうです。
 いま盛んに非難している議員や教育庁の役人は、一度も授業を見ずに、性器がついているとかリアルだという理由でこれほどの仕打ちをしたとは、私もあきれてものが言えませんでした。

○七生でなぜいち早く性教育が始まったのか、あるベテランの教員が話してくれました。そこには七生福祉園という共同生活の場から通っている子が多いという事情があるそうです。
 知的障害児は、知的には幼児段階でも性的な発達は通常通り進んで行きます。ある女の子が複数の男子と性的な交渉を持っていることが分かり、本人の理由が「そのときだけやさしくしてくれるから」というので多くの園職員と教員がショックを受け、「障害児にも、いや障害児だからこそ性教育が必要」ということで営々とした努力が始まったといいます。
 同時に、これは父母の協力なしにはできないのは当然です。絶えず父母に連絡を取り、授業の前後には、その心理的影響を学校と家庭で注意してみるなど、父母からも信頼されてきたそうです。

○今回、乱暴な報道をした新聞社に抗議した父母も多かったといいます。こんな事情を教育庁はどうみているのか、語ろうとはしません。
 ただ教育庁の職員も、自分たちが授業を見ていないことや、父母から「性教育のやりすぎ」などの苦情が来ていないこと、むしろ「今までどおりやってほしい」という要望を聞いていることは認めざるを得ませんでした。

○全国でも、七生のように系統的に、家庭とも連携をとりながら性教育に取り組んでいる養護学校は極めて少ないのが実態だそうです。もちろん文部科学省の学習指導要領にも、障害児の性教育の具体的指導内容などありません。しかし、障害児の日々の成長は、国や都の怠慢を待ってはくれないのです。現場の教員たちが、まさに体当たりで性教育のパイオニアとして切り開いてきたことは、いまこのような攻撃の矢面に立たされるべきことなのでしょうか。
 教育庁指導部は、障害児教育の現場の実態も見ずに指導要領の一方的解釈でこの努力を踏みにじり、しかもそれを機械的に押し通そうというのです。
 これだけとっても教育庁の姿勢は、教育行政マンとして万死に値すると私は思います。

○現場から没収された性教育の人形などの教材は、今後使わせないと教育庁はいいます。しかしその中でセンセーションを呼びそうなものが、例の都議らによって借り出され、授業でどのように使われたかではなく、いかにリアルな形をしているかを強調する展示が議会内で行われ、マスコミがまた報道しました。
 
○教育の、それも障害児の性に関する教育における現場の授業や教材にまで手を伸ばすという、もっともデリケートで、自主的でなければならない分野に、マスコミまで動員してふみこんだ今回のやり方は、非常識を超えて「社会的弱者への抑圧は乱暴なほど効果がある」という邪悪な意思を感じます。まさに戦争前夜のにおいがたちこめてきます。


 

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