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はじめ通信・子どもと教育のはた0725

12歳の暴走をなぜ止められなかったか

●長崎の幼児殺害事件で12歳の少年が補導されてから10日が経過し、初の審問がおこなわれて、裁判所は少年を精神鑑定に掛けることを決めました。
 マスコミは、裁判所が鑑定を決めた決定的な理由として、長崎で幼児殺害事件の前に、犬が投げ落とされたり、幼児が裸にされて怪我をさせられるなどの事件があり、それを少年が自分のやったことと認めたらしいこと、また、小学校の卒業文集に、少年が、ドラえもんがゾンビのようになった犬を抱いている不気味な絵を描いていたことなどを、報道しています。
 私は、この報道などを見て、これが理由だとするなら(もちろんマスコミや私も知らない少年の様子から判断したこともありえますが)少年が本当に、精神鑑定が必要なほど心を病んでいたのかどうか、個人的には疑問に思っているのです。少年が暴走し、犯罪にいたるのを止められなかった原因は、ある意味でもっと単純なことだったのではないかと思えます。
 それは私自身のいくつかの体験が影響しています。

●ひとつは、ちょうど小学校6年のとき、私も一匹の犬を死に追いやったことがあります。当時は、北九州の門司でかなり広い木造平屋建ての国鉄官舎にすんでいて、その縁の下に野良犬が入り込んでしまったのです。苛め抜かれてきたらしく、おびえて出てこようとしません。何日もそのままうずくまっています。最初は私たち兄弟がえさになりそうなものを投げこんでいましたが、「くせになるから」と母親に止められました。
 夏休みに入ってどんどん暑くなり、犬の衰弱がひどくなったようで、「このまま死なれたら大変だ」という母親といっしょに、スコップで犬をすくうように縁の下から引きずり出し、りんご箱に入れて上に筵をかけ、リヤカーで裏山に運びました。このときの犬のひーひー言う鳴き声は忘れられません。
 裏の空き地で箱をしばらく放置して母と私は昼食に帰り、また午後に行ってみると、犬はもう死んでいました。箱から犬を出し、くぼ地に母と一緒に埋めたのですが、私はそれからしばらく虫をとって殺すことに非常に興味を覚えるようになりました。キリギリスを捕まえると、自分のシャツの襟を噛ませて、さっと胴を引っ張ると、頭だけ襟をかんだまま残ります。これを襟に並べて兄弟や友達をおどろかしていました。
 あるとき、それを見た母から、やめなさいと厳しく叱られて、以後、ぷっつりやらなくなりました。そのとき、犬を埋めた後に久しぶりにアイスキャンデーを買ってくれた母が、虫を殺すことにこれほど怒るのはなぜか考え、私なりに人間がやむを得ず生き物を殺すときと、それ以外は殺してはいけないという不文律があるのだと知ったのです。

●もうひとつは大学で人形劇サークルに入り、初めて積丹半島の子どもたちに公演を見せに行ったときのことです。
 公演の後、子どもたちと遊びの時間で、小学中学年ぐらいの男の子が、急にキーキー声でわめきだし、止まらなくなりました。あせるわれわれを尻目に、年長の女の子が、ある程度わめき疲れたころを見計らうように、「○○ちゃん、家に帰るか」と聞いたのです。すると、その子はぱっと泣き止んで、年長の子にしがみついて遊ぶ遊ぶと言うのです。
 あとでこちらから聞かなくても、年長の子が「○○の家は、両親とも出稼ぎで、兄弟だけで暮らしてるから、時どきああなるんだ」と説明してくれました。

●私は、勝手な想像ですが、この長崎の少年が、卒業文集にゾンビのような犬を描いたときも、何度か小動物を殺したりしたときも、周りの友達や大人から真剣に叱られた経験がないのだという気がします。
 そして、彼が小動物から幼児へと、次々危害を加える相手とやり方をエスカレートさせてきた半年ぐらいの間、彼をつきとめ、最悪の事態の前に補導する可能性があったにもかかわらず、さまざまな理由で、それがまともに追求されていなかったと思うのです。
 なぜなら彼は繁華街で幼児を誘い、公衆の出入りするエレベーターなどで犯罪を重ねており、今回の事件も含めて、犯罪を人から完全に隠そうとはしていなかったように思えるからです。少し真剣に、最近の不可思議な事件のことを調べて捜査を行えば、少年を発見することはできたのではないか。そうしてやることが、殺された幼児はもちろん、少年のためにも必要だったのではないかと痛切に思います。

●「幼児を裸にしてはさみで切りつけ、投げ落とす」・・このこと自体、大人なら明らかに猟奇的犯罪ということになりますが、少年の場合、事情はもっと違ってくるはずです。
 少なくとも、次のことだけは疑いようのない痛恨の事実だと思います。それはこの少年が、生き物を殺してはならないという当たり前の道理を今回はじめてまともに学んだに違いないということです。

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