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はじめ通信・子どもと教育のはた0518

「イラクへの自衛隊派遣反対」を教員の意見表明権と認めた三鷹市教育委員会
今後も続く「物言えぬ社会づくり」とのたたかい


●4月14日付で、都議会自由民主党の政調会長・樺山たかし名で、武蔵野市・三鷹市の公立小中学校教職員有志が「自衛隊のイラク派兵にわたしたちは反対です」という連名のビラを新聞折込で配布したことを、「教育の場に、特定の考え方を持ち込むことが十分に伺える、まことに遺憾なこと」とか「実名を付して、「教え子を戦場に送るな」などの、一見普遍性を装った自らの政治的スローガンを掲げて、心情に訴える文章の配布となれば、児童生徒の保護者等に与える影響は少なくない」などと主張し、「こうした事態を放置することは、都民・国民の公教育への信頼を損なうものとして、到底容認できない」「速やかに厳正な対応措置を講じるよう、強く申し入れる」との文書を教育長に申し入れ、マスコミにもそれを伝えました。

●通常この種の申し入れに対しては、事実確認をふくめて何らかの検討時間があるものですが、同じ14日付で、児童・生徒、あるいは保護者や地域の方々との信頼関係が損なわれることがないよう、指導の徹底を求める趣旨の文書が都教委から区市町村教委などに出されています。まさに軌を一にしたと言うか、電光石火の早業と言うべきでしょう。ここでも「信頼関係」を盛んに問題にしています。

●皮肉るようですが、このビラに実名を載せた先生たちが、普段から子どもたちに嫌われたり軽蔑されたりしているような人物なら、こうした意見表明が効果を上げるはずもありません。子どもに好かれ、信頼されている教員だからこそ、自衛隊派遣推進派が「信頼関係が損なわれる」などとクレームをつけたくなるようなインパクトがあることを、はしなくも認めてしまったことになるのではないでしょうか。

●その後すぐに、その地域の各学校で、校長の「事情聴取」が始まったと言います。ある学校では校長が会議の場で、「覚悟してやったんだろうな」「権力を甘く見るな」などと発言するケースもあったと、サンデー毎日(5月9・16日号)では報道しています。事実だとしたら、校長の中には極端に品位を疑われる人物がいるということになります。

●その後の話し合いで、19日には三鷹市の教育長が、以下のような文書を関係者に発表し、教職員の表現の自由を守り抜くことが出来たのです。

東京都教職員組合北多摩東支部 殿
   同    三鷹地区協議会 殿
 武蔵野三鷹地区労働組合協議会 殿
                 三鷹市教育委員会
                 教育長 岡田 行雄

教職員連名アピールビラにかかわる調査について

1 今回の教職員連名アピールのビラ配布については、憲法第19条「思想及び良心の自由」及び第21条「表現の自由」に基づく行為であり、地方公務員法を含めた法的問題のないことと言える。また、教職員個人の社会的意見表明は認められているものである。
 なお、教職員は、児童・生徒、保護者等との深い信頼関係が損なわれることがないよう慎重に配慮する必要がある。
2 本教育委員会は、教職員の名前が当該ビラに載ることについて、承知して署名したものであるかどうかを確認するために、学校長に調査を依頼したものであるが、当該ビラの発行責任者である東京都教職員組合北多摩東支部に対して最初に確認を行うことが適当であった。

 また、学校長に調査を依頼した際に、調査の趣旨を学校長に十分周知せずに依頼したため、強く注意の喚起を行った学校長も一部にはあった。結果として、教職員が心理的な圧迫を受け、行き過ぎた指導と受け止められたことは、本教育委員会の本意ではない。
 今回の件で、当該ビラに氏名を記載した教職員に不利益が生じることはないと考える。」


●サンデー毎日は、この文章にも「信頼関係」が損なわれることのないよう慎重な配慮が求められるという趣旨が書かれていると指摘して、行政側がこの「信頼関係」をふりかざしてしめつければ、公務員や教職員は、身分を明かしては何も出来なくなるとの危惧を「つくる会」教科書採択に反対して運動した人の声として紹介しています。

●イラクでの人質拘束事件でみられたように、時の権力者が特定の個人を名指しして「自己責任」論をふりかざしたとたん、それに呼応する世論が、マスコミだけでなく「草の根の声」として急速に組織されることを、わたしたちは間近に体験しました。
 今回の問題でも、自民党や都教委の主張に呼応して、これと同様の「地域住民」や「保護者の声」が本格的に動き出したとすれば、私たちは「国民が物言えぬ社会」への入り口をあけさせないための、徹底したたたかいを覚悟しなければならないと思います。

●しかし、イラクの問題がその後わずか一月のうちに急展開して、イラクを占領するアメリカ軍など権力者の内部の腐敗や非人道行為など、無法状態が明らかになり、こうした真実をあばくジャーナリストや、真にイラクの国民を救済するために勇気ある活動をすすめるNGOのボランティアに国際的な期待が広がったように、無法がまかり通るのは一時に過ぎません。それだけ国内外の世論は成熟してきているのです。

●わが東京の都政と教育についても、トップの石原知事自身が憲法を公然と踏みにじり、「99条(公務員の遵守義務)違反で結構」と都議会で表明していることは、石原都政が最も基本的な法律さえ破らなければ権力が維持できないという不条理を、自分で証明していることになります。こうした無法のもとで、いつまでも都民や都の職員がしいたげられている時代ではないはずです。
 圧倒的な都民は「自由に物が言えない社会」をのぞんでいるはずがありません。

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