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はじめ通信・子どもと教育のはた0512
世界の人の幸福を考え行動する若者の出現
それは9年前の阪神から始まっていた

●つい先日の深夜、つけっぱなしで寝てしまっていたテレビからある番組が流れているのに気がついて、つい見入ってしまいました。
 それは、「ようこそ先輩・課外授業」というおなじみの番組の再放送で、ある若手の建築家が出身小学校6年生のクラスでダンボールを使って「地震による難民のシェルターハウスをつくる」というものでした。
 実際にその建築家は阪神大震災のとき、仲間といっしょにダンボールのシェルターを造り、被災者が1年以上そこで暮らした経験を持っているそうです。
 「本当に使える丈夫な物を」「難民の気持ちになって設計を考える」という注文に、子どもたちは色々なアイデアを考案しました。ある子は、見晴らしの良い屋根に上れるようにと考え、ある子は窓を多くして光を入れようとしたり、ほかにもひとりだけのスペースを作れる間仕切りや、ハンモックで眠れるように、さらには滑り台を作るというのもありました。建築家のアドバイスも受けて、全て紙とダンボールで頑丈な小屋がいくつもできたのにはびっくりしました。

●授業の最初に、彼は子どもたちに阪神大震災のドキュメントビデオを見せたのです。
 実は私も9年前に、ビデオを回しっぱなしにして各チャンネルの震災ニュースや関連番組は、取れるだけとってあるのですが、当時の被害や救援状況をコンパクトにまとめたドキュメントがNHKにあるとは知りませんでした。
 これを見て子どもたちは、被災者の、食事もプライバシーも教育も満足に保障されない長期にわたるくらしを、シェルターでどう励ますかということを真剣に考えたのです。そしてアイデアも見事でした。

●私がハッと、あることに気づかされたのは、最後の彼のあいさつでした。
 「君たちは人が住める家を自分たちがダンボールで作れるとは想像できなかったでしょう。でも工夫すればできることがわかったと思う。
 今、君たちは世界中でいちばん恵まれた生活をしているのかもしれない。世界中には戦争やテロの危険をいつも心配したり、貧しくて食べ物も家もない人が本当にたくさんいる。
 いまは世界中がつながっているから、世界中の人が幸福にならなければ、私たちだけが幸福になることはできない時代だということをぜひ考えてほしい。
 君たちの中で、将来医者になる人やジャーナリストになる人もいるかもしれない。そうなったら世界の難民の人たちのために、自分が何ができるか想像して行動してほしい。 では、さようなら。」
 私の思い込みもあるかもしれませんが、こんな趣旨のことを語って、彼は去っていきました。

●日本の若い世代が本格的にボランティアに目覚めたのは、確かに阪神からでした。そして間違いなくその精神はイラクに出かけたあの5人の若者につながっているのです。つまり見ず知らずでも、多くの人たちが苦難を強いられているときに自分ができる最大限のボランティアを考え、そして行動に移していく精神、その前では国の内か外かは関係ないし、政府間の政治的対立などは、物理的障害ではあってもこころの障壁にはなりえないということです。

●その建築家は子どもたちへのあいさつの中で、間違いなく宮沢賢治の残した言葉を意識していたでしょう。
 わたしは、以前書いた賢治についての論評で、全世界の人間の幸福を個人の幸福の前提とする精神は、今日の社会では自滅的な結果にならざるを得ないと書きましたが、子どもたちの前で堂々とあいさつする彼の言葉を聞いていて、賢治の言葉を自らの理想と主張できる世代が登場し活躍し始めていることを実感したのです。

●もちろんわが国政府・与党の政治家や、それに追随する大半のマスコミ、さらにはネットワークで彼らをバッシングする激しいキャンペーンなど、彼らを自滅させようとするのが日本社会の支配的なイデオロギーであることはあまりに鮮明ですが、それでも私は今日の日本で、賢治の精神が孤立状態から着実に脱却しつつあると確信できたことは大きな発見でした。
 

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