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はじめ通信・子どもと教育のはた0128

教育の原点「共に学ぶ」を鮮やかに描いた
映画「あの子を探して」


●息のつまる話題が多いこのごろですが、ひょんなことから映画のDVDを観て、思わず感激してしまいました。
 美術系の短大をまもなく卒業する次女が、卒業制作の合間に映画のDVD(最近ようやく我が家も機械を購入したのです)を借りてきました。美術系だけに映画の資料や、学生にも映画ファンが多いらしく、情報を仕入れては、なかなかシブイ選び方をしています。
 そのなかに99年制作の中国映画「あの子を探して」という作品があり、つい娘といっしょに見入ってしまいました。

●舞台は現代中国の、大都会からバスで何時間か離れた片田舎の村で、小学校は40〜50年前の古い建物で教室が一つだけ、となりに教師と遠くの生徒が寝泊りする部屋があるだけという粗末な造り。
 小学校の1年から4年生まで28人の生徒がいますが、5・6年生がおらず、どうやら家庭の事情で何人もの子どもがやめていった様子です。

●たった一人の白髪まじりの男性教師が、母親の看病のため1ヶ月の休みを願い出たので、村長は隣り村の13歳の娘、ウェイ・ミンチューを代用教員にあてがおうとします。ウェイは教科書の字を写したり、うろ憶えの歌が歌えるだけ。教師は一ヶ月分26本のチョークを渡して、生徒が一人も辞めなかったら50元をやると言って去っていきます。
 ウェイは、毎日ひたすら黒板に字を書き並べ、子どもたちに写すよう言いつけて教室のドアを閉め、外に座り込むだけ。外のトイレに行くときも逃げないように監視するなど、まるで羊番をする羊飼い同然です。ついに中で大喧嘩がおこり、もらったチョークがいたずら者のホエイクに踏み折られ、細かくなってしまいます。

●そのうちホエイクが学校に来なくなり、訪ねてみると母親が病気で寝込み、5千元の借金を稼ぎに街へ出稼ぎに行かされたことを知ります。
 ホエイクを連れ戻さないと50元がもらえないと考えたウェイは、みんなに街へのバス代を稼ごうと提案。近くのレンガ工場でレンガを運べば駄賃がもらえると聞いて、みんなを連れて勝手におしかけ、レンガを積み替えて怒られたり、もらった駄賃で初めてコーラを買って分け飲みしたりします。ウェイはバス代を稼ぐためにみんなでレンガを何時間運べばよいか、自分にできない計算を、次つぎ生徒を指名して黒板でやらせます。

●苦労してつくったバス代は、停留所に行ってみれば全く足りませんでした。最初は乗客にうまく紛れて乗り込んだものの、じき車掌に見つかり降ろされたウェイは、すごすご帰るわけにも行かず、街へと歩き出します。
 だいぶ歩いてからやっとトラクターの荷台に乗って街に到着。知らされた住所を探して大きな都会を歩き、出稼ぎ仲間の娘と出会いますが、ホエイクは駅で逃げ出したと言うのです。 娘に工賃分の金を払って二人で駅を探し、構内放送まで頼みますが見つかりません。
 あきらめられないウェイは、たずね人のチラシを作ろうと最後のお金で筆と紙と墨汁を買って100枚の張り紙を駅の待合室で徹夜で書きます。墨汁が切れると水道でうすめて、最後は字が見えなくなるほど。

●明け方に、脇のベンチで寝ていた若者が見かねて、「そんなもの誰も見ないよ。テレビに出たほうが効果がある」と教えてくれて、今度はテレビ局に向います。
 早朝、テレビ局の門が開くのを待って受付に。ところが受付の女性は杓子定規で、身分証明書をもたないウェイを絶対に中に入れません。そこでウェイは、局長がめがねをかけている男性と聞き、夜までずっと門前に立って、男の人が出てくるたびに「局長さんですか」とたずねます。 
 その晩は、食堂の食べ残しを口にして路上で野宿。寝ているまに書いておいたチラシは道に散らばり、明け方の清掃で片付けられてしまいました。

●翌朝も門前で「局長さん」探しが続き、ついにこれが局長の耳に入ります。ウェイは幸運にも、テレビ局の人気番組でワイドショー的な「生活の虹」に出演させられ、女性の司会者から「カメラの向こうにホエイクがいると思って呼びかけなさい。テレビを見ているかもしれません」といわれ、テレビカメラを見つめます。
 おどおどきょろきょろしていたウェイの目から、映画の中で初めて、大粒の涙が流れます。それまでは口をへの字にして無表情でやり通してきたウェイが「3日間も探したの。早く帰ってきて。とても心配です」と涙声でいう顔が、大写しになります。

●浮浪児になりかけていたホエイクが、食べ物をめぐんでくれた店の主人の機転ですぐに見つかり、二人は、テレビ局のジープで村に帰ります。テレビを見て街じゅうから集まった、たくさんの学用品や募金といっしょに。ホエイクは、車の中で、「街は面白かった。でもひもじかった。饅頭をくれた親切を一生忘れない」とつぶやきます。
 山のように積まれた色とりどりのチョークの箱から、ウェイはきょうだけ、黒板に、好きな色のチョークで字を一つだけ書いてよいと許可します。みんなが一文字ずつ書き、小さな子は花の絵を描き、ホエイクの番になって、「三文字書きたい」と言います。それは「魏老師」。つまり「ウェイ先生」という文字を、しっかり書くのです。一月前にウェイが来たころ、絶対彼女を先生と認めなかったホエイクが。
 ウェイがにっこり笑って映画は終わりました。

●娘の話では、主人公だけがオーディションでえらばれ、あとは撮影場所の村の子どもたちがそのまま演じたそうです。ウェイと子どもたちとの間に次第に流れてくる、古きよき時代の日本にもあった教室の雰囲気・・。それが今の中国の各地にあるからこそできた映画なのでしょう。中国という国の国民が持つ、たくましい連帯感と、何にもくじけないエネルギー。圧倒的な子どもたちの生活力を感じさせられました。

●映画の最後のテロップで、「中国では今も100万人以上の子どもが学校を途中でやめていくが、その16%は、さまざまな人々の努力で学校に戻ってくる」とありました。

 

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