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2001年10月16日文教委での曽根議員の質問

「つくる会」教科書採択めぐり横山教育長と初の応酬
 10月16日の教育長に対して自由に質問できる「事務事業質疑」で、私は、教育委員の一人でもある横山教育長と、「つくる会」教科書の採択をめぐり、論争をかわしました。残念ながら教育長は本音を出さずじまいで、再び論争は続けざるを得ないと思います。
 以下、そのあらましを整理して紹介します。

◎曽根 8月7日決定された、都教委による養護学校の教科書の採択について質問する。
 知事も賛同者となっている「つくる会」の歴史や公民の教科書を何が何でも採択させようとする動きが強められたが、区市町村での結果は、全国も都内も選ばれなかった。県段階でも東京都と愛媛県だけ。
●しかし重大なのは、この間、教科書の採択のやり方自体が大きくゆがめられてしまったこと、そして都教委がわざわざ養護学校に「つくる会」教科書を選んだことだ。

●問い・知事や教育長はこの間、繰り返し、教科書はもっぱら教育委員会の権限と責任において選ぶよう、ことさら強調してきた。知事は都内の教育委員の集まりで「教科書は教員が選ぶんじゃない。皆さんが選ぶんだ」とまで述べている。
 しかし政府でさえ、87年の臨教審でも「学校・教員・保護者の意見がよく反映できるよう工夫する」と述べ、96年、97年、98年の規制緩和の計画でも「学校単位の採択の実現にむけて検討していく必要があるとの観点に立ち、当面の措置として教科書採択の調査研究により多くの教員の意向が反映されるよう」などと提起し、この学校ごとの採択をめざすという傾向は99年、2000年と一貫している。
 知事や教育長が「教育委員の権限と責任」ばかり強調したことは、これら一連の政府の方針とまったく矛盾するのではないか。

◎答弁 これまで都は特別区立学校の教科書を短期間に選ぶ必要から学校意見を聞いてきた。教科書採択に当たり、学校の意見を聞くことに法令上の根拠はない。
文部科学省からは、今年、特に教育委員の責任を重視する指導もあった。

◎曽根 教育委員の責任を重視するといっても、「学校や教員の意見を聞き、それを反映させるよう工夫すること」は、いっさい否定されていないはずだ。
●問い・ところが、都は今年養護学校に、教科書採択に当たっての意見紹介の文書を出したが、去年と違って(
cf.資料)、採択すべき教科書の意見を聞くのでなく、これまで使ってきた教科書の問題点を聞く形式だ。これは意味がまったく違うし、今使われていない扶桑社のような新しい会社の教科書については、意見が出せないことになる。
しかも文書を出してわずか6日で返事しろというのも、非常識だ。
 これは新しい教科書にどれを選ぶかの意見を聞いたことにはならないではないか。


◎答弁 今回は、選定審議会の意見を聞き、新たに都立もう・ろう・養護学校用教科書調査研究資料及び採択資料を作成し、採択した。審議会には84名もの教員等が調査員として入っており、現場の声は反映されている。

◎曽根 それではこの紹介文書は何だったのか。

◎答弁 紹介文書は、教科書採択の参考とするため、現在各学校で使用している教科書の実態調査を行ったものだ。

◎曽根 単なる実態調査であり、しかも新しく参入した会社の教科書には文句が言えない仕組みだ。
 また、養護学校向けには、選定審議会をつくったというが、そこで作成された「採択資料」をちゃんと尊重したといえるのか検証したい。
●「採択資料」では、各社教科書の比較で、図表を多くして見やすくするなど、一定のものさしで相対評価をしている。その評価順位で、扶桑社の歴史教科書は5位、公民は6位と下のランクだ。他の教科では、この評価順位が1位か2位の上位ランクの教科書が選ばれているが、中学の歴史と公民だけ順位が低い扶桑社を選んでいる。
●問い ゆいいつ現場の声が反映された選定審議会の評価順位を、中学の歴史や公民に限っては、あきらかに無視した選び方をしている。恣意的ではないか。これで現場の声を聞いたといえるのか。


◎答弁 資料の評価順位は参考に過ぎない。他にも資料はさまざま提出された。これらを参考にしながら最終的には教育委員会の権限と責任による独自の判断こそ最大の基準として、採択を決定したものだ。

◎曽根 教科書採択の手続きがいかに大きくゆがめられたかは明らかだ。
●まず政府さえ一貫して学校教員、保護者の意見の反映を是として来たものを、いきなり教育委員の権限と責任のみ強調する方向に切り替えた。
●次に学校への問い合わせは今の教科書への意見しか聞かず、扶桑社には批判が出てこないしくみに変えた。
●しかも専門家や教員が参加した選定審議会が、客観的な基準での各社の評価順位を示せば、他の学年や教科はこの評価基準の上位を選びながら、中学歴史と公民だけあえてこの基準で低いランクの扶桑社を選んだ。
 つまり中学の歴史と公民だけは、何があっても教育委員の判断で扶桑社のものが選ばれるよう、それ以外の意見は、すべて排除した格好だ。
●しかもその教科書を選んだ病弱養護がどういう実態なのか。先程紹介したように、小さい時から難病や慢性疾患をかかえ、体力がなく、長期休学になったり、学校でのいじめにあったり、実際には勉学が非常に遅れている場合が多く、しかも病気の種類や程度、家庭環境などで子供達の学力は千差万別だ。これは他の障害児についても同じことが言える。だからこそ養護学校は、学校ごとに3種類の教科書選択の道が保証されるなど、きめ細かく判断できるようになっている。
●問い 病弱養護はもちろん養護学校こそ、教科書採択は教員を初め、現場関係者の意見をもっとも尊重しなければならないところではないか。


◎答弁 都立もう・ろう・養護学校の教科書採択に当たっては、児童・生徒の実態を最もよく把握している各学校の校長・教員が調査員として教科書の調査研究資料を作成している。選定審議会にも校長・教員が委員として参加している。その資料を採択の上では参考にしてきた。

◎曽根 その審議会の調査資料の中で唯一、相対評価を行った星印の上位ランクの教科書を、中学歴史・公民だけ選ばなかった。その教科だけ、現場の声を無視して扶桑社が選ばれたからこそ問題なのだ。
 現場の子供の実態をいったいわかっているのかという怒りが沸き上がったのは当然だ。
 あるお母さんは、「自分たち障害者やその家族が一番ひどい非人間的な扱いを受けた、あの戦争を賛美している教科書をなぜ子供たちが押しつけられなければならないのか」と訴えている。
●問い 教育長は、教育委員の一人として、病弱養護にこの教科書が選ばれる上で大きな役割を果たした。教育長自身はどのような判断基準で、扶桑社の教科書を推薦したのか。

◎教育長答弁 これらはいずれも検定を合格している。それを踏まえつつも、都立盲・ろう・養護学校で使用する教科書の採択に当たっては、障害の視点だけでなく、教科書の内容について、併せて考えるべきである。
●新しい学習指導要領では、歴史的公民分野に「わが国の歴史に対する愛情を深め、国民としての自覚を育てる」などの新たな目標が入っている。こうした学習指導要領の目標を踏まえて検討することが大切である。
●病弱養護学校及び青鳥養護学校梅が丘分教室の生徒は、学習面においては基本的に、健常者と変わらない。今回の採択に当たっては、こうした児童・生徒の障害の実態を踏まえ、盲学校、ろう学校及び肢体不自由養護学校とそれ以外の病弱養護学校、青鳥養護学校梅が丘分校とは、異なる判断を行った。


◎曽根 教育長としての立場を逸脱し、2重、3重に誤った姿勢といわざるを得ない。
●第1に、先程紹介したとおり病弱養護の子供達が、どういう学力の状況か、どんな教材が必要か、一般の中学校とはまったく様すが違うということを理解していない。
●第2に、しかも、扶桑社の教科書が、新学習指導要領で言う「わが国の歴史に対する愛情を深め、国民としての自覚を育てる」などの新たな目標に添っているというが、そう言っている政府自身が、中国や韓国などアジア各国には、誤った国策による侵略で多大な犠牲を与えたとして、深く反省し、おわびするという見解を表明している。したがって、国の歴史を愛するということと、侵略戦争をアジアの解放だと言い、大東亜戦争と呼んで賛美する歴史への認識とは、政府においてさえ両立しない。
●第3に教育長は、教育委員であると同時に、教育行政に携わる公務員として憲法と教育基本法を順守する義務を負っている。教育基本法には、第10条で過去の日本の戦争政策が教育に及ぼした影響を深く自覚して、わざわざ政府による不当な支配に屈してはならないとまで書き込んでいる。この立場と、今回、教育長が「つくる会」教科書を推薦した姿勢とは絶対両立しない。
●問い 教育長はこの教科書採択を通じて、教育基本法を守ったと考えているのか。

◎教育長答弁 何か勘違いをしている。いずれも検定を通過した教科書であり、どれを選んだとしても教育基本法と抵触することはない。しかも教育委員会の採択に当たっては、審議会の検討資料はもちろん、そのほかさまざまな特徴を調べた資料を元に十分審議して選んだもので、なんら問題はない。

◎曽根 わが党は、この教科書は明らかに、戦後日本の民主主義や平和を築いてきた憲法、教育基本法などと相反するものであり、政府のアジア諸国への態度とも両立し得ないものとして、検定制度の是非は別として、合格を取り消すべき責任が政府にあると主張している。
●教育長こそ、自分なりの価値基準があったからこそ、検定合格した教科書の中から、歴史観も戦争観も他の出版社とまったく違った扶桑社を選んだはずだ。
 この教科書のどこが「わが国の歴史に対する愛情を深め、国民としての自覚を高める」ことになるのか、教育長なりの見解が聞けなかったのは残念だ。あらためて機会を見つけて、議論したい。
 いずれにせよ、圧倒的な国民世論もこの教科書を許さなかった。全国すべての区市町村、大多数の道府県教委の出した結論も、同じだったという重い事実をこそ受け止めるべきだ。

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