ジョミーは”恋”を知らない。
好き、嫌い、ではなく、もっと深いところにある感情を知らない。  
 
きっと単語として知っているぐらいだろう、その感情は自分の中に芽生えて初めて知る感情だ。
だからシャングリラにやって来て、”恋”をして、今まで知らなかった感情に翻弄されてしまったのだろう。
質問して、相談して調べて、少しでも疑問に思ったものをそのままにしておく事が出来ずに理解しようとする姿勢は、この先ジョミーを成長させていくはずだ。
そして次代のソルジャーとして、より知識を高め仲間を地球へと導く事に繋がっていくだろう。

 

そんなジョミーをブルーはいつも見守り、愛してきた。
この先、何があっても愛し続けるだろう。
「…だからって、この仕打ちは酷過ぎると想うんだが」
「酷い?何が酷いんですか?」 
雨に濡れた金色の子猫、もとい訓練が終わりシャワーでさっぱりしたらしいジョミーが首を傾げながらやって来た。
まだ濡れたままの髪の毛、寛げられた胸元に滴る水滴、いくら後継者だからといっても尊敬するブルーの目の前でするはずのない格好である。
だが、先日愛の告白をして以来、想いが伝わった事に安心したのか、両思いになれた事が嬉しいのかは分からないが、ブルーへの接し方が今までと変わってきた。
もちろんブルーへの敬意を忘れたわけではない、親しき仲にも礼儀あり、だ。
しかし、ブルーの本音としては念願の”恋人同士”になれたのだから、今まで以上にジョミーが心を開いてくれていると思うと無意識に笑みが浮かんでしまう。
自分の前で緊張などせず、リラックスしてくれる方が何倍もいい、恋人なのだから尚更。
だが、そのせいでブルーにさっそく試練が訪れていた。
この格好だけは困る、本当に困る。
濡れているせいか、ジョミーの髪の毛は普段の色よりも深い金色に見える。
しっとりと濡れている前髪から水滴がぽつり、ぽつりと落ち、そのまま頬を伝いながら、胸元へと吸い込まれるように流れた。
その水滴の行方をずっと見ていたブルーはジョミーに気付かれぬように、そっと短く溜息をつく。
今まで経験してきた危機よりも遥かに危険な状況に陥っている気がする、それも精神的な。
他意はないにしろ、その格好はどう見ても誘っているとしか思えない。
『誘っている』の意味を問うたとしても、最近まで『恋』を知らなかった少年はきっと『何処へ?誘ってないけど?』と言われるのが目に見えている。
ブルーのなけなしの理性を着実に破壊し続けている事をジョミーは知らない。
”恋人”という関係に成り立ってまだ一週間と少ししか経過していないのに、いきなり何もかもすっ飛ばして、最終段階の行為を出来るはずがない。 
キス、すらしていないのに。
昨夜の夕食で口元についていたトマトソースを舐め取ってあげた事が今のところ一番の恋人らしい行動かもしれない。
だがジョミーはその行動にさえ、真っ赤になり『恥かしいことしないで!』と抗議してきた。

(…あの時、どさくさに紛れてすれば良かった)

ブルーは耐えた、そしてこの先、もっと恥かしい事ついて自分が教えていかなくてはいけない事実に涙を耐えたのであったが…
 
「まぁ、1から教えてあげるわけだから、僕には有利だよね」

 

その言葉に、ジョミーは再び首を傾げた。