恋/好きで一緒にいたいと思う気持ち。 
 
今日でこの単語を調べるのは10回目だ。
何度調べても同じ結果しか出てこない、当たり前なのだが。
ジョミーはキーボードに置いたままだった指をそっとしたに下ろし、そのままくせっ毛のある髪の毛を掻いた。
「…やっぱり恋なんだ、勘違いじゃないんだ、僕の気の迷いじゃないんだ」
まるで言い聞かせて納得させるようにジョミーは一人呟く。
どうせこの時間帯には誰も来ない、来たときても調べ物をしに来た長老達の誰かだろう。万が一、この独り言が聞かれたとしても調べ物をしていた、と誤魔化せばいい。
アタラクシアにいた頃は、こんな気持ちは知らなかった。
好き、嫌い、では言い表せない気持ち。
両親や友人、シャングリラにいる仲間達はもちろん好きだ、でもそれは友情や親愛からくる気持ちで恋ではない。
今、ジョミーの中にある気持ちは好きで、好きで好きで、ずっと一緒にいたいと思う気持ちだ。
調べた内容が完全に当てはまっている、完全な恋だった。
最初は友情と親愛からくるものだと思い込んでいた。
でもある日、一秒でも離れてしまうのが不安に感じたり、一日会えないだけで寂しくなってしまったり、気付けばその人の事ばかり考えている自分がいたり、今までその人に抱いていた気持ちとは全く違う気持ちに襲われた。
これがなんという現象なのかジョミーにはさっぱり理解できず、調べようにもこれが何なのか分からない、だから一時保留、という結論に至ったのだ。

一時保留にした結果、この友情でも親愛でもない気持ちはジョミーの中でどんどん膨らみ、弾ける寸前にまで育っていた。
正直、その人を顔を合わせるのも嫌、語弊はあるが合わせにくくなっている事実もジョミーに困惑を与えた。
嫌いなわけじゃないの、むしろ会いたい人なのだが会ってしまったら気持ちが落ち着かず、そわそわしたり、会話しようにもしどろもどろになり相手に余計な心配ばかりかけている。
あの気持ちを一時保留にしてから全く上手くいかない。
普段の生活には一切支障はないのに、ただ、あの人の事だけ考えると可笑しくなってしまう。
このままではいけない!自分にとってもあの人にとっても。
そう決意するとジョミーはこの言い表せない気持ちとこの現象を解決するべく、行動を起こした。
今、この場所にはジョミーとリオしかいない。
レインもいるがジョミーの膝の上で心地良さそうに眠っているので数にはきっと入っていないだろう。
一通り話し終えて、この気持ちと現象は何?とリオに問いかけると、いつも以上に優しい笑顔と思念波でただ一言、こう告げた。
『それは間違いなく、恋、ですよ』
恋?これが?
この気持ちが恋というものなのか。 
「恋って…」
『貴方が今、私に話してくれたもの全てが当てはまっていますよ』
大丈夫、もっと理解出来るようになります、にっこりとリオが笑った顔が今も印象に残っている。
恋、だと指摘されてどうすればいいのか困惑した。
初めての事だから、初めて芽生えた感情だから、何をどうすればいいのか分からず、とりあえず調べて見た。
データベースに恋、と何度入力しても結果は同じで艦内の女の子にさり気なく恋って何だと思う?とまで聞いてみた。
今思うと相当恥かしい事を聞いた気がするが、本当に余裕がなかったのだ。

女の子から返ってきた答えは、一秒でも離れてしまうのが不安に感じたり、一日会えないだけで寂しくなってしまったり、気付けば好きな人の事ばかり考えている、というものでジョミーがずっと感じていたものと同じだった。
やっと気になっていたその人が好きな人で、この気持ちが恋なんだとはっきりと自覚する事が出来た。
僕は恋をしていたんだ。 
自覚して、もう一度、この単語を入力して同じ結果を見た9回目の夜。
その人がいる青の間へと駆け込んだ。
とても慌ててやって来たのに、まるでジョミーが来る事が分かっていたかのようにその人は落ち着いていた。
もしかするとその人はジョミーの気持ちに気付いていたのかも知れない、でもそれが恋だとジョミー自身が気付くまで待っていてくれたのかもしれない。
恋を知らなかったジョミーが告白の仕方を分かるはずもなく、とにかく気持ちを伝えたい一心で、一秒でも離れてしまうのが不安に感じたり、一日会えないのが寂しくなってしまったり、気付けば貴方の事ばかり考えています!と盛大に想いを伝えたのであった。
この盛大な告白をされた青の間の住人は、それはそれは嬉しそうに美しい笑顔を浮かべて、頷いてくれた。
そして冒頭に戻る。 

「…やっぱり恋なんだ、勘違いじゃないんだ、僕の気の迷いじゃないんだ」
「昨日、あれほど熱烈な告白をしてくれたのに気の迷いだと言うのはやめておくれ」

後ろを振り向くと、せっかく両思いになれたのに…と入り口でがっくり肩を落としているブルーを見つけた。