出雲学園祭・・・出雲学園において年に一度の大イベントなのは今更言うまでもない。
だが、今年は例年に無く盛り上がった。
そんな学園祭のこぼれ話をある男子生徒の視線からご覧頂こう。
一『メイド喫茶の怪』
「猛に拒否権は」
「あれへんよな〜。ほな行くで〜まずは評判の、メイド喫茶からや〜」
「どわああああああー!!だ、誰か助けてくれぇ〜!!」
朱雀と玄武の四聖獣極悪コンビに、半ば引き摺られる様に連行される俺。
まあ実際は連行なのだが、傍目から見れば美女二人と腕を組んでいると見られるらしく、周囲の視線が異常に険しい。
俺としては生きた心地がしないし、俺をからかっているとしか思えない二人はニコニコしている。
だが、それもメイド喫茶『ASH(アッシュ)』に入店しようとするまでだった。
「「!!!」」
意気揚々と入店した二人は一目見るなり、顔色を真っ青にして俺諸共回れ右をしようとする。
だが、それを
「ご主人様方どうされましたか?席なら空いておりますが」
表面礼儀正しい、内面冷たい怒りに満ちた声だけで引き止められた。
「え、え〜と・・・」
「じょ・・・徐福様・・・いたんですか・・・」
声の主=ヒミコに引き攣った愛想笑いを浮かべる朱雀と玄武。
「当然です。今は私の仕事時間なのですから。それと猛、申し訳ありません。この二人が迷惑をかけましたね」
「うわっ、ひどっ。徐福様、あたし達を疑っている訳?」
「当然です。大方嫌がる猛を無理やり連行したのでしょう?」
「うっ・・・す、鋭いな・・・徐福様・・・」
さすがヒミコ、全てお見通しと言う訳か・・・
「明日香さん、猛の応対をお願い出来ますか?私は此方の二人を応対しなければなりませんので」
「は〜い、さっ猛お兄ちゃんこっちだよ」
そういって俺には明日香ちゃんが、すっかり借りてきた猫状態の二人には冷たい怒りを秘めたヒミコが応対する。
「じゃあお兄ちゃんご注文は?」
「じゃあ・・・アイスティーで」
「ご主人様方はどうされますか?」
「ううう・・・」
「勘弁してぇ〜な・・・」
威圧感たっぷりのヒミコにますます萎縮する。
とてもご主人様を接待するメイドとは思えない。
「哀れではあるが自業自得か・・・」
「猛〜見てないで助けなさいよ!」
「タケぽん、徐福様宥めてくれやー」
「猛、此方には構わずゆっくり寛いでいてください」
「と言うか・・・あの空気の近くで寛げるかどうかは・・・」
「微妙だね」
現に今までいた客は一人残らずそそくさと出て行き、新たな客も入ってくる事はなかった。
メイド喫茶『ASH』。
今学園祭内で一番の売り上げを記憶したが、とある3人組が来店してから退店するまでの間だけ、ここには人っ子一人寄り付かなかったという事はあまり知られていない・・・
二『出雲学園ゲーマーNOT決定戦』
『おおーーーーっ!!』
俺の周囲のギャラリーが一斉に歓声を上げる。
電算部主催のシューティングゲーム大会にわずかな合間を縫って出場している。
(と言うか電算部の連中が北河に直談判して、この時間帯を空けてもらったと言った方が良い)
と言うのも俺が試作段階からプレイしていたとは言え、ハードモードからエクストラステージまでクリヤした事に、電算部の勝負魂に火がつき文化祭数日前から徹夜で創り上げた、完全新作のプロトタイプを作り上げ、それを使ったゲーム大会を開き、まずは完全攻略した俺にプレイさせている訳だ。
確かに気合を入れただけあり、難易度も恐ろしく高く、苦戦に苦戦を強いられ、残機数0にまで追い詰められたが、どうにか此方も完全攻略に成功した。
「ふぃ〜やばかったぁ〜」
手をぶらぶらさせながら席を立つ。
とそこに
「それではこのチャンプ、八岐猛に挑戦しようという方はおりますか?」
なんかとんでもない事を言っている。
「おいそれはどういう意味だ?」
俺は電算部の連中に問い質す。
「大丈夫大丈夫、学生会長には話し通しているから・・・」
違う、そう言う問題じゃない。
そうこういっている間にも俺は即席で作られた玉座(実際には何時も使っている椅子にごてごてと色んなものを貼り付けているだけ)に強引に座らせる。
見ればかなりの人間が既にゲームを開始しようとしている。
その中には
「行くぞ猛。尋常に勝負だ」
「ああやっぱりいたか白虎・・・」
「ふっふっふ・・・猛覚悟して置けよー。俺が直ぐにお前をその玉座から引き摺り下ろしてやるからなー」
「ってお前も来てるのかよ!鈴木!!」
て言うかこいつ、今当番じゃなかったのか!
「ふっ、猛この俺の前に這い蹲るがいい」
「って、何でお前までここにいる?ニニギ!!」
「ああ、それか、お前の姿が見えんから鈴木に聞いた所、ここでいい気になっていると聞いてな、その天狗になった鼻を鈴木共々へし折ってやろうと考えて、ここに来たという訳だ」
いや、何が“と言う訳”なのか意味わからないし。
「て言うかお前ら今当番じゃないのか?」
「そんな事」
「些細な問題だ」
息合ってるよな・・・こいつら。
「ルールは簡単。皆さんにはチャンプと同じ難易度でプレイして頂きます。そして全機撃墜された時点でゲームオーバー、そして全面クリヤされた方でスコアを競い合ってもらいチャンプよりハイスコアの方がいればその方が新チャンプとなります・・・では行きます・・・スタート!!」
「で、結局どうなったのよ猛?」
「あいつらの様子見たら判るだろ?」
芹の質問を受けて、俺の向けた視線の先には・・・
「くううう・・・」
「くそっ何故だ?何故猛ごときにたかがゲームで負けるんだ!」
アホみたいに落ち込んでいる鈴木とニニギがいた。
ちなみに四聖獣青龍の仮の住まいでは、
「あら?朱雀、白虎どうしたの?なんか自棄になったみたいにコンピューターにかじりついているけど」
「ああ青龍、そっとしときや」
「そうそう、なんか猛にゲームで負けて、憂さを晴らしているだけらしいから」
と言う会話があったとか無かったとか・・・
三『賭博神(ゴットギャンブラー)の独壇場』
(注、この話はTG版『IZUMO雀』をプレイしておりますとより一層面白くご覧頂けます)
賭博神(ゴットギャンブラー)・・・なにやらすごい異名であるが出雲学園においては、ある女子生徒を影で称える言葉でもある。
その女子生徒とは・・・
とある教室の一室、そこでは学園祭の模擬店としてはとんでもないものが出されていた。
ずばり雀荘である。
『麻雀は頭脳ゲームだ』とのたまった生徒の声を受けて一年前に有志が設立した『麻雀同好会』の模擬店だ。
模擬店となれば代金を取る所だが、さすがに問題があるらしくお代はただ、誰でも四人でも二人でも打てる。
現に教室に用意された雀宅も全て埋まりそれぞれで麻雀を興じている。
「すみませんロンです」
と、そんな雀卓には相応しくないお淑やかな声が勝負の終わりを告げた。
それと同時に相手の三人は卓に突っ伏したりうめき声を上げて天を仰いでいた。
「ふう・・・あ、あの・・・もう良いでしょうか?」
だが、それを遮る様に周りのギャラリーから勝負を申し込む声がする。
「はあ・・・」
「やるな琴乃」
「えっ!た、猛さん!」
俺の声に振り向いた琴乃は顔を真っ赤にしている。
「も、もしかして見てました?」
「ああ最初から。これで五連勝なんだろ?」
「はううう・・・」
一見すると、この様な賭け事に全く向いていない琴乃だが、実は博打事に関して言えば、俺の知る限り、爺ちゃんを除けば、琴乃の右に出る者はいない。
何しろ引きが強い。
いや、強いなんてもんじゃない。
神がかったが如くの勢いで、思い通りの札や、牌を引き当てる。
ポーカーに代表されるカードゲームをやらせれば高確率で役を作り上げ、ルーレットをやらせれば、ほとんどが当りとなる。
そして相手が捨てた牌は、かなりの数が、琴乃の上がりの為の供物となる。
「さすがは賭博神(ゴットギャンブラー)」
「それ止めて下さい猛さん」
琴乃は恥ずかしがっているが、これはまんざらでもないと言う恥ずかしさではなく、本気で嫌がっている恥じらいだ。
「だけど、実際この学園内じゃ敵なしだろ?」
「はうう・・・」
とそこへ
「おりょ猛に琴乃ちゃん」
偶然通りかかった汀が顔を出す。
「何やってるの?こんな所で」
「琴乃の麻雀連勝記憶の見届け」
「た、猛さん〜」
「へえ、琴乃ちゃん麻雀強いの?」
「強いなんてもんじゃない。マジで神がかりだ」
「そうなんだ・・・」
その時汀の眼がきらりと光るのを、俺は見逃さなかった。
「ねえ琴乃ちゃんボクと勝負しない?」
「ええっ!!」
「ボクも勝負事にはうるさい方なんだ。どうかな琴乃ちゃん?」
「ううう・・・」
見れば周囲には大量のギャラリーが集まっている。
「あううう・・・では一勝負だけ・・・」
「そう来なくちゃ」
そう言って琴乃と汀は席に着いた。
これが出雲学園に名を残す麻雀対決の始まりだった。
数十分後、ギャラリーがぞろぞろと出てくる。
どの顔にもなんとも言えない満足感が漂っている。
「すごかったよな・・・」
「さすが賭博神」
「でも相手の子もすごかったよな」
「ああ、あの賭博神を後一歩の所まで、追い詰めたんだぜ」
口々に先程の熱戦を称えていた。
一方称えられている方はと言えば
「いやあ琴乃ちゃん強かったね〜最後は牌の引きに負けちゃったよ」
汀は負けて悔いなしと言った風に満面の笑みを浮かべ、一方の琴乃はと言えば。
「出来れば私は負けたかったです・・・」
ひたすら落ち込んでいた。
だが、実際は本当にすごい勝負だった。
琴乃がツモを取れば、汀もロンを取り返す、まさに一進一退の攻防を繰り広げ、得点差も互角のまま、最終局にまでもつれ込み、双方ともリーチを出したが、汀も言っていた様に、最後の引きで琴乃に勝利の女神が微笑んだ。
それ以来、琴乃の『賭博神(ゴットギャンブラー)』の名声(本人にとっては悪名)は一層高まり、その琴乃と互角の勝負を演じた汀には『賭博皇帝(ギャンブルエンペラー)』の称号が与えられる事になったが・・・それはまた後の話である。
四『秘密の模擬店』
「おや?何だコリャ?」
自由時間俺は妙な教室を見つけた。
たしか、この教室は何の模擬店をやっていなかった筈。
にも拘らず、そこには多数の生徒や外来の客が矢継ぎ早に入っていく。
しかも全員が男だった。
興味に誘われて俺も入ってみる。
すると、
「よう猛お前も来たのか?」
「鈴木、お前こりゃなんだ?」
俺が呆れ気味に言うのも当然。
そこにはうちのクラスの出し物『出張北河神社』での女子の巫女装束姿や、サクヤの所のメイド喫茶『ASH』でのメイド姿を納めた写真等が所狭しと並んでいた。
無論だが、全て被写体は女子だった。
「これか?今年は写真に収めがいのあるシュチエーションが揃っているじゃないか。それで、有志一同が写真を売ってみたらどうかなと思ったら、この通り大繁盛だ」
「そんな理由で、完全に潜りの模擬店を出してるのかよ・・・おい、何と言うか、アングルがやばいものもあるぞ」
「まあな、ばれない様に慎重に慎重を重ねてとった物ばかりだからな」
「完全な盗撮だろ!!」
呆れるが、ここまで徹底していればむしろ見事と言う他ない。
「あ、ちなみにサクヤちゃんの写真はさっき全部買い占められたから」
「ああ、ニニギか」
「げげっ何で判るんだ?」
「判るに決まっているだろ」
そんな特定個人だけの写真を全て買い占めるなど、この学園には一人しかいない。
「あれっ?猛何か買っていかないのか?」
「金もないし、そんなもの持っているのを芹や琴乃にばれたら、多分命が無い」
全員の冷たい視線だけならまだしも、全員の奥義を確実に食らう羽目になるだろう。
「まあそうだよな」
「鈴木お前も捕まるなよ」
そう言って俺は極秘写真模擬店を後にした。
ちなみに、この鈴木発案のの写真模擬店はと言えば、その時は直ぐばれると思ったのだが、恐ろしい事に学園祭期間中、女子にばれる事無く乗り切った。
後日聞いた所、学生会の役員(勿論男子)に写真を賄賂代わりに贈り、色々便宜を図ってもらったらしい・・・
ちなみに・・・
実はこの話、猛本人が知らない裏の事情が存在する。
猛が後にしてから五分後、一人の女子生徒が反対側のドアからこの模擬店に入っていった。
その室内は・・・先程とは打って変わって男子生徒の写真が当たり一面に用意されていた。
そう・・・反対側が女子のそういった写真を販売するのに対して、此方では女子(どちらかと言えば腐女子)向けに男子の写真を売っていた。
「いらっしゃい・・・って芹ちゃんか」
応対に出た鈴木に女子生徒・・・芹は開口一番で、
「猛の写真ある?」
「ああ、あるぜ・・・って言うかここに来る客のほとんどは、猛の写真を買ってくんだよな・・・ったく何で猛の奴だけが」
ぶつくさ言いながら、取り出したのは完全に無防備で学生服から、『出張北河神社』用の服装に着替える猛の写真。
「へえ?今まで誰が買ってきたの?」
「ああ猛のは琴乃ちゃん、明日香ちゃん、サクヤちゃんが大量に、それとヒミコちゃんと汀ちゃんが大斗の写真を競うように全部買っていった」
「あ〜なるほどね・・・そういえば北河さんは来ていないの?」
「ああ、北河は来る必要ないから」
「必要ない?」
「ああ、北河に極秘で許可をもらった時の条件は猛の写真を全て最優先で渡すって事だから」
「あははは・・・北河さんも特権行使しているわね」
特権と言うより乱用に限りなく近いが、普段の彼女を知る者から見ればそれは笑い話だった。
「て言うか俺が言うのもなんだ・・・大丈夫か?うちの生徒会?」
この歩くガセネタに心配されれば、おしまいであるだろうが・・・
さて、話も尽きぬでしょうが、これでひとまず打ち切りとさせて頂きましょう。
まだまだ、話もあるのでそれを皆さんで探されるのも一興ですので。
後書き
久しぶりにエゴ関連の作品を書かせて頂きました。
本来でしたらもう少し早く書きたかったのですが、構想が煮詰まり、ここまで遅れてしまいした。
長編も書ければ良いんですけど、横の繋がりがどんどん増えますからエゴの作品群は(笑)
ちなみにキャラの性格が少しぶっ飛んでるかもしれませんが、ギャグと言う事で眼を瞑ってやってください