少し時間は戻る。

志貴と鳳明が脱出した直後、食堂では喧嘩が始まっていた。

事の発端は酔った紅葉が秋葉に向かって言った言葉であった。

「でも、あの志貴と言ったかしら、確かに鳳明殿と同じ能力を持っているみたいだけど、なんか軟弱なのよね」

その言葉に秋葉がカチンと来たのだ。

「ちょっと、あなた今の台詞はどういう意味?」

「言葉のままだけど」

「確かに、志貴殿ですか・・・正直申し上げるとあそこまで柔弱な空気を持っていますと・・・」

「それは志貴様の表面しか知らない方の意見です。志貴様はいざとなれば、どの様な方よりも強い意志を持っております」

「そうです。志貴さんは貴女方が思っている以上に強い人です」

「それにこちらから言わせてもらえば鳳明と言う方、あの人ははっきり言って冷たいですね。遠野君の様な暖かさは微塵もないように見えますが」

「!!・・・お言葉ですが、貴女こそ鳳明様の良さを何もご理解していらっしゃらないと思いますが」

「そうです。鳳明さんは常に暗殺者として生きてこられた方です。確かに表面は無表情で過ごしてますが、いつもはお優しい方でいらっしゃいます」

「でもさ〜なんか冷酷非常ってイメージあるんだよねー」

「黙れ、この能天気真祖。ホウメイの事を何も知らぬお主達にホウメイの事を語る資格は無い」

「なによ!!じゃあ、あんた達だって、志貴の事を軟弱だのと言う資格は無いじゃないの!!」

どんどんと戦火は拡大していき、紅葉のきっかけとなった言葉からわずか五分後にはテーブルを挟んで睨み合いとなってしまった。

「あらあら、すごい事になったわね。レンちゃんこっちに来なさい。そんな所にいると巻き添え食っちゃうわよ」

「・・・・・・(こくん)」

そしてそんな言葉を打ち消すように双方から大声が上がった。

「志貴!!そんな冷血男から離れなさいよ!!」

「ホウメイ!!その軟弱男から離れよ!!」

しかしそこには誰もいない。

「あれ?遠野君は」

「七夜殿もいない」

「ああ、志貴と鳳明だったらお姫様達が喧嘩始める直前に出て行ったわよ」

「ええー!!」

「なんで、教えてくれなかったのよ!!」

「二人共、邪魔が入りたくなかったような雰因気があったから。それに、お姫様達の喧嘩見物の方が面白そうだったから」

「全く兄さんは、何を話しているのかしら?」

「じゃあせっかくですから秋葉様、聞いて見ますか?」

「姉さん、どう言う事?」

「これです」

と言うと、琥珀は部屋の隅にあった大きなスピーカーを中央に持ってくると、本体と思われる機械に繋げスイッチを色々と弄っていると、『・・・それだけか?』『あっ、後もう少し・・・』と雑音が少し入ってきているが志貴と鳳明の会話が聞こえてきた。

「琥珀!?これって・・・」

「はい、この別荘全域に隠しマイクがセットされているんです。運良く志貴さん達の会話をしている所がマイクに近い為かよく聞こえますよー」

「すごいわね。ここまで策士だと別の意味で敵に回したくないわね」

率直に出たアルクェイドの台詞にシエル・秋葉・翡翠同時に頷いた。

セルトシェーレ達は、これは何なのかとばかりにスピーカーをポンポン叩いたりもしている。

「それにしても遠野君ずいぶんと重い話題ばかり振っていますね」

「もうー志貴って、なんで私に相談してくれないんだろう」

「おそらく同じ血を受けているからこそ相談できる事なんでしょう」

次々と出される志貴の質問と、それに言葉を聞く限り真剣に受ける鳳明。

そんな会話にアルクェイド達は不満たらたらの表情で聞いている。

セルトシェーレ達はアルクェイド達ほど、不満は無いが複雑な表情で聞いている。

アルクェイド達は『どうして私たちに相談しないのよ!!』と言う台詞を叫びたい心境だったし、セルトシェーレ達は『そこまで真剣に受けなくても・・・』と言うのが正直な感想だった。

「これってどう考えてもプライバシーの侵害よね」

「はい・・・」

暫くすると、

『・・・これで話しは終わりか?』

『最後に一つだけ・・・』

「これで終わるみたいね」

「兄さん戻ってきたらお説教ですよ」

『鳳明さんは・・・この後どうなさるのですか?』

『どうするも何も、完了の報告をした後、この職を辞すさ』

「えっ?!」

『そしてその後は七夜の森に戻り法正に当主の権限を譲る。後はまあ、のんびり暮らすさ』

『・・・戻るのですか?』

『ああ。あそこは俺の故郷だからな』

『殺される事も判っていてもですか?』

「!!!」

思わぬ志貴の台詞に全員が絶句した。

『・・・知っているのか?』

『はい・・・』

『確かに俺が今森に戻れば一族は、俺を殺そうとするだろうな・・・だがこれは、七夜が生き残る為の非情の策だ。止むを得んと言えば止むを得ん』

『そんなの間違っていますよ。それ以前に鳳明さん、あなたの体が持たないでしょう』

「ええっ!!」

翠と珀の絶叫が木霊した。

『・・・大丈夫だ。翠と珀が自らの純潔を奉げてまでくれた生命力だ。そう簡単には無くならん』

『・・・無理だってわかっているでしょう、鳳明さん。俺とあなたの魂は繋がっているのですよ。あなたの考えている事は知ろうと思えば判るのですよ。もう・・・鳳明さんの命は・・・』

『・・・・・・』

『・・・・・・』

奇妙な間が流れた後、鳳明は諦めたような口調で会話を続ける。

『そうか・・・そこまで・・・悪かった志貴。お前の言う通りだ。俺は後、一月持てば良い方・・・いや間違いなく、俺の寿命は一月を切った』

『先程の戦いですね』

『ああ、もともと物の死は、人では見ることは不可能なもの、それゆえに体に強い負担を掛ける。殊に俺の場合は瞬き程の時間を使っても危険な程だからな。それを、あれほどの長時間使ったんだ。影響も強く出るだろうな・・・だが、それを言うなら志貴、お前もそう長くは無いだろう』

『ええ・・・ただ俺の場合はいつ死ぬのかすらも判らないのです。・・・わかる事はこの体は何時死んでもおかしくない程ぼろぼろだと言う事です。ですから十年後に死ぬかもしれないし、半年後には墓の中かもしれない。いや、明日、死んでいても一向に不思議は無いんですから』

その言葉を聞いた途端、

「志貴ぃーー!!」

この絶叫を残しアルクェイドが飛び出していた。

そして、それを皮切りに一人を除いて外に飛び出していた。

「志貴、頑張りなさいよ。まだまだ君を、必要としている人は確かに存在するんだから」

この呟きを聞く者は、誰一人として存在しなかった。






俺と鳳明さんの話しは互いの寿命の事に及ぶと暫く無言になった。

「ああ、そうだ志貴・・・」

鳳明さんが何かを思い出したかのように、何かを言おうとした時だった。

「志貴ぃーーーーー!!!」

突然アルクェイドが俺に圧し掛かって来たかと思うと、その眼を金色にして俺に迫ってきた。

「どう言う事よ!!!志貴!!」

「な、何がだ?」

「とぼけないでよ!!志貴がもう直ぐ死ぬってどう言う事なのよ!!」

「!!!お、おい!なんでそれを・・・」

「そんなのどうだって良いでしょう!!志貴が死ぬって事の方がよほど重要じゃないの!!」

まずい、あの真祖、我を忘れているようだ、知らず知らずの内に志貴の首を絞めている。

「落ち着かれよ!!」

鳳明さんがそう叫んだ様だったが、直ぐに翠さんと珀さんが飛び出してきた様だった。

「鳳明様!!」

「鳳明さん!!」

「!!翠・珀!お前達・・・」

「鳳明様!!教えて下さい!鳳明様は本当に後僅かの寿命なのですか!!」

「鳳明さん!!!どうして私たちに何も言って下さらないのですか!!!」

「左様です!!七夜殿!」

「私達の仲はそんなに浅いものだったのですか!!」

「ホウメイ・・・全て喋って貰うぞ・・・」

そうこうしている間に、他のメンバーまで来たようだ・・・や、やばい・・・アルクェイドの奴本気で首を絞めていやがる・・・これじゃあ死ぬ・・・

「遠野君!!!さあ、話してもらいますよ!!!」

「兄さん!黙っていないで何か言ったらどうなの!!!」

「志貴様・・・いやです私・・・志貴様が死ぬなんて・・・」

「志貴さん・・・お話の内容如何では一緒に逝く事になりますよ〜」

「・・・志貴さま・・・」

言いたくても何も言えない・・・ま、まず過ぎる・・・意識・・・が・・・朦朧と・・・

「いい加減にしろ!!!お前ら!!!志貴を自分の手で殺す気か!!!」

「「「「「「!!!!」」」」」」

俺がようやく翠達の輪から抜け出し、アルクェイドを引っ叩く形でようやく離した時には、志貴は呼吸が停止する寸前だった。

「死去寸前か・・・お前達少し離れろ・・・そして頭を冷やせ」

「!!な、何よその言い方!!」

「確かに重要な話をしなかった俺達にも非があるが・・・なぜお前達に話さなかったのか、その事を良く考えろ!」

「「「「「「・・・」」」」」」

「鳳明様・・・」

「お前達もだ、志貴が回復したらお前たちにも話す」

俺の一喝で全員離れると、俺は即座に志貴の鳩尾辺りに、衝撃を加えると、

「・・・げっ・・・げほっ!!!げほ・・・げほっ!」

「志貴無事か?」

「・・・はあ・・・はあ・・・鳳明さん・・・ここは」

「あの世じゃあないぞ。参考までに」

「そうですか・・・しかし・・・あそこまで皆が暴走するなんて・・・」

「まあ、それほどお前を失いたくないと、言う意思の現われだろう。とりあえず残りの話はあいつ等とするとしよう」

「そう・・・はあ・・・でずね・・・はあ・・・はあ・・・このまま・・・ふう・・・はあ・・・また・・・暴れそうですから・・・ぜえ・・・ぜえ・・・」

やはり先程意識を失うほど首を絞められただけに、まだ呼吸も荒い。

とりあえず、俺達は全員の所に戻る。

すると、早速

「志貴!!」

「遠野君!!」

「兄さん!!」

「志貴様・・・」

「志貴さん」

「志貴さま」

と、志貴側の六人が志貴に詰め寄ってきた。

更に鳳明さんの方も五人がアルクェイド達と同じ様に鳳明さんに詰め寄ってきた。

俺は鳳明さんと視線を合わせた。

(話すしかあるまい・・・)

(はい・・・)






結局、この話で一時間以上掛けて全員に話す結果となってしまった。

「志貴それなら」

「アルクェイド悪いが俺は死徒になる気は無いからな」

「その通りですよ遠野君、それなら私が・・・」

「先輩、貴女は引っ込んでいて下さい。兄さんの事は私が責任を持って」

「言っておくが秋葉、『共有』はもう受けないからな、あれは危険すぎる・・・とりあえず皆少し黙っていてくれ」

そういって俺は皆を黙らせると、俺は改めて鳳明さんと向き合った。

「それよりも鳳明さん、先程何か言いかけていましたけど何を?」

「ああそうだったな、志貴お前の寿命の事だ」

全員が息を呑んだ。

「何ですか?俺の寿命がなにか?」

「ああ、志貴、お前の寿命は普通の人に比べたら短いかも知れぬが、俺に比べたら恐らく長い」

「えっ?」

「・・・お前は俺がこの眼を完全に制していると思っているようだが、それは違うぞ。この眼は例え力を封じていてもこいつの呪いはゆっくりとだが体を蝕んでいく。それが蓄積した結果、俺の命はここまで短くなった。しかし志貴お前は違う。お前の場合その呪いを完全では無いが最小限に封じている。・・・恐らくその眼鏡の力だろうな」

「この眼鏡?」

「ああ、そいつにはすざましい妖封じの力がある。恐らくお前、普段はそれを使う事によって力を最小限に防いでいるのだろう?」

「はい」

「それによって呪いすらも最小限に押さえ込んでいる・・・このまま、その力の使用を最小限に抑えれば、多分俺の倍は生きられるだろう」

「この眼鏡が・・・」

「「ブルーが・・・」」

「「「あの人が・・・」」」

そう呟き、俺は改めて先生に感謝していた。

先生は俺にあの時自分の意味を教えてくれただけでなく、俺の命すらも救ってくれていたのか・・・

「ああ、俺はもう駄目だろうが、お前はもう少し人生を楽しめれる。もう少し楽しんでいけ」

「ですが鳳明さん、翠や珀の感応を使えばもう少しは・・・」

「嫌、あいつらの感応はもう受けないと決めたんだ」

そう言った途端、

「どうしてですか!!鳳明様」

「鳳明さん・・・私達のこと嫌いですか!!」

そういって今まで黙っていた翠と珀が絶叫していた。

「鳳明さん、何故翠と珀の感応を受けないと・・・」

「そうです!!お願いです鳳明様・・・私達の為に生きて・・・」

「・・・志貴、この魔眼の呪いは想像を絶している」

鳳明さんは全く関係ない話をしだした。

「こいつは、所持者の生命だけでは無い。この眼の力で完全に抹殺された生命力をも奪い取り自らの力とする。巫浄の感応は交わる事で相手に自らの生命力を与える・・・わかるか?俺の言いたい事が」

「まさか・・・その呪いは感応ですらも・・・」

「そうだ。こいつは無尽蔵にかつ手段を選ばず、生命力を欲している。まさに死神の如くな・・・現に俺は翠と珀の感応を受けた際も途中からは自分の意思で力を受けるのを拒否した。そうでもしなければ俺は多分翠と珀を・・・殺していた」

「そ、そこまで・・・」

俺は思わず絶句した。

「翠・珀、判っただろう。俺はもはや存在自体が死そのものなんだ。これ以上俺と結ばれれば、お前達は確実に死ぬ。だから俺はお前達の感応を拒否した。お前達が大事だからこそ・・・・」

「鳳明様?」

「鳳明さん」

「うっ・・・ぐっ・・・ううう・・・」

「鳳明さん??・・・!!!ま、まさか・・・」

そこまで言った時鳳明さんが急に口をつぐみ、顔面を蒼白にさせ、俺は何が起こるのかはっきりと悟った。

「!!琥珀さん!!直ぐにありったけのバケツに水を汲んでここに持ってきて!!!他の皆もそれを手伝って!!!」

「ええ??」

「いいから!!早く!!!それと翡翠!蛇口にホースでもつけてこっちに持ってきて!!」

俺の荒げた声に皆何事かと目を見開いたが直ぐにそれぞれ、散って行った。

そして・・・

「・・・げぼっ!!」

発作を伝える吐血が始まった。

「ごほっ!!ぐふっ!!ごぼ!!」

だがいつもなら、勢いが収まるはずだが全く勢いが落ちない。

それどころか・・・いつの間にか俺の周辺は黒き血だまりが出来ていた。

周囲から翠のものと思われる悲鳴が聞こえた様な気がした。

だがそんな事も気にしていられなった。

志貴が持ってきたのだろうか、大きな青い器に水を注いで俺の前に置かれた。

俺はそれをなんの躊躇い無く口をつける。あっと言う間に俺はその水を全て飲み干し、同じ位の量の血を吐いていた。

俺は次々と皆の持ってきたその器の水を飲み干しその度に血を吐き続ける。

すると今度は妙に細長い棒のような物を志貴が俺に向けている。

そこから唐突に水が奔流のように噴き出し俺の体を容赦なく叩く。

俺は恥も外聞も無く、その水を飲み下しては血を吐く。

それをいくら続けたのだろうか・・・やがて、地獄に等しい吐血がようやく終わり、

「・・・げほっ!げほっ!志貴・・・もういい、・・・済まんな」

俺は血だまりからふらふらと離れると、木にもたれかかる様にへたり込んでいた。

「・・・これは酷いわ、全身の臓器が衰弱しきっている。正直言ってもう手の施しようが無い。健康なのは筋肉と骨格だけよ・・・」

その言葉にはっとした俺が隣を見ると先生が鳳明さんの身体に手を当てそんな事を言っていた。

「そ、そんなに弱っているのですか!!」

「ええ、今日まで生きていたのが不思議なくらい。普通ならとっくの昔に墓場行きの体よこれ」

俺の周囲でそんな声が聞こえる。

少し体を休めているとようやくだるさも抜け、普通に立てるくらいに回復していた。

「さて・・・志貴本当に世話になったな・・・そろそろ戻ろうと思う・・・」

「えっ!!そ、そんな、あれだけ血を吐いた後だというのに・・・」

「俺にはまだ仕事が残っているが、もう時間はそんなに無い」

「・・・」

「七夜殿・・・」

「それに俺が死ねば、まず間違いなく志貴お前に影響がでる・・・俺の本意では無いからな」

「で、ですが」

「何よりも俺としてはやはり、俺の時代で死にたい。例え殺されるかもしれなくても七夜の森で・・・」

「・・・・・・」

俺には何も言えなかった。

いや、何も言ってはいけなかった。

それほど鳳明さんの口調や表情には決意と覚悟が色濃く浮かんでいた。

これは俺が、口出し出来る問題では無いのだという事も、嫌と言うほど悟っていた。

俺に出来る事、それはせめて・・・

「ではせめて、見送らせてください」

「それに関しては頼む」

そう言って微笑むと俺は鳳明さんの肩を再び担ぎ、あの沼に向かっていた。

「あっ、ち、ちょっと志貴〜待ってよー」

「私達も行きます〜」

後ろから皆の声が聞こえてきた。





あの沼に着くとタイムホールはいまだ、その黒い空間をポッカリと開けている。

俺は紫晃さんに鳳明さんを預けると、アルクェイド達と別れの挨拶をしていた。

まあ、もっとも挨拶は主に俺と志貴だけだが。

「じゃあな志貴、俺とお前が会うとしたらそれはあの世かお互い魂が転生した時ぐらいだろうな」

「輪廻転生ですか?」

「ああ、俺の業は深いからな多分二・三十回は転生して贖罪をするだろうしな・・・そうだ、志貴こいつを」

「えっ?これは『凶薙』!!・・・」

「ああ、こいつを持っていて欲しい」

「ですがこれはどちらか、一本でも欠ければ・・・」

「だからこそお前が持つべきなんだ」

「えっ?」

「多分お前の時代に『凶薙』は存在していない。そうじゃないのか?」

「そ、それは・・・」

そう、確かに俺の時代『凶薙』は存在していない。

『凶断』の記憶では、およそ一千年前里から持ち出され、それ以来行方不明となっていた。

さらにその時『凶薙』の存在すらも『凶断』は感じなくなっていた。

「たぶん『凶薙』は時を超え、俺からお前に渡されたのだろう・・・俺の時代の『凶断』は寂しい思いをするかも知れんが、俺がこいつを持っていけばお前の時代の『凶断』は永遠に一本だけになってしまう。そして何よりも・・・お前にはきっとこの先、魔眼と『凶断』・『凶薙』が必要になるに違いない。志貴・・・持っていってくれ・・・」

「・・・はい・・・」

俺は『凶薙』を静かに受け取った。

それを見た鳳明さんは頷くと、

「じゃあ志貴、名残惜しいがこれでお別れだ。お前はお前の信じた道を行け。そしてお前には大切な奴がいる事も忘れるな。その心がお前を七夜から『凶夜』に変える事を防ぐ。さらばだ」

「はいありが・・・」

その言葉を言い終わる前にタイムホールは静かに萎み、そして消え後には普通の沼の光景が残されていた。

まるであれが夢だったかの様に・・・

しかし俺の手にはそれが夢ではなかった事を証明する様に『凶薙』が残されていた。






後書き

   今回の七話は六話の後書きでも書きましたが、この物語の最大の山場です。

   六話の方が山場じゃあないのか?

   そう感じる方もいるかもしれませんが、この話はあくまでも志貴と鳳明、二人の『直死の魔眼』の持ち主の話ですので・・・

   今回この二人の死を見る眼を持った苦悩、思い、そう言ったものが出ていれば幸いかと思います。

   次回はこの物語の終焉を告げる終章です。

   こちらは主に鳳明が主軸となり最期の物語を語っていく事になります。

   そして、何故鳳明が『凶夜録』にその最期が記されていなかったのか?

   その理由も明らかになります。

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