これはほんの僅かなずれが生み出した経緯も結末も、何もかもが変貌した戦争の物語・・・









ドイツ、アインツベルン城、

二十世紀も終わりに近い中未だに中世の空気を漂わせた広大な城の廊下。

窓からは月はおろか星の光もさす事は無い。

代わりに外からは風が城を叩き、窓を揺らす。

外はおそらく吹雪いているのだろう、あらゆる場所から極寒の寒気が忍び寄り熱を、温もりを、何もかも奪い去ろうと蠢く。

そんな廊下を一人の男が歩いていた。

王侯貴族の衣装を着た人物が歩くに相応しい、その廊下を歩くのはそれとは程遠いくたびれたロングコート、よれよれのスーツに無精ひげを生やした一人の男。

名を衛宮切嗣、アインツベルンが婿と言う形で自らの陣営に引き込んだ『魔術師殺し』の悪名を轟かせる対魔術師戦に特化した男。

そして、間もなく開戦されるであろう聖杯戦争でのアインツベルンのマスターとなる男。

既に彼の手には参加資格である聖痕が刻まれている。

そしてアインツベルンは切嗣が・・・正確に言えば自分達が聖杯を手にする為、最大級の援護を用意する・・・筈だった。

長い廊下を歩き目的の一室に入る。

ドアを開けると全身を包むように暖気が冷え切った身体を優しく温める。

暖炉には既に炎が燃え盛り外の寒気から部屋を守る。

そして、その部屋には腰まで届くだろう銀の髪に赤い眼の美女がいた。

絶世のと言う枕詞がついても可笑しくないほどの美貌、それでいて備わった気品は王侯のそれに等しくしかしどこか慈愛に満ち溢れている。

彼女の名はアイリスフィール・フォン・アインツベルン。

その美しき身の内に今回の聖杯を宿したアインツベルンのホムンクルスであるが、切嗣にとっては政略結婚であるとは言えただ一人愛する妻であり、この世もあの世でも数少ない心を許した人の一人。

そして自分の果てなき理想を知りながらそれでも自分の理想の為に最期まで共にいると誓った。

「キリツグ、お爺様はどうだったの?」

入室していた切嗣に開口一番問いかける。

「かなり渋ったが最終的には折れたよ。ご老体も相当に未練があったようだけどね」

アイリスフィールの言葉に切嗣は応じる。

「そう・・・結局間に合わなかったのね」

「ああ、どうやら連日の天候不順で到着が遅れている。ご老体も怒髪天を突く勢いだったけど天気には勝てない」

「でも大丈夫なの?キリツグ?触媒も無しでサーヴァントの召喚なんて」

そう、アインツベルンは今回の聖杯戦争に臨むに際して現状考えうる最強であろう英霊縁の品を手配、それを触媒としてサーヴァントを召喚し切嗣に聖杯戦争へと赴かせる筈だった。

しかし、切嗣、アイリスフィール夫婦での会話の中にもある様に、欧州は今の時期としては異常気象とも呼べる大寒波が襲来、連日猛吹雪が各地を襲い陸海空、全ての交通網が大混乱に陥っていた。

その為、手配していた触媒の到着も遅れに遅れ、先程ようやくドイツに到着した連絡がついた。

本来であれば数日前には到着し既に切嗣はサーヴァントを召喚している筈だと言うのに。

時間に余裕があるならば触媒の到着まで待つと言う術もあるが、聖杯戦争もいよいよ目前と言う事もあり、他の陣営は着々とサーヴァントの召喚を済ませつつある現状で、ぐずぐずしていると下手をすれば人数合わせのマスターによって七騎全ての枠が埋まる危険性が出てくる。

そうなればいくら優先資格がある御三家とは言え参加資格を剥奪される、そんな事態も起こりかねない。

それも合わせて切嗣は、触媒なしにサーヴァントの召喚を行う許可を取り付けようとアインツベルン当主、ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン、通称アハト翁との直談判に乗り出した。

当然だが、自分達が用意した最高の品を無視して勝手にサーヴァント召喚など許す筈も無く、直談判は怒号と罵声の飛び交う修羅場と化し早朝からこの時間まで時間を掛けてしまった。

「何心配ないさアイリ。君も知っているけど触媒は呼び出すサーヴァントを自分の望み通りの英霊を呼び出したい為の保険さ。サーヴァントの召喚自体にそれは必要ない。僕としてはむしろそっちの方がありがたい。僕としてはセイバー、アーチャー、ランサーと言った三騎士よりもアサシンやキャスターの方が好都合なんだ」

「貴方個人の戦闘が出来るから?魔術師殺しとしての」

「ああ、英霊同士の真っ向勝負なんて僕から言わせれば愚の骨頂だ。不意打ち、奇襲、夜討ちでのマスターの暗殺。それで始末が付けられるならば好都合と言うべきだろう。僕個人の相性で考えるとそう言ったクラスが呼ばれる可能性が高い」

サーヴァントの召喚に触媒を必要としない時は召喚者の属性ないし気質と似通った英霊が呼ばれる。

切嗣はそれを狙っていた。

アハトがどのような英霊の触媒を用意したのか不明だがあれほど渋っていた以上半端な英霊ではない筈。

それを用いて召喚するとすればおそらく、三騎士の一角に相応しい英霊・・・かなりの高確率でセイバーが呼ばれるだろう。

切嗣と気質が合えば問題は無いが、セイバーのクラスを与えられる英霊であるならば十中八九、切嗣とは真逆の気質を持つ英霊である事は間違いない。

そこに切嗣は多大な不安を抱いていた。

「僕は負けられない。人と人が争う戦争なんて存在をこの聖杯戦争で終わらせないといけないんだ」

「そうね。聖杯戦争は今回で終わらせないと・・・あの子の為にも」

アイリスフィールの視線は部屋の寝台に・・・正確にはその寝台で安らかな寝息を立てて眠りにつく幼子に向けられていた。

切嗣とアイリスフィール、二人の間に産まれた最愛の娘、イリヤスフィール、万が一この第四次でもアインツベルンが聖杯を手にする事が出来なければ次の第五次には彼女が聖杯の器として聖杯戦争に臨むであろう運命を背負わされた少女。

「ああ、イリヤを次の聖杯の器になんてさせない。僕達の代で全てを終わらせるんだ」

「ええ、それで召喚はいつ?」

「これからすぐ執り行う。幸い召喚の為に魔法陣も出来ている」

その言葉と共に切嗣とアイリスフィールは部屋を後にする。

サーヴァント召喚の為に。

そして二人は知らない。

願いは叶わず、祈りは通じず、失意と絶望しかない筈だった二人の運命がこの瞬間から大きく軌道修正された事を。









舞台は変わる。

そこは穏やかな小春日和がさすとある武家屋敷。

その隣にはその武家屋敷をも大きく凌駕する屋敷が鎮座する。

その屋敷から一人の青年が姿を現した。

白銀に赤が混ざったような形容しがたい髪の色を持ち、その眼光は鋭く、服越しからでも判るほどその四肢は剛柔の均整を整えつつもその二つを最高ランクにまで鍛え上げられた青年が。

名を衛宮士郎、ある並行世界において神に認められるほどの戦いを経てこの地・・・神界と呼ばれる神と神に認められ神霊となった人々が住まう世界・・・に招かれて剣の神霊となった。

その後ろから着流しを来た黒髪に、蒼眼の青年が姿を現す。

一見すると最初の青年よりは貧相な肉体に思えるが余分な贅肉を削ぎ落とした、鍛えに鍛え上げられている事は容易に判断がついた。

彼の名は七夜志貴、士郎と同じ並行世界で彼と背を預け合いながら戦い士郎と同じく神霊に、但し死神の神霊として招かれた。

「士郎、ありがとうな。わざわざ朱鷺恵姉さんの為に」

「良いって。お前だってカレンの時にはわざわざ祝ってくれたんだしお互い様。それに志貴そもそも俺達に礼なんか必要ないだろ?」

「それもそうだった。それにしても・・・結局皆なっちまったな」

「ああ。こう言っちゃあなんだけど正直一人か二人は最悪の事態になるだろうと覚悟を決めていたんだが・・・」

「俺もだ。げに恐ろしきは女の執念って奴かな?」

「同感」

当の本人達の前では絶対に言えない事を言って笑いあう。

「じゃ、正式な祝宴は後日で」

「ああ、お前の所も兼ねて」

「ああ」

その言葉を最後に士郎は徒歩にして三分もかからない我が家に向かう。

そしてきっかり2分後、士郎は帰宅した。

「ただいま」

「あっ、お帰りなさい先輩、それでどうでしたか?」

帰宅に合わせる様に一人の女性が彼を出迎える。

成熟した女性の色香を漂わせながらもその笑顔には母性と若々しさを満ち溢れさせた、彼女・・・衛宮桜は青年に微笑みかける。

「ただいま桜、志貴の所も全員神霊となったよ」

靴を脱いで穏やかに笑いながら結論だけ言う。

「じゃあこれで皆神霊になりましたね」

「ああ、こう言うと怒られそうだけど正直予想外だったよ」

もちろんいい意味でと付け足す。

「当然です。私も姉さんもアルトリアさんもイリヤさんも・・・それに志貴さんの所もアルクェイドさん達だって皆、皆先輩や志貴さんと永久に一緒にいたいと心から願ったんです」

「そうですシロウ、だからこそ我々は従者となる事を選択し、神霊に昇華する事を挑んだんです。そんな私達が神霊になる事が不可能だと思っていたのですか?」

それを引き継ぐように小柄な少女が顔を出した。

頭部にまとめられた艶やかな金髪に、翡翠の瞳の清廉な美しさと芯の強さを併せ持つ少女・・・アルトリア・衛宮・ペンドラゴン・・・は静かな口調の中にやや拗ねている様な声を出して心なしか彼を非難しているように思えた。

「ああ、そうだな。うん、そうだったな。だからそんな拗ねないでくれアルトリア」

「べ、別に拗ねてはいませんシロウ。ただ、貴方は私達の覚悟の程を未だ理解していなかったから・・・」

「あ〜はいはい、そこまでにしておきなさいアルトリア、こいつがどんな奴かなんて当の昔に判りきって居る事でしょう?」

アルトリアを宥めるようでいて身も蓋もない事を云うのは桜の姉であり、士郎を追って神界にやって来たメンバーの中ではアルトリア、メドゥーサに続いて神霊となった遠坂凛。

そのスタイルは若き日と寸分の違いなく、唯一の違いを上げるとすれば学生当時はトレードマークであったツインテールを降ろして、自慢の黒髪をストレートで伸ばしている。

余談だが、士郎を追って神界に現れたメンバーはその直後、この地で士郎と晴れて結ばれ妻となったが、その後、姓を衛宮姓にするか否かで二つに割れた。

二日間激論が交わされたが、士郎本人が特に強制したわけでもなかったので、結局士郎と同じ衛宮姓とする者と諸事情(姓が無い、元の姓に少なからず愛着がある等々)で旧姓のままでいる者半々で分ける事で決着がついた。

「あのな・・・凛・・・」

「確かにリンの言う通りです。シロウの女性心を察する鈍さは生前から同じでした」

凛に輪を掛けた身も蓋もないアルトリアの言い様に思わず肩を落とす士郎。

「シーローウッ!別に気にする事ないわよ。毎回同じような事を言う愛人の罵詈雑言なんて!」

そう言っていつの間にか背後に回り込んだ銀髪の一見すると幼い少女・・・士郎の正妻を主張するイリヤスフィール・衛宮が抱き着く。

「だからイリヤ、何愛人なんてふざけた事ほざいているのよ」

「そうです。イリヤスフィール、シロウは私達に序列はつけない、そう言っていたはずですが」

「あら?何言っているの?実質序列はつかなくても名目は必要じゃない。シキだってヒスイ、コハクを名目上は正妻として扱っているんだし。だからシロウと一番ラブラブな私が正妻になったの、どこかおかしいの?」

「おかしいです!先輩が特に了解もしていないのに勝手に正妻を名乗るなんて羨ま・・・いえ!おかしいです!」

「その通りですわ!」

桜達の抗議を応援するように現れたのは金髪縦ロールに青を基調とした服装のルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。

「シェロの正妻に最もふさわしいのはこの私に他なりません!トオサカは元よりいくらアインツベルンとは言えそのような女性の魅力に欠ける方が・・・」

そこでわざとらしく言葉を切り、全く成長の兆しも見えないイリヤを頭のてっぺんからつま先まで見てから、冷笑を浴びせる。

「むっかー!なによ!その笑みは!」

「あら?笑いましたか?別に女性らしいお身体でないのを笑った訳ではありませんわ」

「笑った!絶対笑ったでしょ!」

そんな日常茶飯事となった光景を尻目に、奥からさらに数人の人影が姿を現した。

「ああ、シロウ、帰って来たのですね。すいませんが一号の調子があまりよろしくありません。明日までで良いので整備をお願いしたいのですが」

紫の髪を足元まで伸ばした長身の美女、メドゥーサ。

「お嬢様!またそのような淑女にあるまじき振る舞いを・・・」

「良いと思う、イリヤここに来てから本当明るくなった」

不承不承士郎と婚姻を結び、未だにイリヤの侍女を自認するセラ、リーズリット。

(あくまでもそれはセラのみ、リーズリットは三分の一侍女、三分の一イリヤの話し相手、三分の一士郎の妻の立場を取っている)

「あらあら、懲りもせず」

「本当よね」

そんな日常とも呼べる光景を悦に入った笑顔で心行くまで愉しんでいるのはカレン・オルテンシア・エミヤとレイ。

そこに現れた女性は皆士郎の妻(数名は否定)であり、従者から神霊に昇華を果たしこれから先、悠久の時を永久にここで共に過ごす事を確約された。

「はいはい、玄関口でギャーギャー騒ぐのはこのくらいにするわよ。口論は居間に行っても出来るんだし」

志貴とは違い士郎は未だに妻達の主導権を握っておらず、(志貴と比べて個が強過ぎるメンバーが多いのが原因なのだが)されるがままにされていたが、比較的リーダーシップをとる事が多い凛が手を叩きながら場の収拾を図る。

きっかけを得たのだろう、全員素直に玄関に上がる。

手の平を返すような妻達の苦笑しながら後をついて行くがその瞬間

『・・・素に銀と鉄・・・』

懐かしい声と共に聴きなれた言葉が聞こえた。

「えっ?」

思わず足を止めた瞬間、周囲の景色は一変していた。









アインツベルン城礼拝堂では切嗣とアイリスフィールが既に到着していた。

先程言っていたように既に召喚の為の魔法陣は既に完成され、召喚の儀式は始まり目の前では切嗣が詠唱の為の呪文詠唱も終盤に差し掛かっていた。

「誓いは此処に我は常世総ての善と成る者、我は常世全ての悪を敷く者」

背中に刻まれている切嗣の魔術刻印は輝き召喚の補佐を行う。

いよいよ最後の一節を唱えるや召喚の魔法陣が輝き呼び出すべき英霊を呼び出す門と化す。

「汝三大の言霊をまとう七天、抑止の輪より来たれ天秤の守り手よ!」

詠唱が終わったまさにその瞬間、魔法陣より光の柱と烈風が巻き起こりこの地に英霊が呼び出された事を明確に告げる。

「来たか・・・さて、鬼が出るか蛇が出るか・・・」

どのような英霊がサーヴァントとして呼ばれたのか?

その英霊は自分との相性は良いのか?

切嗣の関心はそれだけだった。









落ちて行く。

士郎は静かに落ちて行く。

光の全くない暗闇をただ静かに堕ちて行く。

いや、むしろ昇っている様な気もする。

そんな上下も左右も落下も上昇も何もかも判らないなか、それでも聞き間違いのない声と共に聞き間違いのない詠唱は続いていく。

(なるほど・・・)

静かに嘆息した。

まさか自分がサーヴァントとして呼ばれるとは・・・それも自分を呼んだのは間違いなく・・・

詠唱も終わりも近づくにつれて士郎の脳裏に声なき言葉が溢れだす。

呼ばれる時代の知識や基本情報、だが、この時代に生きた士郎にしてみれば復習に過ぎない。

それよりも重要なのはその次だった。

(当事者該当クラスなし。よって例外クラス『エクスキューター(代理人)』のクラスを与える)

(エクスキューター?)

(ステータス確認、パワーバランスの崩壊の危険性を確認、聖杯よりクラス別スキル『神霊束縛』を最高レベルにて設定、これを付与する)

その言葉と同時に身体が急激に重くなり、同時に神霊束縛の詳細を把握した。

(相手サーヴァントの情報開示の禁止・・・これはまだ許容できるか・・・だけど・・・)

問題は残りの制約。

(ステータスの低下とスキルの一部封印と弱体化)

これも相当弱り目であるがそれでもぎりぎり受け入れられる、だが、最後のそれが最大の問題。

(宝具の使用制限・・・一つにつき一回のみ、しかも令呪を使わないと使用不可能って・・・)

確かに今の士郎は神霊、末席とは言え神そのもの、英霊よりも一段上の存在である事は疑う余地もない。

だが、神だからと言って英霊と比べて圧倒的に強いと言う事はないと言うのに、まさかこれほどの制約を課せられるとは思わなかった。

(まあ、過ぎた事を愚痴っても仕方ないか)

ある意味理不尽だが、この程度生前も神霊となった後も慣れた事。

直ぐに立ち直るや自身のステータスとスキルを確認していく。

(ステータスダウンはきついが深刻ではない。反映と接続、刻印とコンテンダー使用不可、だけど強化使用可能、投影は問題・・・あるか、1ランクから2ランクダウンの弱体化・・・)

それでも主武装である投影が使えるのはせめてもの幸いと言える。

(よし、これなら・・・)

「絶望的じゃない、ようは『蒼黒戦争』直前の自分に戻っただけ。十分戦える」

その言葉と同時に光が士郎を包み込んだ。









網膜をも焼き尽くす様な光が収まり、視界が戻るにつれて、切嗣とアイリスフィールの視界に新たな人物を確認した。

赤に白銀がない混ざった色の髪、切嗣とほぼ同じくらいの体躯に何故か切嗣と同じデザインのロングコートに、現代風の洋服。

およそ英霊には見えぬ風体であったが感じ取った魔力はまさしくけた違い。

「・・・やっぱりか・・・」

その人物は切嗣に視線を向けるとそう呟き、どう言う訳か苦笑を浮かべながら、それでも切嗣の顔を懐かしそうに見つめ、それからおもむろに宣告した。

「一応問うけど、あんたが俺のマスターで良いんだよな?・・・爺さん」

静かに温厚な声で英霊としてあまりにも場違いに思える台詞を。

その言葉に切嗣は思わず眼を見開く。

問い掛ける声の穏やかさもそうだが、最後にこのサーヴァントが口にした爺さんと言う単語。

爺さんなどと呼ばれるほど年は取っていなかった筈だが・・・

そんな混乱した思考の中、切嗣は一番肝心な事を聞く。

「ああ、確かに僕が君のマスターだ。君は・・・」

ステータスを読み取り目の前のサーヴァントの情報を読み取る。

「!!」

その瞬間、切嗣の眼が大きく見開かれた。

「??切嗣、どうしたの?」

夫の様子にただならないものを察したのかアイリスフィールが問いかける。

「・・・アイリ、聖杯戦争で呼ばれるサーヴァントのクラスはセイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、アサシン、キャスター、そしてバーサーカーだったね」

「え?ええ・・・そうだけど・・・」

そこまで確認を取ると今度は目の前のサーヴァントにそれを問いかけた。

「済まないが・・・君の口から言ってくれないか?君のクラスを、そして真名を」

切嗣の言葉をたやすく快諾するように彼は告げた。

「ああ、サーヴァントエクスキューター、真名は・・・衛宮士郎」

間違いようの無い自分の名とこの戦争で与えられたクラス名を何一つ偽る事無く。

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