三方向から自分目指してにじり寄って来る三人を前に切嗣は恐れ戦いてはいなかった。

むしろ状況が最悪になった事で思考が極限まで研ぎ澄まされた。

先程紅蓮の炎が吹き上がった箇所を視界の片隅に入れながら

(炎属性の魔術による罠・・・魔術版の地雷と言った所か・・・だが・・・)

最初に浮かんだ疑問は何故時臣達は特に恐れる事無く進んでいると言うのか?

地雷を真似ているとは言えこれは魔術によるもの、その威力はある意味切嗣よりも理解している筈。

それを理解していながら恐れる気配無く歩み寄ってくる。

設置した場所を把握している可能性が脳裏に過ぎるが直ぐに却下する。

自分を追い詰めようとしているのが時臣だけならばその可能性が濃厚だが、ケイネス、綺礼もまた足元を気にする余振りを見せていない。

赤の他人である二人までもが地雷の位置を把握している可能性は極めて低い。

何かしらの魔道器で場所を把握しているかとも思ったがその様なものを見ているようにも見えない。

そうなれば、場所を把握していないと考えるのが自然だ。

では地雷は切嗣が起動させた一発だけで設置していない?

それもありえない。

地雷という兵器は一定のエリアに相当数埋設する事で敵集団の進行を妨害する兵器。

それ故に戦後復興では最大の障害となっている訳だが、話を戻して、その様な事をしては地雷の真価を十分の一も発揮出来ない。

生粋の魔術師である時臣がそれを知っているとは思えないが。それなりの広さの平地に魔術地雷一発だけ設置し、偶然、切嗣がかかる可能性の低さは判っている筈だ。

そうなれば考えうる可能性は唯一つ、『自分達が歩いても起動しない』に他ならない。

自分の魔力波長にだけ反応して起動するか、連合に参画しているマスターの魔力波長には起動しないように設定しているのかは不明だが、そんなことはどうでも良い。

重要なのは時臣達には行動の自由が与えられており自分にはそれが制約されている事だ。

切嗣の無言をどう捉えたのか不明だが、ケイネスが嫌悪感を露にした顔で

「相も変らぬ余裕の面だな・・・カスが!」

吐き捨てた所で余裕が生じたのか、それとも切嗣が徐々に絶望に染まる顔を見たいのか陰湿な笑みを浮べて

「この期に及んでまだ自分が助かると思っているのか?以前のような幸運・・いや、悪運に恵まれると?愚か者めがもはや貴様にその様な奇跡がもたらされると思うのか?」

なぶるような物言いのケイネスの言葉を無視して切嗣は高速で思考を巡らせる。

時臣、ケイネス、そして綺礼と自分との距離はおよそ二百メートル前後、それが少しずつにじり寄り、包囲網を狭めつつある。

それは先刻の不覚は取らないと言う決意がいやでも伝わる。

アイリスフィールと舞耶の姿は前方の雑木林にいるのを確認。

後詰めのつもりなのか、土壇場で裏切る事を警戒しての布陣なのかは微妙だが、時臣らと離れている事が何よりも重要だ。

また、雁夜の姿は見受けられないが、使役する蟲によって深手を負わされた事を考えても近くにいると見て間違いない。

おそらく・・・いや、間違いなくここが最大の正念場。

ここでの好機を逃せば自分に勝ちは無い。

幸い布石は打ち切っている。

ならば・・・と、突然風を切る音と共に脇腹に衝撃が走り切嗣は吹っ飛ばされ、数メートルほど地面を転げる。

「ぅぅぅ・・・」

苦痛の呻きをかすかに口から漏らしつつも脇腹を押さえながら立ち上がる。

視線の先には『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』の先端が揺らめきその姿は銀の蛇が鎌首をもたげている様にも見える。

間違いなく、『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』の一撃が切嗣を薙ぎ払ったのだろう。

脇腹を押さえながら状態を確認、推察するに肋骨数本、確実にひびが入ってる、最悪折れているだろう。

だが、今までのそれを見るに本来であれば自分を薙ぎ払う所か両断する事も可能だった筈。

それが何故この程度の被害で済んだのか?

そんな疑問はケイネスの顔を見ると即座に解消された。

ケイネスの顔は実に良い・・・弱った獲物を甚振る事への暗い喜びに満ちた笑みを浮べていた。

速い話自分を嬲り殺すつもりでいるのだろうケイネスは。

「ロ、ロード・エルメロイ・・・何故」

時臣が戸惑い気味の声を発する。

『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』の威力を熟知しているかは不明だが、切嗣の悪辣さは知り尽くしている時臣としては、まだ切嗣が健在である事への疑問だろう。

「何故ですと?愚問ですぞトオサカ、あのカスには聖戦を汚した罪を、己が欲望で監督役を殺害した罪を、その身をもって徹底的に清算せねばならない。否!するべきなのです!」

時臣に断言するケイネスの言葉だけは実に立派な魔術師として大義名分に満ちているが、その声が全てを裏切っていた。

「さて・・・覚悟は出来てようといまいと関係ない。己の大罪を噛み締め、がき苦しみながら地獄へと堕ちろ・・・カスが」

もはや勝利は間違いないと信じて疑わない嫌味な笑みを浮べるケイネスを余所に切嗣は内心ほくそ笑んでいた。

やはりケイネスは戦いの何たるかを何一つ理解していない。

今優先すべきは無論敵(この場合は切嗣)の殺害、若しくは完全無力化である。

だと言うのにケイネスは自分を中途半端に嬲っただけでもう勝ったつもりでいる。

こっちは左足に深手を負ったがそれでも動く事は出来る。

肋骨が折れているかもしれないが、銃も撃てる。

であるならば・・・

作戦は即座に決まった。

ならば精々ケイネスを踊らせてやるとしよう。

そう決断を下し、『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』の一撃をぎりぎりで回避した。

だが、返す刀の一撃を回避することは適わず、切嗣は再び吹っ飛ばされた。









ほぼ同時刻、境内では・・・

「はああああ!」

セイバーの一閃が士郎の夫婦剣を打ち砕く。

直ぐに新たな夫婦剣を投影しセイバーの追撃を凌ぐが間髪を入れずにランサーが襲い掛かる。

『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』、『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』の猛攻をぎりぎりで回避するが『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』の攻撃は捌き切れなかったのか何条もの切り傷を士郎に与えていく。

それを蹴りで距離を開けてから

「猛り狂う雷神の鉄槌(ヴァジュラ)!」

雷神の鉄槌を投影して真名を解放する。

それを受け止める事無く右へと跳躍して回避しようとするランサーを狙い済ましたように投擲された夫婦剣が迫り来る。

だが、それをセイバーが割って入り弾き飛ばす事無く、一閃で粉々に打ち砕く。

だが、この時完全に意識を夫婦剣に向けてしまった二人に置き土産とばかりに

「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」

『猛り狂う雷神の鉄槌(ヴァジュラ)』を爆破、その爆風に煽られる形で体勢を崩した二人に士郎が追撃を仕掛けようとして、直ぐにそれを断念、その場を離れる。

それと同時にセイバー、ランサーも後退するやアーチャーの無慈悲なる爆撃が襲来する。。

アーチャーの爆撃は相も変わらず、周囲や味方を構わぬものだが、セイバーとランサーの攻めには変化が見られ始めていた。

連携など考えないむやみやたらなものからアーチャーの爆撃のタイミングを見極めて、その間隙を縫うような攻撃へと。

これはアーチャーが配慮を示したと言うよりはランサーとセイバーが極めて不本意ながら(特にセイバーは)アーチャーに合わせたのが正解だろう。

しかもセイバーとランサーの連携はぎこちなさが消え、滑らかな動きに変わっている。

乱戦を演出しているので、未だライダーの参戦を封じ込めている状況であるが故に、どうにか崖っぷちで踏みとどまっているが足場は徐々に切り崩されている。

一端距離を取って体勢を立て直したい所だが、それをすればライダーが参戦してくるのは火を見るよりも明らか、下がる事も出来ない。

だが、この状況では遠からず破局に向かう、どうするべきか・・・

一瞬よりも更に短い躊躇い、だが、致命的な隙をセイバーは見逃さなかった。

「はあああ!」

懐に潜り込まれての一閃で夫婦剣は粉砕されその余波で士郎も大きく吹っ飛ぶ。

紙一重で後方に跳躍したおかげで士郎の実害は無いが、立ち上がろうとした時にはセイバーの剣が突き付けられている。

「・・・」

もはや自分の命運は風前の灯であるが、それでも士郎は諦める事無く状況を見定める。

「ここまでだ」

そんな士郎の態度を諦観と受け止めたのかセイバーは自身の剣を振りかざす。

痛めつけるといった考えはセイバーの声や態度からは一切見受けられず、この一刀で士郎を斬り捨てるつもりなのだろう。

セイバーらしいと言えばらしいが、これで問答無用で絶体絶命の危機に追い詰められた。

「・・・エクスキューター・・・覚悟!!」

剣が士郎目掛けて振り下ろされようとしていた。









目の前の惨状をアイリスフィールは正視する事が出来なかった。

「はははははっ!どうしたどうした!先程までの威勢は何処に行った!」

実に嬉しそうに、実に愉しそうに笑いながらケイネスは『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』で切嗣を嬲り続ける。

左足を負傷している為に動きは鈍いがそれでも、動く事は出来るのかそれなりには回避出来ているが、それ以上の攻撃を受けてもいる。

そんな切嗣の姿は傍目から見れば必死であるのだろうが、同時に実に見苦しいものだった。

必死に避けて牽制気味の発砲を繰り返し、時には転がり、更には這いずり回って致命傷を避けて生きながらえようとする姿は、ケイネスのみならず、時臣の嘲笑を買うに十分な姿だった。

「無様な!なんと無様な!貴様のような奴が魔術の恩恵に与っていた等、あってはならん事だ!その命で詫びろぉ!」

ケイネスの嘲笑交じりの罵声を浴びながらそれでも、死に物狂いで回避し続けるが、魔術地雷を起動させたのだろう、数秒前まで立っていた地点から火柱が吹き上がる。

間一髪と言うよりも間半髪で回避するがそこを見定めたように『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』が襲撃、切嗣は回避する間もなく叩きのめされる。

それでも立ち上がるが、こめかみや口元から血を流し、立っているのもやっとと言った具合だ。

そんな切嗣の姿に涙を流して『もう止めて』とアイリスフィールが叫ぼうとするが、それを

「マダム、いけません!」

舞耶が止める。

思わず声を荒げようとするが、振り返った先には全身を震わせその歯を全て砕くほど食い縛り、握り締めた両の拳から血が滴り落ちる舞耶の姿があった。

その姿だけでもアイリスフィールには舞耶が自分と同じ位・・・若しくは自分以上に何も出来ぬ自分に憤りを堪えているのだと理解してしまい、何も言えなくなってしまった。

「・・・ミスターと切嗣を信じましょう・・・無力ですが今の私達に出来るのはそれだけしかありません」

血を吐くように声を絞り出す舞耶にアイリスフィールは頷く事しか出来ない。

一方、ケイネスからのリンチを受ける切嗣だが、肉体のダメージは重篤だ。

鈍器と化した『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』の一撃は実に重く、服の下は青あざだらけ、骨も何本かひびが入っている可能性が高い。

しかし、無理に無理を重ねれば全力疾走は後一回だけ出来る。

これ程の余力を未だ残せているのもケイネスが今までの鬱憤を晴らす為に、あえて急所を外しているおかげだが、それも限界だ。

これ以上受ければその余力も無くなる。

そうなれば、自分の死は確定するし、一人奮闘する士郎にも申し訳が立たない。

だが、賭けに打って出るには、とことん甚振る気満々のケイネスをその気にさせなければならないが、どうするべきかと考えている所に切嗣にとって大きな助け舟が入った。

「ロード・エルメロイ気は済みましたかな?」

どこか辟易した声で時臣が声を掛ける。

実際時臣はケイネスの陰湿なリンチに辟易していた。

時臣にとって切嗣は魔術を蔑視しその偉大さを理解していない愚か者であるし、璃正殺害を利用して切嗣らエクスキューター陣営排除の謀略を企てた。

だが、切嗣を一方的に嬲り殺すつもりは無い。

はっきり言えばここに追い詰めた時点で即座に抹殺すべき相手だった。

それでも、ここまでケイネスのリンチを黙認してきたのは、ケイネスが切嗣に対して抱く陰惨な怒りを把握、それに対してそれなりの理解を示し、それを解消させる為。

もう一つは時臣自身、切嗣の魔術師の矜持を失った立ち振る舞いに憤りを抱き、その溜飲を下すのにケイネスのリンチを利用した側面もあった。

だが、もう良いだろう。

これ以上のリンチは優雅たれたる遠坂の家訓に大きく逸脱する。

「もはや衛宮切嗣は虫の息、このまま嬲り続けるのもどうかと思いますぞ、それこそあの男と同レベルに落ちぶれるというもの、ここで終わりにしてやるのがせめての情けでしょう」

時臣の苦言にしばし睨み付けるケイネスだったが、切嗣と同レベルに落ちぶれると言う言葉は堪えたらしく、

「・・・確かにあのようなカスと同じになるなど容認は出来んな。はっ運が良かったなカス。これで終わりにしてやろう」

『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』が切嗣を脳天から磨り潰すべく振り下ろされ、

「衛宮切嗣、これで終わりだ。恨むのであれば下らぬ欲に惑わされた己を恨め」

時臣の術式を受けて魔術地雷の何倍もの火柱が何本も屹立し、切嗣を飲み込み灰すら残す事無く消滅させんと切嗣に肉薄しようとした。









この時点で切嗣の死とエクスキューター陣営の完全敗退は確定となったとアイリスフィールも舞耶も思った。

そう、切嗣を逃がさんと一角で陣取っていた綺礼ですらそう思った。

綺礼の見立てでも切嗣の状態は最悪だ。

左足は雁夜の翅刃虫で深手を負い、ケイネスの『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』での滅多打ちで複数個所骨折していると見て良い。

背骨や頚椎にはダメージはない・・・と言うかそこは切嗣が死力を振り絞って回避してきたと言うのが正しいだろう。

だが、もはやここまでだ。

ケイネスに加えて時臣が加わったそれを今の切嗣が回避するなど、それこそ奇跡レベルだ。

ましてや奇跡が起こったとしても切嗣はろくに動けない。

そこを追撃すればそれで事足りる。

そんなぼろぼろの姿の切嗣に綺礼は複雑な心境だった。

本心を言えば自分の手で切嗣に引導を下せなかったのは残念であるが仕方あるまい。

自分はあくまでもエクスキューター陣営の処断を見届けに来た監督役であって、エクスキューター連合の参画者ではない。

追撃戦の過程で切嗣を誤って討ち取ってしまったのであればまだしも、こうやって包囲した状態で自分がしゃしゃり出る事は許される事ではない。

それでも・・・と思う綺礼の内心は切嗣に対する怒りは未だ燻っていた。

やはり許せるものではない。

自分の希望を断ち切り、あまつさえ己の希望を最低最悪の形で踏みにじった切嗣をどうして許せるものか。

だが、その一方では一時であろうとも同士と思っていた切嗣を失う事に対する形容しがたい思いも渦巻いており、それが綺礼を苛んでいた。

だが、それも今ここで終わる。

切嗣は死に、自分は自分の願望の赴くがまま事を進める。

そう思った綺礼だったのだが、不意に何か違和感を感じ取っていた。

切嗣は動けないのかその場でピクリとも動かないし、時臣とケイネスの一撃も鈍る様子も無い。

不意にアイリスフィール達に視線向けるが、特に警戒すべき動きを見せている訳でもない。

何一つ変化も無い連合側が勝利する目前の光景。

だと言うのにその違和感は消える事無くむしろ大きくなっていく。

どう言う事なのかと綺礼がその違和感の元を探ろうとした瞬間状況が大きく動いた。









「・・・エクスキューター・・・覚悟!!」

セイバーの剣が振り下ろされようとしたまさにその瞬間、士郎が動いた。

回避しようとするのはセイバーもお見通しだった。

馬鹿正直に後ろに下がろうが左右に逃げようがセイバーは慌てず騒がず冷静に士郎を斬り捨てるだろう。

だが、士郎が動いたのは後方でも左右でもなく、

「!!」

無理な体勢で半ば強引な下半身の力で大地を蹴ると、セイバーの腹部を抱えてセイバーごと前方へと跳んでいた。

その予測は出て来なかったらしくセイバーの思考は真っ白になる。

それでも地面に叩きつけられるや冷静さを取り戻し、士郎の突拍子も無い行動の理由を把握しようとした。

だが、その必要はなかった。

何しろその理由が降り注いだのだから。

士郎がセイバーごと跳躍してその場から離れると同時に無数の剣や槍が四方から殺到、轟音を立てて一秒前まで自分達がいた場所をクレーターに変えてしまっていた。

その光景を呆然と見つめるセイバー。

士郎は既にセイバーと距離を取り夫婦剣を再投影、体勢を立て直しに成功している。

無論目の前のセイバーを警戒しての事であるが、セイバーの怒りは士郎に向いてはいない。

既にセイバーは理解している、これをしでかしたのは誰であるのかを。

「・・・アーチャー・・・」

静かに立ち上がり俯いたまま、低く冷たい怒りの声がセイバーの口から漏れる。

「何用だ。そこな娼婦」

一応その声は聞こえていたらしく心底から見下した視線と口調で返答する。

「どういう事だ?」

セイバーの問い掛けは何もかも省略した簡素なものであるが、アーチャーはそれだけで理解したのか

「どう言う事だと?娼婦にしては殊勝にも、我の意を汲んであの贋作者(フェイカー)を拘束し自分ごと撃たせようとしたのであろう?」

こともなげに言い放った。

つまりは先刻のあれは不慮の事故でも苦渋の決断でもなく、始めから・・・

そう認識した瞬間、アーチャーに対するセイバーの怒りはとうとう臨界点を超えた。

「貴様ぁぁぁぁ!」

憤怒の咆哮と共に『風王鉄槌(ストライク・エア)』を解放、それをアーチャー目掛けて撃ちはなった。

それは複数の原典宝具を吹き飛ばし、アーチャーを消し飛ばさんとするがそれをアーチャーは盾で防衛する。

『風王鉄槌(ストライク・エア)』を盾は完全に防いでみせたのでアーチャーへの実害は皆無だが、王である自分に手を出した、それも身分卑しき娼婦が。

その事実はアーチャーを激高させるに十二分な理由だった。

「ほう・・・娼婦、貴様我に手を出しただと・・・身の程を知れい!」

原典宝具の群は士郎ではなくセイバー目掛けて降り注ぐ。

それを左手のハンデを諸共せず次々と打ち落として、憤怒の表情のままアーチャーに斬り掛かろうとするセイバー。

そして、そのセイバーを迎え撃つアーチャーもまた怒りの形相で、無礼を働く娼婦を手討ちにせんと『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』を解放、原典宝具を次々と展開射出し続ける。

そんな起こるべくして起こった仲間割れを顔面蒼白で見遣るウェイバーと、成るようにしかならんと諦観しきった表情で見下ろすライダー。

「な、なあ・・・ライダーどうするんだよ・・・」

「どうするもこうするもないだろう。ああなった以上どうにもならん。それよりも坊主、しっかり掴まれ」

「へっ?捕まるって・・・」

いまいち事態を認識していないウェイバーにライダーは簡潔に告げた。

「いよいよ我らも突撃するぞ坊主!」

そう言うライダーの意を汲んだのか戦車を弾く神牛は力強く虚空を蹴りつけ、天を駆け下りる。

その先の標的・・・いつの間にかランサーと交戦を開始していた士郎目掛けて。

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