キャスター討伐の為にルール変更を宣言した場に何故士郎が現れたのか?

その理由を記述する為には時を遡らねばならない。

時間は切嗣達がアインツベルンの城に到着した直後まで遡る。

どう言う訳か深刻な表情をした二人を出迎えたのは殴り飛ばさんとばかりに詰め寄るセイバーだった。

「キリツグ!!どう言う事だ!」

突然の怒号ので迎えであったが、何があったのか瞬時に理解していた。

「どう言う事とは?」

切嗣としては確認の為の問い掛けであったに過ぎない。

だが、その冷静沈着な声はセイバーの怒りの炎に油を注ぐ結果でしかなかった。

「とぼけるなぁ!!」

感情の赴くまま切嗣の胸倉を掴もうとしていたセイバーだったが、それを

「待てセイバー。話は終わっていない」

いつの間にか姿を現した士郎がやんわりと制止する。

「っ!エクスキューター!!」

そんな士郎をもはや敵の様な視線で睨み付けるセイバー。

(士郎、随分とセイバーがご立腹のようだけど・・・)

(ごめん爺さん。今回の事をセイバーに説明しようとしたんだけど、その矢先に爺さんが来たせいでセイバーの怒りのボルテージを鎮火させる前に・・・本来だったら俺が受けなくちゃならないのに・・・)

(気にする事は無いさ士郎。僕も罵声は受け慣れているし、僕だって少しは君の重荷を肩代わりしないと立つ瀬がない)

(・・・爺さん・・・)

そんな会話を念話でしながらも口では

「エクスキューターどうしたんだ?」

「申し訳ありませんマスター、俺の口から今回の事を説明する前で・・・」

「そうか」

あくまでも主従としての会話をしながら士郎は切嗣を庇う様にセイバーの前に立つ。

「セイバー君の心中は痛いほどよく判る。だが、まずは俺の話を聞いて」

「聞く必要などない!!私は貴様のマスターに話が」

「セイバー!!」

怒り狂うセイバーを押し留める様な鋭い声が城から響く。

「ア、アイリスフィール?」

困惑した声がセイバーの口から漏れ出す。

走って来たのか、若干呼吸を乱したアイリスフィールが近寄る。

「セイバー落ち着いて」

「な、何故止めるのですか!アイリスフィール!私は」

「それも含めて全て話すわ。だから落ち着いて」

流石にアイリスフィールの言葉には耳を傾けるだけの理性は残っていたらしく、ようやく引き下がった。

だが、切嗣、士郎を見やる視線には抑える事の出来ない憤りが溢れていた。

とりあえず形だけでもセイバーが落ち着いたのを見計らい士郎はあらかじめ打ち合わせしたように切嗣、アイリスフィールに

「アイリスフィールさん、マスター今回の事は完全に俺の判断ミスでした。申し訳ありません」

深々と頭を下げて謝罪した。

「??どう言う事ですか?アイリスフィール」

突然の謝罪にやや困惑しながらセイバーがアイリスフィールに尋ねる。

「ええ・・・実はね貴女にエクスキューターの事を秘匿してくれと頼んだのは・・・エクスキューター本人なのよ。私もキリツグも貴女にも教えるべきだと説得したのだけど・・・」

「!!」

セイバーの憤怒の視線が士郎に向けられる。

対する士郎はその視線を真正面から受け止め眼を逸らす事をせずに静かに見つめ、士郎は静かに頭を下げた。

「まずは君に対してだったな。セイバーこれは俺の非だ。すまなかった」

躊躇う事無く頭を下げて謝罪する士郎にセイバーは声を詰まらせた。

仮に士郎がもっともらしいご託を並べ立てるようであればセイバーは躊躇なく士郎を徹底的に糾弾しただろう。

もしもセイバーが怒りに身を任せて非道な事を言う人物であれば謝罪する士郎をやはり糾弾出来ただろう。

だが、幸なのか不幸なのか士郎は言い訳をする事なく自らの非を完全に認めて謝罪し、セイバーも素直に謝罪する人物を糾弾できるほどの図太さを兼ね備えていなかった。

その為に士郎に対して爆発させる筈だった憤懣は内に蓄積してしまう。

だが、それでもセイバーは士郎に尋ねなければならない事もあった。

「・・・何故・・・黙っていた・・・」

内心の不満を表すかのようにセイバーの声は低く、絞り出したようなそれだった。

「ああ、それはセイバー君に不安があったからだ」

士郎の言葉に内心の憤懣を一気に爆発させた。

「っ!!なんだと!、私が貴様の事を敵に売るとでも思っていたのか!」

そんなセイバーの怒りを士郎は包むように宥める。

「そうじゃない、セイバー、君がそんな卑劣な行為とは最も縁遠い存在である事は百も承知している。俺が不安に思ったのは君が知らぬ存ぜぬを貫けるかについてだ」

「・・・どう言う事だ・・・」

「一つ聞きたいけどセイバー、腹芸とか出来るかい?知っているのに知らないと言う事を」

その問い掛けにセイバーは思わず口籠る。

士郎も聞かなくても判っている。

出来ないとは言わないだろうが、セイバーがそう言った事に不向きである事など。

「元々俺とマスターはあくまでも秘匿戦力として君達を援護する手筈になっていた。セイバー、君の清廉にして裏表のないその心根は賞賛に値するけど、こう言った隠し事にはどうしても不向きになってしまう。だがら君には俺達の事を教えないでほしいとマスターに頼み込んだんだ。だが、結果としては俺の判断ミスだった。改めてすまなかった」

そう言って三度頭を下げて謝罪した。

「・・・っ」

全面的に非を認めて謝罪する士郎にセイバーとしてはこれ以上糾弾する事は出来なかった。

だが、それとは別にもう一つセイバーには士郎に問い質さねばならない事もあった。

「では、エクスキューターもう一つ聞かせろ。何故貴方はランサーをあのような卑劣な手段で貶める様な真似をした!」

セイバーの内心に整理がついたのか、士郎を呼ぶ言葉が『貴様』から『貴方』へと柔らかいものに変わった。

だが、その言葉には未だに刺々しさが残っていた。

「??ランサーを貶める?」

「そうだ!ランサーのマスターの激発を誘ってランサーの立場を危うくする術を」

「いや、言葉を返す様だが、セイバー、あれに関してはランサーのマスター、あの男の自滅だ」

「なに!」

「いや、俺の最初の予定はあくまでもランサーのマスターを過剰に挑発してランサーの注意を俺に向けさせる事で、セイバーが離脱しやすい環境を作ろうとした。バーサーカーと変わったのも武錬だけなら万全のセイバー以上だある以上手負いのセイバーでは不利は免れないと判断してだった。だが、ランサーのマスターには効き過ぎた、まさかあそこまでの愚行をやらかすとは思わなかった。あまつさえ令呪を使ってなんてな」

最後はまさしく吐き捨てる口調だった。

内容よりも、最後の言葉に込められたものの方を信じたのか続いてセイバーの口からは落ち着いた声が発せられた。

「・・・その言葉に偽りは無いな」

「ああ」

セイバーの問い掛けにも短く答える。

「・・・判った、貴方の言葉今は信じよう。だが、ランサーに対する干渉、今後は差し控えて頂きたい。ランサーは尋常なる勝負による決着で討ち取ってみせる!」

そう言ってセイバーは士郎達の返事を聞く事無く城へと向かっていった。

そしてセイバーの姿が城の中に消えるや士郎は深いため息を吐き出した。

「シロウ君、ごめんなさい」

アイリスフィールもまた、憂鬱な表情で士郎に謝罪する。

「ああ、アイリスフィールさんが謝罪する必要はありませんよ。元々こういう手筈だったんですし、なあ爺さん・・・爺さん?」

そう話を向けられた切嗣はと言えば何やら深刻な表情で思案に暮れていた。

「失礼ですがマダム」

と、そこで舞弥が切嗣と同じ位深刻な表情でアイリスフィールに声を掛けた。

「?どうかしたの?」

そう言うアイリスフィールの表情や口調には先程までとは違う、ぎこちなさが見て取れた。

「セイバーの手傷ですが未だ癒えていないのですか?」

「えっ?ええ・・・ランサーが脱落していないから・・・」

舞弥の口調に詰問の色が濃かったからだろう、アイリスフィールの声に戸惑いの色が現れた。

「・・・どう言う事だ」

やがて低い声で呟かれた切嗣の声が一同の注意を引く。

「そう言えば爺さん・・・」

切嗣達がここに来る前何をしていたのか今更ながら思い出したのだろう、士郎の声にも変化が現れた。

「ああ、舞弥、もう一度確認するが」

「間違いありません崩落の瞬間まで誰一人脱出していません」

「だが・・・それだと・・・しかし」

思案のループに陥りかけた切嗣にようやく事態を呑み込めたのかアイリスフィールが口を挟んできた。

「ちょっと待ってキリツグ、もしかして・・・」

「ええ、もしかしてです。ただでさえでもセイバーはランサーの手傷によって片手を事実上封じられたような状態、このままでは今後の戦いに重大な支障を及ぼします」

切嗣を守る様な立ち位置での士郎の説明にアイリスフィールも頷いた。

最もその表情から察するに全面的に賛同したと言うよりも、頷かざる負えなかったと言う所が正確だろう。

「爺さん、一度確認した方が良い。セイバーの傷が癒えていない以上ランサーが未だに健在なのは間違いないだろうが、ランサーだけなのか、それともランサー陣営なのか最低これだけは確認する必要がある」

「ああ、そうだな。じゃあ士郎すまないがここで」

そんな切嗣の言葉を遮る様に

「いや、爺さんは此処で休息を取っていてくれ俺の方で確認してくる」

「だが」

「まだ聖杯戦争はこれからだ。爺さん達は一時だけでも休息を取っていてくれ。俺の方は魔力あれば疲労の心配は無いから」

「・・・気を付かわせてしまったようだね士郎。じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」

「ではミスター、これを」

そう言って舞弥はキーを渡す。

「これは?」

「この城に特別に増築したガレージに保管してあるバイクのキーです。切嗣からの指示でミスターが車両関係を問題なく乗りこなせると聞きましたので用意したものです」

「例のあれは消耗品だから、ある程度移動手段は用意するに越した事は無いからね」

「なるほど、ありがたく使わせてもらうよ。あと連絡はどうする?」

「携帯で・・・と言いたい所だけど、生憎ここは通話圏外、使用する事は出来ない。念話でするしかない」

「了解、何かわかったらすぐに知らせるよ」

「頼む士郎」









そこから士郎の行動は素早かった。

すぐさまガレージに保管されていたバイクに跨り、ハイアットホテルに向かって出発、到着した時には夜も明ける直前の事だった。

近くに駐輪すると霊体化に気配を遮断し現場に急行する。

到着すると現場は騒然としていた。

何事かと話を聞いてみるとどうも現場から奇妙なオブジェらしきものが発見されたとの事だ。

そしてそれをレスキュー隊の現場主任がダンプカーに搬送後、そのダンプを運転、そのまま行方を眩ませたらしい。

奇妙なオブジェ・・・そして突然行方を眩ませた現場主任・・・

(確認する必要があるな)

そう判断すると士郎はすぐさまバイクの所まで戻ると霊体化を解除、走り去ったダンプカーの行方を追い始める。

士郎としては一日係の捜索も覚悟していたのだが、思いのほか早く発見できた。

三時間後、新都地区郊外に不自然に停車しているダンプを発見、すぐさまバイクを止めるや霊体化の状態で接近、運転席に人事不省の男性を確認した。

手早く確認してみると明らかな暗示の痕跡が見て取れる。

(おそらくランサーのマスターがこの人に暗示をかけてあの場から姿を消したか・・・)

士郎の推測を裏付ける様にダンプの荷台はものけの空、何も存在していなかった・・・

そこまで確認できた時点で士郎はその場から立ち去った。

警察に連絡を入れても良いかも知れないが、そうなれば事情聴取やらややこしいものになるかも知れない、男性には申し訳ないが、しばらくこのままでいて貰う事にした。

移動しながら一先ず士郎は切嗣に事の次第を報告する事にした。

(そうか・・・ランサーの潜伏先だけど・・・)

(さすがに範囲が広い、ここから絞り込むのは少し時間が掛かると思う)

(判った、そこについては舞弥に任せる。士郎、君は一先ず帰還してくれ)

(わかっ・・・)

その時だった。

重低音の爆音らしきものが士郎の鼓膜を叩いた。

音の方角を見れば点滅する煙が消える事なく宙を漂っている。

(士郎)

(爺さんも聞こえた?)

(ああ、方角からして教会からか?)

(だと思う。これから教会に行って来る)

(君が?アイリが使い魔を向かわせるから無理に行かなくても・・・)

(だけど、質問事があれば使い魔じゃあ出来ないと思うけど)

士郎の指摘にしばし黙り込んでいた切嗣だったが、

(士郎、行ってくれるかい?)

(ああ、感覚は共有しておくよ)

(頼む)

このようなやり取りの後士郎は教会に向かう。

当然バイクは教会から離れた場所に駐輪、霊体化、気配遮断を完璧にこなし正面から堂々と教会に入り信徒席の最後方の一番隅に座るや遮断と霊体化を同時に解除、そこで聖杯戦争の非常事態をを知る事となったのだった。









士郎が切嗣の意を受けて冬木全域を奔走し、その調査結果を携えてアインツベルンの城に帰還したのは間もなく暗黒の闇が全てを包み隠し、非常識と不合理の闘争が行われる舞台が整いつつある時間だった。

帰還して直ぐに士郎は切嗣達が会議を行っているであろうサロンに向かった。

「マスターただいま帰還しました」

「ああ、ご苦労だった。エクスキューター」

余所向けの態度と声で士郎が帰還を告げ切嗣もまた、感情の篭らない声で視線を向ける事無く形だけ労をねぎらった。

「で、最後に円蔵山だが、山頂の柳洞寺を中心に結界が張られている。参道に当たる石段しか何の障害なく侵入出来る経路は無い。セイバーその点には注意してほしい、アイリもセイバーをここで用いる事があった場合その事は忘れないようにしてほしい」

どうやらアイリスフィール達に今日までの間に調査した冬木一帯の地形について情報共有をしていたみたいだ。

「判ったわセイバー、なにか質問は無いかしら」

「・・・いえ、的確で判りやすい説明でしたキリツグ、貴重な情報感謝します」

アイリスフィールに水を向けられたセイバーは切嗣に頭を下げて一礼、感謝の意を示した。

しかし、その表情はニコリともせず、一礼も頭を軽く下げた会釈程度に過ぎず感謝の意も形式だけの様なものだったが。

やはり、未だにセイバーの中には士郎達に対する隔意があるのだろう、それを見てアイリスフィールは憂鬱そうな表情を浮かべる。

切嗣もそれに気付いていたが、特に気にする事も無く続いてキャスター陣営の対処について話を移した。

「キリツグ、私も使い魔を通して聞いていたけど全陣営キャスター討伐に動くとみて間違いないかしら?」

アイリスフィールの問い掛けに切嗣は直ぐに肯定する。

「ああ、そう見て間違いないだろう、運営側の提示した報奨はキャスター討伐に向かわせるだけの旨味がある」

基本、聖杯戦争における令呪は三つで減る事はあっても増える事は無い。

だからこそ令呪は各陣営における最終兵器として慎重な使用が求められる、考えなしに序盤で二つの令呪を浪費したランサー陣営の方がむしろ異常なのだ。

その最終兵器を一つだけであるにしろ増やせられる好機なのだ、動かない陣営は皆無だろうと切嗣は踏んでいた

「だが、僕達は少なくとも他の陣営が持っていないアドバンテージが三つもある。キャスターの真名とセイバーをジャンヌ・ダルクと誤認している、おまけにエクスキューターを眼の敵にしていると言うね。しかし、ジル・ド・レェ伯ね・・・よくもまあそんな狂人がキャスターとして呼ばれたものだ」

そう言う切嗣の口元には明らかな侮蔑がある。

「マスターも狂人みたいだし気性が合うんだろう。最悪の相性の一致だろうが」

そう応じる士郎の言葉にも容赦はない。

どちらにしても基本方針は既に決まっている。

「そんな事はどうでも良い。どちらにしろこちらにとっては好都合だ。探し回る必要なくキャスターがやって来るのを手ぐすね引いて待ち構えていればいい、こちらに誘ってやれば向こうが勝手にやって来て勝手に引っ掛かるだけだからね」

ここで待ちの姿勢を貫き、キャスターがやって来た所を士郎とセイバーの総力をもって叩き潰す。

念話で士郎と話し合い、計画を煮詰めて出来た基本方針に士郎も舞弥も頷く。

だが、それに待ったを掛ける者もいた。

「何を言っているのです!キリツグ、それでは遅すぎる!」

義憤に満ちた表情と声で異論を唱えたのはセイバーだった。

「そのような事をで手をこまねいていては無辜の民衆が、罪なき子供達の犠牲が増える一方です。何よりも奴の悪行はとてもではないが容認できない。こちらから討って出てキャスター討伐に向かうべきです!」

その声には誠意が込められていたし、ゆるぎない自信も同じ位込められていた。

おそらく自分の考えは絶対に正しい、そう確信しているのだろう。

「セイバー、確かに君の意見は正しい」

そんなセイバーに応じたのは切嗣ではなく士郎だった。

これはセイバーに自身の事を話す事が決定した時から決めていた事だった。

セイバーとの話し合いに関しては士郎が直接の窓口となると。

これは切嗣とセイバーの相性を考慮し士郎が提案した事だが、それを切嗣は苦い表情で了承し、切嗣も城でアイリスフィールに、その方針を語り、アイリスフィールはセイバーに説明、それぞれ了解を得ている。

当事者を含めて皆、切嗣とセイバーの相性が極めて悪い・・・そりが合わないと言うレベルを大きく超える程の・・・事は理解していたのでそれに関しては渡りに船とも言えた。

だが、セイバーとしては切嗣よりはまだましと言う事で了承しただけに過ぎず、切嗣、アイリスフィールはこれによって士郎に更なる負担を強いる事に忸怩たる思いを抱かざる負えなかった。

「俺としてもあの下種野郎が同じ時間に同じ場所で呼吸していると考えると反吐がでる。出来る事ならばすぐさま奴の首をすっ刎ねてやりたい位だ」

「そうです!ですからこそキャスターを討つべく行動に!」

賛同者を得たと思ったのだろう、セイバーの言葉にも先程以上に力が篭る。

「だが、セイバー、それを実行に移すには二つ不安要素があるんだ。マスターとも徹底的に話し合ったけどそれを解消する事は結局出来なかった。だからこそ、次善の策としてここにおびき寄せて待ち受ける作戦を取ったんだ」

だが、士郎はそれを否定した。

「な、なんだと!」

思わず声を荒げて士郎に詰め寄る。

「どう言う事だエクスキューター、こうしている間にも犠牲者が増えるのだぞ!多少の不安要素がなんだと言うのだ!」

ここまで憤る筈も無いのだが、意識した訳ではないのだろうが士郎の一度は肯定しておいて直後に否定する言動がセイバーの内心に燻っていた憤懣に再び火をつけてしまったようだった。

「落ち着いてくれセイバー、これからその不安要素を話す。それが終わってから反論や代案を提示してくれないか?その内容によっては作戦を修正する事が出来る。それからでも遅くは無いと思うが」

「っ・・・いいだろうエクスキューター、教えてほしいその不安要素を」

「ああ」

一先ず落ち着いた様子のセイバーをやはり真っ直ぐ見据えてつつも内心では重々しいため息をついていた。

正直言って士郎が抱いている懸念がセイバーに受け入れられるかどうか不透明であるからだ。

いや、一つ目は冷静になればセイバーも受け入れるだろう、しかしもう一つは・・・

(考えても仕方ない事だ。どちらにしろこちらの出来うる限りの誠意をもって説明する。それしか現状俺にとれる道は無い訳だからな)

そう腹を括り、セイバーを改めて見据える。

しかし、ここにいる誰もが知る由も無かった。

この数時間後起こる、第四次聖杯戦争第二戦において士郎、切嗣、アイリスフィールとセイバー、双方の間に生じる亀裂が明確になる事に。

そしてこの会議においてその亀裂のきっかけが生まれてしまった事に。


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