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| トップへ戻る ※創作したり雑談したり、のページ。作品更新は超ゆっくりペースです。すみません。※ 11/20 沈艦で短いの→読めてない幕末明治本読みつつ山県と桂で→読めてないry南北朝で
| 予定。 他犬夜叉で短いのとローマでも何か書けたらいいな。
| 11/7 あげた。またちょっと整理。
| アグリッパ2巻きたー!美少年がおるでー シスコンブラコンうめえ!
| 11歳ではあまり濃厚なプレry だが問題ない!
| 11/7■「兄」■ ジャンル:戦国 登場人物:竹中久作、斎藤飛騨、安藤守就他
| とたとた、と廊下を駆ける音が、一つ所に集まっていく。 「おい見たか、あの御仁の顔をよ。」
| 「見たとも。飛騨殿が、いつも嗤っておるもの。」
| 「見ずばなるまい。」
| 稲葉の城の小姓達が、二人三人集まって、くすくすと笑いつつ、囁き合っている。
| 「どのような御仁かと思うた。」
| 「青瓢箪とな?」
| 「そうかもしれぬが。」
| 「嫉妬よ、嫉妬。先代の殿が、お小姓であったあの方と飛騨殿とを並べて、えらく片贔屓にあの方のことばかりを褒めたというでは | ないか。」
| 「怨念が籠っておるものな。ねちねちと。」
| 「曲事多きお方よのう、飛騨殿も。」
| 「しかしお気の毒よな、あの御仁……竹中殿もよ。殿の寵が飛騨殿の上にある内は、冷や飯を食わされること必定よ。不思議と、殿 | も平素から、竹中殿の話を聞くに冷淡な……嫌っておられるのだろうかと感じ取られる節がある。」
| 前髪を残した少年達は、まことに姦しい。花びらのような唇をひらひらと、よく動かす。
| 「やあ、待て。」
| 世の中の悪意というものを、彼らは知らない。何事に対しても無邪気で、裏側というものがあることを知ろうとしないから、上っ面 | だけの行動を取って、だからすこぶる無責任である。
| 「久作殿だ。」
| 彼らはみな口を噤んで、自制するかに見えた。久作は、竹中家の家督を継いだ半兵衛重治の実弟だからである。
| 立ち姿の清らかさは、城中一であろう。兄とはまた異なる芳香を放っていると、褒めそやす口も多いのだが、当人はいたって質朴な | 人柄で、鼻にかける風もない。年長者に対しては従順で、少小の者に対しては包み込むように優しい。可愛がられ、慕われる。小姓 | 達の間でも、彼に悪意を持っている者など、まずはいないと言ってよいのだが。
| 「久作殿、兄上はもうお帰りか?」
| 「いや、まだでござる。それがしは……。」
| いつも真っ直ぐな瞳が、少し躊躇う。
| 「や、分かった。」
| 察しのよい一人の小姓が、これを安心させるように笑った。
| 「油を売っていつまでも帰らぬ我らを、迎えに来られたのであろう。」
| 「何、油とな?」
| 「おお、すみませぬ。我らついつい。」
| 「久作殿の兄上がお出でになるということで。みなこの場にいる者は、お顔を知りませんでな。」
| 「飛騨殿がいつも……いろいろと。」
| なあ、と少年達は顔を見合す。
| 久作は、頭を下げた。下げる必要はなかったが、心情として、下げざるを得ないものがあった。その事についてはこれまでに、とい | う程度の意味が、言葉にすればあったろうか。
| 「飛騨殿は、貴殿にも意地悪なことを仰ったりするのですか?」
| 「いやいや。」
| 久作は、苦笑する。中でも幼い小姓の言うことであったから、あまり強(こわ)い態度には出られない。そんなことはない、あの方 | は元来、誰に対しても少しく棘を含んだ物言いをされる方だ、意地悪というのではなくて、あれは口癖でいらっしゃる、と言いつつ | みなの背を押し、詰め所へ戻るよう促したのだが、そのように優しい態度であるから、社会性というもののすこぶる未成熟な少年達 | には、いよいよ放埓な態度に歯止めがかからなくなる。
| 「久作殿は、兄上のことをどう思われているのですか?」
| 「どう、とは。」
| 「兄の、半兵衛殿と申される方は、病弱で、万事に慎ましい方で、なよやかなご婦人のような……ということを聞きましたので。竹 | 中家の中で、家督を継ぐのは久作殿の方が良いのではという、そんな話もあったやに、聞いているのですが。」
| 久作は、笑顔ではあった。年端の行かぬ子達に、怒るつもりはなかった。
| 「これ、そういう話はあまりしてはならぬと、父上が仰っていた。」
| 幼い内には幼いなりに、少しは分別臭いことを言う者がある。
| 「でも。」
| 「久作殿が如何に立派なもののふでいらっしゃっても、長幼の序を乱すというのは、やはりあまりよくないことよ。」
| 「兄である人が、阿呆であっても?」
| 「阿呆であったら……。」
| 言葉を、失いかける。
| 「それは、阿呆の度合いによるのだ。」
| 「度合いとな。」
| 「そう……。」
| 久作は、そっと溜息を吐いた。
| 「さあさあ、戻りましょう。」
| 久作殿、とまた子ども達は言う。先ほどの問いに対して答えを貰っておらぬという、ただそれだけの、知りたがるばかりの声である。
| 「兄上のことを、どう思われているのですか?」
| 兄、半兵衛重治は、ひどく久作のことを可愛がっている……と久作自身、思う。歳が近いために、何か特別に彼の人の琴線を打つも のがあるのだろうか、と思うが分からない。久作とて、兄は慕わしいが、時折り、戸惑う。
| 兄、半兵衛は、これは世上に言う如く、婦人の如く優しい容姿をした人である。皮膚は薄く、血管が透けて見える。張り付く骨はと | びきり細く、女といえどもこれほど女らしい姿をした者は、実際のところあまりあるまいと思われる。
| (あの人は、綺麗な人だ。)
| 七つ八つになったころ、突として、そんなことを思った。
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