顧問秘書の嘆き
                 

〜第1章〜

 文化部にとって唯一にして絶対の超重要な学校行事とは何でしょうか?体育祭?それとも強歩大会?いやいや、「文化祭」である。 そしてその後に「打ち上げ」があるのもまた自然の摂理である。
 無論、この地学部も例外ではない。この文化祭で引退する一癖も二癖もある3年生(部長の小野木先輩、副部長の小林先輩、企画課長の 迫田先輩、会計の岡田先輩、総務課の古川先輩の5人)の慰労会も兼ねて、新座駅近くのタナボウルで打ち上げが行われた。 1・2年生からは鈴木先輩、大谷先輩、三田崎、塩野が出席した。こちらも3年生に勝るとも劣らぬ曲者ぞろいだ。当日は小雨が 降っていたが、そんなもので我等地学部がひるむワケがない。俺は岡田先輩と待ち合わせ場所の新座駅まで自転車で行く約束をしたが、 今後雨が本降りになるような気がして(地学部の勘?)電車で新座駅に向かった。岡田先輩はやはり自転車で行くという。ただの気のせいで 済んだらいいんだけど……。

 ここでの誤算は2つあった。1つは、駅と駅の間が思ったよりもずっと狭かったため予想よりかなり時間が短縮された事、もう1つは、 うまく電車が連絡していたことによって駅での待ち時間が皆無に等しかった事。結果的に待ち合わせ時刻の20分前というトンでもない 時間に新座駅に着いたのだった。1人で駅前にボーっと立っているのもマヌケなので、その辺をぶらぶら歩くことにした。暫くしてから 戻ってくると、そこには鈴木先輩と大谷先輩が2人で座っていた。

   塩野      「どーもこんにちは〜」

 こちらに気付いたようである。
   鈴木&大谷先輩 「あー、少年だー」
   塩野      「ずいぶん早いんですね」
   大谷先輩    「電車が早く来たから」
   鈴木先輩    「少年はもっと早いじゃん。どうしたの?」
   塩野      「更に電車が早く来たからです」
   鈴木先輩    「な〜んだ、似た者同士じゃん。あはは〜」

 そうやって話せたのも5分位であった。なぜなら、三田崎が現れたからだ。こいつも早いなあ。俺は三田崎が加わってからも 少し喋ったが、女子3人の話についていけるはずもなく、アッと言う間に蚊帳の外。嗚呼、ボクって可哀想だな……。
 定刻よりちょっと前ぐらいに迫田先輩がやってきた。(やっと話ができる相手ができたぞ!)との思いとは裏腹に先輩は俺の前で曲がって 向かいのコンビニに………。この状況、察してほしかったな…
……。
 その後すぐに小野木先輩と古川先輩がひょっこり現れた。この2人の参加によってトークがますます熱を帯びたのだが、特に何も 起きなかった。

   迫田先輩  「全員揃ったよね?そろそろ行こうか」
   塩野    「え?まだ岡田先輩と小林先輩が来てませんよ」
   小野木先輩 「小林君ならそこにいるよ」
   小林先輩  「ははは……どーもー」
   塩野    「あれ?いつの間に?」
   小林先輩  「さっき着いたんだよ」

  全く彼の気配に気付かなかった。俺もまだまだ修業が足りないようだ。

   迫田先輩  「後は岡田君か。そういえば塩野と一緒に来るって言ってたけど、どうなってるんだ?」
   塩野    「ああ、雨が降ってたから1人だけ電車で来たんですよ。先輩は自転車で来るって言ってましたけど……」
   迫田先輩  「え!?自転車!?雨降ってんのに!?」
   塩野    「一応止めはしたんですけどね………」

 そうした矢先に止みかけた雨が激しく降ってきた。出発前の悪い予感は見事に当たったようだ。俺の場合、良い予感はからっきし当たらないが、悪い予感は百発百中といっていいほど当たるのだ。現に情報Aの授業の際、嫌な予感がすると大抵1回はフリーズしたり、 ひどいときは自分のパソコンのデータが全てぶっ飛んだこともあった。その時はなんとか根性で復帰したのだが………。
 本降りになってから数分経った時、岡田先輩が弾丸のような速さで突っ込んできた。駅前なのに危なっかしいなぁ。彼の話によると、 最初のころは雨が弱かったので「行ける!」と思ったがもう少しで着くころに本降りになったので焦って急いだらしい。
  何はともあれ全員揃ったので、まずはタナボウル近くの安楽亭へと足を運んだ。勿論焼肉を食べるためである。1テーブルで9人では 多すぎるため、2テーブルに分けた。メンバーは、迫田先輩・小林先輩・大谷先輩・鈴木先輩・三田崎と、小野木先輩・古川先輩・岡田先輩 ・塩野である。(運動前になんちゅーモンを食うんだか………)そう思いながらも、結構な量をあっさり食べてしまった。俺の座っていた テーブルの方は早くに食べ終わって暇だったため、俺と岡田先輩はテーブルに設置されている炭火で遊んでいた。内容は特に書かないが、 店にとって迷惑な行動であったことは間違いない。
 食事も終わり、この打ち上げの主眼のボウリングをすることになった。ボウリングを一緒にやるメンバーを決めるのに一悶着したが、 結局、安楽亭のメンバーのまますることで落ち着いた。俺は小5以降ボウリングをやっていない。1ゲームの第1投でストライクを決めて 拍手喝采(?)を浴びたが、やはり5年の月日は長かった。その後はたまにスペアが出るくらいで狙ったところに当たらないのだ。 某先輩曰く、それがボウリングの面白さでもあるらしい。
 1ゲームが終わり、一息ついたら2ゲーム目に突入。しかし調子は戻らずじまいだった。2ゲームで切り上げる予定だったらしいのだが、 岡田先輩が皆の目を盗んで開始のボタンを押したため3ゲームに再突入。まったく油断も隙もありゃしない。
 5年間やってなかったボウリングの割には、3位(4人中)という成績だった。ってブービー賞じゃん!!
 そしてボウリングも終わり、打ち上げの最後を締めくくる最重要(?)プログラムの「迫田企画課長による新役員の発表」があった。 なんでも、新役員決めは、部長最後の特権だとか。なぜ部長ではなく迫田先輩が発表するのかは不明だが、おおかた自分の口から言うのが 面倒だったんだろう。

  迫田先輩  「えーこれから新役員を発表しまーす。拍手〜!」
  3年生   「イェ〜〜〜イ!」
  1・2年生 「…………………」

 盛り上がる5人の3年生に対し、沈黙する1・2年生4人。当然だ。このようなことに自分から「私がやります!!」みたいなことを 言うのは生徒会長タイプの人間か、目立ちたがり屋のどちらかだろう。あいにく今年度の地学部にはそのような人材は持ち合わせてはいない のだ。今回の1・2年生は6人(2年2人、1年4人)だったが、実質4人でやることになる。最低でも役員は部長・副部長・会計の3人。 2年生2人はそれぞれ部長・副部長となることは確実だ。となると会計は俺と三田崎、2人の内のどちらかとなる。確率は50%だ。

  迫田先輩 「部長は………鈴木!副部長は………大谷!なお、企画課の業務は副部長に委託されますのでよろしく」
  大谷先輩 「そんなのってないですよぉ〜。私出れないから副部長なんて務まりませんよ?」

 (出れない≠ナはなく出ない≠フでは?)というツッコミが口から出かかったが、かろうじて飲み込んだ。うっかり言うと後が恐い からだ。
 そして運命の時が来た。

  迫田先輩 「会計は………三田崎!」

この瞬間俺は心の中で歓喜の声をあげたのは言うまでもない。だが、

  迫田先輩 「塩野1人だけ役職が無いのも不公平なので顧問秘書に任命します!」

 先ほどの50%は100%の間違いだったようだ。先輩達の心のこもった暖か〜い拍手を受けながら、(はぁ?今何と?顧問秘書って?) などの疑問が頭の中でぐるぐる回ったが、無理やり意識の外へと追い出した。

  迫田先輩  「では旧部長の小野木君、一言どうぞ」
  小野木旧部長「え?ああ……えーと」

 突然振られたために反応できないでいるようだ。おそらく予定になかったのだろう。その時俺は少し冷静になって考えてみた。(待てよ? 顧問秘書という役職になったものの、会計よりはずっと簡単なはず。せいぜい雑用だ。運が良いじゃないか。ラッキー!!!)

  小野木先輩 「えー、これからはいろいろな活動をして出来るだけ部員を増やして欲しいと思い
         ます。最低限つぶさないようにして下さい。あと、天文台もせっかくあるのに勿
         体無いからどんどん使っちゃって下さ〜い」

 旧部長の一言で打ち上げが終わり、小林先輩・岡田先輩・古川先輩の3人は近くのゲーセンへ遊びに行き(俺も誘われたが指が痛かった ため断った)他の方々は家に帰る事となった。帰りの電車で会計にならなかったのが嬉しかったので、三田崎をからかってみた。

  塩野   「会計頑張れよー。かなり重要だからさー」
  三田崎  「いいなぁ〜。楽そうだし」  
  迫田先輩 「でも顧問秘書もそれはそれで辛いかもよ?雑用とかだろうし………」
  塩野   「まあそのくらいは目をつぶりますよ。会計に比べりゃ楽なもんですから」
  迫田先輩 「さあ…どうだかねぇ」
  塩野   「って、あなたが任命したんでしょうが!!」
  迫田先輩 「任命したのは小野木君だって。顧問秘書っていう役職は俺が作ったけど」
  塩野   「そうですか。あーあ。これから大変だなぁ」
  三田崎  「オメェが言えた義理か!?ところで会計ってどうやるんですか?」
  迫田先輩 「ああ、それなら岡田君に聞いてみな」

 このように先輩に向かって話せるのもおそらくこの部活だけだろう。(ある先輩は「〜先輩って呼んでくれればタメでもいいよ」 と言ってはいたが当然敬語で話している)ここに所属している先輩は一癖も二癖もあり、たまに変な事を口走るため、このようなツッコミが 必要不可欠なのだ。これは先輩に限ったことではなく、俺も変な事を口走るたびに鋭いツッコミ攻撃を受けている。
 そうこうしているうちに、志木に着いた。2人と別れ、1人で家に帰った。その途中、私は会計に選ばれなかった事で余裕ができ、 有頂天になっていた。だが、それはただのぬか喜び、蜂蜜よりも甘い考えだった事を悟ったのに一週間も経たなかったある日の事である。





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