身内を通報した話

「縁は切ってるんですが、別居中の兄が金の無心に実家に来てピンポン鳴らしたり勝手口ガチャガチャ したりしてるんですけど、こういう場合何か対応してもらえるものですか?」

1月1日、僕はそんな電話を警察に入れた。 発端は昨年末、暮れも押し迫った大晦日。仕事中の僕に母からメールが入った。

「兄がうちに来るってメール来たけど、返信した方がいいかな?」

この時のストレス値を測っていたならば、値は瞬時に振り切れたであろう。
年末に実家と言えど帰省ではない。借金の申し込みだ。 ここ1週間ほど兄は「ヤバイところから金を借りていて、○日までに25万返さないとヤバイので貸して欲しい」 に始まり、とにかく時間がない、返さないと本当にヤバイ、等々、お前の日本語の方がヤバイ文章を 日に何通も母に送ってきていた。振り込め詐欺さながらの言動である。 返ってきた試しがないので実際詐欺みたいなものだが。
しかし夏に金をせしめるために吐いた嘘が相当に逆鱗だったらしく、 母通話は着信拒否済、メールは設定メニューが見当たらず受信はするがことごとく既読無視していた。 ちなみに僕がメールの内容を知っているのは、母から都度見せられたからですよ。

とりあえず「金はないし来ても家に入れない。来たら警察に通報する、とでも返しておいたら」と返信。 警告したところで来るか来ないかは半々だが、一応効果があったのか、この日は来なかった。

が、一夜明けた元旦。文字どおり元日の朝。性懲りもないメールが届く。

「直接お願いに行きます。一生のお願いです。必ず返しますので25万用意しててください」

一生のお願い。何生目だ。ナインライブズか。ヘラクレスなのか。
お願いして金がちゃりちゃり湧いて出るなら、誰だって親を拝み倒すであろう。もちろんそんな奇跡の力はないし、 メールでなく直接頭を下げるのが筋ってもんだろうとかそういう次元の話でもない。 「ない」というシンプルな2文字が伝わらないこの脱力感をご理解いただけるだろうか。

一応拒絶の表示で玄関は施錠しておいた。兄は勝手に作った合鍵を持っているはずだが、 忘れたのかなくしたのか(なくしたならそれも迷惑な話だ)、チャイムを鳴らしたり 勝手口を開けようとしたりドアポストを覗いてみたりする物音が続いた。完全無欠の不審者。

かくして僕は不審者が車に戻って待機している間に最寄の警察に電話し、冒頭の説明をした。
電話口の若そうな声の相手は、兄が激しく家に入れろアピールをしているかのように受け取った感があった。 後々虚偽の通報と言われても困るので、身の危険はないが居座られてただただ迷惑なのだと何度かくり返す。
「・・・少々、お待ちください」
困惑が見える保留ののち、警官が来てくれることになった。
「あ、緊急性はないので回転灯とサイレンはなしでお願いします。近所迷惑になってしまうので」
「お騒がせして近所に迷惑」ではなく「近所が集まってきてこっちが迷惑」の意味で注文をつける僕。 できれば覆パト希望だが、さすがにそこまで図々しいことは言えない。

数分後、リクエストに答えて静かにパンダが到着。正月早々申し訳ない。が、こっちも切実だ。 不法侵入でしょっぴいてもらうのがベストだが、現実にそこまでは望めないだろう。期待もしていない。
上記のとおり話が通じない上、借りるまで帰らないしつこさに貴重な休みを浪費したくない。 事態を最短かつ最小のダメージで解決するには、第三者を挟んだ方がいいと考えたのだ。 僕達と丸っきり無縁(ここ結構重要)の第三者。 公正に事態を見て、かつ万が一の際にあらゆる意味で力を発揮してくれる警察。超適任。
ちなみに別居中の親族だろうと正当な理由なく敷地に侵入、もしくは退去命令に従わない場合は 住居侵入罪を問えます。身内関係がギスギスしている人は覚えておいて損はないかと。

実際全員で卓を囲むことはなく、僕と親サイド、兄サイドで別々に事情を聞かれ、兄と会うことはなく 「もう来ません」と帰って行ったのですが。
兄と話した年輩の警官によると、兄は本当に通報するとは思わなかったと言ったらしい。 だから警告したやろがい。俺はやると言ったらやる。ただの脅しだと思ったら痛い目見んぞあぁ? (セリフが完全に悪役)
きっと年輩警官殿は兄の言い分を聞いた上で、いい歳なんだから家族に迷惑かけちゃダメだよーとか、 警察24時でよく見る酔っ払った中年オヤジに対するように優しく冷静に諭してくれたと思うけども、 多分それ1割も響いてねーですよ。人の話は理解できないし、反省は3歩歩いたら忘れるから。 定評あるから。帰ったのは通報されたショックか警察にビビッたかのどちらかに違いない。 「もう来ません」がいつまで効力を保つことやら。とりあえず追い払えたのでよし。
また何かあったら110番してください、と言い残して警官達は帰って行った。ありがとう警察。 でも110番は説明が面倒くさいから嫌いです。

さてこの辺で通報されてしょんぼり帰った兄に同情し出した人もいるのではないでしょうか。
「助け合うのが家族だろ」と言う人もいるかもしれない。それは正論です。そのとおりです。 ならば助けを求めるばかりで助けてはくれない人間は助け合っていないのだから家族に当たりませんよね?  今回の件だけでなく、僕よりずっと常識的な世代の親に死ねばと言われるほどに今まで色々あったわけで、 いつか立ち直ってくれるはず、と期待するターンはとうの昔に終わっているのですよ。

精神が削れに削れた数分後、母にメールが届く。

「帰るガソリン代がないので1万だけ貸してください」

ほら反省してない。さっきの今でよくもまあそんなことが言えたもんだ。
この1万を貸すか放置するか。親と検討し、翌日、母が振り込んで(家には来なかったらしい) 絶縁メールをたたきつけた。すぐさま届いた返信メール。
「もう金のことで連絡しませんので縁は切らないでください。悲しいです(;_;)」
いやもうそのターンも終わってるし。無理。あとその顔文字が! 顔文字がまた腹立つわけで!!

さらその数日後には「来月からやりくりするので家賃と電話代貸してください」だってさ。
金のことで連絡しないと言ってから10日も経たずにこのザマ。しかし全然意外でも何でもないんだわ。 所詮その程度と知っているから。

僕「メール受信拒否設定、本体でなくサイトでできるみたいだよ」
母「頼む」

というわけでメールを拒否。玄関の鍵も交換した。 新年早々、何ゆえこんな手間と精神疲労を負わねばならぬのか。

アパートの保証人を降りる方法と、ないと思うけど法律上で縁を切る方法をご存知の方、 情報お待ちしております。




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