外務省がジョージ・ワシントン歓迎のコメントを発表
2008年9月13日 ブログ『現地闘争本部ニュース』
1.原潜事故が起きたばかりなのに。
米海軍が、原子力空母ジョージ・ワシントンの横須賀入港日を9月25日と発表したことは、昨日のブログでお伝えしました。
この件に関して外務省も昨日(9月12日)、プレスリリースを発表し、ジョージ・ワシントンの横須賀入港を歓迎しています。
8月には日本にも寄港していた原子力潜水艦ヒューストンの放射能漏れ事故が明らかになりました。ヒューストンの放射能漏れについては、未だに明確な事故原因が発表されていません。こうした中でなぜ、外務省は原子力空母の入港を歓迎できるのでしょうか。
以下では原子力空母の安全上の問題点を、再度簡単に見ていきます。まず、外務省が発表した、歓迎のプレスリリースを読んでください。
(以下、外務省のサイトから、プレスリリースの転載)
●米原子力空母「ジョージ・ワシントン」の横須賀入港
平成20年9月12日
1.本日(9月12日)、米海軍は、9月25日(木曜日)に原子力空母ジョージ・ワシントンが横須賀に入港することを発表した。
2.米国政府は、原子力艦の安全に関する従来のコミットメントを厳格に遵守し続けることを再確認し、すべての原子力艦について具体的な措置及び厳格な基準によりこれを維持することを改めて確約している。政府としても、引き続き、その安全性確保のため万全を期する考えである。
3.政府としては、我が国周辺に米海軍の強固なプレゼンスが引き続き維持されることは、我が国の安全及び地域における平和と安全の維持に寄与するものと考えており、今回の「ジョージ・ワシントン」の入港を歓迎する。
◇原文はココ↓
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/h20/9/1183281_915.html
2.これまでに米国が言ってきたこと。
このブログでも何度か紹介しましたが、米国政府は日本政府に「合衆国原子力軍艦の安全性に関するファクトシート」と提出しています。この中で米国政府は、海軍の原子力艦船からは放射能は絶対に漏れださないとして、以下のような説明をしています。少し長いのですが、関係部分を引用します。
(以下、外務省のサイトから、ファクトシートの引用)
●「合衆国原子力軍艦の安全性に関するファクトシート」
「原子炉に関係する何らかの問題が生じるという極めて想定し難い事態においても、少なくとも四重の防護壁が放射能を艦船の中にとどめる役割を果たす。これらの四重の防護壁とは、燃料自体、燃料を収納する原子炉圧力容器を含む全体が完全に溶接された一次系、原子炉格納容器、及び船体である。商業炉にも同様の防護壁が存在するが、任務に根本的な相違があるため、原子力軍艦の防護壁は、民生用の原子炉のものと比べ、はるかに頑丈で耐性が強く、また、はるかに慎重に設計されている。
合衆国海軍の原子炉の燃料は、固体金属である。燃料は、戦闘の衝撃に耐えられるように設計されており、燃料中で生成される核分裂生成物を放出することなく、重力の50倍以上の戦闘衝撃負荷に耐えることができる。これは、合衆国の商業用原子力発電所の設計に際して用いられる地震衝撃負荷の10倍以上である。燃料は極めて頑丈に設計されているので、燃料中の核分裂生成物は、一次冷却水の中には決して放出されない。このことは、商業炉との顕著な相違点の一つである。商業炉では、少量の核分裂生成物が燃料から一次冷却水中に放出されるのが通常である。
全体が完全に溶接された一次系は、放射能の放出を防ぐ第二の堅固な金属の防護壁としての役割を果たす。一次系は、炉心を収納する極めて頑丈で厚い金属構造である原子炉圧力容器と一次冷却水の循環パイプによって構成される。これらは、極めて厳しい基準に従って堅くかつしっかりと溶接されており、加圧された高熱の水を一次系の中に閉じこめる単一の構造体を構成している。一次冷却水を循環させるポンプは、密閉された水没型のモーター・ポンプである。これは、ポンプが、全体が完全に溶接された一次系の金属の防護壁の内側に完全に収まっていることを意味する。このポンプは、外側から電磁力によって操作されており、ポンプに動力を供給するために一次系の外壁に穴を開ける必要はない。いかなる回転体及びそれに付属する漏水防止部品も、金属の防護壁を貫通していない。一次系からはいかなる計測可能な漏水も発生しないことが確保されるように設計されているが、そもそも一次冷却水中には、極めて微量の放射能しか存在しないことは留意されるべきである。先述のとおり、いかなる核分裂生成物も燃料から一次冷却水中には放出されない。一次冷却水中に存在する放射能の主な線源は、原子炉冷却水により運搬され、原子炉の燃料部分を通過する際に中性子によって放射化される極めて微量の腐食物である。このような放射化された腐食物からの放射能の濃度(グラム当たりのベクレルの値)は、一般的な園芸用肥料から検出される自然放射能の濃度とほぼ同じである。合衆国海軍は、いかなる予期せぬ事態が発生しても、これが検知され、迅速な対応がなされることを確保すべく、原子炉冷却水中の放射能のレベルを毎日モニターしている。
第三の防護壁は、原子炉格納容器である。これは、特別に設計され建造された高強度の構造物であり、その内部に全体が完全に溶接された一次系及び原子炉が位置する。仮に一次系において液体又は圧力が漏れるようなことがあったとしても、格納容器は、それらが容器の外に放出されることを阻止する。
第四の防護壁は、船体である。船体は、戦闘における大きな被害にも耐えることができるよう設計されている極めて頑丈な構造となっている。原子炉格納容器は、艦船の中心部の最も強固に防護された部分に位置している。」
(引用、終り)
◇原文はココ↓
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/pdfs/kubo_jyoho_03.pdf
3.原潜ヒューストンの放射能漏れ事故
さて、絶対に放射性物質が漏出しないはずの原子力艦船から、放射性物質を含んだ冷却水が漏れだしていました。8月1日に米海軍の発表で明らかになった、原子力潜水艦ヒューストンの事故です。この事故に関して米国政府は外務省に、「最終報告」を通報しています。その概要は、以下のとおりです。
(以下、外務省のサイトから、「原子力潜水艦「ヒューストン」の放射能漏洩事案(米側の最終報告通報)」よりの引用
●「米原子力潜水艦「ヒューストン」の放射能漏洩事案に関し、米側より、日本側の累次の申し入れを受け、本29日午後、在京米大ズムワルト首席公使から西宮北米局長に対して、途中報告(8月7日)後も継続していた原因究明及び再発防止策等に関して説明があるとともに、現時点で日本側に提供できるすべてのものであり、更なる情報提供を行う予定はないとしつつ、最終報告(インフォメーション・シート)の通報があった。ズムワルト公使の説明及び報告の概要をとりまとめれば以下のとおり。
(1)今回、「ヒューストン」から微量の放射能が放出された可能性があるとされた原因は、閉じられたバルブの1つからの水の染み出しであった。これは、米海軍の厳格な設計基準を上回る少量の染み出しであり、設備の状態に関する極めて詳細な記録を2004年まで遡って検証した結果、2006年6月から2008年7月まで起こっていたとの結論に至ったものである。こうした例は過去50年以上存在しなかった。
(2)染み出た水に含まれる放射能は、微量の酸化金属(コバルト)によるものであり、その濃度は、海水中に自然に存在する放射能の濃度と同程度である。このような微量の放射能は、人間の健康、海洋生物あるいは環境に対して悪影響は及ぼさない。日本への寄港の際に放出された可能性のある放射能の総量は、一回のX線胸部撮影から受ける放射能の量を下回る。
(3)米海軍は、「ヒューストン」が再出港する前に、バルブの厳格な性能基準が満たされることを確実にすべく措置を講じている。
(4)米国政府は、原子力艦の安全に関する従来のコミットメントを厳格に遵守し続けることを再確認し、すべての原子力艦について具体的な措置及び厳格な基準によりこれを維持することを改めて確約する。
政府としては、今回の報告により、我が国の平和と安定に重要な役割を果たす米原子力艦の安全性が再確認されたと考えており、引き続き、その安全性確保のため万全を期する考えである。
(引用、終り)
◇原文はココ↓
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/h20/8/1183055_914.html
上記のプレスリリースをさらに要約すると、次のようになるでしょうか。
(1)原子力潜水艦ヒューストンから、放射性物質を含む冷却水が漏れだした。
(2)これは過去50年間無かった事故。
(3)漏れ出したの「微量の酸化金属(コバルト)」だが、人体に影響はない。
(4)ヒューストンは再出港前に、バルブを修理した。
この「最終報告」では、放射能が漏出した部分が、1次冷却水系なのか、2次冷却水系なのか、なぜバルブが緩んだのか、どのような対処がなされたのか――など、肝心なことは何も書かれていません。
ところで「ファクトシート」には、「一次冷却水中に存在する放射能の主な線源は、原子炉冷却水により運搬され、原子炉の燃料部分を通過する際に中性子によって放射化される極めて微量の腐食物である。」という記述があります。2つの文書を合わせて読むと、ヒューストンから漏出したのは、一次冷却水に存在、放射化された腐食物、ではないでしょうか。
4.「ファクトシート」の理論と、ヒューストンで実際におきたこと。
米国政府は「ファクトシート」の中で、1次冷却水の漏出が起こらないことを、重ねて強調しています。「ファクトシート」から、1次冷却水に関する部分を、再度引用します。
●全体が完全に溶接された一次系は、放射能の放出を防ぐ第二の堅固な金属の防護壁としての役割を果たす。一次系は、炉心を収納する極めて頑丈で厚い金属構造である原子炉圧力容器と一次冷却水の循環パイプによって構成される。これらは、極めて厳しい基準に従って堅くかつしっかりと溶接されており、加圧された高熱の水を一次系の中に閉じこめる単一の構造体を構成している。一次冷却水を循環させるポンプは、密閉された水没型のモーター・ポンプである。これは、ポンプが、全体が完全に溶接された一次系の金属の防護壁の内側に完全に収まっていることを意味する。
●一次系からはいかなる計測可能な漏水も発生しないことが確保されるように設計されている
●合衆国海軍は、いかなる予期せぬ事態が発生しても、これが検知され、迅速な対応がなされることを確保すべく、原子炉冷却水中の放射能のレベルを毎日モニターしている。
しかしヒューストンの放射能漏れ事故に関する最終報告では、
(1)1次系には冷却水を外部に放出するためのバルブがあること。
(2)そのバルブから冷却水が染み出しても、感知できないこと
があきらかになりました。
米国政府が日本に伝えた「ファクトシート」に書かれている、原子力艦船の原子炉の構造は、虚実・ウソ、だったとも考えられます。
5.事故発生後、安全性は確保されたのか。
最終報告によれば、ヒューストンの放射能漏れは、50年間で初めて起こした事故です。しかし米海軍は、ヒューストン1隻のバルブを締めなおすだけで、対処を終えてしまいました。
空軍や海軍の戦闘機が構造上の欠陥から事故を起こした時には、まず保有する同一機種全機の運用を停止します。そのうえで事故原因の究明にあたり、原因が判明した後には同一機種全てで事故原因個所の点検・修理を行います。
ところが今回の放射能漏れ事故では、ヒューストン以外の原子力潜水艦や原子力空母の点検作業は行われていないようです。
9月25日に横須賀にやってくるジョージ・ワシントンも、放射性物質を艦船外に放出するバルブが緩んでいるかもしれません。なにしろジョージ・ワシントンは、禁煙エリアでタバコを吸った船員がそのタバコをポイ捨てし、12時間にもわたる大火災を起こしてしまう船なのですから、日常的な整備・点検が十分に行われているとは、とても考えられません。
6.問題は外務省。
政府間で取り交わされた文書に、虚偽・ウソと思われる記載がありました。しかもその虚偽・ウソと思われる記述は、原子力艦船の安全性にとって、最も重要な炉心と冷却系に関してなのです。
それにもかかわらず外務省は、ジョージ・ワシントンの入港にあたって、「米国政府は、原子力艦の安全に関する従来のコミットメントを厳格に遵守し続けることを再確認し、すべての原子力艦について具体的な措置及び厳格な基準によりこれを維持することを改めて確約している。」と発表してしまいました。
市民グループや米国専門家の調査によって、横須賀に停泊中のジョージ・ワシントンがメルトダウン(炉心溶解)を起こした場合は、その放射性物質は栃木県の宇都宮市までとどき、120万人が死亡するという結果が出ています。関東一円の市民の安全よりも、日米安保を優先する外務省を、このまま放置してしまって、いいのでしょうか。
新聞やテレビは、自民党総裁選挙のニュースで一色です。しかしその陰に隠れて、日本を滅亡に追い込むかもしれない、危険な原子力施設が横須賀にやってくることを、それもあと2週間でやってくることを、私たちは真剣に受け止めなければなりません。