原子力空母火災事故と、原子力潜水艦放射能漏れの問題点

2008年8月15日 ブログ『現地闘争本部ニュース』


 これまで、原子力空母「ジョージ・ワシントン」の火災事故と、原子力潜水艦「ヒューストン」の放射能漏れ事故に関する、日本政府の発表、マスコミ報道、自治体の対応などを紹介してきました。
 今回は、日本政府の発表から読み取れる問題点を、いくつか指摘してみます。以下の指摘は、専門的検証以前のレベルのものです。
 原子炉の安全性などに係わる問題については、別の機会に専門家からの提起を受けたいと考えています。

◇原子力艦船の問題点1 原子力空母「ジョージ・ワシントン」の火災事故に関して

(1)どうやって、原子炉の安全性を確認したのか?

 外務省のホームページには、『米原子力空母「ジョージ・ワシントン」の火災に係る米政府発表(ズムワルト首席公使及びケリー在日米海軍司令官から西宮北米局長への説明)』が掲載されています。
 その中には、米国政府が「火災原因及び関係者の処罰等に係る米海軍発表の概要につき、記者発表文(仮訳別添)を踏まえ、説明を行ったところ、先方説明のポイントは以下のとおり」として、次の文言が書かれています。

⇒「(5)今回のような火災は原子炉・推進機関の安全性に影響を与えるものではない」。

⇒「政府としても、一昨年4月に米側が発表した原子力軍艦の安全性に係る「ファクト・シート」等を踏まえ、米国の原子力軍艦の我が国寄港時の安全性を改めて確信したところである」。


 米側の「記者発表文(仮訳別添)」には、火災事故の原子炉への影響に関係する記述はありません。そのことから、原子炉の安全性は、口頭で説明されたと考えられます。

 今回の火災事故では、事故発生区画と原子炉は、離れていたのかもしれません。火災が原子炉まで届くことも無かったのかもしれません。しかし、火災事故によって損傷を受けたのは電気経路です。火災事故を原因として停電が発生し、それによって原子炉の制御が利かなくなる可能性もあります。米側の「記者発表文」と、日本側の「プレスリリース」だけでは、この疑問を解決することができません。また将来起こりうる事故の可能性が否定されたとも考えられません。

 「ジョージ・ワシントン」の火災事故で、私たちが最も危惧したのは原子炉の安全性です。日米両国政府間での、原子炉の安全性に関する確認が、文書ではなく口頭で行われたこと自体に、私たちは疑念を持ちます。

 米国側から説明を受けたのは、外務省の北米局長です。ところが、その説明内容を、日本側の原子炉の専門家が検証したとの記述は見当たりません。外務省のスタッフの中に、原子炉の専門家がいるのでしょうか。仮に外務省の中に原子炉の専門家がいたとしても、米側発表を基に、日本側による調査や検証が行われるべきではないでしょうか。

 米国側から口頭説明を受けたその日のうちに、日本側としての検証も行わずに、米国の原子力軍艦の我が国寄港時の安全性を改めて確信した根拠は、いったい何なのでしょうか。

(2)米兵のモラルは高いのか?
 外務省は2006年11月に、パンフレット「米海軍の原子力艦の安全性」を発行しています。この中では原子炉事故が起こる原因として、構造的な欠陥と、運転に携わる要員のモラルの低さの2つをあげています。

 特に要員のモラルについてはチェルノブイリ原発事故を事例に、「危険な原子炉で、運転員が、専門家の適切な監督も受けずに、重大な規則違反をいくつも重ねたという、信じがたい安全文化とモラルの欠如が引き起こした事故」としています。

 米国側は今回の火災事故を「規則上認められない喫煙を原因」、「火災及びそれに続く延焼の規模は、防止し得た人為的行為の結果」、「特に、冷媒圧縮油を許可されない区画に保管していたことが、火災を激しくした」としました。

 その上で艦長を「指揮能力に対する信頼が失われたこと、また、任務の要求及び即応態勢の水準を満たすことができなかったこと」、副艦長を「職務実績が基準以下であること」を理由として解任しました。

 米海軍は、「ジョージ・ワシントン」の乗組員のモラルが欠如していたこと、艦長・副艦長が適切な監督ができなかったことを認めているのです。

 外務省のパンフレットに当てはめれば、「ジョージ・ワシントン」は、原子炉事故を起こす可能性がある、十分に危険な艦船ではないでしょうか。


◇原子力艦船の問題点2 原子力潜水艦「ヒューストン」の放射能漏れ事故に関して
(1)いつ・なにが・どれだけ、漏れたのか?
 原子力潜水艦「ヒューストン」の放射能漏れ事故に関して、外務省は4本のプレスリリースを発表しています。また米側発表の「インフォメーション・シート」が添付されています。しかしこれらを読んでも、事故の規模さえ分かりません。

 まず放射能漏れを起こしていた期間です。放射能漏れは、7月24日にハワイで行われた定期点検で発見されました。米側は放射能漏れの始まった時期を、06年6月から08年7月までの2年間としています。しかし、放射能漏れの始まりが06年6月であることを示すものはありません。

 原子炉を冷やすための冷却水には、冷却水が循環している部分によって、「1次冷却水」、「2次冷却水」などの区分けがあります。それぞれで放射能の含有量がことなります。しかし外務省の発表は「冷却水」というだけで、どの部分からの漏出なのかが明らかにされていません。

 外務省は漏出した放射能量について、以下のように記述しています。

⇒「原潜「ヒューストン」の今回の全航海中に漏洩し得た全体の放射能の量は、0.0000005キュリー(肥料1袋に存在する程度の量)であり、人体や環境に影響を与えるものではない。」

⇒「日本へのすべての寄港の間に漏れた放射能の量をすべてあわせたとしても、一般家庭用煙検知器に含まれる放射性物質の量よりも少ない。」

 しかし、この数値を証明するための、「なにが」「どれだけ」漏れていたのかの記述はありません。

 ところで、外務省のホームページに公開されている、「インフォメーション・シート」は英文です。外務省のホームページでは通例、米側が発表したものには英語原文と合わせて、日本語仮訳がついています。なぜ今回の事故に関しては、日本語がついていないのでしょうか。これでは、普通の市民が、内容を知ろうと思っても知ることができません。

(2)人体に影響がなければ、放射能は漏れてもいいのか?
前述の外務省発行パンフレット「米海軍の原子力艦の安全性」には以下の記述があります。

⇒「まず、米海軍の原子力艦には、放射性物質放出事故を防ぐための何重もの安全確保の仕組みが備わっていることに加えて、4重もの堅牢な障壁が放射性物質を閉じ込めています」。

 外務省は、一般市民向けのパンフレットで、米海軍原子力艦船の安全性を、ここまで断言して保証していました。しかし今回の事故で、「何重もの安全確保の仕組み」や「4重もの堅牢な障壁」が役に立たないことが分かりました。

 ところで、このパンフレットをよく読むと、以下のような記述もあります。

⇒「原子炉の事故が起きて、人に放射能被害を与えたり、環境の放射能レベルに影響を与えたことは一度もありません」。

⇒「原子力艦の寄稿に伴い人体及び環境に影響を与えるような放射性物質の異常値が観測されてことは、一度もありません」。

 最初の記述との違いがお分かりでしょうか。ここでは外務省は、原子炉の事故や、放射能の異常値を、人や環境に影響を与えるレベルに限定しています。
 今回のプレスリリースでも、「人体や環境に影響を与えるものではない」と強調しています。
 外務省は、放射能漏れの可能性を知っていたのではないでしょうか。その上で、人や環境に影響を与えないレベルであれば、放射能漏れが起きても問題ないと考えているのかもしれません。

(3)誰が、公表を決めるのか?
 報道によれば、米海軍が放射能漏れを確認したのは7月24日です。しかし、日本政府に事故が伝えられたのは、8月1日でした。米国側から日本政府への伝達に1週間かかったのです。しかも、米国からの事故報告は、日本政府はおろか、外務大臣にされ伝えられずに、外務省官僚によって止められてしまいました。

 外務省のプレスリリースには、以下のように書いてあります。

⇒「外務省は、米側から、米原子力艦の原子力災害が発生した場合、或いは発生の恐れがあるとの通報を受けた場合には、関係省庁で申し合わせた通報体制に従って、官邸を含む関係省庁及び関係地方自治体に遅滞なく連絡を行うこととしている。(ただし、これまで、米側から、我が国における米原子力艦の原子力災害の発生や発生の恐れに係る通報が行われたことはない。)」

⇒「2.しかしながら、今般の米原子力潜水艦「ヒューストン」の事案の経緯を踏まえ、今後は、米原子力艦の原子力災害が発生していない場合や発生の恐れがない場合でも、米側から外務省に対し、我が国における米原子力艦の安全性に関して通報がある場合には、事案の軽重に拘わらず如何なる場合であっても、外務省として、上述の通報体制を活用し、遅滞なく官邸を含む関係省庁及び関係地方自治体に連絡・通報することとした。

 つまり外務省は、今回のような放射能漏れ事故は、米原子力艦の原子力災害ではないと認識しているのです。ここでも、人や環境に影響がなければ問題にはならないという、外務省の姿勢が明らかになっています。
 また、米国から日本への通報に1週間かかった理由については、なにも説明がありません。

 安全性の確認と、事故を起こしたときの情報公開。これは原子力空母や原子力潜水艦の寄港を受けざるを得ない日本の市民にとって、重要なことです。

 しかしこの2つとも、原子炉の専門家ではない外務省の官僚が判断していること、判断の基準は米国の言い分だけであることが、今回の事故で明らかになりました。

 私たちはもう、米海軍原子力艦船の日本への配備や入港を、許すわけにはいきません。
 みなさんは、どうお考えになりますか?


原子力空母の横須賀母港化問題について