原子力空母の横須賀母港化問題
2008年6月10日 ブログ『現地闘争本部ニュース』
(はじめに)
日米両国政府は、米海軍横須賀基地に、原子力空母ジョージ・ワシントンを配備することで合意しました。これまで横須賀基地を母港としていた、通常動力空母キティーホークが退役するための交代措置です。米海軍の発表では、ジョージ・ワシントンは8月19日に横須賀基地に入港します。狭い船内に原子炉を置く原子力空母は、地上の原子力発電所よりも危険です。また原子力空母の配備によって、横須賀基地は米軍の出撃拠点として固定化されてしまいます。私たちの力で、原子力空母の横須賀配備を止めましょう。
1.横須賀は唯一の空母海外母港
米海軍は現在、11隻の航空母艦(空母)を保有しています。そのうち10隻は米本土に母港がありますが、1隻は海外に母港があります。その唯一の海外母港が、神奈川県の米海軍横須賀基地です。
米海軍が保有する空母11隻のうち、原子力艦は10隻で、通常動力艦は1隻です。以前は複数の通常動力空母を保有していましたが、老朽化による退役が続いたためです。その最後の通常動力艦が、横須賀基地に配備されていたキティーホークです。また、キティーホーク以前に横須賀基地に配備された2隻の空母も、通常動力艦でした。そこには「原子力空母の配備は許さない」という市民の強い意志があり、米国政府も市民感情に配慮をしなければかったからなのです。
米海軍は今後も、横須賀基地を空母の海外母港として維持するとしています。今回のジョージ・ワシントンの配備を許してしまえば、横須賀は原子力空母の母港として固定化されてしまうでしょう。
2.「おおむね3年」が35年に
1973年10月5日、通常動力空母ミッドウェーが横須賀基地に入港しました。これが、空母の横須賀母港化の始まりです。日本政府は当初、ミッドウェーの横須賀配備は、「おおむね3年間」としていました。
ところがミッドウェーの配備は1991年まで横須賀に居座りました。その後も米海軍は、インディペンデンス(1991年9月11日〜)、キティーホーク(1998年8月11日〜)と空母の横須賀配備を継続したのです。
「おおむね3年」と日本政府が約束した空母の横須賀基地配備は、今年で35年目をむかえることになりました。
■大河原良雄・外務省アメリカ局長■
「空母ミッドウェーが横須賀周辺に家族を居住させておる期間はおおむね3年というふうに承知いたしております。」
(1973年12月19日 参議院決算委員会 片岡勝治・参議院議員(社会党)の質問に答えて)
3.地上の原発よりも危険な原子力空母
原子力空母ジョージ・ワシントンには、熱出力60万キロワットの原子炉が2つ積み込まれています。これは、中規模の原子力発電所に相当します。日本国内で原発を建設する場合には、さまざまな安全審査が必要です。また、人口密集地域や航空機の航路下などには建設されません。
ところが、横須賀に配備される原子力空母は、日本の原発を建設する際の安全基準を満たしているのかどうか不明です。原子力空母は軍事機密に包まれており、日本側が審査することはできないからです。また、横須賀基地の周辺は人口密集地であり、羽田空港を離発着する航空機の航路下にあるために、通常の原発であれば建設の許可は下りない地域です。
物理学者の梅林宏道さん(ピースデポ代表)は、地上の原発に比べて米軍艦の原子炉が危険な理由として、以下の8項目をあげました。
1)狭い船体内で炉心設計に余裕が少ない。
2)放射能防護のために格納容器が不十分。
3)船の中で絶えず振動・衝撃にさらされる。
4)海難事故による原子炉破損の可能性。
5)軍事活動のための無理な出力調整。
6)原子炉と高性能火薬・航空燃料の同居。
7)戦闘による原子炉破壊の可能性。
8)燃料に核兵器級の高濃縮ウランを使用。
4.事故が起きれば犠牲者は120万人以上
NGOの「原子力資料情報室」は、原子力空母が横須賀基地に停泊中、または湾内を航行中に、メルトダウン(炉心が暴走する大事故)を起こした場合の被害想定を発表しました。
万が一の事故では、原子炉から放出されたヨウ素やセシウムなどが放射能雲となり、扇形状で風下に降下、一帯の住民は被曝し、地表は汚染されます。急性障害で全員が死亡するという7シーベルトの全身被曝の範囲は、原子力空母から8キロメートルに及び、165キロメートル離れた地点でも、放射能作業従事者の年間被曝限度である0.05シーベルトに達します。
「原子力資料情報室」は、宇都宮市も入る地点までの放射能降下の影響で、120万人から160万人がガン等で死亡すると予測しています。
5.空母だけでは済まなかった横須賀基地
空母ミッドウェーの母港化の後、空母と行動を共にする艦船が、次々と横須賀基地にやってきました。現在では、空母1隻・揚陸指揮艦1隻・イージス巡洋艦2隻・イージス駆逐艦7隻の合計11隻が、横須賀基地に配備されています。
空母の横須賀基地母港化は、厚木基地の近隣住民にとっては、爆音との闘いの始まりとなりました。空母が横須賀基地に入港している間の艦載機の訓練・駐留基地として、厚木基地が使用されることになったからです。絶え間のない爆音、特に1982年から始まった夜間離着陸訓練(NLP)は、人々の生活を破壊することになりました。
横須賀基地が空母の母港でなくなれば、艦船や兵士が削減されます。また、厚木基地周辺の人々も、爆音被害から解放されるのです。
6.日本全土が米海軍の基地に
1993年から94年にかけて、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発をめぐって米朝が激しく対立しました。当時の米国・クリントン政権は、北朝鮮の核施設を爆撃する計画を立てたとされています。この核危機は、カーター元米国大統領の訪朝によって回避されました。
しかし米国はその後も北朝鮮侵攻を想定し、その際に日本を後方基地とするために、日本政府に対して様々な要求を出してきました。その要求は、「日米安保共同宣言」(1996年)、「新ガイドライン」(1997年)、「周辺事態法」(1999年)となって現れ、その後の「有事3法」(2003年)、「有事関連7法(2004年)」、「在日米軍再編合意」(2007年)へと続いていきます。
米国の要求の中に、米海軍艦船による民間港湾の使用があります。米海軍は神奈川県の横須賀基地、長崎県の佐世保基地、沖縄県のホワイトビーチなど、恒常的に使用できる海軍施設を保有しています。しかし、戦争となればそれらの基地だけでは米軍の活動を支えることはできません。そこで、民間港湾の使用を求めているのです。そのための地ならしとして97年以来、米海軍は空母やイージス艦の民間港湾への入港を続けています。06年と07年には28回、08年も5月までに8回、米軍艦船が民間港湾に入港しました。
米海軍が横須賀基地を、空母と戦闘艦船の母港として維持し続ける限り、各地の民間港湾施設も準軍港として米海軍に利用されてしまうのです。
7.在日米軍再編と横須賀基地
米国政府はいま、世界規模での米軍再編を進めています。米軍はこれまで、海外に20万人の兵士を駐留させていましたが、その多くを本国に戻すことが目的です。ドイツ・イタリア・韓国など、米軍が駐留する主要な国では基地の縮小と兵力の削減が行われています。
ところが日本では、在日米軍再編という名目で、米軍基地の強化と兵力の増強が進んでいるのです。米国はアフリカ大陸東岸から朝鮮半島までの地域を「不安定の弧」と呼び、この地域で反米的な動きが勃発した場合は、即座に軍事介入するとしています。日本を「不安定の弧」への出撃拠点とすることが、在日米軍再編の狙いです。
米国が「不安定の弧」に軍事介入する際に中心となるのは、横須賀基地の海軍部隊や、沖縄県の海兵隊です。2003年のイラク戦争には、5隻の空母が参戦しましたが、横須賀を母港としていたキティーホークの艦載機が最も多くの攻撃を行いました。またイラクに向けて最初にトマホークミサイルを発射したのも、横須賀を母港とする巡洋艦でした。
横須賀基地への原子力空母の配備は、米国のアジア・太平洋地域への軍事的支配を高めるものです。配備が実現すれば、アジア太平洋地域の軍事的な緊張が高まるでしょう。