「し…侵入者だああぁぁぁぁぁーーーー!!」



 けたたましいサイレンと共に、門番の声が教団内に響いた。

 教団内に居た者は、何が起きても良い様に戦闘体制に入る。

 それは科学班で手伝いをしていたも例外ではなく…

 やっていた書類作成を止め、見張りゴーレムが捕らえた映像を見た。

 映像で侵入者の顔を見たは、驚きの声を上げる。



「え…ッ!?」




炎舞う想い 1




 は猛スピードで教団内を駆けていった。

 目指すは門番の所。そう、侵入者がいると言われた場所だ。

 にはその侵入者に見覚えがあった。

 いや、見覚えどころではない。知っている。

 けれども、その人物は『ここ』に来れるはずがないのだ。

 頭の中で色々な疑問が浮かぶが、それを払拭した。

 あの人は『敵』ではない。

 しかし、それを知っているのは自分を含めて数人。

 『もしも』がある前に、その事を伝えなければ。

 その一心で、はひた走った。





 全速で走って数分後、漸くは門へと辿り着く。

 そこには侵入者と呼ばれた人物と、数人の探索部隊がいた。

 侵入者と呼ばれた人物を取り囲むように立つ探索部隊。

 その手には得物が握られ、殺気立っている。

 対する侵入者と呼ばれた人物も、殺気こそ放っていないが、目は本気だった。

 一触即発の雰囲気が辺りを包む。

 そんな雰囲気を打ち破ったのはだった。



「待って下さい!!この人は敵ではありませんっ!」



 は侵入者と呼ばれた人物を庇う様に立ち、探索部隊に訴える。

 その言葉に戸惑いを隠せない探索部隊は、お互い顔を見合わせた。

 見た事のない人物に不信感を抱くも、が庇っているため動揺しているのだろう。

 次には侵入者と呼ばれた人物の方を向いた。



「どうしてあなたがここにいるんですか!?ロイ大佐!」

「愚問だな。私はのいる所なら何処へだって行くが?」



 頬に添えられる手。極上の笑顔。そして甘い言葉。

 ロイの普段の人気を思い出し、不覚にもは頬を染めた。

 それをロイが見過ごす筈がない。

 チャンスだと言わんばかりに、両腕を広げ抱きしめようとする。



「逢いたかったよ。私の愛しい姫―」

「誰がテメェのだ。は俺の恋人だって言ってんだろ」



 聞き慣れた声と共に腕を引っ張られ、の視界が反転する。

 目の前には黒いコートに見慣れた教団のシンボル。

 そう、は神田に抱きしめられていたのだ。



「…また君か。私との再会を邪魔しないでくれたまえ」

「テメェこそさっさと諦めろ。つか何でここにいるんだよ!」

「そうですよ、どうしてロイ大佐が…?」



 と神田の疑問は最もだ。

 ここは黒の教団本部。ロイが本来いる場所ではない。

 二人の質問に、ロイも肩を竦めた。



「実は、気がついたらここにいたのだ。その直後、侵入者と間違われた」

「でも…どうして?大佐も空間転移の錬金術を?」

「いや、私にあの術は使えない」

「だったら何でここにいるんだ?」

「きっとに逢いたいと願っていた私の想いを、愛の女神が叶えてくれたのだろう」



 「逢いたかった」と今度はロイがの腕を引き、抱きしめた。

 いきなりの事で驚き、は言葉を失う。

 動いたのは神田だ。

 誰もが怖がるような目でロイを睨み、を奪い返す。

 そして見せ付ける様に、のこめかみにキスをした。

 普段は冷静なロイもこれには腹が立ったらしく、神田を睨んでいる。

 今度は神田vsロイで一触即発の空気が流れる。



(((凄い!あの神田殿に喧嘩を売っているッ!!)))



探索部隊達がロイを尊敬した瞬間であった。

が、何時までもここ(門前)で睨み合っていても仕方がない。

は二人を何とか仲裁し、ロイを科学班へと案内する事にした。

しかし門から科学班までの道のりは長い。

やはりと言うか何と言うか…

この二人が何事もなく辿り着けるはずがないッ。

 その一例を紹介しよう。








 ―教団廊下―



「まさかとこの世界を歩けるとは思わなかったな」

「そうですねぇ。不思議な巡り合わせですよね」

「あぁ。これはきっと私達は結ばれる運命に…」



 そっと腰に腕を回し、を引き寄せる。

 ロイの整った顔が近くにあり、は驚くと同時に頬を染めた。

 神田も美青年だが、ロイの醸し出す大人の雰囲気にやられたのだろう。

 ドギマギするに神田が面白いはずもなく。

 神田はロイの腕を払い、を己の方へ引き寄せた。

 いきなり神田に引っ張られ驚くが、すぐに嬉しそうに神田と指を絡める。

 そうなると、ロイが面白いはずがない。

 の空いている手を取り、そっと指に口付ける。



「相変わらず綺麗な指をしているね。ここではどんな仕事をしているのかな?」

「え///あ…ありがとうございます///ここではエクソシストをしているんですよ。
 主にアクマの破壊とイノセンスの回収ですが、任務がない時は科学班のお手伝いもしています」

「アクマ?イノセンスとは…?」



 初めて聞く単語に首をかしげるロイ。

 は丁寧にそれらを説明した。



「ふむ…ではアクマと言うのは機械なのだね。それを破壊するのがエクソシストと…」

「はい。私もイノセンスに選ばれましたので、エクソシストをやってるんですよ」

は公私共に最高のパートナーだぜ」

「……確かにの錬金術の腕は最高だ。国家錬金術師に勧めて私の部下にしたいくらいだ」

「残念だったな。はもう俺のだ」

「いや、可能性はまだある。私がを振り向かせてみせよう」

「ハッ!精々無駄な足掻きでもしてろよ」

「無駄かどうかは、やってみないと判らないが?」

「無駄に決まってる」

 

 神田は腰に下げてある六幻に手を、ロイは発火布を嵌めなおしながら会話をしている。

 二人とも怖いって!!

 実際、神田とロイの周りは黒オーラが充満していた。

 この3人の歩く前後に人がいない。

でさえ逃げ出したいと思ったほどだ。

 しかしここで逃げてしまえば教団の破壊は火を見るより明らか。

 は必死で二人を宥め、科学班へと連れて行く。

 とまぁ、こんな感じのやり取りが繰り返されていた。

 流石のも、科学班の部屋へ着く頃には精神的に疲れているようだった。






後書き
紫青様へ捧げます、お詫びの作品です!
リク内容は「神田VS大佐で、神田オチ」なのですが…
大佐が出張ってますね(苦笑)
プロットを考えていたら凄く長くなりそうだったので、一度ここでストップしました。
因みに、今回のコンセプトは『大佐に甘い言葉を囁かれよう』です(笑)
え?全然甘くないですか…?

とりあえず、今までの中で一番長くなりそうな短編です。
最早、短編と呼べるのか判りません(マテ)
暫くお付き合い頂ければ幸いです。

紫青様のみ転載可でございます。
あの時は申し訳ございませんでした



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