「お父様が仰っていた件、どうしようかしら」

「あぁ、あの件ね。それも進めなくちゃいけないよなぁ」




 長く美しい黒髪に黒い服を着た妖艶な美女と、同じく長い黒髪に露出の高い黒い服を着た青年が困った様に呟く。

 そして今まで見てきた人柱になり得る人物の顔を思い浮かべながら、お父様と呼ばれた人から言われた件を、どう進めていこうか考えていた。




「焔の錬金術師は?」

「彼は駄目よ。軍属で頭の回転が速い。私達の計画が完成する前に気づかれてしまうわ」

「ドクターマルコー」

「彼も駄目。彼にはまだ未完成の賢者の石を作ってもらわなくちゃいけない」

「じゃあ、鋼のおチビちゃんも駄目だね」

「えぇ…鋼の坊やには賢者の石を『今』の作り方で完成させて貰わなくちゃ」




 次々と浮かんでは消えて行く人柱候補達。

 思い通りの人物が思い浮かばず、青年は考えるのに飽きてきたようだった。




「あーもう!めんどくさいなー。誰でも良いじゃん」

「そういう訳には行かないわよ、エンヴィー。
 『今』の作り方が万が一失敗した時は、こちらに頼らなければならないのよ」

「それは…そうだけどさ。あ!そーだ。彼女は?鋼のおチビちゃん達と一緒に居た…」

「彼女…そうね……彼女なら良いかもしれないわ」

「だろ?彼女なら『新しい方法』で賢者の石を作ってくれそう♪」

「なら、早速行きましょう。早ければ早いほうが良いわ」




 妖艶な美女は踵を返し歩いて行く。

 その後を青年もついていった。

 しかし何かを思いついたようで、目の前を歩く美女に話しかける。




「その役目は俺にやらせてねん♪彼女、結構気に入ってるんだ」

「彼女、あなたのタイプよね」

「そ。だから譲ってもらうよ?ラスト」

「構わないわ。それじゃ、私達で鋼の坊や達を足止めしておきましょう。グラトニー」




 ラストに呼ばれ、グラトニーと呼ばれた人物が闇の中から出てきた。

 指をくわえ、何処となく物欲しそうな顔をしている。

 お腹が空いたのだろうか。




「なぁに?ラスト〜〜」

「行くわよ、グラトニー」

「何処へ?」

「食事よ」








 † † † † † 



「くわぁ〜〜。やーっと街に着いたぜ」




 エドが伸びをしながら体をほぐしている。

 私もそれに倣って、伸びをした。




「ん〜。流石に列車で8時間の旅はキツイね。腰が痛いよ〜」

「大丈夫?。あ、荷物はボクが持つよ」

「ありがとー。アルは優しいね」

「そうかな?でもボクが優しいのは、「さて、暗くなる前に宿を取ろう」




 びっくりしたー。

 いきなり大きな声を出さないでよー。驚くじゃない。

 それにアルが何を言ったか聞こえなかったわ。

 たまーに、この兄弟って変なトコあるのよね。

 今みたいに、アルが何かを言おうとしたらエドが邪魔をしたり、その逆もあるの。

 一体、何がしたいのかしら?

 まぁ、仲は良いから良いんだけど。




 今回この町にやってきたのは、かつてこの町で賢者の石を研究している人が居たと聞いたから。

 その時の資料があったら嬉しいなと思って足を運んだ。

 



 エドとアルは、いわゆる姉弟弟子の仲。

 両親が亡くなった後、母と仲が良かったイズミ先生が私を引き取ってくれたのが10年前。

 それからイズミ先生の元でお世話になりながら錬金術をずっと学んでいた。

 エドとアルがイズミ先生に弟子入りしたのが5年前。

 二人が半年足らずで修行を終え帰ってしまった時は淋しかったなぁ。

 


 それから約4年経ち、偶然再会した。

 再会した時、彼らの姿には驚いた。

 全ての理由を聞いて、私も二人が元の姿に戻るための協力をしようと決めた。

 それからずっと一緒に旅をしている。

 姿は変わってしまったけれども、二人はあの頃と変わりなく一緒に旅をしているのが楽しい!

 このままずっと、二人と旅をしていたかったし、旅が出来るものだと思っていた……











「は〜い。鋼のおチビちゃん」

「どぅわ〜れがミジンコどチビくわぁ〜!!ってお前は!?」

「第5研究所で会った…」

「誰?と兄さんの知り合い?」




 そっか。アルはあの時、外で待ってて貰ったから面識がないんだ。

 正直、会いたくなかった。

 アイツ、エドに怪我を負わせたし。

 それに、『生かされてる』って言うのも腹が立つ。

 何より、そんなアイツに気に入られた気が…

 


「相変わらず面白いねー。でも今日はおチビちゃんに構ってる暇はないの」

「じゃぁ何で来たんだよッ!?」

「俺が用あるのはなんだっと」




 ヤツはいきなり走り出したかと思ったら、一瞬で私の前に来た。

 速い!

 油断してたとはいえ、あの先生に鍛えられてきたはずなのに、対応できなかった。

 そして私を抱きかかえると、私を何処かへ連れて行こうとする。




「な!?離して!何処へ行く気よ?」

にね、ちょーっと協力して欲しいことがあるんだ」

「嫌よ!」




 暴れる私を物ともせず、彼は歩いて行く。

 次の瞬間…

 パシィ!

 エドが地面から突起を練成し、彼を足止めしてくれた。




を離せ!!」

「だーかーらー、俺はおチビちゃんに構ってる暇はないの」

「そう、だから坊や達のお相手は、私達よ」




 別の、女性の声がしたと思ったら、エド達の目の前に妖艶な美女と丸く太った人が立っていた。

 あの人達も、第5研究所で見た……

 !そういえば、あの女性は、指を武器に変えれる!

 早くエド達の所へ帰らなくちゃ!




「離して!」

「だーめ。には協力して欲しいんだってば」

「私に協力する気はない!」




 じたばた暴れてみるけれど、びくともしない。

彼の細い体の何処に力があるのか判らない。

錬金術を使いたいけど、抱き上げられているため練成陣が描けない。

ならば、さっきは油断したけど先生仕込みの体術で…!

しかし技を繰り出す前に、私は地面に降ろされた。




「この辺りでいっか。ね、。これが何か判る?」




 彼が見せてくれた物。それは赤い石だった。

 血の如く真っ赤な石。これに似た物を何処かで………




「っ!?これはまさか!?」

「そ。賢者の石だよ。まだ未完成だけどね」

「どうして貴方がコレを…?」

「そんな事どーでも良いじゃん。にお願いしたいのは、コレを完成させて欲しいんだ」




 未完成の賢者の石を完成させる?私が?

 いくら錬金術が使えるといっても、賢者の石を完成させる程の知識はない。

 私より優れた錬金術師はたくさんいる。

 なのに、なぜ私…?




「生憎と賢者の石を完成させる程の知識はないわよ」

「大丈夫。知識なんて必要ないよ。だって…」




 彼は私の腕を掴むと、そのまま地面に押し倒した。

 そして逃げられないように押さえ込む。




 

「一度、をこうやって押し倒してみたかったんだよね。願いが叶ってらっきー」

「私は押し倒されたくなかったわ。で、どういうつもりなの?」

「あ〜あ。仕事が無かったら、とこのままイイコトできたのになー」

「ふざけないで!どきなさい!」

「い・や・だ。仕方ないから仕事をするか〜」




 ふざけた口調で言いながら、彼は持っていた未完成の賢者の石を私の体に近づけてきた。

 まさか、このまま私の体にこの石を埋める気なの…?

 冗談じゃない!そんな物を埋め込まれてたまるか!

 必死で体を動かそうとするも、彼に押さえ込まれて動けない。

 だから、そんな細い体の何処にこんな力があるのよ!

 力が弱くスピード重視の私にとって、この状況はピンチだ(汗)




「それじゃぁ、。コレ、よろしくねん♪」




 彼は躊躇いも無く未完成の賢者の石を私の体の中に埋め込んだ。




「う…あ…あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」




 熱いのか冷たいのか…よく判らない感覚が私を襲う。

 体が引き裂かれるような痛みが襲い、意識を保てなくなってきた。

 エドとアルが遠くで呼ぶような声を聞きながら、私は意識を手放した。











 † † † † †




 白い…真っ白な世界。ここは何処なの?

 未完成の賢者の石を埋め込まれて…

 体がちぎれる位の激痛に襲われて。

 もしかして、私死んじゃったのかな?

 嫌よ。エドやアル、それに先生達に会えなくなるのは嫌。

 それに、何も無いこんな世界にいるのも嫌。

 どうしたら良いの…?




『ようこそ、身の程知らずの大馬鹿野郎』

 


 不意に聞こえた声に、びくっと体が動いてしまった(汗)




「だ…誰?何処にいるの?」

『後ろだよ、後ろ』




 慌てて振り返ってみてみると、さっきまでは何も無かった所に、大きな扉がある。

 そして『人』らしき気配も…




「コレは…それに貴方は?」

「オレ?オレの話は聞いてるだろ?」

「まさか…真理!?」

『その通り。しかし物好きだね。ここの話を聞いているのに来ようとするなんて』

「来たくて来たわけじゃないわ。それより貴方が真理なら、先生とエドとアルの体を返して!」




 エド達に聞いた。

 ここで真理に体を持っていかれたと。

 だったら、彼に頼めば体を返してくれるかもしれない。

 そう思ったんだけど、それは不可能だった。

 体は、通行料として貰ったもの。そう簡単には返せないらしい。




『それより、折角ここに来たんだ。真理でも見ていけよ』




 彼がそう言うと、背後にあった扉が重そうな音を立てて開いていった。

 その中から黒い無数の手が伸びてきて、私を絡んでいく。




「な!?きゃあぁぁ」

『滅多に見れないモノだぜ?ゆっくり堪能してこいよ』




 そんなこと望んでない〜〜〜(泣)

 必死に黒い手に逆らうも、私は扉の中に引き込まれてしまった。




 扉の中では物凄い量の情報があった。

 それを全て頭に叩き込まれる感じがする。

 こんなにも大量の情報を一度に処理できない!

 頭が痛い!耐えられない!

 意識を失いかける瞬間、『何か』を見た気がする。

 それに手を伸ばしかけた時、私は扉の外へ投げ出された。

 一体、何だったの?

 でも…




「唐突に理解した。あれが真理…!」

『結構面白かっただろ?さて、それでは通行料を貰おうか』

「え?取るの!?無理やり見させられたのに?」

『それはそれ、これはこれ。等価交換だろ』




 何か詐欺にあったような気がするのは私の気の所為デショウカ?




「何を持って行くつもり?」

『そうだな…それよりお前、体の中に面白いモノを持ってるな。賢者の石だろ?』

「やっぱり入ってるんだ…そうみたいね。でも未完成らしいけど」

『ふ〜ん…決めた。お前の通行料は元の世界だ』




 通行料って体だけじゃないんだ。

 元の世界を通行料って事は、私はみんなの所に帰れないの?

 ずっとここに居なくちゃいけないの?




『違う。お前には別の世界に行って貰う。何処に行くかはオレにも判らない』

「そんないい加減な…」

『お前には錬金術があるんだ。何とかなるだろう。ま、頑張れ』




 そう有難くないお言葉を残して、彼は去っていった。

 いや本当に何処に行ったんだよ(汗)

 え?私もしかしなくても置いていかれた?

 いやーーー!如何すればいいの〜!

 仕方ない、ここは錬金術で…

真理を見たから出来るよね?




パチン   パシィ




両の掌を合わせ、扉を練成する。

そして、私はまだ見ぬ世界へ旅立って行く事となった。



後書き
始まりましたDグレ連載☆
の割には、誰も出てきてないですね…(汗)
済みません!今回はプロローグと言う事で…!!
次はあの人を出す予定です♪


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