「こんな所で何をしているんだ?」


 クセのある黒い髪の少年が、一面に咲いている花畑で眠っている少女に声をかけた。
 そこで初めて人がいた事に少女は気付く。


「ごめんなさい。ここはあなたの場所だった?」
「そう言う訳じゃないが…何でこんな所で寝てる?」
「花が私を隠してくれるんじゃないかと思って」
「花が…?誰かから逃げてるのか?そろそろ暗くなる。帰った方が良い」
「大丈夫。心配してくれる親はもういないもの」


 少女は目を伏せて、哀しそうに呟いた。
 泣きそうな表情をする少女の横に、少年も寝転がる。
 見上げた空は少女の心を表すかのように、暗くなりつつあった。
 少女は心配してくれる両親はもう居ないと言った。
 つまり両親は死んでいるのだろう。
 しかし、少女の年なら保護してくれる人が居るはず。
 それは親戚だったり、施設だったり…
 問うてみると、少女は嫌そうに首を振った。


「イヤ。ママを殺した人達となんて一緒に行きたくない」
「母親を…殺した?」
「ママは本当のママじゃないの。でもママは私に優しかった。
 私もママが大好きだった。
 でもね、ある日パパが死んじゃったの。そしたらママは変になった。
 いつもボーとしてて、あまり笑わなくなったの。
 『大丈夫?』って聞いても、『大丈夫』って答えるだけ。
 きっとパパが死んじゃって哀しいからだと思ったの。
 だから私が頑張ればいつものママに戻ってくれると思った」


 ぽつりぽつりと少女の話を、少年は静かに聞いていた。
 口を挟むだけでもなく、ただ淡々と。
 少女は一旦言葉を区切り、その黒い瞳を閉じた。


「ママはね、『アクマ』だったんだって。『エクソシスト』が言ってた。
 『アクマ』は『破壊』しなくちゃいけない。破壊しないと犠牲者が増えるから。
 エクソシストの言ってる事は判るよ。でも…ママを破壊したら私はどうなるの?
 家族を失っちゃうんだよ?
 『ママを殺さないで』って言ったのに、エクソシストはママを殺したの」
「それで…どうなった?」
「家族を失った私を、教団で保護するんだって。でも私はイヤ」
「何故だ?」
「ママを奪った人と一緒に行きたくない」
「だから隠れてたのか」


 少女は無言で頷く。
 少年は上半身を起こし、少女を見つめた。
 

「これからどうするつもりなんだ?」
「決めてない。でもエクソシストの所には行かない」
「子どもが一人生きていくほど甘い世の中じゃない」
「判ってる。でも何とかしてみせる」


 少女の瞳から、その表情から決意が固い事を少年は悟った。
 少年は少女の覚悟が、どんなものか見てみたいと思った。
 そして真っ直ぐ自分を見つめる黒い瞳に惹かれた。


「お前は何て名前?」

「オレはティキ・ミック。ねぇ。オレと一緒に来るか?」
「ティキと?」
「そ。実は少し前に家族が増えたんだよね。にはソイツの面倒を見てもらいたい」
「ティキと行けば、エクソシストに見つからないかな?」
「絶対見つからないな」
「………ティキと行く。連れてって」


 少女――の言葉に、少年―ティキ―は満足そうに頷いた。
 ティキは立ち上がり、をエスコートする。
 初めてのエスコートに緊張しながらも、はティキに微笑んだ。
 最愛の母親を失った直後のためか、儚く微笑む
 それはまるで天使のようだとティキは思った。
 最初は偽りの使徒のエクソシストを嫌いだといったから興味を持った。
 けれども今の微笑みを見て、それと違う想いがティキの心に芽生えた。
 『誰にも今の笑顔を見せたくない』と言う小さな独占欲。
 今まで知らなかった感情に戸惑いながらも、ティキは家に帰る為に『扉』を開ける。


「凄いね。ティキは魔法使いなの?」
「いや、オレはノア一族だ」
「ノア一族?」
「あぁ。これからはもっと驚くな」


 笑いながら言うティキに疑問を持ちつつも、は扉をくぐる。
 ティキもその後に続く。
 完全に扉が閉まった後、その場に残っていたのは満面に咲いた花だけだった。





 そして10年の月日が流れる。









後書き
とうとう始めてしまいましたヨ。
Dグレ新連載!
しかもノア一族サイドですよ。
今までと真逆です(笑)
こちらも楽しんで頂ければ幸いですv