他愛ない話をしながらの看病をしているリナリー。 そこへ薬を貰いに言っていたラビが帰ってきた。 薬をサイドテーブルに置き、ラビはの顔を見る。
「あ〜…やっぱり顔色が悪いなぁ。何で無理したんさ?」 「無理…したつもりは無かったのよ。ただちょっと研究に集中しちゃって…」 「は錬金術の研究になると周りが見えなくなるもの」 「うん………それ神田にも言われたわ」 「これからは気を付けなくちゃ駄目よ」 「はい…今回の事で身に染みました。ごめんね、迷惑をかけて…」
しゅんとなるの頭を撫でながら、ラビは笑顔を向けた。
「いつもには世話になってるからなぁ。たまには良いんじゃねぇ?」 「ふふ。それアレンも言われたわ」 「だろ?今日ぐらいはオレ達に甘えるのも良いさ」
ラビの笑顔と言葉に、元気を取り戻す。 リナリーはそんな二人のやり取りを微笑ましそうに見ていた。 が、をゆっくり寝かすため、ラビを退室させようとした時。 今まで何処かに行っていた神田がの部屋へ戻ってきた。 手にトレイを持って――
「具合はどうだ?」 「ん〜…さっきとあまり変わらないわね」 「そうか。メシは食えそうか?」 「あんまり食欲は無いけど…食べなきゃ駄目なんでしょ?」 「当然だ。何も食わずに薬を飲むのは良くねぇ」
サイドテーブルにトレイを置き、小さな土鍋の蓋を開けた。 その途端、白い蒸気とともに良い香りが辺りに漂う。 とリナリー、そしてラビは土鍋の中身を不思議そうに見た。
「なぁユウ。それって何さなんだ?リゾットとはちょっと違うみたいだけど」 「うん…私も初めて見たわ。元の世界にも無かったわ」 「お粥ともちょっと違うみたいよね。日本の料理なの?」 「雑炊だ。粥と迷ったが、の風邪もまだ酷くねぇからな。味のある雑炊にした」
土鍋と一緒に持ってきたお椀に雑炊を入れながら神田が言う。 神田はベッドサイドに座り、これをに渡した。 お椀をとレンゲを受け取ったは、じっとその中身を見ている。 「食べねぇのか?」と神田が尋ねると、はゆっくりと雑炊をすくった。
「美味しそうね。ジェリーさんにお礼を言わなくちゃ」 「ホント美味しそう。今度私も作って貰おうかしら?」 「あ!オレもオレも〜。今度は雑炊パーティしねぇ?」 「それは良い考えだわ!の風邪が治ったらやりましょう」
和気藹々と話している三人。 だが、次の神田の言葉に三人とも信じられない表情を浮かべた。
「盛り上がってるとこ悪ぃが、これを作ったのは俺だぜ」 「「「はぁっ!?」」」 「だから俺が作ったって言ってんだよ。の為に」
俺が作ったら悪いのか?と言わんばかりに眉を顰める神田。 だけど三人の言葉に罪は無いだろう。 まさか神田が料理をするなんて―― は恐る恐るレンゲで掬った雑炊を口に入れた。 リナリーとラビも固唾をのんで見守っている。 果たして、その味は如何に?
「…大丈夫か?不味かったら吐き出しても良いんだぜ?」 「そうよ。風邪が悪化したら大変だもの」 「ユウの前だからって、遠慮する事はないさ」 「テメェら何気に失礼だな(黒笑)」 「あら当然じゃない。大事なに変な物食べさせられないわ(黒笑)」 「………………(怖)」
哀れラビ。二人のブラックオーラに怯えている。 ラビの体感温度が5度下がった時。 ドアをノックする音が聞こえ、アレンが中へ入ってきた。
「アレン!(助かった)」 「あれ?どうしたんですか?」
神田とリナリーの雰囲気に気付いたアレンが問う。 ラビは今まであった事を掻い摘んでアレンに話した。 するとアレンも驚いての手にある雑炊を見た。
「………本当にカンダが作ったんですか?」 「だったらどうたって言うんだよ」
疑惑の目で見つめるアレンに、睨み返す神田。 アレンは神田から視線を外すとへ顔を向けた。
「ねぇ。本当に大丈夫?口直しにリンゴを食べる?僕が剥くよ?」 「モヤシ…テメェもいー度胸だな(黒笑)」 「大事なに無理はさせられませんからね(黒笑)」 「(アレンも黒だ!白いけど)」
黒属性の仲間が増え、心で涙するラビ。 三人が(黒く)笑いあっている中、が神田の黒いコートを引っ張った。 振り向く神田。 その顔には一切の黒さはなかったと言う(ラビ談)
「、どうしたんだ?」 「おかわりしても良いかしら?」
いつの間にかお椀の中が無くなっている。 神田は嬉しそうに土鍋の中から雑炊を掬った。 心配そうにを見つめるアレンとリナリー。 そんな二人にも一切の黒さは無かった(ラビ談)
「お雑炊って初めて食べたけど美味しいのね。それとも神田の腕が良いのかしら?」
その言葉に神田はどこか嬉しそうだ。 にお椀を渡すと、再び美味しそうに食べ始めた。 朝食がまだだった事もあり、平らげていく。
「なぁ。本当に美味いのか?」 「うん。美味しいわ。『ラビも一口食べる?』って言いたいけど、風邪がうつっちゃうから…」 「大丈夫!の風邪ならうつされたいさ〜。だから食べさ………」 「だから…何だ?」 「イエ…ナンデモアリマセン(滝汗)」
神田の地を這うような声に固まるラビ。 そんなラビの様子を見て、リナリーは溜息をついた。
「それじゃあ後は神田に任せるわ。その方がも良いでしょ?」 「そうですね。あまり人がいてもに気を使わせちゃいますし」 「良い?ちゃんとゆっくり寝てなきゃ駄目よ?」 「それじゃあ僕たちはこれで。の風邪が治ったら雑炊パーティーをしようね」
リナリーは未だ固まっているラビの首根っこを捕まえ、部屋から出て行く。 アレンもその後を付いていった。 部屋に残るはと神田。 はクスクス笑いながら神田を見つめた。
「まさか神田が料理を作るなんて思わなかったわ。みんなも驚いてたわね」 「そんなに俺が作るのが変かよ」 「そうね。想像もしなかったわ」
雑炊を掬い、口に入れる。
「でも本当に美味しい。もしかして私より料理上手?」 「そんな事ねぇよ。の料理の方が美味いぜ」 「ふふ。ありがとう。ね、またお雑炊を作ってくれる?」 「のためなら構わねぇよ」
「のため」を強調する神田。 アレンやリナリー、ラビ達には作る気はさらさら無いようだ。 その意図を理解したは、神田にある提案をする。
「ねぇ、お雑炊のレシピ教えくれる?」 「じゃあ今度一緒に作るか?」 「うん。風邪が治ったら教えてねvそれで、みんなでお雑炊パーティーをやろう?」 「あぁ?何であいつ等のために作らなくちゃいけねぇんだ?」 「だって、こんな美味しいも物を独り占めしたら悪いでしょ?」 「あいつ等のために作るのは嫌だ」 「たまには良いじゃない。それに…一緒に作るって、何だか新婚みたいじゃない?」
真っ赤になりながら小さな声で言う。 まさかがそんな事を言うとは思わず、神田は驚いた。 が、次の瞬間、嬉しそうに笑みを浮かべた。 を抱きしめ、こめかみに口付ける。 そんな神田の行動が嬉しいらしく、も神田の腕の中で微笑んでいた。
「その前に早く風邪を治せよ。ったく、心配させるんじゃねぇよ」 「ごめんね…それとありがとう」 「お礼なんか良い。さっさと薬を飲んで寝ろ」 「うん」
食事を終え薬を飲んでから眠るまで、ずっと神田はの手を握っていた。 その手の暖かさのおかげで、は安心して眠れたと言う。 翌日、神田の看病のおかげでは全快した。 数日後、教団内のキッチンで仲良く料理する二人の姿が目撃された。 |