想イ告グル
−後編−
図書室を出て、あてもなく彷徨う。
リナリーに告白して来いって言われたけど…
正直言って、そんな勇気はない。
嫌われてるのが判ってて、告白なんか出来ないわよ。
どうしよう…
フラフラと歩いてて、気付けば神田が毎日修行している木の所に来ていた。
無意識の内に神田を見ている場所に来るなんて…
相当神田が好きなのね、私。
自嘲的な笑みを浮かべ、神田が修行に使っている木を見上げた。
風に揺られ、さわさわと木がその枝を揺らす。
あなたは…ずっとここで神田を見ているんだよね。
ねぇ…神田は私の事、どう思ってるのかな?
好きでいてほしいとは言わない。
せめて、仲間だと思ってくれてたら良いな。
心の中で語りかけながら、頭の中では神田のお見合いの事を考えていた。
神田のお見合いの相手って、どんな人なのかな?
やっぱり教団関係かな?
エクソシスト…とお見合いするとは思えないから…
可能性があるとすれば、サポーターだよね。
きっと美人なんだろうなぁ。
考えると、涙が浮かんできた。
痛い…胸が痛いよ。
神田の事を考えれば考えるほど、胸の痛みが増していく。
「っ…う…」
涙がどんどん溢れてくる。
拭ってもこぼれてくる涙に、私はとうとうしゃがみこんでしまった。
ここは滅多に人が来ないといっても、教団の敷地内。
泣いているのを知られたくなくて、声を殺して泣いた。
この涙と一緒に、神田への想いも消えてしまえば良いのに。
そう願いながら………
「…か?」
『じゃり』と、足音と共に聞こえた神田の声。
最悪なタイミング…
どうして神田がここに来るのよ。
泣き顔を見られたくなくて、膝に深く顔を沈めた。
「泣いてんのか?」
神田の訝しむ声がする。
お願いだから、放っておいて。今の私を見られたくないの。
嫉妬して泣いている醜い顔を…
「何でもないの。私は大丈夫だから一人にして…」
「泣いてんだ。何でもないわけねぇだろ」
じゃり と、再び足音がした。
神田が私の方へ近付いてるんだろう。
「、何があった」
「何でもないの。ホント…何でもないから…」
お願いだから、今は一人にしておいて。
神田を見たくないの。
誰かのモノになる神田なんて見たくないのよ。
「泣いてるを放っておけるかよ。何があったか話してみろ」
優しい声で残酷な事を言う神田。
神田の事で苦しい想いをしているのに。
『神田に告白してくること。言うまで絶交だからね?』
ふと、リナリーの言葉が頭をよぎった。
そっか。言わなきゃ絶交のままなんだっけ。
あぁ…いい機会かも。
どうせ振られるのなら、この想い告げてしまおう。
「私ね…好きな人がいるの」
突然話し始めた私に、神田が緊張したのが判った。
見てなくても気配で判るよ。これでもエクソシストなんだから。
「好きな奴がいたのか…?」
「そりゃ…私にだって好きな人くらいいるわよ。
でも…私は嫌われてるみたい。だから…この想いはずっと隠そうと想ってた。
見ているだけで良かった」
「ずっと…見てたのか?」
「うん。ずっと…ずっと見てた。見てるだけで良かった。なのに…」
そこまで言って、私はまた自嘲的な笑みを浮かべた。
初めは見てるだけで良かった。
リナリーに忠告されても、嫌われるのが恐くて行動を起こせなかった。
その結果がコレだ。
神田がお見合いすると聞いて…神田の横に知らない女の人が立つ事を想像して…
こうして誰もいない所で泣いている。
全部行動を起こさなかった私が悪いのよね。
「想い人がお見合いをする事を知ってしまったの。
その人も、お見合いにのり気なんだって。
ずっと…ずっと好きだった人が遠い存在になってしまう。
私以外の人が隣に立って、寄り添いながら生きていく事を想像したら、涙が出てきたのよ」
あえて、貴方だとは言わない。
ただでさえ、あの任務で嫌われたのに、これ以上困らせたくないもの。
「リナリーに『見てるだけで良い』って言っておきながら、
いざ人のモノになってしまうって判ったら、後悔してるの。
『どうして想いを告げなかったんだろう』ってね」
神田は私の話を黙って聞いてくれている。
本人の目の前で話したからかな?
ちょっと落ち着いたから、私はようやく膝から顔を上げた。
「あ〜あ…ホント私って馬鹿みたいよね」
目に涙を浮かべ苦笑しながらそう言ったら、ガシっと神田に腕を掴まれた。
驚いて神田を見てみると、何故だか彼は凄く恐い顔をしていたの。
「か…んだ…?」
「…れ…だ」
「え?」
「誰だっつってんだよ。お前を泣かせた奴は」
何で神田が怒るの?
『誰だ』って…お願いよ。そんな残酷な事を聞かないで。
どうしても答えられなくて下を俯いた私に、神田は更に問いつめたのよ。
「何で黙ってんだ。答えられねぇのか?」
「どうしてそんな事聞くのよ。神田には関係ないじゃない!!」
どうして私に構うの?
お見合い相手を気に入ってるんでしょ?
私なんかじゃなくて、相手の人の事を考えてあげればいいのよ。
「お願いだから………私の事は放っておいて…」
心が痛くて辛くて…
ボロボロ泣き始めた私を見て、神田は舌打ちをした。
「泣くくらい、そいつの事が好きなのかよ」
「好き。大好きよ。ずっと…想っていたんだもの」
涙を零しながら泣いていると、ふわっと暖かいモノに包まれた感じがした。
驚いて顔を上げると、神田が私を抱き締めていたの。
優しく、大切なものを扱うかのように抱き締められている私。
「か…ん…だ?」
「泣くんじゃねぇよ。他の男を想って泣くなんか見たくねぇ」
「ぇ…?」
「俺にしとけよ。俺だったらお前を泣かせたりしない」
な…何を言ってるの?
『俺にしとけ』って…神田はお見合いするんじゃないの?
そんな残酷な言葉で、私を惑わせないでっ。
「いやぁっ!!」
どんっと、思いっきり神田の体を押し退ける。
驚きながら私を見つめる神田を、私はにらみ返した。
「どうしてこんな事をするの?」
「が好きだからに決まってんだろ」
「私を?お願いよ…そんな残酷な冗談はやめて」
「冗談でこんな事言うかよっ!俺はが好きだ」
「うそ!信じられないわよ。だってお見合いするんでしょ?」
「あぁ?ちょっと待て。今何つった?お見合い?誰が」
「神田に決まってるじゃない。お見合いするって聞いたのよ。
そして神田もそのお見合いがのり気だって…だから…」
語尾が小さくなっていく。
これ以上言うのが辛くて下を向いた私を、神田は再びそっと抱き締めてくれた。
「お見合いなんかするかよ」
「ホント…?お見合いしないの…?」
「しねぇよ。誰がそんな事言ったんだ?」
「リナリーが………」
「あいつ………(怒)」
チッと、神田が舌打ちをした。
きっとリナリーは意気地のない私を勇気付けるために嘘をついてくれたんだね。
ありがとう。大好きだよ、リナリー。
そっと神田の胸に頭を預けてみた。
トクン トクン と、心音が聞こえる。
暖かく…安心できる場所。
この場所を…神田の傍を誰にも渡したくない。
「ねぇ神田。私ね、ずっと神田が好きだったの。ずっと…ずっと見てた」
「あぁ。知ってる。図書室の後ろから3つ目の窓だろ」
「うん。貴方に想いを伝えたかった。けどね…嫌われてると思ってたから、言えなかったの。
『見てるだけで充分』って自分に言い聞かせてた。でも…でもね、嫌なの。
神田の隣に私以外の人が立つのが…想像したら胸が痛かった。
見てるだけじゃ嫌!神田の傍にいたい。神田が好きなのっ!」
「俺もが好きだ。愛してる」
一世一代の告白。
その告白に、神田は答えてくれた。
それが信じられなくて、嬉しくて。
気付けば目から涙が溢れていた。
「ったく…何泣いてんだよ」
「だって凄く嬉しいんだもん。だって嫌われてると思ってたから」
「俺は嫌いな奴に見られてたら殴ってるぜ」
「え?そうなの?」
「俺は、嫌いな事をされて我慢してる性格じゃねぇんだよ」
そうなんだ。ちょっと意外だったかも。
でも神田の事、少し知る事ができて嬉しいな。
そんな神田も大好きだよ。
笑顔でそう伝えると、神田は少し眉を顰めたの。
「、あまり無防備に笑うな」
「へ?」
驚く私の頬に神田は手を添え、軽く上を向かせる。
そして……神田の顔が近付いたと思ったら…えぇ!?
く…唇にっ!暖かいモノが触れましたよ?
もしかしなくても神田の唇ですかー!?
「か///かん///キ…えぇ!?」
「落ち着け。キスしただけじゃねぇか」
「あっさり言わないでよ!初めてだったんだから…」
「ふーん。それは言い事聞いたな(黒笑)」
「(ビクッ)そ…それで…無防備に笑うなって?」
「あんな可愛い顔をされたら、襲われるだろ」
はい?襲うって誰が誰を?
いやいやいやそもそも、可愛い顔ってなんですかー?
きょとんとした表情を浮かべている私を見て、神田は再び舌打ちをしました。
「チッ。無自覚かよ。これは厄介だな…」
「神田?どうしたの?」
「、これからモヤシとラビは二人きりで会うな」
え?どういう意味?
ワケ判んなくて神田に聞いたんだけど、はぐらかすばかりで答えてはくれませんでした。
とりあえず、リナリーにお礼を言いに行こうと思います。
後書き
終わりましたぁ。
やっとリクエスト小説が書き終わりましたよ。
紗奈様、お待たせ致しました(ホントにな)
頂いたリクエスト
『「ヒロインは神田が好き。でも告白できない
→リナリーが「神田がお見合いをす る」とヒロインに教える。
→ヒロインが泣いているところを神田が発見する。→ 神田がヒロインに告白する』
の内容に沿ってれば幸いです。
それにしても…相変わらず文才がない上に、纏めるのが下手だな。
書くたびに下手になってないか私(汗)
紗奈様、こんな小説で宜しければ、前後編ともお納めください。
紗奈様のみ転載可でございます。
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