図書室の後ろから3つ目の窓。
 そこは私のお気に入りの場所。
 だって、そこは…





想イ告グル





。やっぱりここにいた」


 日課となった図書館通い。
 いつものように、そこから彼を見つめていたの。
 そんなとき、リナリーに声をかけられた。


「どうしたの、リナリー?任務が入った?」
「違うわよ。一緒にご飯に行こうと思って。部屋に居なかったから、ここかなと思ったの」
「そっか。ごめんね」
「それは良いケド…やっぱり彼を見てるんだ」
「ん…」


 リナリーが窓の外に目線を向ける。
 私も、もう一度窓の外に目線を向けた。
 視線の先に居るのは『神田ユウ』
 私と同じエクソシスト。
 神田は六幻を見事に操り、ひらひら舞い落ちる落ち葉を一刀両断していた。
 相変わらず見事な剣裁きね。
 すごく綺麗。
 少しでも彼を見ていたくて、瞬きすら惜しむ私の様子に、リナリーは溜息をついた。


「ねぇ。神田に告白しないの?」
「…えぇ!?」
「こ・く・は・く。見ているだけじゃもどかしいでしょ?」
「それは…そうだけど…私は駄目だよ」


 だって、私は神田によく思われてないから。
 ううん。寧ろ嫌われてるかもしれない。


「何でそう思うの?神田に確認したの?」
「確認はしてないけど…一度、任務で失敗しちゃったから」


 以前に神田と一緒に任務へ赴いた。
 アクマの存在がはっきりと確認できた危険な場所。
 危険な場所だって判っていたのに、ミスをしてアクマの策に嵌ってしまった。
 大怪我を負った私は戦線離脱。
 結局、神田がアクマを破壊して、私の治療をしてくれたの。
 お礼を言った私に神田が言った一言が、今でも忘れられない。

 
「神田は何て言ったの?」
「『チッ。だから嫌だっつったんだよ』」
っ!それは…」
「嫌われて当然よね。神田は無能な人は嫌いだし、あの時は迷惑をかけてしまった。
 そんな私が告白しても、神田の気分を害するだけよ。だから…見てるだけで充分なの」


 そう…この想いが実らなくても、私は見てるだけで良い。


「本当に良いの?」
「え…?」


 突然のリナリーの言葉に、私は驚いて彼女を見た。
 普段は笑顔を絶やさないリナリーが珍しく怒った表情をしている。
 ど…どうしたの?リナリー。


は良いのね?神田が以外の人と付き合っても!
 以外の人を恋人としても良いのね!?」


 私以外の人を…神田が恋人に…
 頭の中で想像してみた。
 見知らぬ女の人が神田の隣に立つ姿を。
 その人に、優しく微笑む神田の姿を。
 仲睦まじく寄り添う様を。
 痛い。痛い痛いイタイ。
 胸が張り裂けそうなくらい痛い。
 でも………

 
「神田が…その人を選んだなら…それで幸せなら…」


 本当は凄く嫌。私が神田の隣にいたい。
 ずっと…ずっと二人で生きていきたい。


「でも…ほら。私、嫌われてるし」


 ヤバ…涙出そう。
 ダメダメ。泣いちゃ駄目。
 自分で言い聞かせて、無理して笑う。
 今の私、凄い顔してるんだろうな(苦笑)
 ふと、窓の外に顔を向ける。
 あ、神田がいない。修行を終えちゃったのか。
 もう少し見ていたかったのにな。
 ふぅ…と溜息をついた瞬間、リナリーに怒鳴られたの。


の馬鹿!!好きなら告白しなくちゃ駄目よ!
 他の人に神田を取られても知らないからね!!」


 リナリーはそう言うと、図書室から出て行ってしまった。
 告白…か。
 考えなかった訳でもないの。
 何度この想いを伝えようとしかた。
 けれど、決定打を打たれるのが恐かった。
 『嫌い』と彼の口から聞くのが嫌だった。
 今のままなら、僅かな希望が残されてるから―


「あ…リナリーとご飯…」


 ま、いっか。そんな気分じゃないし。
 私も修行をしてこよう。
 そう思い、私は図書室を後にした。




























 † † † † †


 トレーニングルームに行き、機械をセットする。
 この機械は、擬似的に敵を作り出してくれる。
 ゴーレムみたいな小さい物なんだけどね。
 それを破壊する訓練。
 敵は不規則で動くしスピードも早いから、結構訓練になるんだ。
 一呼吸置いて準備をし、トレーニング開始。
 双剣を構え、敵を切り捨てていく。
 一体、二体、三体…何処にいるかを見定めて素早く動く。
 単純だけど、効果的な訓練なの。
 1時間くらい続けたかな?
 流石にお腹が空いたから、汗を流した後に食堂に向かったとき。


「ぁ…」
「………」


 ばったりと神田に会いました。
 えっと…どうしよう?


「こ…こんにちは、神田」
「………あぁ」
「これからご飯?」
「いや、もう食った。は?」
「これからなの」
「そうか。邪魔したな」
「あ、ううん。そんな事ないよ」
「そうか」


 神田はそう言うと、去って行った。
 えっと…今私、何をした?
 誰と話をした?
 神田と話をしたよね?話したんだよね!?
 や…やったーーー!
 神田とお話が出来た!
 嬉しい!凄く嬉しい!!
 短い時間だったけど、神田と話せて嬉しいよv
 神田も何だか機嫌が良かったみたいだし。
 何か良い事あったのかな?
 神田が嬉しそうだと、私も嬉しくなるの。
 鼻歌交じりで食堂に行きました(笑)




























 † † † † † 


 と別れた後、食堂に入って行くの方を振り返る。
 珍しいな。今日は一人か。
 いつもだったらリナリーが近くにいるんだが…
 …最近入団した俺と同じエクソシスト。
 そして…図書室の後ろから3つ目の窓から、いつも俺を見てる奴。
 の視線に気付いたのは、何時だったか…
 いつもの場所でいつもの様に訓練をしていた俺は視線を感じた。
 俺を見ていたが気になり、の事について調べてみたんだが…
 は教団内で人気があるのが判った。
 リナリーを筆頭に、モヤシやラビもと仲が良い。
 周りに人が絶えた事なんかないくらい、常に誰かがの近くにいる。
 は面倒見も良い上に美人で優しい。
 教団内で人気があるのも当然だろうな。
 ま、俺には関係ねぇ。
 アイツが俺を見ていようが、任務さえしっかりやれば良い。
 ………そう思ってたんだが。
 いつからか…の笑顔を独占したいと思い始めた。
 がモヤシやラビに笑いかけるたびに、胸の中に黒いものが浮かんでくる。



 『他の奴等に笑いかけるんじゃねぇよ』
 『アンタは俺を見てればいい』
 『いっそのこと、誰の目にも触れない所に監禁するか』



 醜い感情が、胸中に広がっていく。
 そんな中、との任務が入った。
 アクマの存在が確認された危険な任務。
 被害状況や報告から推測すると、アクマはレベル2以上。
 エクソシストになって日が浅いには危険すぎる任務だ。
 そんな危険な場所にを行かせれるかよ。
 コムイに反対するも、そのとき教団にいたエクソシストは俺とだけだ。
 反対が聞き入れられるはずもなく、俺達は任務に赴くことになる。
 そして…任務中。
 危惧した通り、はアクマの攻撃を受けた。
 重症の
 俺はを戦線から離脱させ、を傷つけたアクマに破壊と言う名の償いをさせた。


 アクマを破壊した後、の応急処置をした。
 傷だらけで、あちこちから血を流している
 幸い骨折等はなさそうだったが、動くたびに辛そうにする。
 傷が痛むのだろう。

 
「チッ。だから嫌だっつったんだよ」


 危険だと判っててこの任務に就かせる事も、が傷つくことも。
 見ていたくねぇんだ。
 には笑っていてほしい。
 守ってやりてぇんだよ。


 だがこの任務以来、の俺に対する態度が変わる。
 は俺とあまり話さなくなった。
 話をしても、どこか無理やり笑顔を作っている。
 モヤシやラビとは明らかに違う笑顔。
 嫌われてんのか?
 そう考えた時もあったが、毎朝いつもの場所で俺を見ている。
 アンタは一体何を考えてるんだ?
 俺をどう思っている?
 もう一度振り返り、が入っていた食堂を見た。
 すでにの姿はない。
 今頃、を慕う奴とメシを食ってるだろう。
 黒くモヤモヤとしたものを抱えながら、俺はその場を後にした。




























 † † † † † 



 神田と食堂前であってから数日。
 相変わらず私はいつもの場所で神田を見ています。
 そう言えば…神田とリナリーって、結構喋るよね。
 羨ましいな、リナリーが…
 そう思い、軽く溜息をついたとき。


!大変よっ!!」


 リナリーが慌てて図書室に入ってきたの。
 一目散で私の近くまで来るリナリー。
 息をきらせて…どうしたのかな?


「どうしたの?リナリー」
「大変なのっ!!あのね、落ち着いて聞いてね?」
「うん?」
「神田が…」
「神田が?」
「神田がお見合いするのよっ!!」


 …神田が…お見合い?
 うそ…神田が…
 リナリーの言葉に、目の前が真っ暗になる。


!しっかりして、
「ぁ…大丈夫。ホントなの…?神田のお見合いって…」


 お願い、嘘だって言って。
 縋るようにリナリーを見たけれど、彼女の言葉は残酷に私の胸を刺した。


「本当…みたい。そしてね、神田ものり気みたいなの。このお見合い、受けるって」
「嘘…ねぇリナリー、嘘よね?」
「うそ…じゃないわ。兄さんから聞いたもの」


 コムイさんからの情報。
 ということは、真実…なのね。
 コムイさんがこの教団内で知らない事なんてないんだから。


「良いの?神田が誰かに取られちゃっても!」
「い…や…だよ。神田が誰かのモノになるなんて嫌!」
「だったら!想いを告げなくちゃ。今からでも遅くないわよ」


 リナリーは遅くないって言うけど…
 もう遅いわ。手遅れなの。
 だって神田は自分の意に反する事はしない。
 今回のお見合いだって、嫌なら何が何でも断ってるもの。
 お見合いがのり気だと言う事は、相手を気に入ってるという事。
 私に出番はないじゃない。
 そう言い下を向くと、


のバカっ!」


 と、リナリーに怒鳴られました。


「そんなの最後まで判んないじゃない!は逃げてるだけよ。
 駄目だと思ってるんなら当たって砕けようよ!
 ずっと引き摺ってたら、前に進めなくなっちゃうわ」
「でも…」
「いい?神田に告白してくること。言うまで絶交だからね?」
「えぇ?リ…リナリー?」
「いいから行ってくる!」


 リナリーに背中を押され、戸惑いながらも図書室を後にした。




























 † † † † † 



 が図書室から出て行った。
 やっと神田の所へ向かってくれたかな?
 キツイこと言ってごめんなさい。
 絶交なんてうそよ。私はが大好き。
 それともう一つ。
 ウソをついてごめんなさい。
 神田がお見合いだなんてウソ。
 は気付いてなかったみたいだけど、神田もの事好きなのよ。
 だって…神田はずっとを見ていたんだから。
 が男の人と話すたびに、凄く不機嫌になってたもの。
 そんな神田がお見合いなんてするはずないでしょ。
 この間言ってた任務の件だって、の誤解よ。
 神田が言った『嫌』はね、『と任務するのが嫌』じゃなくて、『が危険な任務をするのが嫌』なの。
 いくらエクソシストと言っても、はまだ経験が浅いから。
 あの任務が入ったとき、神田は凄く反対したんだから。
 『には危険だ』ってね。
 あの神田がそんな事言うとは思わなかったから、私も兄さんも吃驚しちゃった。
 ねぇ。自信を持って。
 貴女は神田に嫌われてなんかいないわよ。
 だから…頑張って。



後書き
111111HITを踏まれた紗奈様のリクエストです。
リクエスト内容をここで書くと、オチが判ってしまうので、今は秘密ですv
カンの良い人は判っちゃうかな?

紗奈様、大変遅くなり申し訳ありません。
後編も今書いておりますので、もう少しお待ちくださいませ。

紗奈様のみ転載可でございます。

後編へ

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