涙色の旋律 Melody.5





「あれ?キラ久しぶりだな」
「アスランっ」


キラとアスランが出会ってから一ヶ月の時が過ぎていた。
二人は最初のうちこそ、少しぎこちなくしていたが元々人懐っこいキラの性格も手伝ってあっと言う間に仲良くなった。
今ではこの公園のベンチが二人にとって特別な場所になっていた。ここにくれば会えるから。
傍から見ればそれは付き合いの長い親友や恋人のようだった。

しかし、その一方で未だキラの素性は分からないままだった。
出会って3日くらいは毎日この場所に現れたかと思うとその後5日間ぱったりと姿をみせなくなったり、聞けば同じ年なはずなのに
学校があるであろう時間帯に来て待ちぼうけをしたりとキラに対する疑問は後を絶たなかった。
しかし、なんとなく聞いてはいけないような気がして二の足を踏んでいたら完全に聞くタイミングを逃してしまって今に至っている。
だから、キラの年齢以外アスランの知っている事など殆どなかった。
キラがどこに住んでいて、学校は?家族は?何故、何日か置きにこない日が続くのか?等等。

普通ならこんな得体の知れない人間と関わり合いになどなる筈ないのになんで自分は律儀に相手をしてしまっているんだろう?
アスランは自分で自分が分からくなっていた。ただキラの笑顔を見てると気持ちが温かくなった。
それが心地良くてアスランはつい足を公園へと向けてしまうのだった。





「3日ぶり?だったか?」
「あれ?そんなに僕こなかったけ?」

キラはきょとんと首を傾げる。キラは結構アバウトな性格をしていた。そしてとてつもなく世間知らずだった。
突然、突拍子もない事を言い出したりしてよくアスランは驚かされていた。

「そう言えば最近、ピアノも聴けてないんだよな…」

一瞬、キラの体がピクリと動いたような気がした。アスランは不思議に感じながらも話を続ける。

「そう言えばキラは聴いた事なかったよな」
「う、うん…」
「凄く綺麗な音色でさ、俺は音楽なんて全く興味なかったんだけどその音色を初めて聞いた時は思わず聞き惚れたよ」

瞼を閉じてその音色を思い出すようにキラにピアノの話をするアスランはとても楽しそうだった。
そんなアスランの様子をみてキラも思わず微笑みを浮かべる。
自分の奏でる音楽でこんなにも喜んでくれる人がいる。それがこんなにも嬉しい事だなんて今まで知らなかった。
家族の前で演奏する事はあった。でもそれは自分が弾きたいから。その時はそれしか知らなかったからそれでいいと思っていた。
でも、今は違う。自分の為ではなく、アスランの為に。聴いてくれている人の為にピアノを奏でている。

「一体、どんな人が演奏しているんだろう…?」
「え?」
「きっと凄く綺麗な人だと思うんだけどキラはどう思う?」

アスランの言葉にキラは俯いて少し悲しそうな表情を浮かべた。しかし、それを直ぐに笑顔に変えてアスランに向き直る。

「僕はそのピアノ聴いた事がないから想像できないよ」

淡い微笑みを浮かべてるキラにそれもそうかとアスランは笑う。

(アスランの夢を壊しちゃいけないよね…)

キラはピアノを奏でているのが自分である事をアスランに言えないままでいた。
その理由は三つ。ひとつはアスランがピアノを奏でている人物を想像でかなり美化してしまっている事。
これにより、なんだか自分が演奏しているなんて恥ずかしくて言えなくなってしまった。
二つ目は自分の事をアスランに誤魔化し続けている事。ピアノの主が自分だと分かれば当然実家も知られてしまう訳で
そうすれば今まで誤魔化しつづけていた事が全てバレてしまう。
そして、三つ目は……

(折角友達になって貰ったのにホントのことを知ったらアスラン、きっと僕の事……)

キラは初めて出来た友達をなくす事が怖かったのだ。
今までまともに友達を作る事が出来なかったキラだからこそ、些細な事でも不安で素直に打ち明ける事が出来ないでいた。






                                  



   ◆あとがき◆
はい。ブログから移動してきて初のUPです。『涙色の旋律5』をお届けです。
まだまだ冒頭ですがこれからいろいろあります。(あたり前)今回は前回の出会いから一ヶ月という時間が過ぎております。
キラとアスランはすっかりお友達モードです。そして既にすれ違ってます。アスランはキラの事がもっと聞きたいのに聞けないで
いるし、キラはキラで言いたいけど言えないみたいなっキラが何日か置きにこなくなるのはきっと分かって貰えてると思いますが
無理して外に抜け出しているので寝込んでしまっているのです。よってピアノも奏でられない。という訳なんですね。
次回は一騒動起こしたいなと思います。そこまで進むかは自分にもわかりませんが……
宜しければ拍手などで感想聞かせて下さいませvvv