キミと見上げた空の先 第2話
『急な手紙で驚かせてごめん。ヤマトと出会ってヤマトの事をいつも目で追っている事に気付きました。
明るくて優しいヤマトの事が気になっています。もし、良ければ教室で誰もいなくなってから話をしてみたいです』
「……恥ずかしい奴だな…一体どんな奴だ?」
「あら?私、凄く情熱的だと思いましたけれど?」
「……………///。」
キラが今日貰った手紙をラクスが読み上げた後、各自それぞれの反応をみせた。
カガリは手紙の内容に怒っていた事も忘れて顔を赤らめて複雑な様子だ。
ラクスはにこやかにサラリと感想を述べている。キラはと言えば読まれている間中 ― というか今も顔を真っ赤にして
ずっと俯いたままだ。まあ、当然といえば当然だ。自分が貰ったラブレターを目の前で声高だかと読み上げられたのだから。
居た堪れないなくて本当はこの場から逃げ出して自室に駆け込みたい気分なのだ。
しかしそれはラクスとカガリに腕をがっちり押さえられている為に許されなかった。
「えっとー差出人は…」
カガリの声にキラの肩が微かにピクリと動く。顔は上げる事が出来ないままで耳に全神経が集中する。
実はキラもまだちゃんと手紙を見ていなかったのだ。
キラは容姿も可憐で性格も温厚で優しい為、中学に入った頃からキラに好意を抱く者は多かった。
しかし幸か不幸か、カガリの鉄壁の防御がいい感じに周囲に牽制効果をもたらしていた為、今まで誰かに告白されたり
手紙を貰ったりと言う事は今まで皆無だったのだ。その為、下駄箱に手紙が入っているのを見た途端に頭の中が真っ白になって
気付いたら家の自室にいたのだ。
そして暫く呆然と手紙の入っている鞄を見つめていたのだが出して見る勇気の出なかったキラは取り合えず着替える事にしたのだ。
そうしてカガリが突入してきた冒頭に繋がる訳なのである。
何故カガリが手紙の事を知っていたのかはこの際置いておくとして、そんな訳でキラは手紙の内容どころか差出人も知らないままだったのだ。
「アスラン・ザラ?」
読み上げられた名前にキラはドキリとする。その名前は確か…
「キラ、どんな方なのですか?」
「えっと…確か同じクラスの人……確かクラスの女の子達が頭が良くて、スポーツも出来て、格好良いって騒いでた人が
そんな名前だった気がする」
「まあ、そんな方に好かれるなんて凄いですわー」
「えっ、そんなの…困るよー」
既に真っ赤な顔を更にこれ以上ないくらい赤くさせてキラは首を振る。
そうしながらも頭の中では手紙の差出人の顔を思い出そうとしていた。
(たしか…凄く綺麗な顔をしていたような気がする…)
いくら同じクラスでも今まで全く気にしていなかった人の事を思い出そうとしても限界がある。
何となくは思い出せてもはっきりとは思い出せない。
「…おかしい…」
キラがそんな事を考えていると今まで何故か大人しかったカガリが声を漏らす。
カガリの方に目を向けると手紙に穴が開くくらい食い入るように見つめていた。
「な、何がおかしいの?」
キラが恐る、恐るカガリに聞く。するとカガリは手紙から視線をキラに移して、手紙をペシペシ叩く。
「この手紙がだよっ」
「?だからどこが??」
きょとん。とキラが首を傾げるとカガリはああ、もう。と髪の毛をガシガシとする。
「だーかーらー!この手紙の文面がおかしいって言ってるんだよ」
「この手紙が?どの辺が??」
一向に自分の言っている事に理解してくれないキラをじれったく思ったが、こんな所もキラの可愛らしいところだから
仕方がないとふーっと一呼吸置く。そしてゆっくりと説明を始めた。
「この手紙は一見、恥ずかしいくらいのラブレターだ。しかし、この最後の『教室で誰もいなくなってから』というところ!」
「ただ、人がいると落着いて話ができないからなのでは?」
ラクスの冷静な返答にキラもうん。うん。と頷く。しかし、カガリは分かってないなと困ったように微笑する。
「いいか?こいつはモテるんだろう?と言う事はだ、女には何一つ不自由がなかったって事だろ?
そんな奴がいくらキラが可愛いからって態々こんな手紙なんか書くと思うか?」
「それは…」
そうかもしれない。とキラは思う。カガリやラクスは可愛いって言ってくれるけどキラは自分の容姿にそれ程自信をもっていなかった。
カガリやラクスの言ってくれる可愛いはきっと家族として妹としての可愛いだ。
異性が感じる可愛いとはあたり前だがまるで次元が違う。自分が異性にそういう意味で可愛いと思われる容姿なのであれば
もっと早くにラブレターなり告白なりされていた筈だ。それがなかったという事はそういうことなのだろう、と。
カガリの異常的までの牽制の効果がキラに可笑しな勘違いを確信的なものにさせていた。
「そんな女なれしている男がキラみたいな大人しい奴を誰もいない教室に呼び出すなんて怪しすぎる…」
「それは考え過ぎなのではないですか?」
「いいや。そいつはきっと純真無垢なキラを弄ぶつもりなんだ」
キラの自分に対しての無自覚な勘違いをよそにカガリの話はどんどん白熱していく。キラの肩をがしっと掴むと真剣な面持ちを向ける。
「な、何?カガリ」
「いいか、キラ。これから私が言う事をよーく聞いてその通りにするんだ」
「え?」
「ホントは私が直に引導を渡してやりたいのだが流石にそれをやるのは拙い。それに明日はバスケの試合の助っ人を頼まれていて
どうしても放課後は抜けられないんだ」
カガリのその言葉に内心ほっとする。一人で会うのは正直不安ではあるけど、カガリに出てこられると余計に事態が拗れて収拾がつかなくなる。
キラのそんな気持ちも知らずカガリは凄く悔しそうに拳を握り締める。
「傍にいてやれないのが凄く心配だが…大丈夫だ、キラ。ちゃんと私の言う通りにすれば何の問題もない筈だから」
そう言ってニカッと笑ってくれるカガリの気持ちだけは素直に嬉しくてキラも微笑みながら頷く。
妹の可愛らしい笑顔に気持ちを良くしたのかカガリは嬉しそうにキラに語り始めるのだった。
◆あとがき◆
はい。余り間が空けずに更新できました。『キミと見上げた空の先』第2話をお届けします。
勢いで書いているので我に返る前にばーっと書いてしまわないと書かなくなりそうなシリーズです。
でも、今連載しているシリーズの中では割と設定がしっかりしている方だと思います(笑)
元アニメの『みなみけ』では次女がラブレターを貰って三女が可笑しな解釈をして勝手にラブレターの主を番長だと
次女に思い込ませます。頭が余りよくない次女はそれを信じてしまうのです。
ですが、このシリーズの場合三女のキラがラブレターを貰っているので勝手な解釈をしてカガリに暴走してもらいました。
そして、告白現場についてきそうなカガリは部活の試合の助っ人と言う理由でこれなくしました(笑)
二人っきりにして貰わないといろいろ始まらないので…では、次もそんなに間を空けず頑張りたいと思います。