逢いにおいでよI
― 時は流れて数週間後。
キラの捻挫は未だ少し足を引きずってはいるものの随分回復して日常生活には然程支障がでないまでになっていた。
怪我をした当初の数日間は捻挫からくる発熱が続いたり、熱が下がっても足の腫れは中々引かなくてベットから
出れるまでに一週間を要した。
それからがまた大変で、医者の許可が下りたのに超過保護な幼馴染達が中々首を縦に振ってくれなくて
キラはずっと寮の自室に缶詰め状態を強いられる日々が続いていた。
(ホントに心配性なんだから…)
はーっ、と深く溜息を吐きながらひょこひょこと少し足を引きずりつつキラは教室へと続く廊下を歩いていた。
(そうそういつまでも休んでいられないし、それにもう充分元気だし)
いい加減我慢の限界を超えたキラは幼馴染達の隙を附いて寮を抜け出して登校してきていた。
勉強は特に好きという訳でもないけれど、学校は好きなのだ。こんな怪我でいつまでも休んでいるなんて詰まらない。
「あれ?キラじゃないか!」
「お前もう大丈夫なのか?アスランとジュール先輩の様子から察するに学校に当分来れないと思ってたんだけど」
不意に声をかけられ振り向くとそこには久しぶりに見るクラスメイトが少し驚いた様子でキラを見ていた。
「トール!サイ!」
久しぶりに友人の顔を見れた事が嬉しくてキラのぱあ、と嬉しそうな笑顔を浮かべた。
高だか数週間ぶりなだけなのに何だか何ヶ月も会っていなかったように感じる。
トールとサイも同じように感じでくれたのか、なんかもう大丈夫みたいだな。とにっとキラに笑いかけて駆け寄ってくる。
「元々たいした怪我じゃなかったんだけど、ちょっと無理しちゃったのとアスラン達ってば心配性過ぎて………」
少し困ったように笑うキラ。それを見た友人達もその様子に大体の事情を察したのだろう、笑いながらキラの肩をポンポンと叩く。
「あははははー、何となく想像できるなーってかキラが休んでる間のあの二人、目だってたからなー」
「へ?」
「もう、凄かったんだぜー今日のキラの看病はどっちが行くとかで毎日毎日大騒ぎだったぜ?」
「あれはもう放課後の名物みたいになってるな、今は。それ目的の見物人とかもいるくらいだし」
「そうそう、あの二人あのビジュアルだからなーそれにどっちも普段は余り感情とか表に出さないタイプだろ?」
「あんなに感情を剥き出して言い合いしてる姿を見たがるあいつらのファンなんてそれこそどれだけいる事かー」
「へーそんな事になってたんだ…」
(恥ずかしいな…もう…)
自分が登校できない間、あの二人は学校でそんな事になっていたのかとキラは深く溜息を吐く。
二人がどんな事になってたかなんてあの二人と一番付き合いの長いキラが一番良く分かっている。
熱がある時は二人が優しくてそれが嬉しくてそんな事気にもしていなかったし、二人とももう高校生なんだから子供の頃みたいな事には
なる訳がないだろうと訳もなく思っていたが、熱も引き冷静になって今の二人を見続けた数週間は伊達ではない。
いくら天然で鈍いキラでもそこまで馬鹿ではない。あの二人は多分相性が悪いのだ。
だから二人だとどうも喧嘩腰になってしまうのだろう。
それでも二人の仲が完全に険悪にならないのはキラが間にいることによってバランスを保っているのだ。
二人に看病されながらその事に気づいたキラは取り合えず二人の間に絶えずいる事を心がけていた。
でも、流石に学校では大丈夫だろうと思っていたのだが二人の相性の悪さはキラの予想を遥かに超えているものだったらしい。
「そのせいでキラも有名人だしなー」
「え?何で僕が?」
キラはトールがさらっと言った言葉をすかさず聞き返す。
するとトールはからからと笑いながら答えてくれた。
「そりゃ、あんな目立つ二人の口から大音量で毎回、キラキラって言ってればなー」
「顔知らなくても名前だけなら学校中が知ってるんじゃないか?」
「嘘……」
キラは顔を赤くして周りを見渡した。学校に入った時から見られているような気はしていたけどまさかそんな理由だったとは…
恥ずかし過ぎて穴があったら入りたい状況だとキラは思わず蹲る。
「まだ足が完全に完治してないのに蹲るな、足に負担がかかってまた悪化するぞ」
「てか、何で学校に来てるのかなーキラは?」
蹲ったキラの上から聞きなれた声が降ってきた。瞬間、キラの体がびくりと揺れる。
後ろを振り返るのが怖くて目の前にいる友人に目で助けを求めるが、多分後ろの二人がとんでもなく凶悪な笑顔で二人を牽制しているのだろう
苦笑した二人が「悪い、俺達には無理だ」と謝罪込めた目で申し訳なさそうにキラを見返したあと、そのままキラを置いて行ってしまった。
(薄情者ーーーーー!!)
心の中でそう叫ぶもののそれで彼らが戻って来てくれるはずもなく…
「さて、邪魔者もいなくなったところでキラ?」
「どうして俺達に黙って学校に来たのか、説明してくれるよな?」
ギギギギ…と錆付いたロボットのようにゆっくりと振り向くとその先にいたのはやはり超過保護な幼馴染のアスランとイザークだった。
二人は不機嫌そうな顔で蹲っているキラを見下ろしていた。
「…だ、だって……」
「だって?だってなんだ?キラ、お前はまだ学校行くのは無理だって言ったよな?」
「で、でもそれはアスランが言ってるだけでお医者さんはもう大丈夫だって…」
「俺の言った事よりもあんなヤブ医者の言う事信じるのかキラはっ」
キラが自分に黙って寮を抜け出した事が余程気に入らなかったのか今日のアスランはキラに対して少しきつめの口調だった。
そんなアスランに圧倒されて一瞬ぐっ、と言葉が詰まるがここで引いたらまた暫く寮から出して貰えないと思いキラも負けじと言い返す。
「そう言う訳ではないけど、でももう充分元気だし暇だし学校行きたいし!イザークも何とか言ってよっ」
「それに関しては俺もこいつに賛成なんでな。別にずっと行くなとはいってないだろう?
ただ、お前はすぐに無茶をするからもう少し大事をとって休めといってるんだ」
アスランよりは冷静でいてくれていると思ってイザークに助けを求めてみたのに逆に窘められてしまう。
「そんな、イザークまでーそうそう無茶なんて僕だってしないよー」
「その言葉に何度騙されたと思ってるんだ?キラに関しては年期が違うんだ、甞めるなよ」
「別に甞めてないけど、二人にも感謝してるけどー学校にも行きたいーっっ!!」
「キラ、我侭もいい加減にしておけよっ」
「我侭はどっちだよっ」
「「キラ」」
「むーーー」
二人がかりで言葉で攻められたら初めからキラに勝機なんてありはしなかった。
それが分かっているからこそ余計に癪で最後の抵抗とばかりに頬を膨らませて二人を睨みつけていた。
そうなったキラを宥めるのも彼の性格を熟知している二人にはお手の物で言葉を巧みに使ってキラの機嫌を治すのにそれ程時間は
かかならなだろう。しかし、そうしている間に始業のチャイムはいつの間にか鳴り終わって授業が始まっていたとか、
実はそれはアスラン達の計算づくの事だったとか、キラがその事にまったく気づいてなくて結局なんだかんだで寮に連れ戻されたとかは
当人達のみぞ知る事なのでここでは敢えて触れないでおく事にする。
アスランとキラがお互いの気持ちに気づいてラブラブになる日はきっとまだ少し先の話だろう。
今はまだこんな感じで三人で過ごすのも悪くないとキラが思ってしまっているから。
そしてキラの意思を最優先にしつつアスランを敵視するイザークがそれとなく邪魔をしている限りは………
アスランが幸せをかみ締める日々を送れるようになるまでにはまだあと少し時が必要なのかもしれない。。。
END
◆あとがき◆
はい。漸くです!漸く、『逢いにおいでよ』完結する事ができました。かなりの無理やり感が否めませんがそれは
管理人の力不足と言う事で多めに見て頂けると嬉しいです…(汗)
当初、ラブコメにするつもりで書き始めたのに途中、えせシリアスになってしまたりして話が書いてる本人が良くわからない
方向に向かってしまっていたのですがー最後に一応当初のノリに戻れたかなーと本人は思ってます。
あとはキラの性格が最初と最後でなんか少し変わってしまったようなーとかアスランとキラが一時ラブラブモードに
突入しかけたのに結局なにも進展がなかったとか、いろいろ反省点は残りますがこの反省は次回以降の作品で生かせればなーと
思います。それでは最後にここまでこの作品にお付き合いありがとうございました!!