カタカタと無機質な音が響く部屋の一室。
暗い部屋の中にぼうっとパソコンの光が彼、アスランの顔だけを浮かび上がらせている。
傍から見ると怪しい事この上ないのだが当の本人は全く気にする事無く画面に集中している。

 「 よし 」

パチっと最後のキーを押すと満足げに微笑む。普段なら彼の笑顔は彼に心惹かれている者なら卒倒しそうとか
そう言った言葉が出てくるのだろうが…この時の彼はお世辞にも格好良いとかそう言う類のモノではなかった。

 「 バレンタインはプラスマイナスゼロだったからな 」

くくく、と含み笑いを堪えながら一人呟く。



キラとの関係の進展の為なら形振り構わず突き進む男、アスラン・ザラのホワイトデイミッションがスタートする。



  世界中の好きよりもたったひとつのありがとう 2  Vol. 1


ことの起こりは一ヶ月前に溯る。バレンタインにキラがアスランにとプレゼントを用意してくれたのだ。
しかしキラはカガリの策略(?)によりバレンタインを勘違いしてしまっていたのだ。
一体どんな勘違いかと言えば『日頃お世話になっている人に感謝する日』だと思っているのだ。
当初はキラからのプレゼントと『一番』と言う言葉に喜ぶだけだったが時間が経つにつれ、
このままでは自分たちの関係が進展するのは何時の事になるかと考え始め、キラの性格上ゆっくりと関係を作り上げていきたいと思う反面
早くラブラブな関係にもなりたいとも思う自分がいた。(キラが自分に惚れている事勝手に前提)
しかし、そう考えると必ず浮かぶのは今回の件でもキラに要らぬ間違った知識を与えたカガリである。
彼女は弟であるキラを溺愛しており、ことある事にアスランの邪魔をするのだ。
今回、彼女のおかげでキラからバレンタインの贈り物を貰えたと言う事は完全に棚上げにして
彼女より先にキラにホワイトデイの知識を教えつつ自分達の関係を一歩進める計画。アスランはそれを考えていたのだった。

 「 あとはどうすればカガリがキラに余計な事を吹き込まれないか… 」

腕を組みながら座っていた椅子の背に凭れ掛る。ぎっぎっと軋むような音が静かな部屋に響く。
カガリとキラの接触を皆無にするのは不可能だ。住む家こそアスランと同じ家ではあるが
同じ学校に通っている彼女のほうがアスランより一緒の時間が事実上は長いのだ。
双子と言う事もあって同じクラスになっていないのがせめてもの救いだが。
ともあれ、キラとカガリを会わせない方法はどう考えても無理なのである。ならばどうするか?
他の計画は大方完璧に出来上がっているのだが、最後にして最大の難関に頭を悩ませるアスランを余所に夜は更けていった。


 「 あれ?アスラン 」
 「 おはよう、キラ 」

翌朝、その日家事当番だったキラが朝食を作るべくリビングに行くと既にアスランがキッチンで珈琲を淹れていた。

 「 今日はやけに早いね、当番は僕だったよね? 」
 「 ああ、何だか早く目が覚めてしまってな 」

否、ただ寝てないだけである。
基本的に優秀なアスランは人一倍集中力がある為、一度集中して何かに取り組めば三日四日は平気で徹夜可能なのである。

 「 あ、早く起きたついでに朝食は俺が作っておいたから 」

そう言って指差した先にはトーストとベーコンとスクランブルエッグとサラダ。それとキラ用に甘く淹れたコーヒーが置いてあった。

 「 え?あ、ホントだ。もう、僕が当番なんだからゆっくりしてればいいのに 」
 「 まあ、暇だったし 」
 「 って、一体何時から起きてたの? 」
 「 ま、まあ、少しだよ。ほら冷めないうちにどうぞ 」
 「 …うん 」

まだ、納得いかない様な顔をしているキラをテーブルに着かせるとアスランもキラの前に座る。

 「 あれ?アスランは食べないの?」
 「 ああ、俺は珈琲だけでいいよ 」

徹夜明けだし…とは言えないが。

 「 アスランって、僕には好き嫌いするなーとかちゃんと食べなきゃ駄目だーとか言うくせに自分自身は以外に食生活乱れてるよね 」
 「 そんなことないだろ?今日は偶々… 」
 「 そんなことありますーアスランって結構なんだかんだ言って朝食とか抜くじゃない 」

そんなことは無いとは思うのだけど…まあ、確かに時には珈琲だけで済ましたりとかすることも無い事は無いが…
額に皺を寄せて考え込んでいるアスランの様子にキラはぷっと吹き出す。

 「 そんなに真剣に悩まなくてもいいのに、アスランってホントに真面目だね 」
 「 それは褒め言葉と取っていいのか?」
 「 もちろん。」

にっこり微笑まれてしまったらもうアスランの負け。普段なら口でアスランがキラに負ける事など余りないのだが
やはり徹夜明けで頭が回ってなかったと言う事なのだろう。
キラもキラで珍しくアスランを言い負かせた事が嬉しかったのかニコニコしながら食事を進めている。


 「 アスラン、食べてないんだからもう一杯くらい飲むでしょ?」

朝食を終えたキラが後片付けの為に向かったキッチンからアスランに声をかける。

 「 ああ、頂こうかな 」




アスランとキラの何気ない朝の日常。







                                  アスラン、運命のホワイトデイまであと3日。