世界中の好きよりもたったひとつのありがとう Vol.2
あれから数時間、結局キラに聞くっと言う事で落ち着いたアスランが彼の帰りを待っていた。
しかし、そういう時に限っていつもよりキラの帰りが遅い。
些か苛々する気持ちを抑え、夕食の支度をしながらも時計の針をちらちらと見る。
時刻は七時を少し回った位。普通の高校生ならまだ早い時間なのだがキラは部活にも入っておらず、
いつもは七時前には帰宅している。仮に友達と出掛けると言う事があれば連絡を入れてくる筈だった。
この共同生活での二人の暗黙の了解的なルールだった。
( もしかして…事故にでもあったんじゃ… )
まだ七時半少し前、いつもよりほんの少し遅いだけなのだがアスランは心配で仕方が無い。
惚れた弱み…っと言うかそれとはまた別にキラに対してアスランは超が付くほど過保護なのだ。
好きだから故の心配もそれはもちろんあるのだが、幼い頃からの習慣でキラの世話を焼きたくなってしまう。
キラも、もう高校生なのだからとは思いながらも。
「 ただいまー 」
と、そこに聞き慣れたそして待ち焦がれていた声が玄関から響く。
アスランは駆け出して行きたい気持ちをぐっと堪え、あくまで冷静を装い夕食の支度を続ける。
カチッとリビングのドアが開き、キラが中に入ってくる。
外はかなり寒かったのだろうマフラーから覗く肌が些か赤くなっていた。
マフラーを外し、コートを脱ぎながらキッチンにひょこっと顔を覗かせる。
「 アスラン? 」
「 ああ、おかえり。遅かったな」
アスランは振り返らずに答える。キラが無事に帰ってきた安堵とそれと同じ位の…もしかしたらそれ以上の苛立ちを感じてしまい
振り返って何時も通りに接する事が出来なかった。
「 うん、ちょっと学校で友達と話し込んじゃって 」
アスランの様子が些か気になりながらもキラはそう言いながらリビングに戻り、脱いだマフラーとコートをソファーにかけた。
そして再びキッチンに向かうとアスランの後ろに立つ。
「 夕飯任せちゃってごめんね、手伝うよ 」
腕を捲り手を出そうとしたキラをアスランの腕が阻んだ。
驚いて彼の方を見上げるとやはり顔はこちらに向けないまま黙々と鍋を見つめている。
いつもは何でもない事なのに今日はちょっとした事に苛々する。
「 いいよ、もう直ぐ終わるから 」
「… うん… 」
素っ気無いアスランの態度にキラは一歩後ろに引く。
そんな風に言われてしまったらこのまま無理に手伝うって事も出来なくなってしまってキラはキッチンから出て行く。
( …どうしたんだろうアスラン…帰ってくるのが遅かったから怒ってるのかな? )
アスランの様子が変だ。でも帰りが少し遅いだけで何であんなにも不貞腐れなくてはいけないんだ?
仮にも自分は高校生なのだから友達との付き合いだってあるんだし。
( まあ、今日は僕も連絡いれなかったから悪いんだけど)
気まずくなったキッチンとリビングには無機質な食器の音とTVの音だけが混ざり合っていた。
Vol.3へつづく★