自作プリズム分光器の紹介
五藤光学研究所より1979年頃発売していた「35mm版カメラ用対物プリズム」は恒星、流星のスペクトルを写すアクセサリでした。
これを使ったスリット分光器です。
重フリントガラスを使った正三角分光用プリズムは直角プリズムの45度辺を使ったプリズムより波長分散が大きいのでスペクトルが写しやすい。
ありあわせの材料使用の手作り品で1980年代から装置改良と製作中断を繰り返してきました。
フイルムカメラからデジタルカメラに変わり撮影直後に画像が見えるようになり撮影は以前より容易になり、
恒星のスペクトルを失敗が少なく写せるようになりました。
デジタルカメラ用望遠レンズはEDガラス使用で色収差が少なくなりフィルム時代のレンズより良く写るようになった。
光学系はブロックに分けると(恒星を写す場合)
・ L1 星の光を集める対物レンズ
・ スリット上の恒星像が観察できるスリットボックス
・ L2 スリットを通過した光を平行光線にするコリメートレンズ
・ プリズム部
・ L3 撮影レンズ+カメラ
・ 恒星導入用ファインダー
これらを木の板上に並べ、裏面に付けたビクセン規格プレートで赤道儀にワンタッチで取り付けできる。
太陽や蛍光灯など身近な光源の分光撮影は比較的容易です。 しかし恒星は点光源、時間と共に動く、暗いため スリット上に星を導入するのとスリット上に保持するのが大変です。 スリットを使わない対物プリズム式だと導入は容易ですが空の明るい都市部ではバックの明るさに恒星スペクトルがかぶってしまう。 近くの星とスペクトルが重なる場合がある。 スリット式だと恒星周囲の空はスリットで遮蔽するので街明かりの影響を減らしてスペクトルが撮影できる。
対物レンズL1は大きいほど暗い恒星を写すことができるが装置が大きくなり、屋外への持ち出しに苦労する。 赤道儀を外に持ち出して使う私の分光器の場合、 恒星撮影にd=5cm f=25cm 赤道義を使わない室内での撮影にはd=4cm f=20cm アクロマートレンズを使用。 コリメートレンズL2はd=4cm f=30cm 自作望遠鏡を使用。 スリットボックスはL2の望遠鏡接眼部に固定。 スリットはホームセンターで買った厚さ0.1mmステンレス板より自作。スリット幅約50μm スリット幅は広すぎるとスペクトル暗線がボケてしまう。狭いと恒星をスリット上に保持するのが難しくなる。
(左)はスリット観察接眼鏡から見た例。近くの建物の一部が見えている。
中央縦の黒い線がスリット。井桁の黒い十字線は暗視野照明で十字線を赤く照明できる。
スリットビュワーL4の鏡筒はスリットに対し横方向の微動でスリットと十字線が重なるように調整できる。
夜間使用時は背景も真っ暗なのでスリットの位置が見えない。適度の明るさで十字線を照らし、スリットの位置が分かるようにしている。
撮影はAPS-Cデジタル一眼にコンパクト望遠ズームまたは90mm F2.8マクロレンズ使用。
望遠レンズの先端に重い分光プリズムをつけるとたわみによる光軸のずれが出やすくなるのでプリズムは独立して台に取り付けている。
ファインダーは市販の6x30正立像ファインダーを使用。
どこにでもあった光源だがLED照明の普及で少なくなった。
紫から赤まで適度に水銀の輝線が見えるので蛍光灯は分光器の調整、波長測定の基準に便利な光源です。
赤色側の明線には蛍光体の発する光が含まれている。
数字は輝線の波長(nm)
1970年代から2010年頃までは日本の街灯は水銀灯か蛍光灯で光害の元凶だったが、多くがLED照明に置き換わった。
輝線は蛍光灯と同じ。白黒フィルムで良く写った紫外線に近い紫色の404nm線がデジタルカメラではあまり写らない。
食塩水を付けた針金を都市ガス炎に入れた時のオレンジ色(D線)の発光を撮影。
単色の線スペクトルため明るく写る。
オレンジ色で明るく輝いている街灯。
スペクトルはナトリウムのD線付近が暗くなっている。弱いながら青や緑色の輝線が出ているので貧弱ながら演色性がある。
オレンジ色で光る。電源のパイロットランプなどにLED登場前から使われている
赤色の線スペクトルが密集している。スペクトルの下はネオン管外観。
オレンジ色ネオン管の筐体は透明プラスチック製で緑色ネオン管は緑色プラスチック製。
緑色プラスチックを透過するだけで緑色に光るのか?疑問だったが分光器での撮影で緑色に光る理由が少しわかった。
黄色〜赤のスペクトルはオレンジ色ネオン管と同じだが、
オレンジ色ネオン管で見られない青色の線スペクトルが出ているのと緑色蛍光体の発光が見える。
青色部と赤色部の輝線はネオン管を包む緑色ケースを取り除くと、掲載写真より良く見えるようになる。
スペクトルの下は緑色ネオン管パイロットランプ外観。
淡紫色に光る点灯管は蛍光灯の点灯時に短時間発光する。
点灯管の発光を観察するための回路を作りスペクトルを撮影した。紫〜赤まで多数の輝線が出ている。
写真用フラシュ(ストロボ)のスペクトルは白色連続光に輝線が少し写っている。
スペクトルの上の青、緑、赤色の点は比較用に写した蛍光灯の明るい輝線。
よく使われている色のLEDのスペクトル例
上から赤色、緑色、青色、白色
白色の下は蛍光灯の明るい輝線を比較スペクトルとして並べています。
蛍光灯輝線を基準に各LEDの横軸(波長)を揃えています。
スペクトルの下は各LED外観。
石油パラフィンの蝋で作られた普通のろうそく。
内炎に露出を合わせて撮影。
ナトリウム輝線(D線)が少し写っている。
ろうそく炎心、外炎部分のスペクトルは、トップページ(Home)より「他の案内−小実験−ろうそく炎の分光」ページで紹介しています。
液化天然ガス13Aの炎のスペクトル
ナトリウム輝線(D線)も写っている。炭化水素(メタン)がバンド状に発光している。
蛍光灯スペクトルを分散素子にDVDの記録面を回折格子に使った場合と比較 水銀輝線の546nm-579nm間を同じ間隔に見えるように画像サイズを調整して並べた。 プリズムは青から紫にかけて分散が大きくなるのが良くわかる。
ソフトウエアで人工着色したのではない、デジタルカメラ一発撮りのカラー恒星スペクトル画像集
スペクトル型 B2 , 等級 1.6
水素原子の発するバルマー系列の暗線とヘリウム暗線が見える。
スペクトル型 B0e , 等級 2.4
1866年バチカン天文台のセッキによりスペクトル中に輝線が最初に発見された恒星です。
スペクトル型 A2 , 等級 1.3
水素原子の発するバルマー系列の暗線が見える。
スペクトル型 A0 , 等級 0.0
水素原子の発するバルマー系列の暗線に幅があるのはピンボケではなく
ベガが高速で自転しているため。
スペクトル型 G5 , 等級 0.1
太陽と同じG型。G型で最も写しやすい一等星。
スペクトル型 K2 , 等級 0.0
マグネシウム、ナトリウム、鉄など金属の暗線が見える。
スペクトル型 M0 , 等級 1.0
金属の暗線が強く見える。
1980年頃 カラーフィルムで写したスペクトルは三原色に発色するだけでだけでグラディーションが無く、
スペクトル線も見にくい、つまらない写りだった。
白黒フィルムだと色はわからないがスペクトル線は良く写った。
デジタルカメラで写すと肉眼で見た場合に近い中間色が写る、スペクトル線も写ることに感心した。
何より、直ぐに写り具合が見れる、コマ数を気にせずやり直しができる。
一般用白黒フィルムの感色性はオルソパンクロマチック。
太陽スペクトルで、ナトリウムD線付近を適正露出で写すと656nmのC線(Hα)は感光範囲の端で感度が低く写らなかった。
Hα線はオルソパンクロマチック・フィルムに写りにくかったが肉眼では確認できる赤色の範囲。
反対に紫色側は白黒フィルムの方が肉視より良く写った。
プリズムの分散は短波長側で大きくなるのでモノクロフィルムで青色、紫色付近は高分解のスペクトルが写せた。
A型星を白黒フィルムで写したスペクトルはバルマー系列がHγ,Hδ,Hε ... H10付近まで写っていた。
デジタルカメラは人の眼で良く見える感色範囲と同じになっている。
下記リンクより太陽スペクトルを白黒フィルムで写した場合とデジタルカメラで写した場合の写る波長範囲を
比較した画像(長辺1000pix)が別ウインドウで開きます。
撮影は感光範囲末端部の露出不足を補うため+1,+2EV露出オーバーで写した画像を重ねている。
デジタルカメラで波長420〜650nmの範囲。白黒フィルムで400〜640nmが良く写っている。
僅かな違いだが太陽スペクトル紫色の端にあるカルシウムの強い吸収線K線(393nm)とH線(397nm)が
市販デジタルカメラでは写らない。
フラウンホーファー線で有名なドイツの光学機器製作者、物理学者であるJoseph von Fraunhofer(1787-1826)は
ミュンヘンで活動していた。
ミュンヘン市内には彼の名前が付いた通り(Fraunhofer strasse)があり、地下鉄駅もある。
地下鉄駅の近くにあるドイツ博物館には古いプリズム分光器がたくさん展示してある。