思うこと 第62話           2006年1月25日 記       

2006年の“年の初め”の読書 −その7− 

日本の今後 −最終回−


 昨日書いた「思うこと 第61話」で、私は長谷川慶太郎氏による「大展開する日本 2006」(左写真)をとりあげた。 この本の中で、長谷川慶太郎氏は、『世界中のだぶついたお金はアメリカと日本に、今後ますます集まる』と、単純明快に結論しておられる事を紹介し、明快な中に、ひょっとしたら、論理の飛躍があるのかもしれない、との私の心配についてもふれた。 
 何と、実にタイミングよく、早速今朝(1月25日)の日本経済新聞の「マーケットウオッチャー」の欄に、次のような記事が大きく掲載されていた。
外為市場 中東混迷で「ドル離れ」 
ユーロなど避難通貨上昇

イランの核開発問題など中東情勢の混迷を背景に、世界的なドル離れの動きが出てきた。原油高騰にもかかわらず資源国通貨の上昇は鈍く、むしろ比較的低金利のユーロやスイスフランといった「避難通貨」に資金が流れているのが特徴だ。こうした動きにつれて、円の対ドル相場も上昇しやすくなっている。 −−(後略)−− 』

もちろんこの流れが一時的なものか、それとももっと恐ろしい事の序曲なのかはわからないが、この記事は、将来予測は、長谷川氏が説いておられるほど単純明快には行きにくいことを教えてくれる。

 第57話で紹介した浅井 隆氏の本(左右の本)も、長谷川慶太郎氏とは正反対の立場から、理路整然・単純明快に近い将来日本は国家破産の道をたどると説いていることはすでに述べた。 すなわち、国家破綻を経験したロシアやアルゼンチンは国の債務残高が対GDP比で2倍近くに上昇した時に国家破産が起こっているという。しかるに、我が国の債務残高は毎年ものすごい勢いで上昇しており、対GDP比の国の債務残高は、日本は1999年にはついにイタリアを抜いて世界一となり、その後も一本調子で上昇中で、近い将来2倍になり、いずれ、国の債務残高がどうしようもないレベルに達し、ハイパーインフレを経て、国家破産へと進むことは今や避けがたい状況である、と説いているのである。
この浅井 隆氏の結論も、長谷川慶太郎氏に対して私が感じたと同じように、あまりにも単純明快な論調ゆえに、ひょっとしたら、論理の飛躍があるのかもしれない、と心配もしたのであった。 しかし、それ以上の考察は“経済音痴”の私の独力ではいかんとも出来なかった。ずっと気になりながら、その答えを見つけたいと思いながら、ほかの本を読み進んでいったのであった。

 そして、ついに、松原隆一郎氏著の「分断される経済 バブルと不況が共存する時代」(左図の本)が、私の疑問を一気に解決してくれた。この本は、NHKブックス〔1047〕として日本放送出版協会から2005年12月25日に出版されている。著者の松原隆一郎氏は1956年、神戸市の生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程終了。専攻は、社会経済学、相関社会科学で、現在東京大学大学院総合文化研究科教授として活躍しておられる方である。

 松原氏は、私が疑問に思い続けてきたテーマに関する部分で、おおよそ次のように述べておられる。
 『現在、国に地方を加えた借金は700兆円に達している。 国民一人あたりで600万円に当たるような借金をかかえているのである。 一般家計なら破綻しかねないこうした事態が、なぜ何事もないかのように起きているのか。 国と地方の借金の大半は、日銀と政府、または国民から預かった預金や保険で金融機関が貸している。つまりは1400兆円に及ぶ国民の金融資産のうち、半分が間接的に政府への貸付となっている。海外の投資家が日本国債を保有している部分がありはしても、その売り買いが国債金利に与える影響は、微々たるものにとどまっている。「アルゼンチン化」と安易に喩(たと)える人がいるが、対外債務国であったロシアやアルゼンチンなどがデフォルト(債務不履行)を起こしたケースとは、根本的に異なっているのである。』
 私は、霧が晴れるように疑問が解消し、感動した。
しかし、松原隆一郎氏は、だからといって、安心してはいけないと、次のように警鐘を鳴らしておられる。
『けれども、事態が看過できない情勢にあるのは違いない。日本の家計貯蓄率は04年3月の日銀発表ではマイナスに転じている。97年の金融危機以来、企業の貯蓄率がプラスに転じてカバーしているが、景気の好転で低下するだろう。公的セクターと民間セクターの純貯蓄の合計が経常収支だから、このまま行けばそれも赤字化して、外国から借金することになる。過去に蓄積した対外純資産を食い潰しかねないのである。−(中略)− 円は地域通貨にすぎず、公的セクターの赤字に外国から不信の目が向けられれば、そのときこそ円が暴落する可能性が現実のものとなる。』
私は、松原氏のこの言葉は、現在の日本のおかれている立場を、極めて正確に伝えて下さっていると思う。
松原氏は、このフレーズに続くフレーズで、次のように述べておられる。
『悪夢を現実のものとしないためには、やはり財政構造改革を実施するしか手はない。』

 日本経済の将来に関しては、私は17冊の新春読書のおかげで、すこしは実態が見え始めたように思うが、悪夢を現実のものとしないためのこれからの手立ては、極めて困難な、痛みを伴う作業になると考えている。

 最後に、私が最も感動し、くりかえし読んだ本を紹介したい。その本は、左写真の「日経大予測2006年版」である。この本は、日本経済新聞社から2005年10月14日に発刊されたもので、執筆は日本経済新聞社のデスク、編集委員、第一線の記者が担当、日本経済新聞の豊富な取材をベースに、多角的なデーターと最新情報を加えまとめられている。私のような「経済のしろうと」にもわかりやすく解説してある。76のテーマについて、それぞれ「本命」「対抗」「大穴」の3つに分けて書いてある点が、私のような自然科学者にとっては、極めて理解しやすかった。例えば、76のテーマのなかの一番目のテーマの「景気」にかんしては、「本命」として、“穏やかながらも景気は拡大、息の長い成長に”のタイトルで述べられ、「対抗」として、“企業の前向き姿勢が強まり、設備投資主導で一段と加速”のタイトルで述べられ、最後に「大穴」として、“アメリカ経済が混乱、景気失速”のタイトルで述べられている。 このように、多分こうなると思うが、それ以外にもこのような可能性も考えられ、あるいは、確立は低いがこのような可能性も皆無ではない、という記載方法は、我々のサイエンスの世界になじむ記載方法であり、私はこの本から、多くのエッセンスを学ばせてもらった。


私は新春読後感シリーズを、1.日本の今後、2.小泉改革の評価、 3.中国の今後、の3つのテーマに分けて述べる予定で、「1.日本の今後」は、今回をもって、ひとまずシリーズの最終回としてしめさせてもらうことにする。

 次回の新春読書感想シリーズでは、「小泉改革に対する評価」について述べたい。