思うこと 第270話       2008年3月23日 記

死と生について考える

『思うこと 第268話』で「尊厳死協会かごしま」の第14回「公開懇話会」での福永秀敏氏の『患者さんの生と死から学ぶこと』という感動的な講演を紹介した。 実は、その前の回の第13回「公開懇話会」では私が演者を務めさせいただき、『死と生について考える』という話をした。 この話の内容を、「尊厳死協会かごしま」の理事のお一人である井上従昭様が「尊厳死協会かごしま」会報第14号にレポートしてくださった。演者の私以上に私の話を理解してくださっておられることにとても感動したので、その一部を紹介し、私が使ったスライドの図の幾つかも添付して補足説明を加えたい。
『ー前略ーーーーー。 
 はじめに、納先生は、「私はまだ65歳の若輩者なので、生と死を語れる立場ではないが、この機会に生と死をいろんな角度から考えたいと思っています」と、この誰にとっても重たいテーマに向かわれるご自分の姿勢を示されました。
 今回、先生は、私たちが生と死を考える中で、大切な問題である「死と向き合うこと・死への心の準備」ということを、一つの柱として話を展開されましたが、戦場の死と病気の死という全く異なる死の迎え方のなかで、人は死をどのように受け止めていくかについて、それぞれの事例を紹介してお話くださいました。
 まず、昨年、先生ご自身がかって日本軍の多くの兵士が玉砕したパプアニューギニアやソロモンなどを巡回診療で訪問され、玉砕のあとを辿られた経験を話されました。先生は、多くの書物や資料を読み込まれ、日本軍の軌跡をしっかりと把握された上で訪問されているので、その話は聞く者を圧倒しました。特に戦争を知る世代の方々には感慨深いものがあったようです。今日の私たちには想像できませんが、戦場という特別な状況のもとでは、特に上官ははじめから、死を意識して生きて帰るとは思っていないことや、戦場で多くの仲間が死んでいく中を、生き残った人が、その後の人生(いのち)をどのように受け止めているのかを紹介されましたが、なぜ死ななければならなかったのかという先生の戦争への悲痛な思いがお話の根底にながれ、書物や画像の中だけのものとなりがちな戦場における「生と死」という問題をも深く考える時間となりました。
 次に病気の中でも、特に最もすざまじい癌を患う中で、人はどのように死と向き合っていくのかを、宗教学者の岸本英夫氏の著書「ガンと闘った十年間」の中での、著者の言葉を紹介しながら話されました。たとえ「生と死」を課題とする宗教に携わる立場であっても、「死への心の準備」ができていなければ、死の宣告を受け止められず苦悩が続くこと。著者は苦悩の中で「私はふと死とは『別れの時』ということに気づいた」という形で、死を受止めることができ、それ以降死の恐怖や無の恐怖を超えて、死と向き合って生きることが開かれていったことを紹介されました。この事例を通して、誰にでも突然訪れる可能性がある死の宣告に対して、私たちはどのようにその死を受容して、どのように死に向き合い充実した生を生きていくのかという大切な提起をいただきました。
 また、多くの患者の死を看取る中で、「私はガンで死にたい」と言われている大田満夫先生の言葉を紹介されました。癌はすでに痛みに耐える病気になったことと、余命が把握できることから、自らの人生全体の意義を完成する(アルファンス・デーケン博士)ことができるものだからです。そのために、医療者は、全人間対全人間の医療に徹していかなければなりませんが、尊厳死の問題をはじめ、まだ課題も多く残っていることを話されました。
 私たちは、だれも死を避けることはできず、必ず死ぬ運命にあります。その死をどう受け止めていくか、ひとりひとりが真剣に考えなければならないことをあらためて感じた時間でした。
−−−−−後略ーーーー。』
 私は井上従昭理事は、『生と死』の問題に、私よりもはるかに深いところで悟っておられるので、私のつたない話をこれほどまでにわかりやすく纏めて頂けたと、恐縮と感謝の気持ちでこれを読んだのであった。

参考のため、私が使ったスライドの幾つかを以下に並べる。


この上の2枚のスライドが私のパプアニューギニア・ソロモンでの記録の目次で、このときの体験談に講演の前半をさいた。詳細は上記目録ページからHPのそれぞれを開くことができる。

同じく戦場での体験から『若い医学とへの伝言』を書かれた本間先生を紹介した。

本間先生は、この本を書かれて間もなく、外来でその日の最後の患者さんの診療を終わったところで急死された。



本間先生は軍医として戦場に赴いたが、若い時から自分は戦場で若くして死ぬとの予感のなかで生きていたと述べておられる。

井上従昭理事が紹介してくださった岸本氏の著書と、私が使ったスライドを以下に示す。









大田先生は最近『高齢者の医学と尊厳死』を出版されたが、これは一般市民むけの本で、読まれることをお勧めしたいことをお話して(下の2枚のスライド)私の講演の締めくくりとした。